#2 エルフちゃんと遭遇
遡ること昨夜のこと
「そろそろ夜遅いし帰ったほうが」
「すぅ……すぅ……」
夕食を終えた後、クルルに基本的なことを教えていて気づけば22時過ぎ。そろそろ部屋に帰そうとした時、引越し等で疲れていたのか部屋のソファで寝息を立てている彼女を発見した。
「おいおい、引越し初日にして他人の家に泊まるつもりか? 起きろ」
試しに体を揺すってみるが起きる様子はない。よほど疲れていたらしい。無理にでも起こすという選択肢もあるが、こうも可愛い寝顔を見ると起こしずらい。
(勝手に人の家に上がりこむのも悪いよな……)
逆に寝かしたままクルルの部屋に連れて行くという選択肢もあったが、それも却下。
結果的に彼女をここに泊める選択肢しか残されていなかった。
この部屋は元々両親と住んでいた部屋なので、泊められる部屋はある。ただ彼女を一人で寝かせるのも心配なので、自分の部屋の布団で寝かしてあげようという事になった。
そして迎えた朝
「この状態、どう考えてもやらかしたように見えるよな……」
まだ時間は8時。クルルも起きる様子はない。まさか夕飯をご馳走するだけのつもりが、泊めさせて更に一緒の布団で寝てしまうだなんて、展開が早すぎる。
(そもそも昨日までは普通の生活をしていたのに、急に非日常生活になったな)
まさか隣に引っ越してきたのが異世界から来たエルフ族の女の子だなんて、昨日までの自分に言っても多分信じられないだろう。
(落ち着け俺。彼女はあくまで隣人だ。過ちなんて起きない。いや起こさない)
「はぁ……」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
とりあえずクルルが目を覚ますまでの間に、朝食を作り朝のニュースを見ながら適当に時間を過ごす。
すると携帯に着信が入ったので、通話のボタンを押し電話に出る。
『おっはー悠。元気?』
「朝早くから元気だと思うか?」
『もう。折角モーニングコールしてあげたのに』
電話をかけてきたのは 桜木雛。悠の幼馴染の一人だ。電話口からも伝わる通り、朝から元気ハツラツ(すぎる)女の子だ。
彼女の明るさには悠も何度も助けられてきたが、朝からこうもうるさいと気が滅入る。
「それで何の用だよ。モーニングコールなんてわざわざして」
『忘れちゃったの? 今日皆で宿題を片付けようって』
「あ」
すっかり忘れていた。
クルルとの出会いですっかり忘れていた約束。今日雛も含めて三人で夏休みの宿題を全部片付けようという約束をしていた。
しかもその場所は悠の家
つまりこれはピンチである。
「おはようございますクロサキサン……。私昨日もしかして寝てしまって……」
更にタイミングの悪いところに、クルルが起きてきてしまう。「い、今電話してるからちょっと待ってろ」と小声でクルルに言い、電話に出直す。
『あ、って、もしかして忘れてた? 昨日も確認してたのに』
「わ、悪い。ちょっと昨日は疲れてて」
『ふーん、まあいいけど。お昼にはそっちに行くから!』
「わ、分かってる」
どうやらクルルの声は雛には届いてなかったらしい。ホッと一安心して電話を切ろうとするが、
『ところで今の声誰? 悠ひとり暮らしのはずだよね?』
はい、完全にアウトです。ありがとうございました。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「って事だから、今日はちょっと我慢してくれないか? 明日は約束守るから」
「どうしてですか? クロサキサンの友達、会ってみたいです」
「い、いや、分かるよ。会ってみたいって気持ちは。けど、流石にこの状況を雛に説明するのはな……」
電話口では何とかうまく雛を誤魔化したものの、当人のクルルが悠の友達に会い出したいと言い出してしまった。
まだ出会って半日の相手をどう紹介しろと。おまけに雛に会わせてしまったら、誤魔化した意味が無くなってしまう。
つまり何を言いたいのかというと、
「ハードルが高すぎる……」
「はーどる?」
「と、とにかく、今日だけは我慢をしていただきたいんですよ」
「クロサキサン、話し方が変」
「しょ、しょうがないだろ」
こんな経験した事ないんだから。
というか普通の人なら経験しない。こんな経験するのなんて、悠くらいだ。
「これから交流だってあるかもしれないじゃないですか」
「そうかもしれないけど、いきなりこんな事を説明するのも大変だしさ。雛達も絶対混乱するから」
「私達が何だって? 悠?」
突然背中から怖い声がして、思わずゾッとしてしまう。その声の主は誰か分かっている。
「く、来るの早くないですか? 雛さん」
振り向く事はできない。今きっと振り向いたら間違いなく自分は死ぬ。そう悠の直感が告げていた。
「とりあえず色々聞きたいから、振り向いてほしいな」
「こ、殺されないよな? 俺」
「説明によるかな」
「ちゃ、ちゃんと説明するから。殺さないでくれよ」
二日目にして隣人の存在が幼馴染その一にバレました。
「というかその位置からだとクルルには見えてたよな?」
「はい。入ってくるところから見えてました」
「ならどうして黙って」
「だってそうしないと会わせてくれないじゃないですか」
「うっ」




