#11 エルフちゃんとデート(仮) 後編
言いたいだけ言って奈緒は去り、残された二人はほんの少しだけ気まずい雰囲気になっていた。
「こ、これはクロサキさんが私の買い物に付き合ってもらったということにしましょう」
「いや、多分誤魔化せないと思うけどな」
奈緒に言われてようやく自覚したクルルが慌てふためくが、時既に遅し。きっと奈緒は二人で観劇したら解散するだろうと思っていたのだろうから、思わぬネタを得たと思っているに違いない。
(明後日が怖い)
「それでどうする? 今日はこのまま帰るか?」
「あ、えっとそうしたいのですが……」
「まだ買いたいものあったのか?」
「そ、そうではなくて。クロサキさん、もしかしてわざと忘れていませんか?」
「……いや、忘れてないよ。その答えも聞きたくて、誘ったんだろ?」
「はい……すいません」
「その話をするのも、ここじゃまずいし家に帰ろうか」
「そうしましょう。もしかしたらまたナオさんに会ってしまうかもしれませんし」
「そうだな」
結局奈緒に言われた言葉が響いたのか、クルルは帰り道は手を繋いでくることはなかった。悠としてもそれがありがたいことなのだが、
(自分の気持ちに正直になれ、か。もうそんな言葉聞き飽きたよ)
それ以上にさっきの奈緒の言葉が頭から離れず、それどころではなかった。
もう何度目になるか分からないくらい言われたその言葉。
ずっと胸を苦しめ続ける言葉。
「クロサキさん? 家に着きましたよ」
「え、あ、もう着いたのか」
「どうかしましたか? ボーッとして」
分かっていても拒みたくて、目を背けたくなる。背け続けたくなる。
「俺さ正直ずっと考えないようにしてたんだ。時間さえ過ぎればクルルも忘れてくれるだろうって」
「私、忘れるつもりなんてないですよ? これでもかなり勇気出したんですから」
いつまでも変わらない生活、何の目的も持たないでここにただ在り続けるだけの生活。
「本当に俺でいいのか?」
「クロサキさんにしか頼めない事です」
啓介は言っていた。
悠がクルルのおかげで変わり始めていると。
自覚はない。
けどもし周りからそう見え始めているのなら、
(自分の気持ちに正直になれるなら……)
「やるよ」
「え?」
「お前が言っていたそれに、俺が乗ってやるよ」
変えられるきっかけは今この瞬間なのかもしれない。
それはカラオケに初めてクルルと行った日の夜。彼女は悠の家に「話したい事がある」と言い訪ねてきた。
「クロサキさんにだけはどうしても話しておきたいんです」
「俺だけにって何を」
「正確に言えば大切な頼みなのですが」
そしてクルルは悠にこう告げたのであった。
「私を両親から守ってください」
「親から守る? 一体どういう」
クルルから最初聞いた話では、別に険悪な雰囲気ではなさそうだった。むしろ日本での知識を教えてくれたのは、彼女の母親だ。
だから最初彼女が何を言っているのか悠には理解できなかった。
「急な頼みな上に、何を言っているのか分からないのは十分承知しています。けど、その詳しい内容を話すには、私の頼みを聞いてくれる約束をしてもらわなければなりません」
「つまり事情を知らずに頼みごとを聞いてくれって事か? 理由も分からないのに、そんなの」
「それでもなんです! クロサキさんなら頼れると私は信じているから、こうして頼んでいるんです」
「そんなに信用されてもな……」
まだ出会って半月も経ってないのに、どこに信用する部分があったのか分からない。しかし、クルルが本気だという事はその言葉からはっきり伝わってきた。
「すぐには決められない。少しだけ時間をくれ」
だから悠は答えを出さずに先延ばしにしたのだった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
デートからの帰宅後。
お互い夕食はまだだったので、クルルの話を聞くためにも彼女をそのまま悠の家に招待した。
「で、だ。俺はクルルしか招待してないんだが?」
「二人で内緒話なんてずるいでしょ」
「だな。俺たち今までどんな時も四人だったのに、一人だけ抜け駆けなんてずるいだろ」
「そうよ。クルルちゃんは私の友達なんだから、二人だけの秘密なんてずるい!」
誰が呼び寄せたのか何と勝手に他の三人も集合。結局いつもの五人にはってしまった。
「え、えっと……」
「もうこの際だから俺だけじゃなくていいんじゃないか? 俺一人じゃできないことだってあるだろうし」
「そ、そうでしょうか……」
勝手に集まってしまった彼らに、クルルは少し困り顔になる。
「確かに俺たちはまだ出会って半月もしない仲だけど、俺たちクルルちゃんの事まだそんなに知れてないからどんな事情を抱えているか分からない。けどそういうのって話さないと分からないと思うんだ」
「啓介の言う通り。そもそもどうしてわざわざこんな場所に越してきたのか、私も知りたいし」
「駄目かなクルルちゃん。私クルルちゃんの事友達だと思っているから、何かあるなら力を貸したいんだ」
「皆さん……」
誰もがそれが偽善だという事は理解している。けど悠達は今まで同じ悲しみや喜び、苦しみを分かち合ってきた。それは悠自身も同じだ。
「無理に話せとは言わないけど、悠に話すなら私達にも教えてくれないかな。折角友達になれたんだし」
「友達……ナオさん達が聞いたら、もしかしたら後悔してしまうかもしれませんよ?」
「友達の抱えているものを一緒に背負うくらい、後悔なんてしないわよ」
奈緒の言葉を最後にしばらく沈黙が流れる。そして数分後、クルルが口を開いた。
「……分かりました。クロサキさん達を信じて、話させてもらいます」
その後彼女から語られたのは、現実離れした、いや、現実にもありそうな彼女の抱えている家族の問題だった。
「私の本当の両親は、まだ私を小さい頃に今の義両親のところに養子に出しました。もうずっと前の話です」
「養子? じゃあ今地球にいる両親は」
「はい。義両親です。そしてクロサキさん達にしてもらいたいのは、本当の両親の手から私を守って欲しいんです」




