#10 エルフちゃんとデート(仮) 前編
二時間後。
「面白かったですね、舞台」
「ああ。俺もああいう本格的なものを見た事ほとんどなかったから新鮮だったよ」
演劇を観終わった悠達は、近くの喫茶店に寄って、感想を語っていた。
「それにしてもどうしてナオさんはわざわざ二枚渡してきたんでしょうか」
「たまたま二枚持ってたんじゃないか? あいつ部員とかとよく見に行くみたいだし」
「でも私まだ友達少ないですし、他に誘える人はクロサキさんくらいしかいなくて。ナオさんもそれは分かっていたはずなのに、何故でしょうか?」
「た、たまたまだろ」
どう考えても奈緒が意図的にした事だと分かっているので、悠は適当に誤魔化す。
(月曜日覚えていろよ……)
「そういえばクロサキさん、この後時間ありますか?」
「別に予定はないけど、どうして?」
「折角の休日ですし、クロサキさんに色々なところに案内してほしいなって思って」
「それは別に構わないけど、いいのか?」
「何がですか?」
「あ、いや、何でもない。ならこの前行った駅周辺に行こうか」
「はい!」
(本人は何も気にしていなさそうだし、いいか)
恐らく奈緒はここまで予見してクルルにチケットを渡したのだろう。ただ、クルルは気にしていなくても悠は意識してしまう。
『必死に否定するから、皆に怪しまれるんだろ』
(そんな事ない絶対に。そんな事は)
喫茶店を出て、一緒に歩くクルルに目をやる。人間離れした容姿は人の目を間違いなく惹く。そんな彼女が今自分の隣を歩いていて、幸せではないのかと言われれば嘘になる。
「やっぱり休日は人通りが多いですね」
「この辺りは交通の便もいいから、平日でも人が行き交うんだよ。迷子になるなよ?」
「わ、私子供じゃないんですよ」
「それでもほら、人混みに飲まれたら」
「なら手を繋ぐんで、きっちり離さないでくださいよ」
そう言うとクルルは悠の手を繋いできた。その思わぬ行動に、悠は顔を赤くしてしまう。
「な、な、何しているんだ? 別に手を繋ぐ必要は」
「私を迷子にさせたくないんですよね? ならしっかり握っていてください」
クルルは離さないように指を絡めてくる。
(えっとこれは)
本能にデートになってしまう案件なのでは?
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
それからというものの、クルルは手を離してくれることはなく、わざとなのか気づいてないのかクルルはその事に対して何も疑問を抱いてそうにはいなかった。
「クロサキさん、私あっちのお店見てみたいです」
「あれって雑貨屋だけど、服とかじゃなくていいのか?」
「服はまだ家にありますし、私小物とか見るのが好きなんですよ」
「なら見に行くか」
案内してほしいと頼まれながらも、クルルに引っ張られる形で彼女の行きたいところに付き合う悠。
ちなみにクルルは今日気温が高い影響か、白いワンピースというシンプルな服装で来ている。しかも薄地だからなのか、時々下着が見えていてそっちも意識するようになってしまっていた。
(この暑さで汗もかくから、尚更……)
演劇を見ている間や終わった後は特に気にしていなかったものの、クルルが手を繋いできたあたりから意識をよりするようになってしまっている。
「見てくださいクロサキさん、このマグカップとか可愛くないですか?」
入った雑貨屋で気に入ったものを見つけたらしく、クルルは手に取ったものを見せてくる。
彼女が手に取ったのはマグカップ。しかもペアのものだ。
「クルル、このマグカップ、ペア用だぞ?」
「分かっていますよ。だから片方はクロサキさんにプレゼントします」
「俺に? というか買うの?」
「はい。気に入ったので即決です!」
「え、いや、だから俺は別に」
クルルはそう言うと一度手を離し、手に取ったマグカップをレジへと持って行ってしまう。
「困ったな……」
プレゼントは素直に嬉しい。けどこういうペアのマグカップって、まわ
から見れば……。
「付き合っているように見えるわね」
「そう、だからあまり……って、おい!」
ごく自然に会話に入ってきた今日いるはずのない人物に、思わずツッコミを入れてしまう。
「な、何で奈緒がここにいるんだよ」
「何でも何も、私も悠達と同じ劇を見たからよ」
「同じ劇って、だってクルルに二枚」
「誰も私は見ないなんて言ってないでしょ?」
「いや、確かにそうだけど」
ペアチケットを渡したから彼女は来ないものだと思っていたので、悠は度肝を抜いた。
「私ここまでしてもらうつもりで渡したんじゃなかったんだけどなぁ」
「やっぱり計ってたんだな!?」
「心外ね。私は悠のサポートをしてあげただけなのに」
「余計なお世話だっての」
「その割には顔がにやけてるけど?」
「誰がいつ、どこでにやけていたんだ!」
「ずっと」
「ずっと、っておま、冗談だろ?」
(というかずっと見られてたのか?)
身も蓋もない直球の言葉に返す言葉が見つからない。
「なんでこうも悠は昔から自分の気持ちに正直になれないのかしら」
「別に正直に生きてるけどな」
「ふーん、ならどうしていつまでもそういう生活してるの?」
「……」
奈緒の言葉に黙ってしまう悠。その間に会計を終えたクルルが戻ってきた。
「お待たせしましたクロサキさん……ってナオさん?! どうしてここに」
「偶然通りかかっただけよ。それより楽しんでね、悠とのデート」
「はい、楽しみま……で、で、デート?!」
「今さら気づいたのか……」




