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隣人のエルフちゃん  作者: りょう
出会い編 異世界からやって来た少女
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#1 エルフちゃんとお引越し

 それは夏休みが終わる一週間前のある日の事。


「あの……今日お隣に引っ越してきました……クルル・ネウルです……」


 一人暮らしをする 黒崎悠(くろさきゆう)の隣の家に一人の美少女が引っ越してきた。

 銀髪のサラサラな長い髪、そして透き通るような綺麗な瞳。彼女を見た時帰国子女かと悠は思った。


「えっと、俺は黒崎悠。よろしく」


「……よろしくお願いします……クロサキサン」


 人と話す事が苦手なのか、とてもか細い声で返事をするクルル。片言混ざりなのも帰国子女特有、なのだが……。


「あのさ、クルルさん。こんな事いきなり聞くのも変かもしれないけど」


「はい?」


 ただ一つ明らかに帰国子女とは違うところがある。それは、


「クルルさんって、もしかして異世界からいらっしゃったりしてないですか?」


 彼女の耳が悠がよく読む漫画のエルフ族のような尖った耳をしていたからだ。いや、もしかしたら世界のどこかにそういう耳をしていらっしゃる部族がいるかもしれない。


 いるかもしれないが、悠はそう尋ねざるおえなかった。


「いせかい?」


「えっと、簡単に言うと地球とは違う星から来ているみたいな」


「チキュウ?」


 そしてその疑問は確信へと変わる。


「私の住んでいたところは……インスダルという星です……そこから引っ越してきました……」


 夏が終わり、秋が近づくこの頃


 高校二年生の黒崎悠は、異世界のエルフの女の子、クルルに出会った(滞在記風)。


(って、そんな事言ってる場合か!)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ここは関東の埼玉県

 そこでひとり暮らしをする黒崎悠は高校二年生で、地元の高校に通っている。

 何故高校生ながらひとり暮らしを強いられているのかというと、


「悠も高校生だし、ひとり暮らしできるわよね? じゃあお母さん、お父さんと一緒に世界一周旅行に行ってくるから!」


 という事だ。それがもう一年も前のことである。突然のひとり暮らしに四苦八苦しながらも友人達に支えられ、今日まで生きてこられた。

 そんな彼の住むマンションの隣に今日一人のエルフの少女が引っ越してきた。


 エルフ族の少女クルル


 彼女の引っ越しは、どちらかと言えば星間の引っ越しになるわけだが、そんな事はどうでもいい。大事なのは彼女が悠の隣に引っ越してきた事。


(これはもしかして運命なのか? しかもこんなに可愛いし)


 見た目は少し幼いから、犯罪になってしまわないのかとか余計な事を考えてしまう始末。

 そのくらいクルルは悠から見ても可愛かった。


「それにしても引っ越しの挨拶とか分かるんだな。そういうのってそっちの世界にもあるのか?」


 しばらく動揺していたがようやく落ち着き、悠はいつもの自分の口調でクルルに話しかける。


「教えてもらい……ました。お母さんに……」


 なるほど

 という事はつまり彼女は最低限の言語とマナーなどは母親から学んでいるらしい。彼女から受け取った菓子折りもちゃんとしたものだった。


 ただ心配事はある

 果たして彼女は地球の生活に適応できるのだろうか? 余計なお世話なのは分かっているが、隣人になってしまった以上無視はできない。


「あの……私これで失礼します……」


 悠がそんな事を考えているうちに、クルルは一礼して自分の家へと戻ろうとする。


 何故自分がそうしたか分からない。


 衝動的にしてしまった事なのは確かだ。


「ま、待った!」


 悠は彼女の細い腕を掴んでいた。


「な、何か失礼な事言いましたか? 私」


「そうじゃなくて、まだこっちの食事とか慣れてないだろ?」


「はい……まだそんなには」


「ならこうして今日出会えたのも何かの縁だ。よかったら、家でご飯でも食べて行かないか?」


 初対面の女性にいきなり言うような事ではないのは分かっていたが、つい言ってしまった一言。恐らく断られると思っていた悠だが、


「それなら……私にこの星での生活……教えてください……」


「え? 今なんて」


 予想外の返答に思わず聞き返してしまう。


「だから……教えてください……ご飯とかここの生活の仕方とか……」


 ご飯だけでもと思ったつもりが、これは流石に悠も予想外だった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 とりあえずご飯を作る約束はしてしまったので、クルルを自分の家に招き入れる。


(いや、これは本当に予想できないだろ。何で夕食だけのつもりが……)


 別に誘った事を後悔してはいない。むしろ悠としては彼女が心配だったので、これはこれでよかったのだと思う。


「なあクルルはここに来てどのくらいなんだ?」


「この星の言葉で言うなら、一年前だと思います……」


「一年か。言葉が少し流暢なのはそのおかげか」


 少し片言な部分はあるものの、クルルの日本語は、日常会話はできるレベルでしっかりとしていたので、少しだけ安心していた。これでまともに会話もできなかったら、どうなっていたのやら。


「ほら、夕食できたぞ」


 適当な会話をしているうちに二人分の夕食ができあがる。作ったのはご飯や味噌汁、焼き魚といった和食。


「美味しそうです」


「流石に米を食べたことがないとか、そういのはないよな?」


「はい。ニホンのオコメはとても美味しいです」


「それなら大丈夫だな」


 作り終わってからで遅いが、どうやら大丈夫らしい。


「じゃあ食べてくれ。味に保証はないけど」


 悠がそう言うと、クルルはちゃんと箸を手に取り、手を合わせた。


(住む世界が違うとは思えないくらい綺麗だな)


 その動作一つ一つに思わず息を飲んでしまう。その綺麗さを言葉にするなら、


『大和撫子』


 その言葉がピッタリだった。


「それじゃあ」


「「いただきます」」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「美味しい」


 味噌汁を口にしたクルルがホッと一息ついて感想を述べる。味噌汁は悠が作ったものだったので、心配だったがどうやら口に合ったらしい。


「ならよかった。味噌汁って作る人によって味が違うから、そう言ってくれて嬉しいよ」


「クロサキサンの作るご飯美味しいです」


 クルルは何か口にするたびに「美味しいです。これもそれも」と言うので恥ずかしい気分になりながらも異世界交流食事会は続き、クルルはしっかりと完食。


「すごいですクロサキサン! 私……クロサキサンがお隣さんでよかった」


「お、おう」


 食後、出会った時よりも目を輝かせて悠に寄ってくるクルル。出会ってまだ二時間も経っていない関係なのに、まさか気に入られてしまうとは食の力は恐ろしい。


(餌付け、なわけないよな。そんなわけ)


「明日も来ていいですか? 今度はご飯以外も教えて欲しいです」


「いいけど。言い出しっぺは俺だし」


 食事に誘っただけだったけど。


「ありがとうございます、クロサキサン!」


 こうして普通の高校生黒崎悠と隣に突然越してきたエルフの少女、クルルのお隣同士の奇妙な関係は幕を開けるのだった。


 ただし翌朝


「完全にやっちまった」


 隣で何事もないように眠っている彼女を見て、悠はそれを後悔することになる。

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