1500文字で完結・ヒーローの一生
びっくりするほど一切の前触れも無く、俺は世界のヒーローに選ばれた。
いきなり正義の神様と名乗る爺が現れ、俺には英雄たる素質があって、まず能力を覚醒させてくれるだとよ!
「そういう高潔な正義感を持っている自覚は無いけど、ヒーローのように活躍できたらって憧れは確かにあるなぁ!」
「そうじゃろう?その憧れこそが英雄の素質というわけじゃ!さぁ、お主を必要している者がおる!お主の活躍を期待している者がおる!今こそ己に眠る力を目覚めさせるのじゃ!」
「よっしゃあ!頑張るぜぇ~!」
それから俺はヒーローらしくしようと努力を尽くし、あらゆる誘惑や困難に打ち勝ち続けた。
時にはなぜか同じヒーローに襲われる事もあったが、見知らぬ仲間同士で争う事なんてヒーローだったら定番中の定番!
最終的に和解し、相棒として肩を並べて更なる活躍してやった。
それから月日が経ち、ついにヒーローが六人となって集まっていた時に最初の相棒が不思議そうに呟いた。
「しかし変だな?女神様から聞いた話によるとヒーローは合計五人だと聞いていたんだが」
「なんだそれ?そんな話、俺は一度も聞かされてないぜ!」
「お前は良くも悪くも人の話を聞かないからな。でも、ヒーローが多い分には良い事に変わりない。あとから予定よりヒーローが増やせたってだけの話かもしれないしな」
「きっとその通りだと思うぜ!これからも全員で頑張ろうぜ!」
「……うーん、お前のその何も考えていないような無鉄砲さ、いつ見ても危うさがあって心配だ」
相棒は俺の事を心配するが、多少の無茶をするのがヒーローってものだ。
だから俺はこれからも突っ走り続けて悪の親玉を成敗してやるのさ!
だが、やがて俺は真実を知ってしまう。
悪の親玉は俺を覚醒してくれた爺で、俺に眠る素質は英雄じゃなく本当は悪そのものだったと。
「くそっ!なんで俺がヒーローかと思ったらそういうことなのかよ!騙されていたとは、何てことだ!」
「落ち着け!いくらお前が悪の素質があったとしても、それは昔の話だ!今のお前は本物の正義に目覚めていて、誰よりもヒーローだろう!?」
「でもよ、俺はお前達と違って本物の神に選ばれたヒーローじゃないんだぜ!?」
「関係あるかよ!ヒーローは選ばれてなるものじゃない!こうして俺達を一致団結させた心意気と希望を見せた者が、真のヒーローだと俺は信じている!」
「あ、相棒~………!」
俺は感激したね。
そして相棒が魅せるヒーロー魂に正義の誇りを感じた。
そう、俺は誰が何と言おうとヒーローでいるべきなんだ。
最初は何もかもが成り行きでも、幼い頃から抱いたヒーローへの憧れだけは成り行きじゃない。
この憧れこそが俺の絶えぬ希望だ!
「いくぜ!これで全てを終わらせ、みんなにヒーローの輝きを見せてやる!」
そして決死の想いで俺達ヒーローは戦いを挑み、激戦の果てに悪の親玉を倒した。
しかし、その親玉である爺も元はヒーローで、俺が憧れを覚えたきっかけの当人だと知った時は驚いたものだ。
ちなみに俺にヒーローだと言い出したのは、悪に目覚めて世界を暗闇に染めるか、正義に目覚めて自分を止めてくれるか賭けたんだとよ。
そんな本人も最期の最後にヒーロー魂を思い出してくれたおかげで、俺達は本当の役目を終えた。
そうだ。
ヒーローは守るべき市民にだけじゃなく、戦った相手にも正義の希望を抱かせる存在だ。
それでも絶対悪は絶えず生まれる。
なら俺達ヒーローは正義を絶えず継がせ、明るい未来へ目覚めさせていくだけだぜ。
「新たな英雄を生み出す素質。それこそがお前に秘められた才能だったんだよ」
老け込んだ相棒………もとい生涯の親友は隣で笑い、前触れもなく俺の努力を褒めてくれた。