美男子
「チッ、今回の被害に対して報酬がガキ1人なのは痛い」
私を抱き抱えている盗賊の声が聞こえるが、私は正直彼等の愚痴なんてどうでも良かった。なにせ、このあと私がどうなるかなど、だいたい予想出来るからだ。
奴隷かコイツ等の玩具のどちらかだ。
奴隷はまだどうなるかわからないから救いは有るように見える。ただ、確実にすぐにバッドエンドを迎えるのはコイツ等の玩具という道だ。
コイツ等の玩具というのでもいくつか種類は有るだろうが、そのどれもが絶対にやりたくない忌避する物だろう。
嫌だ…、奴隷になるのは現時点ではまだ受け入れる事が出来る……。でも、コイツ等の玩具になるのだけは……。
「お、このガキ、ようやく震え始めやがった。
ハッ、喜べガキ。お前はこれから奴隷として売られる。売られた先で、ド変態の集まりである御貴族様にでも売られて的にされたり掘られたりされるだろうが、生きて行けるぞ、良かったな!」
自分の震えがその言葉で止まり、言われたことを認識して再び震え始めたのがわかった。
貴族がド変態の集まり……?確かに前世の世界の史実でも貴族と呼ばれた連中はだいたいが頭のおかしい人物だった。名前が残ってる偉人だと尚更だ。
その貴族は、この世界でも当て嵌まる……?
そんなの、行くも退くも地獄じゃないか。
「こら、ガキ、暴れんな!」
背中を鈍い痛みが襲い、5歳の子供の身体にその痛みはかなり堪えたようで、私は手足から力が抜けた。
「ったく、手間取らせやがっ」
「やぁ、待ってたよ」
「?!」
私を抱える愚痴を溢している途中、別の誰かの声で愚痴は中断された。
とても爽やかな男性の声だった。
グッタリとする身体に鞭を打ち声のした方を見ると、そこには銀髪でアメジスト色をした綺麗な女性のような、しかししっかりと男の顔をした男性が立っていた。
前世の私の目測から言うと身長は185センチほどだろうか。
「フェルト、さん……」
どうやらこの銀髪の綺麗な男性の名前はフェルトと言うらしい。
そのフェルトさんを見た盗賊達は、途端に先程の私のように震え始めた。
「いやぁ、ほら、お前等さ?見逃す代わりに対価を支払えって言って何度もウチの奴等を送ったのに、全員「次は返す」「まだ待ってくれ」ばっかり言ってたらしいじゃん?
いやぁ、何度もそんなことして逃げられてると、コッチも思うわけよ。
ナメられてんじゃないか、ってね」
「そ、そそそ、そんなこここと、ああああるわけないじゃないですかぁ!!」
「ん?どうしたんだい?そんな震えて」
「う、うわぁぁああああああああ!!!!」
私を抱えていない方の盗賊が絶叫してこの場から立ち去ろうと後ろ振り返った。
すると……、
「おいおい、人の顔を見て悲鳴を上げるなんて失礼な奴だな。かなり混乱しているみたいだけど、何か有ったの?」
フェルトさんは本当につい先程まで目の前に居た筈なのに、そのフェルトさんは姿を消して後ろからフェルトさんの声が聞こえてきた。
そして泣き声が聞こえてきた。大の大人の男の本気泣きだ。
「泣くほど怖い事が有ったのか?そりゃ辛かったな…。どれ、俺に話してみろよ。
あぁお前も、後ろなんか見てないでコッチ見ろよ」
私を抱えている方の盗賊は、半べそを掻きながら、ゆっくりと後ろに振り向いた。
「よし、これでやっとマトモに話せるな!
さて……、
おいゴミ共。対価を支払わないってどういうことだ?」
私を抱えている方の盗賊が振り返ったと同時に、今度はフェルトさんの声が横から聞こえてきた。位置としては、ちょうど生き残った2人の盗賊との間。上を見て得た情報からすると、2人の盗賊の首に手を回して肩を組んでる状態だ。
そしてその手には、人の首ぐらいならなんの問題もなく刈り取れそうなナイフが両の手に握られていた。
「あのよぉ、お前達もビジネスかもしんねぇけど、コッチはお前達なんかよりずっと大きい組織のビジネスな訳。クライエントに対して真摯に仕事をすることがウチのモットーな訳。それを余りにも哀れで不様な命乞いをしてくるから、対価を支払うことでコッチのビジネス蹴って助けてやった筈なのに、なんでお前達、まだ対価を支払えてないの?」
私の腹の部分が男の汗で濡れる。
そして視界の先である地面には、ポタポタと赤い水滴が滴り落ちて来てる。それと比例するように盗賊達の咽び泣く声も大きくなっていった。
「だぁかぁらぁ、な?泣いてちゃ分かんないって言ってるだろ?何を泣く必要がある?ただ俺は、なんで対価を支払えないのって聞いてるの。
それとも何?言葉通じてない?」
盗賊達は何も言わず、泣くのすら止め、そして同時に前へと倒れた。それにより私は頭から地面に倒れる事となり、強く鼻っ面を打った。
物凄く痛い。
盗賊達を見ると、2人とも黄土色立ったり焦げ茶色だったりした髪は真っ白に染まっており、素人目に見ても既に息をしていなかった。
「あれ、ただ会話をしていただけなのに死んだのか?
これじゃあなんのために俺が来たかわからないじゃないか。
まぁ、コイツ等の保管してる物を全部持っていけばいくらかの足しにはなるか」
フェルトさんは愚痴を溢したあとに何かを呟くと、突然私の目の前に顔を持って来た。唇を突き出せば、キスが出来そうなほどの至近距離に。
私は突然の事に思わず「わぁっ!!」と叫んで後退ってしまった。
これが私とフェルト・ロードとの出会いだった。