不安
宿前から移動すること体感10分。大きな建物の前に辿り着きました。
父親と母親はあのあと少ししてから合流しましたが、私は一瞥しただけでその後見ていません。
教会というのは、何処の国、何処の世界でも外観は似通っているのか、前世でも何度か見た事のある形でした。
そんな教会は軽い広場となっており、そこには多くの人が犇めき合っています。教会の扉の前から真っ直ぐの所は誰も入れないかのように区画整理されていて空いていて、そこ以外は、まるで我が子を先にと言わんばかりに教会へ押し掛けようとしています。
「お兄さん、急いだ事で何か良いことが有るんですか?急いでやってもらわないと、定員を越えて儀式を受けられないとかのルールが有るとか」
「よくそんな難しい事を知ってるね。ジャック君は物知りのようだ。
質問の答えについては、そうだね……。良いことは有るには有るよ。でもたぶん、ジャック君は気にしないんじゃないかな」
後ろに居るであろう父親とそのフォローをしているであろう母親には聞かず、お隣の男性に質問する。
当たり前だ。あんなことが有って、そのあとすぐにという訳にもいかないし、ジャック・ウォルターである前に私は桐崎達磨だ。その私の常識から言えば、ここで親に聞くのは他の子達を基準に考えれば不平等だ。
そんな私の質問に対する回答を聞いた私は、更に疑問が湧いた。
「どういうことですか?」
「簡単な話だよ。早かろうと遅かろうと、あまり関係無いんだよ。確かに早ければ早いほど魔力や魔術の訓練は出来るけど、それもせいぜい数時間とかの、多くても1日ぐらいの差だよ。
それで将来的な差が分かれるなんて事はないから、結局は一緒なんだよ」
「……例え数時間でも早い方が僅かな差でも有利に働くんじゃないですか?」
「本当に難しい言葉を知ってるね。
んー、確かにそうなんだけど、今この世界で『賢者』って呼ばれてる人が居るんだけど、その人の事は知ってる?」
……賢者?母親からの話では聞いたことがない。
私は頭を横に振った。
「そっかそっか。まぁ、そういう人が居るんだよ。その人は魔力や魔術の天才で、魔力魔術に関しては右に出る者が居ないから賢者って呼ばれるようになったんだけどね?その人は、その人曰く、元々今回ジャック君達が受ける儀式を3年も遅く経験したらしいんだ」
「3年……も?」
「そう、3年も。あくまで本人曰くだから本当かはわからないけどね。だけどその人は、今ではその道のトップだ。
そういう実例がある人物が居る上に、確かに早い子の方が伸びが良いとかの結果が多く出てるらしいから、結局どっちでもあまり変わりないっていうのが世間一般の見解なんだよ。
何より、儀式はこの量を1度に行う。だから、誰が先とか誰が後とか、そういうのは全く関係無いんだよ」
「だからあぁやって急いでも意味はそんなに無いんだけど……、まぁ、親や本人は気になっちゃって気になっちゃって仕方がないんだろうねぇ」と続いた言葉に、私はなるほどと内心頷いた。
確かに実例が多い例が有るとなればその方法を行いたいのは当然か。
でも逆に、トップがトップ曰く3年も遅く儀式を受けて自分の事を知れたとなれば、確かにあまり変わりないように思う。
私がお隣の男性の話を聞いて1人納得していると、教会の扉が開かれる。中からは、年老いた修道服を着た初老ほどの髭を蓄えた男性が姿を見せた。
その隣には、初老の男性をそのまま若くしたような30代ほどの男性が初老の男性に追従するかのように、後から出て来た。
2人が出て来たことにより、先程
「今年もこの大切な日を迎えられたことを、神に心から御礼申し上げ奉る」
「今年もこの大切な日を迎えられたことを、神に心から御礼申し上げ奉る」
「おぉ神よ!」
「おぉ神よ!」
「この日、この時、この場に集まりし未来を照らす子供達に祝福を与え給う!!」
「この日、この時、この場に集まりし未来を照らす子供達に祝福を与え給う!!」
2人のこれが儀式だったのか、初老の男性に続くように30代ほどの男性が復唱し、最後の「与え給う」と唱えた途端、この場に居る子供達全員が淡く白い光に包まれた。
他の5歳の子供だと思える子や、それより少し大きい子供、何よりかくいう私の体も光り輝いていた。
光り包まれていることを認識したからか、何故か頭の中に数字が現れた。そんなイメージが沸き上がって来た。
当然戸惑う。初めての事だし、明らかに普通でないことなのは明確だからだ。
しかしこの数字は、普通にペンで書いたような黒色や白色の数字なのではなく、数字の真ん中に線を引いたとして、その引いた線の上と下の色が全く違い、その数字の縁を鋼色をしたレイアウトなのだ。
数字は5000と書かれている。
色は上がおおまかなロイヤルパープル色で、下は翠色をしている。
これが属性というやつなのだろうか?
私が自分の魔力とその数値、それに色について考えていると、再び初老男性が話し始めた。
しかし今度は、何処か遠くから声が聞こえてくるような、ヤマビコのような感じで聴こえる。
『子供達よ、落ち着くのだ。今そなた達は白い光に包まれたであろう。それが神の光なのだ。
その直後、何かしらの形で色の付いた何かを感じただろう。
それが魔力であり、その大きさや量が君達の魔力の大きさと色が属性だ!
魔力の量については、それぞれがわかりやすい形で表されていると思う。それが現時点での君達の魔力量だ。
魔力量は君達の年齢で考えると、数値で表せばだいたい500ほどだろう。それは今後、魔力を使えば使うほど増えていく!魔力が増えれば、それだけ宮仕えや貴族専属の魔術師になれることも夢ではないだろう。
そして属性は色で表されている。
赤色は火を表している。火は草木を燃やし、そして体を暖めたりスープを暖めたり、明るくしたりする生活する上では欠かせない物だ。
青色は水を表している。水は畑を潤し、我々の喉を潤し、傷口を癒す。水は何処にでも必要不可欠な物だ。
緑色は風を表している。風は今こうして私達が何もしてなくても常に私達の周りに有る。風が無ければ私達はすぐに呼吸出来なくなり死に絶えてしまうだろう。そして風は我々人だけではなく、全ての生物が必要としている。風は誰にでも必要な物だ。
茶色は土を表している。土は木を育て、作物を育て、生き物を育てる。我々生物は土から生れたたと言えるほど土とは切っても切れない関係だ。土が無ければ、こうして立つことも出来ないし、座る事も出来ない。何かを置くことも、もしかしたら触れることも出来ないかもしれない。土は全ての存在に必要な物だ。
これ等4つは神が我々地上に住むものに与え給うた祝福だ。さて、子供達よ。今私がお教えした神の理を聞き、今後はより一層神に感謝し己に備わった神の祝福の一端を、この世の為に使ってくれることを私は切に願う。』
初老の男性はそう言うと、教会の扉の中へと入って行った。
それに続くように30代ほどの男性も、私達に向けて頭を下げたあと、扉の中へと入って行き、最後には扉は閉じられた。
閉じられたことにより、初老の男性が話し始めた直後の水を打ったかのような静寂が、再びガヤガヤとした喧騒に包まれる。
私の周り、ザリー村の子供達や大人達も話し始める。
「さぁてみんな、みんなはどんな属性を手に入れたかな?」
お隣の女性がそう言って、子供達に祝福の儀式の結果を聞いていく。
子供達は嬉しそうにそれをお隣の女性に報告していた。
ただ、ただ1人、私だけはどうしても顔色を曇らせるしかなかった。
色々理由は有る。魔力量もそうだが、何よりも自分の属性がわからない事が、私をどうしようもなく焦らせた。