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ダルマサンの出来上がり  作者: 荒木空
修行編
33/34

依頼失敗…?


 階段を降りるブーツの音だけが狭くひんやりする階段に響き渡る。

 俺とフェルトさんとの間に会話は無い。普段からお互いに必要な事以外話さないというのもあるが、それ以上に今はターゲットが目前にまで来ているというのが1番の理由だろう。


 もしここで話でもしてそれをターゲットに気取られ、もしこの先に外へと繋がる脱出口なんかが有れば逃げられた事になり目も当てられない。


 だから互いに、最低限のリスクを減らす。

 俺がただ前世の記憶と知識を持っているだけなら、フェルトさんも俺を此処には連れて来なかっただろう。

 互いが互いに精神が成人しているからこそ出来る静寂がそこにはあった。


 最後の階段を降り切り、明かりの射す方へ視線を向ける。


 そこには、上で何が有ったか知らないかのように、いや実際知らないのだろう、遠目から見てもわかるほどの肉の塊が蠢いていた。

 そう、動いていたのではなく蠢いていた。そう表現するのが適切なほど、それは醜い物だった。


 周りへと視線を向ける。

 周りには裸の女性ばかりで、片方の胸だけ無い女性や、喉元の肉が無い女性、中には俺と変わらない男の子や女の子まで居る。


 本当に見境が無いらしい。


 その光景を認識した瞬間、思わずフェルトさんの顔を見た。


 まぁ、だからなんだという話だ。だからといってどうにかなる話でもない。そしてフェルトさんは無情である。


 自分の顔を見てきた俺に対して、フェルトさんは、ただ1つジェスチャーをした。


 『行け』というジェスチャーを。


 これをされればもう、現状ではどうしようもない。やるしかない。

 俺はため息1つ吐いて、意識のスイッチを切り換える。それに辺り目を閉じた。


 俺は思考する。




 目標は?目の前の醜い肉の塊だ。


 目的は?目の前の醜い肉の塊の処分だ。


 方法は?魔術、近付いて四肢の切断による抵抗要素の排除、ナイフ、手段は様々。


 何で行う?今回は魔術で足を落とす。逃走手段を奪うのは常套手段だ。


 足を奪った後は?近付いてアトラス王国で貰った特殊なナイフで首を刈る。


 その後は?精神的な死を(もたら)すために出来る全ての方法を試す。


 具体的には?この部屋にある拷問器具を使うも良し。前々から試そうと思っていた方法の練習台にするも良し。最悪フェルトさんに頼むか判断を仰ぐのも良し。


 それ等を全て完遂するには?俺の魔力と覚悟と自身の心の操作が必要。


 魔力は?まだまだ余裕だ。


 覚悟は?とっくに出来てる。


 心の操作は?今の俺がまさにその状態だ。


 ならいつ仕掛ける?いつ仕掛ける?そんなの決まってる。今だ!




 そこで俺は目を開け、目標を視界に改めて捉えた。

 そして片手でフェルトさんへ向けジェスチャーをする。


 『行って来る』


 返事は見ない。見ても意味が無いし、『やれ』と言われた時点でアレは俺の獲物だ。


 俺は魔力を練りながら駆け出した。


 まず狙うべきは脚!太腿、膝、足首、なんでも良い。何処でも良い。まずは両足で歩けなくする!!


 そんな気持ちで練った魔力を解放し、風属性魔術【ウィンドカッター】を念のため2つ放った。


 放つ系の魔術、そのスピードは使用者の魔力量と使用者の出せる最高速度の掛け算に依存する。俺の場合なら100メートルを5秒で走れるから、それより速いスピードが出る。


 つまり俺より先行して魔術は肉に届く。


 「?」


 肉が不思議そうな表情(カオ)をしながらこちらへ振り向く。

 残念ながら肉の肉が厚過ぎたのと狙いが少しずれてアキレス腱しか切れなかった。


 しかし、それでもアキレス腱を切ったのだから、大幅に機動力を削げた!


 俺はスピードをそのまま乗せて跳び上がり、腹筋と腰の捻りを駆使して回転しながら、切っても死なないあのナイフで肉の首を切り付けた。


 回転を止め、着地をするために着地予定地を見た。

 するとそこには俺と同じぐらいの女の子が。

 ここままだと女の子の上に着地をしてしまう。


 俺はなんとか体を捻って女の子の隣に落ちるように努力した。

 けどまぁ、流石にまだまだ経験も浅い。体も出来てない。そんな俺は、女の子のその小さい胸へと顔から飛び込んでしまった。


 直ぐ様起き上がり、肉を見る。

 なんせこのナイフを人に使ったのは初めてだ。予定通りならこれでも死んでいなくて首だけ落ちてる筈だが、もし本当に死んでたらナイフの意味が無い。

 何より、首を斬られたのにそのまますぐに向かってくるような化け物みたいな精神の持ち主なんかだったら今の状況は不味い。


 そういった理由から振り返って見てみると、肉の体の横に、白目を剥いて口から泡を噴いているターゲットの頭が有った。体は入り口の方へと倒れており、血が流れてる様子はない。


 成功…か?


 「ブラボーだよジャック。ナイスな手際だったよジャック。


 ただ惜しいかな、首を切った後の着地の事まで考えていれば花丸だった。

 …………花丸の使い方、合ってるよね?」


 手を叩きながらフェルトさんがこちらへ歩み寄って来た。彼にしては珍しく、声色や言われた事から考えるとかなりの好評価だ。


 花丸って言葉については俺がメアリー先生に教えて、それがフェルトさんに伝わったから教えた。


 「使い方合ってるし、そんな事言われなくても俺自身がよくわかってる。最後の最後で詰めが甘かった……」


 「そこまでわかってるなら良いよ。

 にしても凄いね、首を切ったのに血を一滴も出さずに殺すなんて、俺でも出来ないよ」


 そう言われて、慌ててターゲットの首や体に駆け寄って様子を見た。


 先程まで俺のぶつかった女の子の中に入っていたであろう汚物は完全に(しぼ)んでおり、そこからは黄色い臭いのキツい液体が漏れており、頭は先程確認したのと一緒だが徐々に顔色が悪くなって行ってるような気がする。


 「え、これ、死んでんの?」


 「?君が殺しただろ。その証拠に、息をしてない。

 まぁ首から上が無いんだから当たり前だよね」


 言われて気付く。確かに気絶にせよ胸元が上下に動いていない。


 や、野郎…!あの一瞬で殺されたと理解してショック死しやがったな!?


 はぁー、本当は此処から色々試す筈だったのに……。




 こうして俺の、初の依頼はある意味失敗で終わった。



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