新しい使い方
フェルトさんと共に屋敷を歩く。
向かって来る敵は俺やフェルトさんが殺し、その額にフェルトさんが羊皮紙を固定してマークを刻んで行く。
途中、何度か俺に羊皮紙を渡して来て俺にやれとフェルトさんが言って来たり、人以外の、前世で言う厳つい番犬のような魔物などを殺し威風堂々と屋敷の中を突き進む。
使用人の姿は見えない。恐らく依頼主が動いたのだろう。
まぁ仮に、うっかり殺してしまったとしても、『裏ギルドの依頼を邪魔した』として処理されるから、俺の方に罪悪感は湧かない。
仕事の邪魔をする方が悪い。
そう思えるが、そう思えるだけなので、出来れば出て来て欲しくない。
それから数時間ほど掃除をし、屋敷内が静かになった辺りでフェルトさんが話し掛けて来た。
「なんでか知らないけど居ないね」
フェルトさんの言う通り屋敷内にはターゲットと思わしき人物も、ターゲット本人だと思える人物も居なかった。
前以てターゲットの人相や体格、仕草や癖なんかを調べていたからターゲットが誰かなどすぐにわかる。
影武者を用意しているとの話も聞いていたが、その影武者すら見当たらない。
まさにフェルトさんの言う通りだった。
しかしそれ以外に問題が有った。
フェルトさんがニヤニヤ笑顔を浮かべていることだ。
つまりフェルトさんはターゲットが何処に居るのかを既に把握している可能性が非常に高い。
そしてそういう時に限って俺を見ながらニヤニヤしているのは、俺に何かをやらせようとしている。ということだ。
今回の場合は……、まぁ、1つしかないか。
「…………ヒントは?」
「自分で考えな」
本当にスパルタが過ぎる。
仕方がないので俺は頭を捻った。
前世の知識から考えると、こういう場合は逃げられたか秘密の通路の奥に居るなどがセオリーだ。推理小説なんかだと隠し部屋とかだな。
そして今回の場合、それが正解であろうことは確定的に明らかだ。
この世界は前世の世界を基準に作られたんじゃないかと思うぐらい向こうでの『お約束』が適用されている事が多い。
さて、そういう予め答えを知っていての回答は、こういう場合でしても良いが、まずフェルトさんは良い表情をしない。何よりその場合1発で当てないとならない。
虱潰しなんかやれば、笑顔で「時間掛け過ぎ」といつの間にか首にナイフを喰い込まされる。
フェルトさんは自分の思い描く絵と違う結果になると極端に機嫌が悪くなる。
それがフェルトさんにとって良い意味での違う結果なら破顔して受け入れてくれるが、そうでない場合は非常にイライラする。
さて、それ等を踏まえて、今回俺が求められてる事を考えると……、1発で当てろって事か。魔力を使って。
最悪虱潰しになっても、部屋に入ってすぐの所から動かない場合なら許されそうだ。
そこまで考えたところで、俺は魔力を練る。
練って、周りの魔力濃度と自分の体の中の魔力濃度を変える事で、周りの、空気中の魔力に対して敏感になれるようにす
「その方法以外でやろうか。方向性は合ってると言っといてあげる」
…………る、筈だったが駄目出しされた。
これ以外の方法だ?どんな方法が有るってんだよ。
「確かにそれでも魔力の流れはわかる。でもわかるのは魔力の流れだけ。今回のそれは気配や空気に天性の才能が無いと難しい。俺でも身に付けるのが大変だった」
……天性の才能が無いと難しいとか言いながら、シレッと『自分は出来る』と自慢された。
「君もなかなかブッ飛んでるからもしかしたら出来るかもしれないけど、今回は別の方法、一般的な方法で探ろうか?」
一般的な方法=裏ギルド規準だろ?知ってる。
そうなると、ハァ?どうしろと?
こういう場合はどうすれば良いんだ?
思い出せ……。前世の読んだファンタジー系の作品から人気漫画作品までのありとあらゆる知識を思い出せ……。
俺がそうやって、どうすれば良いか悩んでいると、フェルトさんは「ほらほら、どうしたんだい?早くしないとターゲットが逃げちゃうよ」なんて言って煽ってくる。
あぁー!もうー!わかってんだよそんなことぐらい!!
考えろ……。思い出せ……。考えながら思い出して考えろ……。
方向性は合ってる。気配の読み方は魔力の流れのやつは違う。魔力の流れしか読めない。俺の属性。フェルトさんの俺の知ってる属性。そして前世の知識……。
ありとあらゆる可能性と知識と記憶を総動員させ、それを材料に色々考えていくと、ある1つの答えに辿り着いた。
「………………………」
隣でフェルトさんが嗤ったのを見ずとも感じた。
つまりこれが正解って訳か。
なるほど。確かに魔力の流れを読むよりコッチの方が確実そうだ。
俺は練っていた魔力を風属性へと変質させ、一気に体外へと放出した。
魔力も風も、練られたり力の向きが加われば圧力が生まれる。俺の体から風属性の魔力が放出された事により、俺を中心に突風が発生する。
しかしそれは一瞬で、すぐに収まる。
端から見れば俺の体から風が発生しただけで、その前後で俺自身に変化が有ったかどうかはわからないだろう。
しかし明確な違いを俺は感じていた。
今まで見ていた物はなんだったのかと言いたくなった。そのぐらい視野が拡がった。
フェルトさんが違うと言った意味が今ならよぉくわかる。
確かにこんな視野、魔力をただ練って自分以外との違いを読んだだけではわからない。
今の視野になって、何処に行けば良いかがすぐにわかった。
「こっち」
フェルトさんを先導するような形で前を歩き、とある部屋の前へと移動する。
よし!やはりここだ。ここだけ風の向きがおかしい。
扉を開け、中へ入ると、そこは客室のような部屋だった。大手企業の応接室へ行った時と似た雰囲気を感じる。
部屋の左の壁。その入って来た扉側の1番端。そこにはこの部屋に似つかわしくないレバーが有った。
一見ポールハンガーの掛ける所のようにも見えるが、フックは1つしかない上に壁に収納出来るような造りになっている。
明らかに不自然だ。そして何故かこの場所から先へ風が動いている。
俺がやった事は単純だ。俺の魔力に風属性を加えて、風の流れだけを読む魔力に変化させて流れを読んだから何がどう動いているのかがわかった。
魔力だけなら空気の流れなんかわからず、絶対に虱潰しに部屋を1つずつボロボロにしないとならなかった。それだと流石に、ターゲットに確実に逃げられる。
「ホント、スパルタ過ぎなのに効果的過ぎだろ」
「ん?何か言ったかい?」
「いぃや、なんも言ってねぇ」
俺は呟いた事を誤魔化すように、フックを壁へと収納させ押し込んだ。
するとフックの有った壁がスーッと滑らかにこちら側へとスライドしていき、内開きの扉が開けるように開いた。
中はどうやら地下へと続く階段になっているらしく、この部屋の扉を入ってすぐ正面にあった窓の外の方へと続いているようだ。
「準備は良いですか?」
「Let's do early」
俺は「ヘッ」と笑い、地下へと降りていった。
此処までの魔力や魔術関連で「ん?」と思う事が有るかもしれないですが、それはいずれわかります。
主人公は基本サイコパスです。




