習得…?
更に2週間が経った。この部屋で過ごし始めてこれで24日経った事になる。
その間何も進展は無く、俺が集中しようとすれば集中しようとするほどクソガキに邪魔されては一蹴するというなんの生産性もない事を続けていた。
流石に一月近くもたった1人の相手をしていれば、そいつの癖や行動パターンもわかる。2週間前は体に斬属性の魔力を纏って安全確保をしていたが、今では魔力を纏ってすらいない片手でいなす事が出来るまでになっていた。
にしても6歳児って子供にしても、学習能力無ぇなぁこのクソガキ。あくびすら出て来る。
「なんなのよいつもいつも!今回に限ってはあくびなんてしちゃって!!そんなに暇ならさっさと出て行けば良いじゃない!!」
相変わらずナイフを振り回して泣き喚きながら文句を言うクソガキ。
おっ、珍しく突きを放ってきた。
俺は放たれた突きを、ナイフの刀身を指で挟んで、クソガキの勢いを利用して一本背負いの要領でクソガキを投げる。
バンッ!と、割と痛そうな音が部屋に響く。
そして数泊置いたあと訪れる騒音。
「いーたぁああいいいいいいい!!なんで私のナイフが当たらなくて私が痛い思いをしないと駄目なのよおおおお!ホントあんたなんか大ッ嫌いだぁーー!!」
ナイフをこちらへ向け投げ捨てて、目元に手を当て五月蝿くクソガキが泣く。
うん、五月蠅い。
「五月蠅いぞクソガキ」
思わず鳩尾辺りを踏んでしまう。
すると、まるでカエルを押し潰した時のような醜い声がクソガキの口から漏れた。
今更だがクソガキの容姿を説明しよう。
クソガキの容姿はカールの効いた茶髪に同じく茶色の瞳、顔はまぁ、前世で考えると万人に「可愛い」と言われる子役程度ぐらいにはなれるだろう。ドレスはピンクがお気に入りなのか、ピンクのドレス姿をよく見る。今は青色のドレスだが。
さて、万人に可愛いと言われる程度と言えども、つまり可愛い部類に入る顔立ちはしている。そしてまだ6歳とはいえ王女だ。そんな王女の口から、押し潰されたカエルのような声とも言えない音が聞こえた訳だ。
俺がどういう反応を取るか?答えはこうだ。
「キモッ」
思わずそのまま横腹を蹴ってしまう。
クソガキはうつ伏せになりオェオェと餌付いている。
汚ね。
その後も起き上がっては何度も何度も突進してきたり、ナイフで突き刺そうとしてきたりするのをいなしたり投げたりして防いだ。
それを数時間ほどしていた時、思わずミスをしてしまった。
これまでは普通に投げて床に打ち付けていたんだが、流石に疲れてきたのと集中力が低下していたせいか、文字通り投げてしまった。
そして投げた先は開いた窓が有る。
この世界には窓ガラスという物がない。昼間は窓の役割をする枠を蓋する蓋を取り払い、夜はその蓋をして金具で止める事で開閉式の窓として扱われている。
そして今は昼間だ。蓋など無く、6歳児の小さい体程度なら余裕で通り抜ける事が出来る。
つまりクソガキは窓から外へ放り出された。
一瞬思考が停止する。
そして直ぐ様俺もクソガキに続いて窓から飛び降りた。
経緯はどうあれ、めんどくさくなって投げ続けたのは俺だ。その結果クソガキが窓から放り出されたのも俺の責任だ。
別にクソガキが死ぬのはどうでも良い。だが俺に責任が発生するなら話は別だ。出来るだけ無傷で助けなければならない。
直ぐ様クソガキを視界に捉える事は出来た。
しかし男と女、筋肉の量的に俺の方が重いとはいえ、これじゃあ間に合いそうもない。
俺自身は魔力を纏えば死ぬことはないだろう。
だから早く!もっと早く!もっと速く!!
クソガキに追い付け!!
次の瞬間、俺は何かを踏むような、蹴るような感覚に襲われた。そしてその感覚を味わう度にクソガキとの距離が縮まった。
イケる!
俺はそのままクソガキに近付き、彼女を抱えることに成功した。
さて、問題はここからだ。このままでは頭から落ちていくらなんでも大怪我をする。
せめて、せめて足から落ちなければ……!
クソガキを抱えて、頑張って落下する中、体を捻って足を下にする。
クソッ!せめて何かクッションでもあれば!
そう思うと同時に俺達は地面へと墜落した。
いや、着陸した。
地面に接する瞬間、再び足が何かを踏むような感覚に襲われた。それを意識した時には、いつの間にか何事もなく着地していた。
なんだ?何が起きた?
狐に摘ままれたような錯覚を覚える。
そこで何やら、「は、早く卸しなさいよ」と小さく震える声が耳に入る。
おっと、そういえばクソガキを抱えてるんだった。
「卸してやるから、もう2度と俺の邪魔をするんじゃねぇぞクソガキ」
「…………あんたも子供じゃない、ばか」
「馬鹿で結構。別にお前に良く思われたいとか皆無だし。お前を助けたのだって俺の今後の不利益になるからだ。不利益にならないのならそのままお前は、地面に赤い液体を撒き散らしていただろうな。
もう1度言う。2度と俺の邪魔をするんじゃねぇぞ」
そう言ってクソガキを卸してやった。
クソガキは卸してやると、俺から直ぐ様離れて、何やらモジモジしたあと、「か、感謝なんてしないから」と言って、何処かへ走り去った。
クソガキが走り去ったのを見てから、溜め息を1つ吐く。
危なかった…。もう少しでなんの意味もなく王女を殺害したとして裏ギルドに迷惑を掛けるところだった……。
にしても、さっきのはなんだったんだろうか?
何故俺はさっき、何かを踏むような感覚に襲われた?
あれやこれやとその場で悩んでいると、ガチャガチャと騒音を撒き散らしながら、全身鎧を着た騎士達がやって来た。中には何故か、フェルトさんも居る。
「あれ?なんでジャックがこんな所に居るんだい?
第三王女を殺した後始末?まだ後始末については教えてないよね?」
怖いことを言う。そんな事にならない為に、裏ギルドに迷惑を掛けない為に命張って飛び降りたのに、当のギルドマスターはむしろ後始末の話をするなんて……。
もしかして俺、助けなくても良かったか?
「助けた?え、自分で放り出した第三王女を助けたのかい?」
「…………あぁ、だって、俺がここで意味もなくあのクソガキを殺したら、裏ギルドの迷惑になるだろ?
裏ギルドを敵に回すなんて自殺行為するぐらいなら、一か八かに命張る方が生存率が高い」
「?? どういうことだい?今回は話が見えない」
そう言われた為、俺は事の顛末を素直に包み隠さずフェルトさんに報告した。
報告途中、騎士達が何かを言おうとすることが何度か有ったが、その都度フェルトさんが声を発しようとした騎士の首に、若干血が出る程度ナイフを押し付ける事で黙らせていた。
ホント、手慣れてるな……。
事の顛末を聞き終えたフェルトさんは、腕を組んで顎に手を当てながら何度か頷いたあと、ニコニコと笑みを浮かべ始めた。
あ、これ、面倒な事になりそう。
「面倒な事にはならないよ。
にしても、へぇ……。やっぱり君、自分が危険に晒されると力を発揮するタイプみたいだね」
「………………はい?」
「その何かを踏んだり蹴るような感覚、その直後に第三王女に追い付いたのも、君が風属性で人が浮くほどの高密度の風圧を即座に作って足場にしたから出来た芸当だよ。
それを無意識とはいえ、ナチュラルに出来るって凄いね。
後はそれを意識的にあらゆる形で使えるようになれば風属性はマスターしたと言えるよ。
それと、ジャック?明日からの君の修行は大空からの自由落下だから覚悟しといてね。俺はこれから、アトラス王にジャックが今日で第三王女の所に通うのは終わりって伝えて来るから。
いやぁー、良いことを知れた」
1人そう語り終えたフェルトさんは、とても清々しく、とても嬉しそうな表情をしながらその場を去った。
「…………………………」
「「「…………………………」」」
俺と騎士達の間を沈黙が支配する。
その後俺は騎士達に事情聴取を受けさせられ、夕方になる頃に解放された。
長かった。
そうして俺は、夕方になったからクソガキの部屋には戻らず、そのまま裏ギルドへと帰るのであった。




