クソガキとの10日間
さて、唐突だが俺の今の状況を話そう。
俺は今、アトラス王国首都にある王城の、第三王女ことクソガキの部屋に居る。
俺が何故クソガキの部屋に居るかの理由は、フェルトさんとアトラス王の取り決めで俺が風属性を身に付ける迄の間、日中は第三王女と共に過ごすことになったからだ。
そして今は、あれから10日は経っている。
まぁ、そんなことはどうだって良い。現状には全く関係ない。いや関係有るけど、必要性はそれほど高くない。
さて、ここで何が起きたかを、本題を話そう。
俺は今、さっきも言ったが第三王女の部屋に居る。
そして当の第三王女だが、俺の前で裸の姿で、メイド達に着替えさせられていた。
敢えてアダルティーな表現をするなら、2つのさくらんぼと小さな筋、およそ女が隠す部位の全てを見てしまった状況にある。
まるで漫画やアニメ、ゲームといったサブカルチャーの世界でしか成り立たないような状況だが、そんな事が現実に起きた。
ここでサブカルチャーの世界でなら女性側が悲鳴を挙げて、頬に赤いもみじを作るような展開が『お約束』というやつであろう。当然、それぐらいなら俺は受けるつもりはあった。
いくらクソガキの、それもまだまだ未発達な体とはいえ丸裸を見てしまった訳だ。これは全面的に俺が悪い。どんな理由が有ろうとも俺の方が悪く、互いに大人なら捕まっても仕方ないだろう。
しかし現時刻はこの世界での昼食刻で、なんなら俺は先程、ここの食堂で昼食を頂いた直後だ。そしてその前の午前中も、俺はコイツと同じこの部屋の中に居た。
初めて会った時と同じ格好をしていたから部屋着という訳でもないだろう。
なのにだ、何故かこのクソガキは部屋で堂々と着替えているし、俺は俺で部屋の前に居るメイドに止められなかったし、なんなら着替えをしていたメイド達はクソガキと服も着せず、クソガキを隠すこともせず、むしろ俺に見せるように離れていった。
そしてクソガキの足元には何故かナイフが1本。
当のクソガキは顔を真っ赤にして服を着たあと、ナイフを握ってプルプルと震え始めた。
ここまで言えばわかるだろう。
俺は今、理不尽に殺されそうになっている。
「───────!!」
声にならない声を挙げて、顔を真っ赤にさせながらクソガキが俺にナイフをやたらめったらに振り回して斬ろうとしてくる。
それを俺は、斬属性の魔力を纏って、ナイフの側面でいなす。
「当ーーーたーーーれーーーーーーーー!!」
クソガキが喚きながら更に振り回すスピードを上げる。
しかしそれもたかが知れており、普段からフェルトさんに散々扱かれている俺からすればどうということはなく、クソガキが疲れ果てるまでいなし続けた。
5分も経たずにクソガキは疲れたのか、その場に女の子座りでへたれ込む。そして泣き始めた。
「もう嫌だぁー!お前が来てから悪いことばっかり起こるー!お前なんか大ッ嫌いだぁーー!!」
それはコッチの台詞だと言いたい。
実はこの状況、今回が始めてではなかったりする。
今回で3回目ぐらいだったりする。
しかも着替えだけでも入って良いときと入ったら駄目な時が有るから質が悪い。
今回は入ったら駄目な時だった訳だ。
当然ながら、こんな事になってるのには理由が有る。
今回のこの着替えを見る事も含め、全てを計画しているのは、我等がギルドマスターと、アトラス王国国王であるアトラス王の2人なのだ。
理由は簡単な物で、俺にこの間の件で粗相をしたから、クソガキは俺に関してはプライドも人の尊厳も粉々にして欲しいというアトラス王の申し出と、ならその度に襲わせれば俺の訓練になると言い出して毒の塗られたナイフを準備させる方向に持って行って面白がってるフェルトさん等が主犯だ。
俺はまぁ、迷惑程度で済むが、このクソガキに関しては迷惑どころの騒ぎじゃないだろう。
しかも当人である俺達以外は全員、実はノリノリだったりする。
メイド達なんかに関しては嬉々としてやっている。
面白がってるのか、それとも日頃からクソガキに対して鬱憤が溜まっているのか……。
こんな事を、この10日間、ほぼ毎日やっている。しかも酷いときだと数時間起きに何かしら起こる。
迷惑どころの話じゃない。
確かに俺は、格上との戦闘訓練ばかりやってるから、格下との戦闘訓練と考えればある意味充実した環境と言える。言えるが、流石にこれ以上は俺も迷惑だ。今日帰ったら、フェルトさんにお願いしよう。
☆ ☆ ☆
「返答しないとわからない?」
「だよ、な……。ハァー……」
流石に鬱陶しいからどうにかならないかと嘆願してみたが、案の定一蹴されてしまった。
「そもそもなんでクソガキと俺を執拗に一緒に居させようとするんだよ……」
「前に話した通りだけど?」
「あぁ、確かに表向きの理由は聞いた。だが明らかにソレ以上の意図が有るだろ……。
まさかとは思うが、俺とあのクソガキにくっ付けとかいうつもりじゃないだろうな?」
「それを画策してるのはアトラス王の方だね」
「OK、今からアトラス王を殺してくるわ」
「ちょっと待ちなよ。あくまで今は君の修行中だよ?俺が無駄な事をすると思う?」
アトラス王を殺すため裏ギルドマスター室から出ようとドアノブに手を置いた瞬間にそんな事を言われた。
立ち止まらずにはいられない。
修行の為だぁ?
俺は振り返らずに、ドアノブに手を掛けたまま話を聞く体勢に入った。
「無駄じゃない根拠は?」
「君が初めて魔力を意識的に使ったのはいつだい?何をやっていた時だい?」
フェルトさんに言われて、ようやく何をしたいのかに気付いた。
なるほど、ストレスか。
いや、それにしてもこれは無い。この方法は無い。酷過ぎる。
「それはあまりにも酷いんじゃないか?別のベクトルでのストレスの掛け方が有っただろ?」
「ベクトルが何かは知らないけど、まぁ、確かに他の方法も有っただろうね。でも、他の方法だと手加減の訓練は出来なかったし、裏ギルドに所属するなら今後は王族も相手にしないとならない。仲には第三王女みたいな奴も居る。
あれほどソフトな物をその年齢から経験出来ると考えれば、良いんじゃない?昼間は美味しいご飯を食べられる訳だし」
「………………」
フェルトさんの意見は、確かに的を得ていた。確かにここだと俺は最底辺で、手加減する側ではなく手加減される側だ。同じ理由でストレスは少なからず感じるが、今のようなストレスは感じなかっただろう。
ありとあらゆる意味で効率的と一から説かれれば、確かに納得せざる負えない。
まだ他に、何かろくでもない理由が有りそうだが、これ以上聞いても何も出て来ないだろう……。
「……………一応納得して今後も習得するまで最低1ヶ月はこの環境で続ける。でも明らかに効果が見込めなかったり、1ヶ月以上掛かりそうなら、また別の方法を一考して提案してくれ」
「良いよ、わかった。じゃあまた明日も頑張れ」
俺はフェルトさんの言葉を聞いてから、ギルドマスター室を後にした。




