アトラス王国騒動編─3
「こちらが我が国の宝物庫になります」
「案内ありがとうございます、国王陛下」
頭を下げて礼を言う。
さっきまではアドレナリンが出ててハイになってたが、基本的に俺は目上の人に対しては相応の態度をするよう心掛けている。
まぁ、それはさておき、王国の宝物庫の物色である。
前世から考えても考えられない。ましてや国王自らに案内させて、解説までさせるんだ、絶対にあり得ない体験をしてる。
そうこうしている内に宝物庫の鍵は開けられ、中に入ることが出来るようになる。
俺はそれを、悠々自適に歩いて中に入り、何が有るかを見て回った。
宝物庫と聞いて、やはり1番最初に目に入るのは剣や槍などの武器に、全身鎧なんかの防具類だ。
神聖そうな物から、禍々しい物まである。
色々見ていく内に、俺が気になったのはナイフ2本と腕輪1つの計3つだ。
手に取ってデザインなんかを見ていると、アトラス王が解説を入れてくれる。
「ナイフの内1つは魔銀と魔金剛石の特殊な鉱物で打たれたナイフだ。見ての通り、普通のナイフとショートソードの中間ぐらいの長さが有る。効果はとにかく硬くて、とにかく鋭く、とにかく魔力をよく通す。この3つだ。
次にもう1つのナイフは斬った物を再び繋げる事が出来るナイフだ。何故かそのナイフで斬った物は、人ならば血が、岩ならば破片が、金属なら屑が一切出ない不思議なナイフだ。そのナイフで斬った物は、同じくそのナイフの柄尻でなぞってやれば元通りになる。素材は魔銀と魔鉄で出来ているから、壊れにくい。
腕輪は『回復の腕輪』と言って、それさえ身に付けていれば、魔力の許す限り体の損傷を治してくれる。素材は魔銀と魔鉄だ。これを持ち出すのなら、一緒に『貯蓄の指輪』なんかも持って行けば良い。
『貯蓄の指輪』は魔力を貯めておくことが出来る指輪だ。これも素材はベースが魔銀で、魔金剛石をコーティングとして使ってある」
解説しながら、指輪を渡してくる。
たぶん自棄なんだろう、貴重な物の筈なのに、すいすいと勧めてくる。
ちなみにだが、魔銀とはいわゆるミスリルで、魔金剛石とはオリハルコン、魔鉄とはオリハルコンの下位互換的な物で、鋼よりも硬くて壊れにくい、ミスリルより魔力の通りは弱いが普通の鉱石より魔力を通す鉄の事だ。
前世の言葉で何て言うかは知らない。魔鋼とか有るなら、恐らくそれはアダマンタイトかヒヒイロカネとかいうただただ硬い金属だけだろうけど、そんなものこの世界含めて存在しない。
俺は受け取った指輪と手に取った腕輪をなんとなく指と腕に着けてみた。すると、最初はブカブカだった筈なのに、あっという間に俺の腕や指にすっぽり入る大きさになった。
「そういった装飾品は基本、自動で装備者のサイズに合うような魔術陣が組み込まれている。だからどれだけ小さくても使えるぞ。魔力が持てばの話だが……大丈夫そうだな」
少し残念そうにアトラス王は言った。
使えなければ持ち出せないとか言うつもりだったんだろうか?
そもそも俺の今の魔力は6000だ。この数値は、大人の平均魔力値より少し多い。具体的には1000ほど多い。
つまり5歳の時点で大人の平均ほどの魔力を俺は持っていた訳だ。それが1年成長しただけで1000も上がっているわけだから、将来的に見ても持っていかない訳がない。
にしても、全体的に良い物を手に入れる事が出来た。
俺の中でこの4つを持ち出すことは確定した。
あとは、他に何か良い物がないか探す事にしよう。
☆ ☆ ☆
4つに決めて以降色々物色したけど、良いのは見付からず、俺は決めた4つだけ貰うことにした。
ちょうどフェルトさんや、先輩方も来たし、あとは彼等に任せる事にした。
「さて、依頼の件だけど」
「そちらは続行の方でお願いします。今回の件で娘を甘やかし過ぎてたのを自覚しましたし、確かに近年の若者が他国へ移る事は気にしていましたので、積極的に改善していこうと思います。
ただ1ヶ月は短いので、出来れば1年……いえ半年ほどの猶予を頂ければと思います」
「うん、妥当な判断だね。個人的には長くても3ヶ月と思ってたけど……、まぁ今回こうやって色々毟り取る訳だしね。それぐらいは待つよ。
安心してくれて良い。現金には手を付けさせないから、国庫の財政が傾く事はないよ。あくまで無くなるのは宝物庫の中身だけ。数も1人3つ迄だ。
ジャックだけ被害者だし5つにしてもらうけど」
「十分です。むしろそれで抑えていただきありがとうございます」
「今回は全面的にそちらが悪いとはいえ、裏ギルドだから、といって好き放題する気はないしね。持ちつ持たれつが1番だ」
そんな会話が耳に入る。
この1年を通して最も接したフェルトさんの言い方や話し方から察するに、今言ったのは全部本音だろう。
ということは、さっきのアレも演技か……。
案の定、アトラス王が「お手柔らかに頼みます」と震えた声で言ってる。
☆ ☆ ☆
はてさて、
こうして第一王子の依頼から始まった今回の騒動は幕を閉じた。
これ以降、アトラス王国唯一の欠点だった若者の流出は半年ほどで抑えられ、今代のアトラス王は賢王として後の世の歴史に名を刻む事になるのであった。
事実を知る俺からすれば、笑ってしまう話だけどね。
ホント、この時のジャックは良い仕事をしてくれたよ。




