アトラス王国騒動編─1
俺は今、天上の人だと思っていた人の前に立っている。横にはフェルトさんが居て、ニヤニヤと笑いながらその人と話をしていた。
「いやぁ~、遂に君を最悪殺してくれって依頼が来ちゃったよアトラス王。それで俺も、その依頼を請けようと思うんだ。この意味、わかるよね?」
ゴクリと唾を飲み込む音が聴こえた。それも1つではなく複数だ。
「……………………フェルト殿。何処の誰がそんな依頼を?」
「愚問だね、答えると思う?」
「だろう、な……」
俺にとっての天上の人、アトラス国王が半ば諦めたように溜め息を吐いた。
場所はアトラス王国首都、そこに有る王城の中の謁見室。本来であれば俺を含めフェルトさんも傅かないとならない相手だが、何故かその相手にフェルトさんは厚顔不遜な態度で立ったまま話していて、俺としては自分の所のトップが傅かないから傅かなくて良いのか、それとも傅かないと駄目なのか、前世を含めこういうことを体験したことも体験する予定も無かったから、どうして良いかがわからない。
取り敢えずフェルトさんが、国王相手に1歩も引かないのが後々の事を考えると恐い。
「貴様等!不敬であるぞ!今すぐ傅いて頭を垂れろ!!」
「と、君の家臣は言ってるけど?」
「トゥリズォン卿、彼等の事は気にしなくても良い。むしろ喧嘩を売るな……」
「陛下?!」
うっわ、国王自らが既にフェルトさんを上に見てる。そして同伴者の6歳児である俺に対しても。
どんだけヒエラルキーが上なんだよ裏ギルド……。
に、しても、トゥリズォンね……。これをそのまま英語にするとTreason、反逆を意味する名前な訳だけど……。
一応フェルトさんに伝えとくか。
「フェルトさん」
小さい声で、フェルトさんのズボンを掴んで引っ張りながら声を掛けた。
予め俺が何か気付いた時にやる合図だ。
まだ子供の俺だからこそ許される合図とも言える。
「なんだい?」
フェルトさんは俺を抱き上げて、国王達からは見えないよう俺の顔をフェルトさんの背中の方を向くように抱き上げた。
その状態で小声で言う。
「トゥリズォンって言うのは、俺の居た所では反逆を意味する言葉と音が似ている。妄想かもしれないけど、一応報告しとく」
「なるほど……」
本来なら、1度抱き上げればしばらく俺は抱かれたままの状態の筈だったんだが、何故か俺はすぐに下ろされた。
何故かと思いフェルトさんの顔を下から覗き見ると、それだけで察した。
フェルトさんは表情をこれでもかというぐらいニヤけさせていたからだ。
「さて、アトラス王。今更だけど、ウチの新しいギルド員を紹介しよう。
ジャックだ。まだ字もない、ほんの1年前に祝福の儀を終えたばかりの子供だ。だがこの子は一種の天才でな。そんなこの子からこんな言葉が出た。
トゥリズォンとは反逆の意味だと。
ところでアトラス王、最近武器庫や金の動きが色々怪しいみたいだが、さっき君が諫めた奴の周辺は洗ったのかい?
あぁ、子供の戯れ言だと流してくれても構わないよ。俺がそれを君達に教えた意味が理解出来ないのならね」
フェルトさんが1人でそう語り終えると、国王は苦々しい苦悶の表情を浮かべながら、トゥリズォン卿を抑える命令を側に居た騎士に命じた。
「何をする!陛下!これはいったいどういうことなのですか!!何故陛下はこやつ等の言うことを聞くのですか!
お答えください!陛下!!」
騎士達に羽交い締めにされて部屋から出されそうになりながら、必死にトゥリズォン卿が叫ぶ。
当たり前だが、ここで叫ばないと彼はフェルトさんの言った事を認めることになるし、叫んで少しでも言い訳を言わないと例え無罪でも恐らく彼にとって辛い結果になるだろうから、彼の叫びは尤もだった。
しかし、それを聞き入れて話を聞くかどうかは、どうやらこの国の国王はその辺り、ただの凡人と変わらなかったらしい。
怯えた表情でこう言った。
「すまんな。そうじゃなくてもお前は敵に回しちゃならん相手に吠えた。
重ねて言おう。すまんな」
「陛下ァァアアアアアアア!!」
扉がバタンと大きな音を立てて閉じる。
こうしてこの時、この国から、1つの貴族家が終わりを告げた。
俺の一言で終わりを告げた。
裏ギルドの権力怖ぇええ!!
「あれ?良かったの?家臣が1人減っちゃったよ?」
ニコニコニヤニヤしながらフェルトさんは、本当に愉快そうに笑う。国王はそれに対して、諦めたように溜め息を吐いたあと、天を仰いだ。
「それで?儂は死なねばならんのか?」
「んー、そこは微妙なんだよね。極論を言うと死んだ方が良いんだよ。で、新体制で新たに政を回すのが、この依頼を請けようと考えてる俺の考えなんだけど、死ぬの、嫌でしょ?」
「当然だな」
「でしょ?だから一月の猶予を上げる。その間に、君は何故自分が死ぬような依頼をされて、俺が請けることにしたのかを考える。そしてその理由を解明して改善に臨む。
一月後に俺が改善出来てると思えば、良い方向に向かうだろうと思えば殺さない。
っていうので、どう?」
「…………それしかないのだろう?」
「いや、別に、俺や彼をこの場で殺せば君は死ななくて良いかもよ?国がどうなっても良いのなら別だけど」
「……それを受けるしかないというのだ…」
「じゃあ、改めてルールの確認をしようか。
ルール1。俺が何故君を殺すかもしれない依頼を請けようとしているのかを考える。
ルール2。その原因を突き止めて、その改善に臨む。
ルール3。一月後に俺が答え合わせをする。その時に改善出来ていると俺が判断するか、今後このまま行けば改善されると俺が判断すれば、君は殺さない。
ルールは以上で良いかな?」
「…………シンプルでわかりやすいルールの提示、感謝しよう」
「諦めた上での感謝に聞こえるけどまぁ良いや。
で、このままだと不公平感が個人的に有るから……、よし、じゃあヒントを上げよう。どんな理由が有るにせよ、今回の依頼主はこの国を想っての依頼という形を取っている。
さぁ、ヒントは上げたよ。あとは頑張れ」
フェルトさんはそう言って俺を抱き上げたあと、謁見室から出て行こうとして、途中で立ち止まり国王の方を見た。
「あ、そうそう。今話した1ヶ月の間、この子は必ず第三王女の所に通うから、その辺よろしく」
俺は思わずフェルトさんの顔を見た。
恐らく国王達も見て、呼び止めようとしている事だろう。
しかしフェルトさんは止まる事はなく、ニヤニヤしながら来た道を戻っている。
「聞いてないんだが?」
「言ってないからね」
クククとフェルトさんが笑う。
それを見て俺は、呆れて物が言えなくなり、溜め息を吐いた。
「絶対ロクな死に方しねぇぞ?」
「この業界に身を置いてるんだから、当然だよね。
それに呆れてるけど、これは君の為でも有るんだよ?」
「…………俺の為?」
「権力者との個人的なコネって、実は結構便利な物なんだよ」
そう言ってフェルトさんはウインクをした。
それだけで、俺は何をしろと言われているのかを察して、再度溜め息を吐いた。




