新しい訓練
訓練所に着いた。
着いた途端、また首元に冷たい物をトントンと当てられた。
「…………1時間半前の焼き直しですか?」
「2度も同じ方法で死ぬのはどうかと思うよ?」
「そんな着いて1拍も置かずにやられるとは思わないし、俺はまだ6歳だ。何よりアンタみたいな達人相手に、まだ素人に毛が生えた程度のガキが敵うかよって話だ。
次は絶対、やられても逆にナイフを斬ってやる」
「へぇー?出来るのかい?」
後ろから当てられていたナイフはそのままに、いつの間にかフェルトさんは俺の前に来て、正面からナイフ俺の首元に当てた。
「斬れてないけど?それに今魔力を体に纏ったね?それだと簡単に死んでしまうよ」
「……………………ホント、アンタに敵わねぇわ」
色んな意味で。ムキになったのかなんなのか知らないけど、毎度の事ながら大人気ねぇなぁ……。
「それで?今日は何をすれば良いんだ?それとさっきのこれについても教えてくれよ。メアリー先生に聞いたらこのタイミングでフェルトさんに聞けだってさ。
教えてくれないなら自分もフェルトさんの話は聞かないって」
またもフィルムのような物をピラピラさせながら聞いてみた。
「……君、それが何かメアリーに聞いたの?」
「さっき言った通りだよ。聞いたら、このタイミングでフェルトさんに聞けだとさ」
「…………………………ハァーー……。彼女の作る物は凄く便利で良い物ばっかりなんだけど、こういうとき融通訊かないから困るね」
「いやいや、アンタがいたずら好きなだけだろ」
「ハハハ、1年前では考えられない軽口だね」
「この1年でアンタの人と生りはわかったからな。この程度の軽口を流せないほどアンタの器は小さくねぇ」
「そう言ってくれると世辞でも嬉しいよ。
さて、本題に入ろうか?」
本題に入る。この単語は一種の暗示だ。この暗示はフェルトさんが自身へ対して施す暗示でもあり、それを1年間聞き続けて今尚鍛えられている俺の暗示でもある。
所謂閑話休題だ。閑話休題と話を切り替える言葉を使ってスイッチを切り替える。
フェルトさんは真剣な表情に、俺は背筋を伸ばしてその場でいつでも動けるように心を構える。
「今日から君には、次のステージに進んでもらう」
「……次のステージ?」
「そう、次のステージ。君はこの1年、君の体を纏うようにして存在している斬属性だったかな?それの操作を俺から見ても完璧に、俺の考えていた時間より3分の1以上の早さでマスターした。マスターしたと言える場所まで登り詰めた。
だから今度は、次の属性の頂に立ってもらう」
そこまで聞いて、俺はようやく手に握るフィルムのような物の正体がわかった。
なるほど、これは自分の属性を調べる為の物か。
……いや、だが、それなら何故鋼色は示さなかった?
「悩んでるところ悪いけど、その疑問についてもちゃんと説明する。
君も当事者だからわかるだろうけど、この世界の子供には稀に複数の属性を持つ者が居る。君や俺、メアリーやリューシュンなんかがそうだ。そういう子供は君みたいに自分の属性がなんなのかがわからないなんて事がザラだ。
そして成長すれば成長するほどほぼ1つの属性に固定されるか慣れた属性だけを使うようになって他の属性の事を意識しなくなるか忘れる。
それを解決するのがこのメアリーの作った魔道具だ。この魔道具は自身が最も得意とする属性以外の属性を色で示してくれる。示し方は様々らしいが、どうやら君は、残りの2つの属性を満遍なく扱えるらしい。やや緑色寄りか。
これがわかることで、自分が他にどんな属性が得意なのかを知ることが出来る。そしてその属性を扱う訓練をすれば、生存率も上がるというのがこの魔道具の作られた由縁だ。
さて、ここまで話せばわかるだろう、次に君が訓練すべき属性が何かを」
「つまり、俺はこの紫のヤツを身に付ければ良いんだな?」
俺が確認のためにそう言うと、何故かフェルトさんは怪訝な表情をした。
おや?
「違うのか?」
「いや、まぁ、これまでの俺の指導が原因だったんだろうけど。
ちなみに、なんで紫の方だと思ったんだ?」
「アンタは基本的に難しいことばかりやれって言うから、まず間違いなく色の割合が少ない紫の方をマスターしろって言うと思ったからだが?」
俺がそう言うと大きく溜め息を吐かれた。
何故だ。
「これは完全に俺のミスだ。まぁその事は良い。それよりも説明することを説明してしまおう。
今回のその予想は外れだ。今回はその緑色の方、風属性の頂を目指してもらう」
翠色の魔力が風属性……?
いや、それよりも、いつもの難しい方を選ぶ法則だと紫の筈だろ?どういうことだ?
「不思議に思うのは当然だと思うけど、こればかりはどうしても、ね。知識が無いと君を含め俺達も危険だから、まだ習得させるわけにはいかない。でも、今の君は次のステップに進むしか他の属性を鍛える時期を過ぎてしまう。
だから風属性の頂を目指してもらう」
なるほど、その理屈なら確かに紫の方ではなく翠色の魔力の方を鍛えた方が効率的だ。
だが、まだ、別の問題がある。
何故風属性だとわかったかということだ。
「翠色の魔力が風属性だという根拠は?」
「俺も同じ色の属性を持っていて、君にとっての斬属性が俺にとっての緑色の魔力だと言えば?」
「………アンタが他人に自分の過去を話すなんて珍しいな」
「……この属性については思い入れが強くてね、ついつい話したくなっちゃう時もあるさ」
そこで会話は途切れ、互いに少しの間その場にある静寂を噛み締める。
そしてある程度経った頃、無言でフェルトさんは出て行った。
何か言いたかったが、声を掛けられなかった。
さて、今から結局、またも俺は1人で属性を手に入れなければならない訳だが、今回はどうしようか……。
斬属性の時は刃物のイメージをしながら使うと出来た。そしてそれは、俺の知る刃物であればどんな物でも、例えそれが刃物じゃなかったとしても、刃物の延長にある使い方をする物なら再現出来た。ヤスリとかな。そして今回は風と来た。斬属性の時の事を思えば今回もそれの応用で風の何かしらのイメージをすれば出来るように思うが……、なんか違う気がする。
まぁ、でも、物は試しだ。風を纏うイメージをしながら風属性をイメージする。風を纏うイメージは腕の内側から外側へ、皮膚の周りをグルグルと回ってるイメージで。
魔力はドンドン練り上がる。
しかし、練り上がるだけで、その上腕の周りを回ってるのは斬属性で風属性ではなかった。
つまり失敗に終わる。
んー、なんだ?やはり違うのか?
魔力を練り上げるところまでは完璧だった筈だ。なのに何故斬属性になる?
もう1度風属性を意識しながら魔力を練り上げる。
しかし、やはりというか、魔力は斬属性が付与されチェーンソーの改悪互換になるだけ。
俺はその後、何度試しても上手くは行かず、その日を終える事となった。




