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ダルマサンの出来上がり  作者: 荒木空
私、生き方を見つける
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裏ギルド


 「さ、て。審判の時だね。君の提示したメリットデメリットは理解した。デメリットについては全てを明示してないけど、まぁデメリットについては十分に誤差の範囲だ。


 それを踏まえた上での見逃すか見逃さないかだけど…、ハッキリ言って俺としては見逃したくないよね。だって、君は良い意味でも悪い意味でも危険だ。


 君の持っている知識は悪用しようと思えばいくらでも悪用出来るし、悪用された牙が俺に向くかもしれない。

 さっきのナイフの例だと、間違いなく俺は鍔迫合いになったらナイフの差で負ける可能性が高い。デメリットだらけだ。


 だから残念ながら、見逃しはしないよ」


 「そう、ですか……」


 やはり無理だったか……。流石に新たな生を受けて5年で死ぬことになるとは「だけど、」


 「?」


 「だけど、殺すなんて事もしない。


 決めた。君、俺達の家に来ないかい?」


 「…………どういうことですか?」


 見逃しはしないけど、家に来い?どういう事だ?

 見逃さないのに、私を取り込む意味は……、あぁ……。


 「私の所有する知識の独占ですか?」


 「正解!君は危険だ。国や貴族なんかに渡したり、野放しにすれば無秩序が生まれる可能性が非常に高い。

 それは、十分に俺を殺しうる可能性が高い。

 でもその知識は完璧でなくとも非常に有用だ。無くすのは惜しい。


 だから、予め先に俺が管理しちゃおうかと思ってね」


 私は物扱い、ですか……。


 「物扱いじゃないよ。君だって人だしね。

 だから君のしたいことを俺は推奨してその環境を整えてあげよう。


 まぁ、何をしたいかは、その都度逐一報告してほしいけどね」


 「どうかな?」と背中から聞こえる。


 正直「どうかな?」と聞かれても、ここで頷く以外生き残れる路は無い。


 私はすぐにイエスの返事をした。




 ☆   ☆   ☆




 「ここが俺とその仲間達の棲家さ。どうだい?場所は少し不便だが、なかなか良い物だろ?」


 フェルトさんに連れられてやって来たのは、何処かの国の、大きな街の、路地裏と思われる場所の奥。その場所に壁は石細工で屋根は木材で出来た建物があった。外観は前の世界のインドにあるタージ・マハルと似ている。


 何処の国なのか、何処の街なのかは目隠しと耳栓をされた状態で移動させられたからわからない。場所を知りたいと言ってもフェルトさんに「君が信頼に値する人間だと判断出来たら教えてあげよう」とウインクされて流されてしまい、結局わからない状態だ。


 「前の世界の、世界の遺産と言われている遠い昔に建てられた建造物の内の1つと似ていますね。」


 「へぇー、君の居た世界にはそういう文化も有るのか。


 じゃあ、もし俺や俺の仲間がこの世界を揺り動かすような事をして、結果この建物が残ったとしたら、後世の人達はこれをその世界遺産だぁーって言うのかな?」


 「言うでしょうね。500年以上の年月が掛かりますが、それまでずっと残っていれば言われるでしょうね」


 「へぇー、それはまた良い事を聞けたよ。


 さて、着いた訳だけど、入る前に注意点だ。」


 フェルトさんが佇まいを正して私と向き直る。


 「まず、君のその敬語と私という一人称。やめようか。心の中でなら良いけど、ここでやったらまず間違いなく貴族嫌いのここの住人は、俺の制止も聞かずに君を殺そうとするだろうから」


 私を殺す?!何故いきなりそんな物騒な話になったんだ!!?


 「あぁ、その理由は中で話す。ここでは話せない事も有るからね。


 ただ、さっきも言ったけどここの連中は貴族が大嫌いだ。それこそすぐに殺してしまいそうになるほど貴族を恨んでいるような奴等がゴロゴロ居る。

 そんな中で、自分の事を私なんて言う男の子が居てしかも敬語で話すとなれば、どうなるかなんてのはわかるよね?」


 あぁ、敬語だけで貴族を連想するのか……。


 「そういうこと。それに加えて、その癖上下関係は新入り相手ほど軍隊なんかより厳しい。だから君の課題は、敬語を使わず、ちゃんと相手を敬う態度を取ることだね。


 だから俺に対しても普通に話してね。

 あぁ、そうそう、それが難しいというのなら馬鹿っぽく話せば大丈夫だと思うよ。ここに居る奴等は俺含めて馬鹿だから、馬鹿に合ったレベルに合わせればどうにかなる」


 ……自分で自分が馬鹿とか、他の方々を馬鹿とか言って、大丈夫なんだろうかこの人…。


 まぁでも、それが生き残るために必要な事だというのならやるしかないか。


 「こんな喋り方で良いっすか?」


 「うん、いつもの敬語よりはマシになったかな。

 でもそれだと、君の持ち味が消えてるんじゃない?」


 ……どうしろと言うんだ…。


 「あはは、取り敢えず入ろうか。それで決めれば良い」


 フェルトさんはそう言って、私の心の準備なんか関係無しに、私の手を引いて建物の中に入った。


 建物の中は、一言で言うなら教会の礼拝堂だった。

 まず思うのは、建物の大きさに対して礼拝堂の規模が違い過ぎる。建物が3階建てぐらいの大きさだとして、この玄関はその大半を占めている。

 奥にも拡がっているようで、先は見えない。そして司祭や神父が立って聖書を読む場所には白いエプロンを着た女性がカウンターのような所に寝そべっていた。

 礼拝堂に於ける椅子の部分は、正に礼拝堂の長椅子のように規則正しく並んでおり、そこには何人か座っている。しかしその座っている人達は皆、全身黒い布で姿を隠している。端から見たら邪神を大量の犠牲のもと召喚しようとしている狂信者のようにも見える。


 私はそんな中をフェルトさんに連れられ、真っ直ぐカウンターの所まで移動した。


 「サボるな、リューシュン」


 そう言って何処からか取り出したフライパンを、大きく振り被ってその頭に叩きつけた。


 目が飛び出しそうな感覚に襲われながら、女性を凝視する。

 自然な流れでやっていたからこれがここでの日常なのかとも思うが、流石に危ないし、しんだのではないだろうか?


 そんな事を考えていると、女性は目元を擦りながら何事も無かったかのようにして起き上がった。


 「ありぇー?フェルトしゃんが居ますー。

 フェルトしゃん夜這いれしゅかー?きゃー、えっちー」


 「誰が夜這いだ、馬鹿。何仕事中に寝てんだよボケ。さっさと仕事しろ愚図」


 「いやぁーん、相変わらず言葉が辛辣ぅー。


 わかりましたー、仕事しますねー」


 これが本当に精神まで子供の居る前で行われた会話なら割と大人な話をしながら、女性は1度目を瞑って姿勢を正した。そして目を開ける。


 目を開けた目の前に居る女性は、先程の起きたての女性とは全くの別人で、雰囲気はまるで機械のようだった。


 「裏ギルドマスター、フェルト・ロード様。本日はどのような御用件でお越しになられたのですか」


 抑揚もなく、感情なぞ最初からないかのように、目も人の物とは思えないほど冷めきり、その出で立ちは正に機械のそれで、人間がそれをやっていることに強い違和感を覚える。


 というか今、物凄く重要な事を言わなかったか?

 フェルトさんの事を『裏ギルドマスター』って……。


 ギルドとは元の世界でいう企業の事だ。それぞれの専門分野に則った商品(依頼)を扱う組織の総称の事を言う。

 一般的には様々な依頼を請け負う何でも屋組織『冒険者ギルド』と商業系の全てを一手に担う大組織『商業ギルド』の2つが最も有名だ。

 他にも戦いそのものを生業としている『傭兵ギルド』や、物造りを主に行っている『鍛冶ギルド』、薬草などの薬学関係の『薬師ギルド』などが有る。


 そして今回挙がった裏ギルドというのは、所謂犯罪組織だ。ただし、他のギルド達とは違い法の裁きを基本的に受けない国家運営の犯罪組織だ。

 普通の犯罪組織と違い、裏ギルドは国の闇を一手に担う組織で、必ずどの国にも主城である王城のある首都に配置されるギルドで、暗殺から裏工作、要人の警護や汚職している者の処刑など、所謂汚れ仕事や裏方に徹する組織だ。

 そういう職業柄、貴族王族は基本的に裏ギルドには頭が上がらないと言われている。何故なら裏ギルドを敵に回すということは、何ヵ国もの国を1度に敵に回すのと同義だからだ。

 ただ、裏ギルドはその職業柄、基本的に「犯罪組織」だの「摘発されるべき要らない物」などと色々言われていて、一般人からは忌避されている。


 今、目の前の受付の女性は、フェルトさんの事を、その裏ギルドのマスターと言った。そしてフェルトさんはここを棲家と言った。


 「今日は新しい子を連れてきたからこの子の登録をお願い」


 そう言って私の脇を抱えて、受付の女性に私を見せた。


 女性は眉間に皺を寄せて「こんなものを?」とでも言うかのようにして訝しんだ目でフェルトさんを見るが、「彼、俺が管理することにしたから」と言って私を下ろした。


 表情はわからなかったが、恐らくその表情(カオ)は楽しそうな笑みを浮かべていただろう。

 女性は驚いた表情(カオ)をしてから、机の下に居る私に机を乗り出しながら言った。


 「ようこそお越しくださいました、幼き方。私はこの国の裏ギルドにて受付を行っているリューシュンという者です。あなたが死ぬという意味で短い付き合いかもしれませんが、よろしくお願いいたします」


 淡々と告げられた言葉に、私は少し眩暈(めまい)がした。

 つまり私は、これから裏の人間として生きていくことになるらしい。





 私は思わずフェルトさんの方を見た。

 隣に居るフェルトさんが笑みを圧し殺すように口許を押さえて外方を向く様を、私は見ている事しか出来なかった。



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