交渉─2
「な、る、ほ、ど、ねぇ……。うん、なるほどなるほど。つまり君はアレか、転生者というヤツだね。しかも異世界からの転生者で、記憶も全て保持した状態での非常に貴重な存在だ。
うん、確かにその理由なら一応辻褄が合う。それなら色々納得が行く。
それを踏まえた上でもう1回聞こう。俺が君を助けるメリットって何かな?
それに答えられて、尚且つそれに俺が納得してあげたら見逃そう。でも逆に、俺を納得させることが出来なければ、残念だけど、2度目の人生はここで終わるよ」
フェルトさんは結構無理難題を押し付けて来た。
いや、これは、面接のようなものか。『あなたが我が社に入社した際、あなたが我が社に提示出来るメリットとデメリットはなんですか』というやつだ。もしくは、他社やお客様に新商品を売り込む際のプレゼンのようなものか。
そう考えれば、それほど無理難題ではないように、ポジティブに考えられる。
つまり、私は、今ここで、フェルトさんに私を見逃した際のメリットとデメリットを提示すれば良い訳だ。
メリットは当然として、デメリットを話さないと駄目な理由は無いが、話さずにいて後々「言っていた事と違う」とキレられても困る。
私が担当したお客様の中には、しっかりとメリットデメリットを話した上で契約を交わしたのに、それでもクレームをしてきたお客様だって居る。それを考えれば、デメリットも予め話しておいた方が、双方納得がいく未来が見える。
何よりここで騙すような事をするのは絶対にやってはならない事だ。
普通の人ですら、利用したり嘘を吐いたりすればそれに見合った報復を受ける。普通の人ですらそれなのに、この人にいたっては考えが読めるらしい。
例え無意識でも読めるのかもしれないが、それがわからない私には考えずに話すという事は出来ない。
それなら最初からしっかり考えて、その上で自分の口から話して真摯な態度を取っておいた方が、ここだけの話でも見逃して貰える可能性が高くなる事だろう。
そしてこの打算さえも、今、フェルトさんは読んでいて、口許を緩ませていることだろう。
それ等を留意上で考える。私が提示出来るメリットデメリットを。
「……まず、私がフェルトさんに提示出来るメリットは非常に少なく、デメリットの方が多い事を予めご了承ください」
「変な事を言うね。それならそもそも聞く理由は無いんじゃないかい?デメリットの方が多いんだろう?」
「それは今生の私がまだ、技術も知識も能力も何も無い本当にただの5歳の子供だからです。
これで特殊な力が有るとか、あり得ない話ですが、そもそも私がフェルトさんに勝てるほどの力を持っていて、フェルトさんを欺く為に嘘を吐いていたりすれば、私を見逃すメリットというのは有るでしょう。お互いに痛い思いはしなくて済みますから。
しかしそんな能力も力も無い5歳の子供である私がフェルトさんに提示出来る物はデメリットの方が多いでしょう。私がフェルトさんが何が好きなのかなどの情報を持っていればまた違うものになるかもしれませんが、それすらも私は持っていません。
ですから、デメリットの方が多い事を予めご了承していただかない事には、そもそもフェルトさんにご納得していただけないと思い、先にお願い申し上げました」
「んー、君の言うことは尤もだ。確かにそもそも俺は、君に、全くメリットを提示することは出来ない、いや不可能とさえ思ってる。だからこそ、もし提示してきた物が、俺にとって有用な物であれば見逃そうと思ってる。
それで?良いだろう、デメリットの方が多いのは百も承知だ。ではデメリットの方が多いと予め言った君が提示出来るメリットとはなんだい?」
さて、ここからが正念場だ。踏ん張れよ、ジャック・ウォルター。頑張れよ、桐崎達磨。
「私が提示出来るのは知識です」
「知識?」
「知識です。この世界は魔力や魔術、魔物なんていう私の居た世界には全く存在しない物が沢山有ります。ですが、それにしては文明が私の住んでいた世界と比べてあまり進んでいないように思います」
「……ふぅーん」
「……私が提示する知識全てが、私の居た世界の最先端である、とは言えませんが、それでも魔力や魔術を用いない技術の知識をいくつか保有しています。
例えば先程、フェルトさんは盗賊の首にナイフを押し当てていましたが、そのナイフ、恐らくですが鉄製品ではないでしょうか?それを踏まえた上での恐らくですが、私の居た世界の鉄のナイフと、そのナイフの切れ味と耐久度を比べれば、間違いなく元居た世界のナイフが勝つでしょう」
「それは、何故だい?確かにこれは鉄の使い捨てナイフだけど、それでもいざという時の為に物凄く頑丈に作ってある。ちゃんと耐久性を上げる魔術と、切れ味を上げる魔術を付与してある。
それでも君は、君の居た世界の何もしてないナイフの方が勝つと言うのかい?」
フェルトさんの声に、少しずつ怒気が孕んでいった。当然だが、その理由はわからない。
まぁ、いくつか推測は出来るが、正確な理由は推測の域を出ない。
「だってそれ、ただの鉄で作ったナイフですよね?
フェルトさんは『合金』という言葉をご存知ですか?」
「…………いや、知らないな」
「合金というのは、私も詳しい知識や種類は知らないのでわからないのですが、別々の種類の金属と金属を数種類合わせた金属の事で、金属の配分次第でそれぞれ異なった特性を持つ金属になります。
私の居た世界の刃物や、刃物に限らず金属は、全てこの合金で出来ています。ナイフについては主成分は鉄ですが、それ以外にも沢山入っています。
それにより、錆びにくく、折れにくく、切れ味もあまり変わらなく、長く使える物となっています。
そんなナイフと魔術で強化し尽くしたナイフ、どちらが勝つと思いますか?」
「…………それが本当なら、確かに君の言うナイフの方が勝ちそうではあるね」
「はい、勝つでしょう。
私はそういったこの世界には無い知識を持っています。元居た世界で便利だった物を此方で再現することも可能かもしれません。それにより、生活が楽になる可能性も非常に高い事でしょう。
私が提示出来るメリットというのは、そういった知識をこの世界の為に使い、世界全体を豊かな物に出来る力を備えているというものです」
「………………な、る、ほ、ど、ね。でもソレ、相応の環境や資材が無いと出来ないよね?」
「はい。ですからそれがデメリットです。
そもそも私がここから無事生還し、今後そういうものを産み出せるような環境か、そういう環境に口出し出来る環境に居ないと何も出来ません。
ですが、そもそもそういったデメリットも、私がここをまず生き延びれば可能性の光は指します。
……デメリットについてはこれ以上挙げても意味が無いと思うのでここで終わりますが、どうですか?私は、フェルトさんの言うメリットという物を提示出来たでしょうか?」
私がそう言い終わると、しばらく返事はなかった物の、唐突に金属と金属を擦り合わすような音が私の耳に入ってきた。
この場で金属の音と言えば……。
どうやら私は失敗したらしい。
確かに途中、フェルトさんは不機嫌そうな声を出していた。
それが理由だろうか?
考えてもキリが無い。
それでもまだ沙汰は下ってない。
私はフェルトさんがどのような判断を下すのか、戦々恐々としながら待った。




