交渉
「アハハ、ごめんね坊や。あまりにもこの場に場違いな子供が居るから、なんでこんな所に居るんだろうって気になっちゃって」
フェルトさんは哄笑してそう言って私の頭を撫でた。
んー、さっき迄の雰囲気と違うな……。私と話しているから笑って何かを隠そうとしているのか、それとも純粋に笑っているのか……。
「ん?私?え、君、坊やじゃなくてお嬢さんだったの?
というか君、なかなか失礼な事をその歳で考えてるね」
?!!この人、今、何て言った!?私は今、別に喋ってないぞ?どういうことだ?
「どういうことも何も、ただ読んだだけだよ」
「………………読んだ?」
「そうそう、君の心を読んだだけだよ」
…………サラッとトンでもない事を言うな、この人!!さっきのドスの利き過ぎなヤクザも逃げていきそうな人物と同一人物と思えないほどの二面性持ってんな!
なるほど、今のでわかった!この人は今さっき、純粋に笑ってた!!
そういうことならこの考えも読めてるってか?
じゃあもう気にしない!一人称を私と言ってるが、私は歴とした男だ。ちゃんとまだまだ未熟だが股に物が付いてる。
「……へぇ。考え読まれてるって知って、逆に開き直るんだ?
君、さっきのやり取りを間近で見てたよね?」
「はい」
「それなのにその態度?その歳でそこに転がってるゴミ共より胆力有るってのは凄いね。
え、ちなみに今何歳よ」
「今日、町の教会で儀式を受けました」
「今日受けたって事は……え、最低でも5歳?その歳でそれ?しかも精神と表面上の雰囲気や話し方も違うし……。
君、貴族出身か何か?」
「この近くのザリー村の猟師の家の息子でした」
「いや、絶対嘘だろ…う……。息子でした?」
「はい。息子でした」
「それは何かい。そこに転がるゴミ共に拐われたからとか、そういう意味かい?」
先程までのおどけた雰囲気が無くなり、何処か真剣な表情でフェルトさんは質問してきた。その表情は先程のドスの聞いた声を出してた時とはまた違った真剣さが有った。
「いえ違います。拐われたのが理由で過去形なのは事実ですが、同時に拐われたのがキッカケで捨てられたんです。
いえ、捨てたんですかね」
「…………はぁ?」
私の発言に目に見えて訝しんだ目で見てくるが、何を言われたところで事実だ。
私はもう、あの村に戻る気は無い。戻っても、彼処にはもう2度と住まない。
方針は決まった。まずはこの人に頭を下げる。
「なんかキナ臭いけど…、それじゃあ何かい。君、行く宛て無いのか?」
「そうですね。あぁ、そうだ、フェルト…さんでしたっけ。見ての通り着てる服以外何も持ってない子供です。こうやって此処で死んだ盗賊共の仲間は恐らく全員死んでいます。ですからお願いがあります。
盗賊共の装備と食べ物のいくつかを恵んではくださいませんか?それが出来ないというのなら、せめて見逃してはくださいませんか?
私としては前者の提案を受けていただけたら最良ですが、盗賊共との会話を聞く限り、世の中の権利の問題的にもフェルトさんに全ての所有権利が有るのは承知しております。ですので私の嘆願を受け入れられないというのでしたら、せめてここに私は元々来ていなかった。盗賊とも遭っていなかった。私達は会ってなんていなかった事にしていただけませんか?
まだ生まれて5年の若造で、武器も魔術も使えない私ですが、なんとか生きていこうと思いますので、なんとかお慈悲をくださいませんか?」
私はそう言って、その場で土下座した。
今、私が彼に出せる物はこのぐらいだ。
今の私の状況は、昔学校でグループディスカッションした時に出て来た話に似ている。
無人島に金持ちの老夫婦とその船首である若い男、それに若いカップルが遭難していた。船は2席有り、1つは4人乗り、1つは2人乗りの船だが、海が荒れていて次にいつ島を出れるかわからない。そんな状況で若いカップルの男の方が高熱で倒れた。彼女である女は、必死に彼氏を看護するが、何も無い無人島では出来る事は少ない。今すぐにでも彼氏を病院に連れて行かないといけない。しかし船を操縦出来るのは彼氏と若い男しか居ない。
そんな時に彼女は、彼氏を助ける為に若い男に彼氏を夜通し海を走ってくれないかと頼み込んだ。若い男は悩んだ後、「今晩、俺に抱かれるなら船を出してやっても良い」と言った。彼女はそれを了承し、彼女は彼氏を病院に連れていく事が出来た。という話だ。
この話を最初聞いたときは、若い男はクズだと思ったが、夜の海というのは危ない。正に命の危険と隣り合わせだ。そんなお金も何も無い、命の保証もない状況で、男が命の危険を犯してまで得られる報酬とは何か?と問われた時には納得した。
実際にカップルの2人を病院に連れて行かずに彼女を抱いたならただのクズだったが、ちゃんと連れて行った為、彼はちゃんと仕事をしたと言える。
この話で言う彼女と言うのは正に今の私だ。そして若い男というのはフェルトさんだ。
フェルトさんが私に施しを行うのは、まぁ本人は相当強いみたいだが、その後何かの因果かで私がフェルトさんを大怪我させるような、最悪殺そうとするような未来が、絶対に無いとは言えない。だからフェルトさん的にはここで私を殺してしまうのが身の安全という意味では確実だろう。
どうせ私は盗賊に拐われた子供だ。その後その子供がどうなろうと、親も盗賊も盗賊を殺した者も、誰にもわからないし関係無い。
それなのに私は見逃してくれ。あわよくば生き残るために武器を恵んでくれと言っているんだ。土下座ぐらいして当たり前だ。
そんな私を見て何を思ったのか、何を読んだのかは知らないしわからないが、少しの間を置いてからフェルトさんに声を掛けられた。
「確かに君の今の状況は、君が思い描いた話に似ている。それに気になる事も思ってたね。
昔。それに学校だって?
学校は君の年齢だと貴族でもまだ行かないような場所だ。そんな場所に、昔通っていただって?
他にも気になる事が有る。君の一人称やそのその歳では考えられないような思考や言葉遣いは本当に俺からすれば未知の物だ。
まず殺されたり大怪我させられる事はあり得ない、可能性なんて皆無だけど、それにしたって君の提案を呑むのは知らない物の塊である君を見逃すのは、ハッキリ言って俺の損にしかならないよね?」
「…………………そうですね」
私が肯定の返事を返すと、身体が急に重くなった。
背中に何かが乗ってる感覚が有るから、恐らくフェルトさんが私の背中に座ったんだろう。
「だよね?さぁて、それを踏まえた上で聞こう。
俺が自分の身の安全を確保しつつ、君にはとっても利益の有る落とし所って、何かな?」
…………たぶん今、先程の盗賊との事を思うと、フェルトさんはその表情を心底楽しそうに歪めていることだろう。
……つまり、私が何故私と自身を呼んでいるのか、何故私が敬語口調で話しているのか、その辺りについて話せ、という事だろう。その上でどうするか判断する、と……。
「正解。やっぱり頭の回転も早いね。
ホント俺、それがなんでなのかが気になる」
……話してしまえば確実に私の手札が尽きる。元々無いが、それでも完全に無くなる。
だが、ここで話さなければまず間違いなく殺されるか、それに近い結果になることだろう。
私は素直に、前世の私の人生と、この世界に来てからの私について、属性や魔力値の事なども含めて全て話した。




