天下取り
ゲームのルール説明の回ですね。もっと上手く出来ないのかと思案した思い入れの深いシーンです。
高らかに宣言されたそのゲーム名は‶天下取り〟。誰しもが知っているそのゲーム。恐らく誰でも一度はやったことがある筈だ。そう……幼い頃、放課後で友達と……そして、体育の授業でやったあの……。
「‶天下取り〟皆さんも経験はあるかと思います‼そう、敵にボールを投げ、当たった者から脱落していくあの‶天下取り〟です。……ですが、ここでやっていただく‶天下取り〟は多少なりとも今回のプログラムに合うようにアレンジさせていただいております」
もちろんそりゃあそうだろうと暁は思った。それこそ体育の授業じゃあるまいし、そんな単調な筈がない。
「そして、今回のゲームのルールですが、単純明快。最後の一つのチームになるまで、殺し合いをしていただきます‼」
暁は耳を疑った。この女は今、何と言った……?殺し合い……?いや、そんな筈は……。
困惑する生徒の顔を見やり、その気持ちを察したのかマリアは話し始めた。
「まあ、殺し合いとは言っても、今のあなたたちは既に死んだ身です。今、与えられているのは、あくまでも‶仮の肉体〟。見た目、感覚こそ生前のままですが、それは偽りのものだという事をお忘れなく」
だから、殺しても問題は無いと?さながらゲーム感覚なのだろうか?暁は胸中で唾を吐いた。
「皆さんには、それぞれ‶徳点〟があります。敵を殺したら、その‶徳点〟が自分に加算されていく仕組みですね。それを最後まで繰り返していただきます」
つまり、誰を最初に倒そうが関係ない。これは、ボールを当て最後の一人になるまで戦うあの‶天下取り〟を模したものなのだろう。ただし、決定的に違うのは敵を絶命させ無ければならない点だ。
「そして、チームについての説明なのですが、これは、決して一人で戦わなければならないわけではありません。皆さん各自好きにチームを組んで戦ってください‼人数の上限はありません‼」
生徒は少し安堵の表情を浮かべる。これならば、友達を殺さずに済む。
「ただし、最終的に勝利したチームは、その‶徳点〟を分配していただくことになります‼」
マリアの言ったことに皆、自然と納得した。その程度ならば、許容範囲だ。
「そして、その分配方法なのですが……」
マリアの声に一同、耳を傾ける。
「そのチームで得た‶徳点〟の半分を私達に返却したのち、そのチームのリーダー、所謂、‶大将〟の裁量によって、各自に分配されます」
暁は何となく察しがついてきた。このゲームの恐ろしさが。
「そして、今回の‶アライブゲーム〟において、皆さんが蘇るために必要な‶徳点〟は100点とさせていただきます‼」
マリアの説明を聞いて阿呆の如く口を開けている者もいたが、少なくとも即座に事態の深刻さを理解している者も数人いた。暁もその一人だ。このゲーム……確かにチームを組めば生存率は上がるだろう。だが、分配の際に100点に満たない者は切り捨てられる。そして、このクラスの‶徳点〟の総和は……。
暁が必死にクラス全員の‶徳点〟を数えていると、マリアが言った。
「このクラスの‶徳点〟の総和は1137点ですね。そこから半分は返却。残るのは500と少しになります。つまり、チームを組んだとしても最終的に生存できるのは最大で5人という事になります」
一気に不穏な空気が漂う。常に現実とは不意に……そして容赦なく襲い掛かる。本人の意思とは関わらず、如何ともしがたい現実が。
「続きましてチームを組む場合、一人‶大将〟となるものを選んでいただきます。‶大将〟とは言わば、要となる存在。それゆえに‶大将〟が敵に倒されれば、そのチーム、全ての‶徳点〟が失われ、その瞬間、‶大将〟を含めたメンバー全員を即座に敗退とさせていただきます‼」
暁は何とか冷静に分析を試みる。要するにチームを組んでも構わないが、その場合、‶大将〟と一蓮托生と言う訳か……。
ここまでの情報を何とか整理していると、大室がマリアに訊ねた。
「もし、‶大将〟を同じチームの者が殺したら?」
暁はこの質問の意図が分からなかった。味方である‶大将〟を殺すメリットなど無いではないか。
「その場合は、‶大将〟を殺した者がそのチームの‶徳点〟を総取り出来ます。勿論、他のメンバーはその時点で敗退ですね」
マリアがそう言うと、大室は薄気味悪い笑みを浮かべ、
「なるほどねえ……」
と言った。
「ここまでで、何か質問のある方はいますかー?」
重い空気の中、一人、挙手を上げる者がいた。
「はい!どうぞー!」
マリアが言うと、その生徒__小山龍馬(男子出席番号十三番、徳点24)が語りだした。
「三つあります。まず一つは、このゲームはいつ始まるのか。二つ目は、ゲームの会場はどこなのか。そして、最後に……チームを組むとは言うが、具体的にどうやったらチームを組んだと承認されるのか」
その男、当に冷静沈着な物腰である。小山はクラスでは、教師公認の優等生であった。全ての行事にも率先して参加するし、その明るい性格から誰とでも分け隔てなく接することが出来た。人望厚くこの学校で最も好感度の高い人間であると言っても過言ではない。
そんな、小山の疑問にマリアはにこりと微笑み、返答した。
「そうですねぇ。では、小山君の疑問に一つずつ答えさせていただきます。まず、一つ目の疑問ですが、準備が出来次第すぐです。全てのゲーム説明が終了し、皆様の疑問が解消されたと判断した後に私が、即座に皆様をゲーム会場まで送らせていただきます‼」
小山は何も言わずに静かに相槌を打つ。
「そして、二つ目の疑問、その場所とは、‶とある島〟とだけ言っておきましょうか。と言うのも、この島は名前の無い無人島です。ですが、100%天然のものではなく、このゲームの為に私たちが用意させていただいたものです。つまり、このゲームに必要な要素を全て詰め込みさせていただいております。例えば、戦闘用の武器、食料、飲料などは、全て島のとある場所に置かれておりますし、寝床の為の家屋、すなわち‶レストスポット〟も特設させていただいております」
無人島か。食料、飲料があるのは意外だった。おまけに寝床も用意してあるとは。
「最後に三つ目の疑問ですが、その説明の前にまず皆様に伝えなければならないことがあります‼それは、このゲームに必須のアイテムのことです‼皆様には、この特殊な時計を装備させていただきます‼」
マリアが自身の手にさながらマジシャンの如く時計を召喚した。そして、次の瞬間、指をパチンと鳴らすと、暁達、生徒の腕に同様の腕時計が装着された。
「その‶アライブウォッチ〟の機能は当然、時間を測るに留まりません。対象者の脈拍を正確に読み取り、生死の判断もします。さらに、特定の生徒は不可能ですが、レーダーに映る生徒の位置情報、その他身近な場所にある物資の情報も伝達してくれます‼」
マリアは続ける。
「加えまして、離れた生徒との通信機能もございます‼ちなみにこの通信は誰とでも連絡が取れます‼そして、‶徳点〟の奪取ですが、相手を倒し、死亡が確認出来たら、対象者の時計と自身の時計を合わせ、その後、時計に表示されている通りに簡単な操作をしていただくだけで、相手の‶徳点〟が自分に振り込まれる使用になっています‼」
このゲームにおいて、この時計が如何に大切な役目かという事は重々わかった。そして、この時計は普通の腕時計とは異なり、少し大きく、さらに重い。この質感が限りなくリアルで、生徒たちに告げている様だった。これは紛れもない現実で、決して逃れられないのだと。
「では、三つ目の疑問に答えさせていただきます。それは、あなたたちの持っている時計をお互いにかざし、そこに表示された操作をしていただくだけで簡単に、‶大将〟を決められます。ですが、一度決めた‶大将〟は基本的に変更することは出来ません。例外としては、他のチームと合併する時に、どちらの‶大将〟を真とするか選択出来ますが、その時くらいでしょうか」
暁は今までの情報を胸中で反芻した。俺たちは一度死に、蘇るためには‶アライブゲーム〟に参加しなければならない。そして、そのゲームの内容は、‶天下取り〟自身のチーム(チームを組まなくても可)が勝ち残るまで、殺し合う。チームを組んだ場合は‶大将〟を決めなければならず、‶大将〟を倒されたら、そのチームは全員敗北(死亡確定)。但し、チームメイトは自分の‶大将〟を殺し、チームの全てを奪える。場所は島で、時計に表示された機能をもとに様々なことが出来る(敵の位置情報の確認など、その他もろもろの情報まで入手できる)。基本的にはなんでもありのサバイバル……こんなところか。
「では、急ではありますが、これより15分間、皆様がこのゲームを共に戦うチームを組む時間を与えることとします‼」
今日はこの後、もう一回投稿します。