‶徳点〟
アライブゲームの説明がいよいよ語られる。天使によって語られるその恐ろしいゲームの内容とは⁉
地上より遥か彼方。命絶たれし亡者たちが再びその生を授からんと挑む戦いがあった。その戦いは文字通り、全てを賭けた戦い。己の全存在を賭けた戦い。敗北=死。いや、初めから死んでいる者にとってその表現は適切ではないのかもしれない。だが、決して本当の死が決まったわけでは無い。この戦いに敗れれば、全てが終わる。神によって導かれし天使。その天使から最後のチャンスが与えられた。死の淵より生還することを賭けた戦い。誰かがこの戦いをこう名付けた。‶アライブゲーム〟と。
時は流れる。本人の意思と関わらずに、良いことも、嫌なことも、時間の流れによって平等に訪れるのだ。
中には未だ、心の準備が整わぬ生徒もいたが、マリアはお構いなしに‶アライブゲーム〟の説明をし始めた。
「それでは皆さん‼まず,ご自身の頭上を御覧下さい‼」
暁たちは、言われた通りに自分たちの頭上を見上げた。
すると、スウ……とそれぞれの頭上に数字が浮かび上がった。
暁は己の数字を見た。その数字は‶50〟と書かれていた。何だ⁉……これは。
他の生徒の頭上にも同様に数字が浮かび上がっている。ただし、その数字は全員バラバラだった。先ほどの金井は‶12〟だし、大室に至っては‶6〟だった。
誰かが疑問を口にする間もなく、マリアが言った。
「それは、あなたたちが持つ‶徳点〟です」
生徒たちが騒めきだす。
「皆さん静かにしてください‼これからちゃんと説明します‼」
パンパンと手を叩き、皆を制すると、頃合いを見計らってマリアは続けた。
「え~と、‶徳点〟とはあなたたちがこれまで生きてきた中で、蓄えた‶徳〟の点数です。ハイ、そのままですねぇ。もう少し、詳しく説明しましょう。分かりやすく言うと、‶徳〟とは、‶人生の中で、あなたたちが行ってきた善行と悪行の総和〟という事になります」
なるほど、と暁は思った。数字の強弱はそのまま本人の徳の値を意味する。すなわち、善人にはそれだけ多くの値が。悪人には逆の作用を齎すのだろう。それならば、色々と合点がいく。学校一の札付き金井の素行の悪さは言わずと知れたもの。そして、大室に至っては色々と黒い噂が絶えない。あまり、クラスで接点のない暁でも知っていた。彼には底知れない‶何か〟があると。いずれにしても、暁は彼らの持つ‶徳点〟に対して、何の驚きも無かった。
いや、大室だけではない。他の生徒も、よく見れば、妥当な数字を持っていると言えるだろう。
暁は学校内では、比較的目立たない部類に入るだろう。いわゆる陰キャラという奴だ。だが、どこにも所属していない人間だからこそ見えるものがある。‶彼ら〟は暁が近くにいるにも関わらず、お構いなしに他の生徒の悪口を言う。戦力外だからこそ、「こいつには聞かれてもいいだろう」と言う心理が働くのだろう。ゆえに暁はこれまで、数多くの悪口を聞いてきた。クラスの上層部の男子たちが‶少し変わった女子〟に向かって陰口を飛ばしていたり、その逆も然りである。時には自分の悪口を耳にしたこともある。そのたびに暁は「あれ?俺、君に何かしたっけ?」と戸惑ったりもしたのだが、いつの日か、そんなものだと、世界を受け入れ始めていた。心を開けば、裏切られる。本心を曝け出せる人間など滅多にいない。少なくとも、この学校では出会ったことがない。暁はいつの日か、この世が‶偽りの世界〟にしか見えなくなっていた。例えば、他人を蹴落とし、弱者を虐げる者が、クラスでは人気者だったり、権力を持っていたりする。そんな世界が、理不尽な世界がたまらなく憎い。
世界をいつしか真っすぐに見れなくなってしまった暁だが、今まさにその思考は拍車をかけたと言えるだろう。
そう、目の前にある‶徳点〟が全てを物語っているのだ。
中でも、顕著なのは彼だろう。クラス一の権力者__大塚剛将(出席番号五番)。彼に逆らえる者など存在しない。学力はトップクラス、運動も出来て、行事ごとにも積極的に参加する。端から見るとパーフェクトな存在。一分の隙も無い完璧な人間に見えることだろう。
しかし、暁は知っていた。彼の悪事を。一見、素晴らしい人間に見えるが、それは上辺でしかない。彼の真の姿は、他人を蹴落とし、気に食わない人間がいるならば、容赦なく攻撃する。強いものには迎合し、とことん愛想良くするが、自分の利にならない相手に対する風当たりはこの上なく強い。強者と友好関係を築くために餌を差し出すのも、彼の常套手段だ。コミュニケーションツールの一つとして、弱者を生贄にし、共に叩くのだ。そうすることで彼は今の地位を手に入れてきた。クラスの一軍には擦り寄り、仲良くするが、ランクの劣る人間とはとことん距離を置いた。それが、彼の処世術ならば、何も言うまい。だが、暁はそんな人種がとことん嫌いだった。共通の敵を見出し、共に攻撃することによって生まれる関係。そんなものにはたして価値などあるのだろうか?それは、本当に友情か?そんなことで生まれた関係が十年、二十年続くとはとても思えない。そう、偽りなのだ。何もかもが。虚飾に塗れた存在。華やかに着飾ってはいても、その中身がドロドロで醜いものだという事に暁は気付いていた。現に剛将の頭上の‶徳点〟は‶25〟と少ない。遂にこれまで覆い隠していたメッキが剥がれ落ちたのだ。
「はあーい!それでは、続けさせていただきます‼」
ざわざわと皆の声が飛び交う。各々思うことがあるのだろう。
しかし、マリアの快活な声によって、問答無用で現実に引き戻される。
そう、今は、‶アライブゲーム〟の説明の最中であった。
「ご確認いただいたのが皆さんの‶徳点〟です。そして、‶アライブゲーム〟とは、私達が用意したゲームを通して、皆さんが持つその‶徳点〟を既定の点数まで上げていただくプログラムのことを言います」
暁は胸中で一人納得する。
「では、続けて今回用意させていただいたゲームを発表させていただきます」
緊張感が走る。己の生還がかかったゲーム。当に己の命運が懸かっていると言っても過言ではない。そして、内容を聞かずとも、不思議と推測は着いた。このゲームが決して生易しいものでは無いのだと。
「第512回……つまり今回の‶アライブゲーム〟。そのゲームは‶天下取りです〟」
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