プロローグ
歩いても歩いても、どこまでも続く廃墟と瓦礫の山が広がっていた。瓦礫の隙間から雑草が少し生えているくらいで、ここは緑がない。こんな荒涼とした光景も、きっとどこかで終わりがあるのかもしれないが、「終わり」を感じさせない。
空には鈍色の雲が、とぐろを巻くように渦巻いていた。遠く遠く空の向こうには、数えきれないほどの「星」というのがあって、昼間には「太陽」というのが燃えているらしい。が、私はそれらを見たこともないから想像もつかないけど、多分この先見ることもないと思うので確かめる術もない。
「ここもかなり空襲でやられちゃってるねぇ」
私の横をてこてこ歩く相棒で、琥珀色の瞳の白猫のクロが、彼自慢の尻尾を優雅に揺らしながらぼやいた。白猫なのにクロという名前であるのは、私が単にひねくれた性格だからだ。
猫がなぜ普通に喋ってるかは後で説明するとして、ここでは置いておく。
「まあね。どこもこんなもんだろうね」
私は焼け焦げた瓦礫の破片を踏みしめながら歩いた。
第何百次の世界大戦だか、数える人もいなくなったくらい、(というより、単に数えるのが面倒になってしまったんじゃないかって思う)戦争は繰り返してきた産物がこれらだ。
国同士が、領土を取り合うだのエネルギー資源をどーのこーのしてるうちに、戦争は起こったという。人間は、戦争のためにたくさんの人を殺す兵器を生み出した。戦争は、飛び火するように、各国に広がり、新兵器の実験でもするかのように、次から次へと、新しい兵器を導入した。そして、民間人が大量に死んだ。瓦礫を始末する人もいないくらいに。
私のひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんやおばあちゃんが生きていた頃には、こんな瓦礫や廃墟に囲まれた道も、真っ直ぐ平坦に整備された道があって、空にそびえるような建物が、どの街にも立ち並んでいたという。
その戦争もなんとか世界協定(やたら長い名前だったので忘れた)、とかいう協定が、世界各国で結ばれ、10年前にとりあえずは長かった戦争は終わった。世界の資源は尽き、大気は汚染され、今は生き残った人間が細々と今を生きるためだけで手一杯で生活し、街の整備まではまわらないため、どこの街もこういう状態らしい。
まあ、昔がどうだったかなんて、今を生きてる私には全然関係ないんだけど。私は、今目の前にある道や、空しか知らないし、そんなもん、見たって、空きっ腹はちっとも満たされたない。
ずっと、こんな道が続いていると、履きこんだ靴の底に、石やら瓦礫の破片が、キリキリと食い込んでくる。慢性的に、足から血が滲み出て、痛いは痛いけど、この成長期の最中、5年も履いてきたのだ。
5年前に大きめの靴を購入し、それから靴底はあらゆる手段で、修繕を重ねてきたが、ほぼ毎日のように、この瓦礫の道を歩き、旅をしてるもんだから、靴底がパッカパッカと笑ってるようにも聞こえてくる。それは、まるでせせら笑われてるいるかのようで、少しイラッとしてくるのだが、靴相手に怒ることもできないから、ぐっと耐える。
でも、そんな思い出深い靴とも、おさらば!というのも、今日この街で仕事の依頼が入ったからだ。
しかも、この街一番の超お金持ちの!
初めまして。読んで下さって、ありがとうございます!