動機と真相。
事件の真相を語ってから、彼女は口を噤んでしまった。
しかしその表情は依然として無機質で、それが少しだけ怖くも感じた。
「それが、動機ですか。」
私の言葉に、彼女はゆっくりとうなずいた。
「えぇ。……でも、殺す気はありませんでしたけど。」
その言葉のどこまでが本気なのか、私には推し量ることができなかった。黙り込んだ私に向かって、彼女は問いかけた。
「私はこれから、どうするべきですか?」
無機質な瞳が、私を見ていた。
その瞳から逃げるために、私は視線を手元の珈琲へと落とした。
「……今までの推理はあくまで私の推測にすぎません。貴方の犯行は完璧でした。証拠の無い状態では、警察も逮捕はできません。
ここから先どうするかは、貴方の自由です。」
どうぞ、お好きになさってください。
そういった私に、彼女はゆっくりと頭を下げた。そしてカップに残っていた紅茶を飲み干すと、コートと鞄を片手に持ち、もう一度私に向かって頭を下げ店から出ていった。
椅子の背にもたれかかるように座り、天井を仰ぎ見ながら目をつぶる。何だかひどく、疲れたような気がした。
彼女の語ったことがすべて真実だとは、どうしても思えなかった。彼女が真に月下さんを愛していたのなら、いくら彼女が仕組んだ筋書きで月下さんが死んだとはいえ、神原くんを逆恨みしていてもおかしくはないはずだ。
それなのに彼女は神原くんに対して、どこまでも冷静だった。そもそも私が彼女を疑い始めたのだって、その冷静さが余りにも不自然だったからだ。
彼女の本音は、いったいどこにあったのだろうか。
目をつぶっていると、ふと、とあることを思い出した。
「そういえば、」
九十九折さんのつけていた時計と同じものを廿六木先生もつけていたような……。
「珈琲のお変わりはいかがですか?」
「え、あ、いえ、結構です。それより、お会計してもらってもいいですか? 」
いつの間にか隣に立っていた店員に慌てて首を振り、伝票をもって立ち上がり、レジでお会計をして店を出た。
いつの間にか、小雨が降ってきたようだった。