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確信した二人の愛~Side Story~

今日、懐かしい人に会った。


 彼女の姿はファッション雑誌でもよく見かけていたので、モデルの仕事をしているのは知っていた。


 彼女が私のカウンセリングに関わったのは、小学校五年から中学三年までの五年間。


 当時から、きっと将来は美人になると思っていたから、モデルになったと風の噂で聞いた時も驚きはしなかった。


 今日、彼女はファミリーレストランで、男性と一緒にいた。


 びっくりした。


 だって、あの雪菜ちゃんが男の人と仲良く話をしているんだから。


 信じられなかった。


 久しぶりに会った彼女は、ファッション雑誌で見るよりも、もっと綺麗だった。


 そして――その理由も、すぐに分かった。


雪菜ちゃんが恋をしてる……


 でも五年間彼女を見続けてきた私だから、直ぐに分かった。


 雪菜ちゃんが楽しそうに話をしている男性。


 彼と話す雪菜ちゃんの視線の輝きを見て、すぐに気づいてしまった。


 あまりにびっくりして、そして嬉しすぎて――涙が出そうになった。


彼女が男子を怖れるようになったのは、中学に上がったころから。


 男子の誰もが雪菜ちゃんに惹かれ、その視線が彼女を怯えさせていた。


 あの子はただ純粋だっただけなのに――好意がいつしか、恐怖に変わっていった。


 その頃から、雪菜ちゃんは男子を避けるようになった。


 笑いかけられても、そっと視線を逸らす。


 声をかけられても、小さく首を振るだけ。


 私は、何度も手を差し伸べた。


 けれど、あの子の心の奥底に棲む“闇”だけは、どうしても掴みきれなかった。


 あのときの雪菜ちゃんの“残党”を、完全に鎮めることはできなかった。


 あと一歩のところまで、彼女の魂に触れた手応えはあった。


 それでも、最後の瞬間に、闇は指の隙間をすり抜けた。


 救いきれなかったという事実が、私の胸の奥でずっと疼いていた。


 そして今日。


 雪菜ちゃんは、男性と向き合い、楽しそうに笑っていた。


 その光景を目にした瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけた。


 あの子が、ようやく誰かと“同じ場所”で笑っている。


 その誰か――彼。


 彼はただ優しいだけの青年ではなかった。


 雪菜ちゃんの微かな息づかいまで感じ取り、彼女の心の揺れに合わせて、自然に動ける人。


 あの一瞬で分かった。

 彼もまた、闇の深さを知る者なのだ。


 だからこそ、彼女を救える。


 嬉しさがあふれて、言葉が勝手にこぼれた。


「良かったね」


 声を出した瞬間、自分でも驚くほど涙が込み上げてきた。


 彼はきょとんとしていたけれど、すぐに彼女の表情を読んで、そっと席を立った。


 ――優しい人。


いや、“優しさを超えた理解”を持つ人。


 ああ、これは雪菜ちゃん、好きになるね。


 私はたまらず、彼女に聞いてしまった。


「雪菜ちゃん……彼のこと、好きなんでしょ?」


 彼女は一瞬、驚いたように目を見開き、それからふっと笑って頷いた。


 その笑顔は、昔のままだった。


 あの小さな椅子で、私の前に座っていた少女の笑顔。


 ――あぁ、ようやく届いた。


 私をしても逃した“残党”を、彼が掬い上げてくれたのだ。


帰り際、私はどうしても彼と話がしたくて、気づけば歩き出していた。


 おせっかいだ、と自分に言い聞かせても、足は止まらない。


 喉の奥で転がっていた言葉が、こぼれた。


「……雪菜ちゃんのこと、好きですか」


 彼は一瞬だけ驚いた顔をして、それから小さく笑った。


 言葉にしない答えは、言葉よりも確かだった。


 胸がふっと軽くなって、目の奥が熱くなる。


 ようやく、この日が来た。


 私は、救いきれなかった理由をずっと抱えてきた。


 彼女に向けられる視線の正体を、最後の最後で取り逃がした悔しさを。


 その棘は、時間を置いても抜けなかった。


 けれど、いまわかった。


 この人なら、あの残り火を静かに掬い上げてくれる。


 直感――いいえ、五年間の確信。


 雪菜ちゃんは彼、櫻井君を愛している。


 櫻井君も雪菜ちゃんを愛している。


 相思相愛。


 この確信は、しばらく私だけの秘密にしておく。


 ふたりの口から交わされるその瞬間まで。


 いつか、この日のことを、そっと話す日が来るだろう。


 私はただ、微笑んで頷くだけでいい。


 ――その「いつか」は、たぶん、すぐそこに。


 その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。


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