トレーニング
その6
稽古は朝早くから始まった。日がまだ出きっていない。私は木刀を持ち、繰り返し素振りを行っていた。
「私の武器って短剣でしたよね。」木刀はどう見ても1尺はある。ユニコーンの短剣とは似ても似つかない大振りなものだ。
「もう少し実戦に近いものを想像してたんですけど。」
そもそも帰ってもいいのだから、訓練をする必要があるかも怪しいのだ。
「いいから、黙って振れ。お前は体が細い。長期的に見てしっかり鍛える。」
私はやけになっていいと言われるまで延々とブンブンと素振りを続けた。
「やめていいぞ」
2時間ほどが過ぎ、村に住む他の狩猟者たちが動き始めたころ素振りが終わった。伍作さんと家に戻ると千鶴子さんが料理を出してくれた。椀に盛られた白米と鮭の干物を戻したもの、味噌汁と保存が利くようなものを主にした朝食だった。
それが終わると伍作さんたちは外に出て仲間を集める。狩りは一班8人ずつの三班交代制を基本として行われ日ごとのノルマさえ達成していれば参加するのは何人でも良いという比較的緩い規則のものだった。
今回参加に応じたのは6人で2人は昨日の狩猟分の解体に動くことになった。私は伍作さんたちについて狩りの方へ着いていくことになった。持ち物は白い短剣と、それとは別に鉄製の片手剣を貸与えられた。伍作さんから荷車を任され、私と狩猟者のおじさんが荷車を引き、伍作さんたちを含む5人は荷車を囲むようにして歩き始めた。
暇だ。狩りが始まったが、私は出る幕がなく狩られる小鬼を眺めている。こうして見ていると可哀想な気もしてくるが彼らに食べられかけたこと思えば、そんな気分も失せてしまう。ボーッとしていると伍作が呼ぶ。片付いたから死骸を運べと、私の仕事は荷物運びのようだ。私は死骸を荷車の近くに運ぶ。おじさんは死骸を分割し、爪や牙、長い骨のある部位を切って荷車に積む。これを繰り返しながら荷車を引く。
4度ほど繰り返すと伍作が言った
「次であらかた終わるな。」
「伍作さん、ここって小鬼しかいないんですか。」
割って千鶴子さんが答える。
「基本的にはそうよ。この前狼にあったんでしょ。あれと小鬼がここらのメインで、あとは夜型のがいくらかいるわ。」
「そういえば小鬼には群れをまとめる、鬼がいるって聞いたことあるか?」おじさんが伍作に聞いた。
「大鬼がいるってことか。」
「でもあれって暖かいとこにしか出ないんじゃあなかったの?」
「それが小鬼は小鬼なんだけどなんか違うらしい。」
「なんかってなによ。」
「知らない。詳しい話は二班の連中に聞いてくれ。」
なんとなく、気になりはしたが仲間の一人が敵の発見を知らせるサインをしたので会話は途切れた。
狼の群れだ、しかし何かがおかしい。歩行が歪んでいる。よく見ると両脚の長さが揃っていない。それが原因でフラフラと蛇行しているようだ。群れの奇妙さを伍作は怪しんで観察していたが仲間の一人が矢を放つ。小鬼の角の矢じりでどちらの神造生物にも効果を表すものだ。
矢は狂いなくふらつく頭部をとらえる。全員が身構えたが狼はパタリと倒れ動かなくなった。
他の狼は驚いて逃げようとするが不安定な脚のせいで走れないものや倒れるものが大半で拍子抜けしながらトドメをさした死骸を荷車に積んだ。
村に帰ると私は真っ直ぐ風呂へ向かった。
1日死骸運びをした結果、私の体がまた血まみれになったからだ。
家に戻って食事を採っていると伍作が明日も朝から素振りだと言った。私は抗議する力もないほど疲れて布団に倒れこんで眠りについた。