第一村人発見
その4
「ゴリラじゃない伍作だ。」
力強い体つきをしたゴリラ、伍作そう言った。どうやら声に出ていたらしい。謝罪しようとするが、伍作は続けて
「お前は日本人だな、村に入って、千鶴子という女を探せ。死体を片付けたら俺も行く。」
私は伍作の言葉に従って村に入った。村の入口には小さな家があり、その前に背の高い女性がいた。
「すいません、この辺りで千鶴子さんという方はいませんか。伍作に言われてさがしているんですが」
尋ねると彼女は言った。
「千鶴子はわたしよ。あなたは新人みたいね。いいわ、中に入って。」と千鶴子は言う。
私はお礼を言って中に入ろうとして転んだ。そのまま意識が遠のく。
…お腹が減った。
良い匂いがしてきて目が覚めた。
「起きたぞ」伍作は静かに言った。伍作の声は低いのに大きいので頭に響く。
千鶴子がスープを持ってきてくれた。
「お腹が空いてるなら言ってくれればよかったのに。
それにしても相当疲れたのね。丸1日眠ってたわよ。」
お腹が空いた早くスープを
手を伸ばすと伍作は手を押さえ、千鶴子はスープを皿に分け、スプーンで掬って私の口に運んだ。
「空腹でいきなりは食べるな。
ゆっくり馴れさせろ。」伍作が言った。
「すいません。お腹が空いてて。」
私は少しずつスープを啜って腹を満たした。薄い塩味に柔らかい魚の身がいくらか入っていて濃い味付けではなかったが体に染み渡るのを感じられた。
食事が終わり、落ち着いてくると伍作が言った。
「今は何年だ。」
「明治23年です。」
「1890年か。だいぶ進んだな。」
「わたしたちが1550年頃だったから300年ね。
話には聞いてたけど火縄がここまで短くなるなんて、進歩するものね。」千鶴子が言う。どういうことだ。聞こうとするが伍作に遮られる。
「悪いがあんたが寝てる間に荷物は漁らせてもらった、聞きたいことが山ほどあるだろうが先に風呂に入ってきてくれ。血の匂いが凄まじい。」
「こっちだからついてきて」
私ほ千鶴子についていった。
風呂は一度小屋から出た先に大きな建物があり、その中らしかった。
これは…銭湯だな。平原から見えていたのは煙突の煙だったのか。
私は千鶴子から着替えをもらい、分かれると中へ入っていく。
思い返せば私はかなり臭い。ジメジメした洞穴を動き回り、体を焦がす炎をくぐり、一角獣の血にまみれ、これでは小鬼も寄ってくるはずだ。服を脱ぎ、湯に浸かるとここ数日のことを再び思い出す。拳銃の弾はあと2発、食べ物は底をついた。火種になるものも、結局得られてはいない。対して得られたのは一角獣の角が一本のみ。
あまりに不釣り合いだ。こんなことならあの洞穴でボロ布男について戻るべきだったかもしれない。
湯から上がり体を拭き、着替える。なんというか軽い。あの配達員用制服が重すぎただけかもしれないがかなり体が軽い。制服を小脇に抱え、千鶴子の所へ戻る。
「おかえりなさい。いい湯だった?」
「はい、おかげですっきりしました。」
と私はうなづいた。
「伍作が話すことがあるっていうから、行ってあげて。村の入口にいるって言っていたから。」
村の入口では伍作が小鬼の死骸を解体していた。
「来たか。あれについて話すことがある。」
伍作が指さした先には一角獣の頭があった。
「一角獣の頭がどうかしましたか。」
「どこで見つけた。」
「森を抜けた平原で襲われたので撃ち殺しました。」
「そうか、死骸はどうした。」
「狼に囲まれたとき餌にして置いて来ました。」
「狼は何匹いた?」
「3匹です。」
「ならもう少し多くなっているだろうな。まあいい。
よくユニコーンが倒せたな。この首はお前のものだ。どう使うかは決めているのか?」
「これ使えるんですか?」
「もちろんだ。砕いて弾丸に接着したり、磨いて短剣にしたり、金持ちは食器にするやつもいる。」
「銃器は俺の分野じゃないから無理だが、短剣になら加工してやれるぞ。」
「じゃあ、お願いしてもいいですか。」
現状、ユニコーン?の頭は持ち物として邪魔だし、腐り始めている。道具になるなら早めに変えてもらって正解だろう。
「話は終わりだ。家に戻って休んでろ」
「それじゃあ失礼します。短剣よろしくお願いしますね。」
私は千鶴子のいる家まで戻ることにした。