39話 俺、偉い人を騙します
先週投稿するの忘れてた・・・すみません。
「なるほど、そんな事情があったのですね」
分身魔法の件について説明を受けたエルミィはあっさりと納得してくれた。元々俺が魔力を授かってこの世界にやってきた事情を知っている時点で難しい話ではなかったのだろう。
「でも少し妬いちゃいますね。ユウキにとって私とシャルルさん、どちらの方が好みなのかしら」
「出来ればこの引っ張りだこ状態を延々と楽しみ続けたいと感じている自分もいるんだよなぁ・・・どうかこんなクズい私めを叱ってはくれませんでしょうかプリンセス」
「めっ!」
なにその叱り方。普通に萌えるんですけど。いや、それが狙いか・・・?さすがに生前オタクをやっていただけあって金髪碧眼美少女の使い方が上手だ。
なにはともあれそうやっていちゃつかれると前後の席に構えたイケメン親衛隊たちに姫様より先に俺が暗殺されそうだから、ほどほどにして欲しい。
「さてユウキ、じゃれるのは一旦終わりにしましょう。そろそろ歓迎パレードが始まります」
「あ、はい」
とか考えていたらこの切り替えの早さである。王家やべぇ。さすが王家。
仕事の内容は、ただエルミィの身辺警護をするだけだ。パレードを見に来た―――要はエルミィの姿を生で見たくてやって来た人々にエルミィは無防備にも立ち上がって手を振り応え続ける。それを、俺と4色イケメンたちがあの手この手で怪しいヤツからガードする。以上だ。
正直なところ、仕事そのものに心配は少ない。では今俺が一番不安なのは、人目の多さだ。いや、誰も俺のことなんて見てないって?知るか。
それはまぁ、多少は慣れた。この世界に来てからある程度は人前に出る経験をしてきたから当然だ。でも苦手なものは苦手なのだ。分身した影響で元から悪かった顔色が一層悪くなる。この世界のカメラは超高画質だからエルミィの隣で『ア○ター』みたいな顔色をしている俺もしっかり映ってしまうに違いない。肌の色を変色させる魔法でも試してみようか。
「おい貴様、先ほどから集中を欠いているぞ。本当に姫様をお守りする気があるのか?」
「げっ。いや、大丈夫であります!」
赤いイケメンSP・・・エルミィはこの人をクリムと呼んでいたか。クリムは前の座席から俺のことをじっと見つめて図星を突いてきた。あぁ、もうパレードが始まるのだ。主役はエルミィだ。俺が自分の顔色を考えている必要なんてない。
焦った反応をする俺の肩に、今度は後ろから手を置かれた。振り返ると黄色いショタ系SPだ。エルミィはレモニーと呼んでいた。名前まで可愛い系か、と突っ込みたくなった。
「大丈夫だよっ!ゆっくんもボクらにとっては半分お客さんだからね。ボクらに全部任せてよ!」
「ゆっくん・・・?俺のこと?」
「そう、サクマ=ユウキって言うんでしょ?『さっくん』と迷ったけど言いやすいから『ゆっくん』さ!」
「あ、そう・・・」
ショタもあるが男の娘感もある。チラッと横を見たらエルミィが癒やされた表情をしている。エルミィがレモニーを側に置いている理由が分かったような気がした。
というか本当に頼りになるのか、この男の娘は。なんなら俺でさえ腕相撲で圧勝出来そうな気がするほどひょろい。あるいは凄腕のガンマンかもしれないが。
さて、レモニーに「全部任せて」なんて牽制球を投げられたが、そんなわけにはいかない。エルミィに良いところを見せる見せないではないが、俺もここはしっかりと仕事に集中するとしよう。まぁ、なにもないのが一番なのは言うまでもないけれど。
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「なんだか死人みたいに顔色が悪いよ・・・?」
「いえ、元より自分の顔色はこのようなものであります。よくカメラに映るとマシに見えてしまうので違和感があったんでしょう」
「そう?そうだったら良いんだが・・・?」
初めましてのご挨拶から1分もしないうちに俺はアレクスを騙した。シャルルがこっそり嘘発見器の画面を送りつけてきてクツクツと笑っている。全く良い性格をしている。素が出てますよお嬢様。
さて、俺の登場になにか面白くないと感じたのか、はたまた流れを察したのか、アレクスは怪訝な顔をした。その点についてはアレクスに素直に謝りたいが、事情説明に関してはシャルルとマルコがしてくれる話になっている。
「ところでシャルルさん、なぜ今日は彼をご紹介になられたんですか?」
「えぇ、実は今日アレクス様とお話をしている最中もずっと悩んではいたんです。ですが、アレクス様の誠意に答えるために、私も正直にお話をしなければならないと思いまして・・・決心いたしました」
「と・・・言うと・・・」
「はい。今、私とユウキ准尉は、結婚を前提に、お付き合いしております」
「け、結婚を前て・・・」
「はい、結婚を前提に、真剣に」
おい、大事だから2回言いましたってか。見ろアレクスのなんとも言い難い表情を。半分「知ってた」と言わんばかりの落ち込みようだぞ。今さら実は嘘ですと言い出す気はないが、さすがに可哀想だ。
「確かにアレクス様とは軍事や政治関連のお話でとても馬が合いますし、そうでなくても穏やかでな素敵な方と感じましたが、申し訳ありません。今の私には彼しかいないんです」
「そ、そうですか・・・いえ、謝ることはありませんよシャルルさん。大切なのはシャルルさんの気持ちですから」
「そうおっしゃって頂けて感謝の限りです。ですが、今後もどうか当家との友好的な関係は―――」
「えぇ、もちろんです。こちらこそ、今後ともトァフィルト家はシュタルアリア家に協力を惜しまぬつもりです」
「そうですか」
―――心が、心が痛いッ!!ここに来てまさかのアレクス超紳士対応!俺たち完全に悪者だよ、協力惜しんでくれて良いレベルで酷いことしたよ。
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その後もマルコがいろいろ小難しい挨拶事をテキパキとこなして、しょんぼりを隠しきれないアレクスとトァフィルト家に仕える人たちに見送られ、俺たちは館を後にした。
俺はチラッと車窓を振り返ってアレクスを見るのだが、角を曲がってその姿が見えなくなるまでずっとアレクスは手を振って見送ってくれていた。あの表情はきっと今回のお見合いに今までに無いほど手応えを感じていたからこそのものだろう。最初に見たときは俺もよく知る現実に期待しなくなった人の顔をしていたから、多分間違いない。
今回のドキドキお見合いクラッシャー大作戦で、俺は心に棘を残したまま終えることになった。
格好つけのために途中まで運転した自動車の運転席をシャルルに譲り、俺はそのままシャルルに質問をした。
「なぁシャル、これで成功なのかな?」
「心が痛むッスか?」
「痛むよそりゃあ。モテない人の気持ちがシャルに分かるか?」
「分かる・・・と言いたいッスけど分からないッスね。そもそも恋愛については私もまだまだ未熟者なのでモテる側の気持ちも計りかねますが」
いつまでも晴れない気分に悩む俺を励ますように、マルコが話し始めた。
「君が気に病むことはないよ、ユウキ君。元はと言えば私と娘の言い出した無理を聞いてもらっただけなんだからね」
「マルコさん・・・。でも俺もアレクスさんにシャルを取られたくないなっていう風には感じたりして・・・どっちにしたって共犯ですよ」
「え、ユウキそんな風に思ってくれてたんスか!?やっふぅ!これは脈アリってやつッスね!」
「ぎゃあ!?待てシャル、飛ばすな!速い!」
ここはまだ私道だから車もないのでスピード出し放題だ。狭いカーブを華麗にドリフトする暴走車を通報してくれる市民はいない。俺の不用意(?)な発言で超加速した遠心力に俺とマルコは車の中ででんぐり返りしそうになった。どうせ自動運転出来るのだから、これなら最後まで俺が無免許運転しておけば良かったかもしれない。
「はっは。いっそあの嘘を本当にしてくれたら私も嬉しいんだがね。アレクス君はシャルルの気持ちが大事と言ってくれたが、私も君に関して同じことを言いたいよ。気の済むまでゆっくり考えて是でも非でも、納得のいく答えを考えてくれたまえ」
・・・後部座席で俺と太陰太極図みたいにこんがらがった状態になりながら、マルコはダンディに笑った。
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一方その頃、俺はあくびが出るほど退屈な来国パレードを続けていた。既に2時間は真っ直ぐな道路をゆっくりリムジンで走っているだけだ。前後左右に背の低い護衛車が合流して、沿道は日本ひいては地球のレベルとかけ離れて優れた科学の世界とは思えないほど見覚えのあるごちゃごちゃした人だかりに埋め尽くされている。見ているだけで息が苦しくなる思いだ。いつの世も、というかどこの世も民衆はこんなものだ。
軍人をやっているだけあってそろそろ見慣れた我らが連合国の国旗と、そしてお隣ルィンバルカ帝国の国旗が入り乱れて見える。エルミィが帝国の姫だから当たり前の話だ。
それにしてもエルミィはすごいものだ。始まってからずっと、一度も腰を下ろすことなく人々に手を振り続けている。冗談抜きでさすが王家だ。帝国と言いながらほぼ完全に民主化し、王家は日本で言う天皇に近い存在らしいが、象徴としての在り方を見せつけられた気がした。
「エルミィ、そろそろなにか飲んだ方が」
「そうね、少しお水をちょうだい」
給水時間は1秒。立派な水筒の蓋を開け閉めするのは俺の仕事にしても、目にも止まらぬ早業だ。ルィンバルカ家では人前に出す前に子供に高速給水の手ほどきでも受けさせるのだろうか。
「エルミアナ姫は立派だと思うよね。まだ御年11歳だというのに僕たちよりずっと立派であられる」
「ビリーさん。そうですね」
俺に比較的優しくしてくれる緑髪イケメンSPのビリーはエルミィを尊敬した目で見る。以前港町ルベーヌやその周辺で一緒に行動したときは子供っぽい一面を多く見てきただけあって、俺も今日のエルミィは新鮮だった。
あと、後ろの青髪ネコ系イケメンがシァンという名前らしいことからエルミィのSPはみんなそれぞれのイメージカラーと名前が対応しているのになんで緑の人だけ普通に「ビリー」なんだろうと思ったが、よくよく考えたら英語で「ビリジアン」という深い緑色があったのを思い出した。小学校のときの図工の時間によくその色の絵の具を使っていたのを思い出す。正直どうでも良い。
そんな尊敬の眼差しを向ける俺のことを振り返ったエルミィは、どんな意図があるのか嬉しそうにニッコリと笑い、すぐに観客たちの方へ向き直った。
しかし、その最中に、わずかに変な光が俺の目に入った。なにかに照り返したような光だ。
次の瞬間。
遙か遠くの乾いた銃声が歓声を悲鳴へと変えた。




