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30話 俺、ジェットコースターというものをナメていたようです

明けましておめでとうございます!明けてから結構経った気もしますが、気のせいです!今日は1月の第1土曜日ですから!晦日?はて、なんのことでしょう。


 「ひゃん」


 まず、出発で股間がヒュンってなった。宇宙船の出航は豪快かつ繊細に、ということだろうか。いや、実際はマジの宇宙船ではなくジェットコースター的ななにかなのだが。

 俺たちを乗せて外宇宙航行艦『イデアルシーカー』は順調に故郷の惑星を飛び出していく。乗り物の内壁や窓は全てスクリーンになっていて、果てしない闇の中に無限の星々が輝いている。でも、俺たちが目指す星はあの中のどれでもないのだろう。本当に、本当に、もっと遠いどこかのどかな星だ。ちゃんと科学的に人間が暮らせる星は見つかっている―――という設定なので。

 

 乗り込む前はフランが1人で寂しく泣いていないか心配したが、もうどうでも良かった。ものの数分で俺はリアルに再現された宇宙旅行にのめり込んでいた。

 一夜が明けたあたりで―――まぁ、再現なので実際は10分くらいしか経っていないのだが、無事の出航を祝う宴が催される。宇宙のど真ん中で夜が明けるもなにもないけれども、だいたいそれくらいの時間が経ったらという話をしたのだ。頼むから細かいことでいちいち揚げ足を取らないでくれ。え、自分で取っているようなものではないか?知らないね。

 祝宴というだけのことはあって豪華な料理が映像の中で登場―――って。


 「お待たせしました」


 「・・・む?」


 立体映像の机の上にロボットのウェイターさんが皿を置くと、ことっという音に遅れて良い匂いがした。多分前菜として出されたスープと、あとなんかの未来食なのだが、ほかほかと白く湯気を立たせていた。周りの客を見れば、彼らも同じように料理を出されていた。

 でも、これって食べて良いのだろうか、というか食べられるのだろうか。実際は例に漏れずただの触れる立体映像でしたとかいうつまんないオチじゃないよな?食べてから後悔はしたくなかったので、俺はウェイターさんにとりあえず尋ねてみることに。


 「えっと・・・これ、食べても?」

 

 「もちろんでございます。ゆっくりとお召し上がりください」


 「おお・・・」


 まさかの料理付きジェットコースター、恐るべし異世界。そしてうまい。大した金を払ったわけでもないのに贅沢なものだ。出ると分かっていたら昼食をここに決めておきたかったものだ。さっき食べたばかりだからもったいないことに少しお腹が張り気味だ。

 豪華なフルコースっぽく、軽食を済ませた後も宇宙船は進み続けている。ここまでにあったスリルと言えばせいぜい出発時のチンヒュンくらいだったが、劇場版を見た俺はこの後が本番だと分かっている。


 しばらく星のアクアリウムを堪能していると、急に船体が大きく揺れた。


 「うおぉっ!?」


 スリリングアトラクションにも関わらず安全ベルトがないので、今の揺れで体が浮いた。どこを再現しているんだ、これ。危ないわ。見ろ、俺みたいに分かっていてもこのリアクションだぞ、知らないで連れて来られた人とかマシントラブルじゃないかと焦って悲鳴上げたぞ。

 でも、そういえば注意書きですっごい揺れます、的なことは書いてあったかもしれない。


 艦内にアナウンスが響いた。


 『ただいまの揺れは近傍に存在する重力特異点の影響によるもので、航行に問題はありません。当艦は予定通りの航路を航行しております。今後も揺れが続くことが予想されますが、航行に問題はありません。引き続き、新天地への優雅な宇宙(そら)の船旅をお楽しみください』


 すぐにこれは人間たちを安心させるためにアンドロイドたちがついた嘘だったと発覚するんだったか。未発見だったブラックホールに捕まった『イデアルシーカー』はそこに吸い込まれゆく小惑星群に追いついてしまって、今よりずっと激しい揺れがずっと続くのだ。


 「・・・って暢気に思い返してる場合じゃねぇ!」


 また大きく揺れて、悲鳴が中に満ちた。遊園地ではこんなガチの悲鳴なんて聞けないのではないだろうか。マシントラブルでもない限り、だが。俺は急いで壁に取り付けられていた手すりに掴まった。すぐに指示が表示されて、乗客たちも手すりに掴まった。モブキャラたちが辿った原作通りの展開ではあったが、同時に客の安全確保なのだろう。手すりはいろいろ工夫されていて、大きく車体が動いても掴まっている人が振り回されないようになっているようだった。なお、原理は分からない模様。


 窓の外に小惑星が見えてきた。要は隕石だ。大小様々だが、小さいのはおにぎりくらいで、特に大きいので言えば半径で街ひとつを覆えそうなほど巨大だ。あんなのにぶつかったらいくら頑丈な宇宙船でもひとたまりもない。ゆっくりに見えて、今の俺たちは光速で飛んでいる―――設定なのだ。無駄に物理演算が秀逸なこの世界のアトラクションなので、その衝撃もきっとセーフティーラインギリギリのところまで再現されるのだろう。

 直後、とんでもない衝撃がきた。いや、語彙の問題とかではなく、本当にどう表せば良いのか辞書を渡されても答えられなかったはずだ。上に揺れたかと思えば下に叩きつけられるのも同時で、かと思えば前後左右にブンブン振り回されるので、頭の中で脳みそがクルクル回っちゃっているのではないかと思うほど気持ち悪かった。このハイテク手すりがなかったら死んでしまう。


 「しゃ、再現しすぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 アナウンスがなにか言っているが、もうなんにも聞こえない。なんて言っていたかも思い出せない。俺は周りの客同様必死に手すりに掴まって目を瞑っていた。なにをアトラクションで目を瞑っているんだ、と文句を言う人がいたら俺は堂々と言ってやりたい。じゃあお前が乗ってみろ、と。ジェットコースターの下り坂で両手を挙げるのは安全と分かっていて初めて出来ることだが、これは安全じゃないと分かっているので目も開けられないのだ。隕石が船体に激突する音まで再現されている。耳元でも大きな音がして、息を詰まらせてしまった。


 5分くらい、この調子だったのではないだろうか。時間の縮尺で考えたら、物語の中でこれを経験した方々はこの何十倍もの時間を隕石の食べ放題に当てられていたのだと実感する。ストレスではげるわ。ショック死しかねない。これを生き抜いたモブたちの精神力には感服だ。1人にだって勝てる気がしない。


 だが、小惑星帯を抜けたからと言って安心は出来ない。むしろここからが酷いのだ。だんだん艦内が暑くなってきた。心なしか視界が歪んだようにも見える。魚眼ビューイングというか、立体感がいつもと違うのだ。


 「い、いよいよブラックホールに吸い込まれるのか・・・?」


 前の世界ではブラックホールに吸い込まれたらなんだのこうだのと言っていたが、実際はどんな風に感じるのだろう。物語の展開的には吸い込まれた後、宇宙のどこか全く知らない場所に放り出されるのだが―――つまりブラックホールとホワイトホールという概念に沿っているのだが、そのワープ中は登場人物の心情描写がメインでなにが起きているのかはサッパリ分からなかった。


 揺れは小刻みになり、しかしその振幅を増していく。視界もどんどん変な形になっていくし、音も変だし、なにより暑い。やっぱり一点に全部が凝集されるから熱が上がるのだろうか。物理でそんな感じのことをやった気がする。というか、これが俺の知っているシャルルの法則だ。・・・などと恐がりまくりの気を紛らわすかのように別のことを考えていると、はたと揺れが止まった。


 トイレに流れる水のように視界がキュッとしぼんだかと思うと、視界の中の一点に吸い込まれるような不思議な感覚を覚え、次の瞬間には全て元通りになって、急に体が浮いた。


 「お、お、おおお・・・?なんだ?」


 なにがどうなったのか分からなくなって俺は周りを見渡したのだが、その瞬間に背景が消えた。真っ暗になって、やがて奇妙な空間に放り出された。ドラ○もんのタイムマシンが通る空間みたいな感じだ。なにかの流れを感じる。

 すぐ、精神世界の再現シーンだと分かった。確かにこんな風だった。ここを漂って、船の乗組員たちはホワイトホールからペッと吐き出されるのである。周りを見ても誰もいない。


 「本当におんなじ乗り物の中でこれやってんのかな・・・。実はマジで宇宙飛び出してブラックホールに吸い込まれちゃいました、みたいなバッドエンドじゃないよな・・・?」

 

 ・・・いや、やりかねない。


 なんだかんだ言ってもこの世界じゃあ宇宙船なんて民間にありふれるレベルの技術らしいじゃないか。諸事情あって宇宙との行き来はあまりないらしいが、行こうと思えばいつだってフライアウェイ出来ちゃうのだ。そんでゴーアウェイしたらウェイウェイしている間にブラックホールの中へ続く光速ハイウェイに乗っかっちゃってハイ1乙は多分にあり得るパターンだ。特にゲームの中に閉じ込められてしまうような想定外を起こすような俺が乗っているんだし。

 精神世界シーンを思う存分堪能したせいで不安が倍増した。もう俺の頭の中ではこのアトラクションが大気圏内に留まっている可能性の方が低くなっている。いっそ自撮りして「ブラックホールなう」とか呟こうか。


 にしても、このシーン、やたらと長い。


 「いや、いやいや、まさかね。なんて風に考えてみただけだからね?ほ、ほーら、そろそろ次いこうぜ?ね?ね?・・・ちょ、マジでこれいつ抜けるの?ねぇ、冗談だから!俺別に本気でブラックホールなうとか言ってたわけじゃないから!分かったぞ、そうやって焦らせるためにわざとここの時間長くしたんだろ!考えたな運営め!・・・・・・助けてください・・・」


 ちょっと泣きそうになってきた。だって、今まで足をつけていたはずの床もなければ壁も窓も天井もないし、周りには誰もいないから完全な独りぼっちだ。

 普段はそれでも全然大丈夫なのだが、状況的に今1人でいるのは恐すぎます助けてくださいというわけだ。というか、なんで手を伸ばしても誰の体にも触れられないのだ。無重力とはいえ全く身動きが取れないわけではなくて、泳ぐように空中を漂って手探りにものを探す程度のことは出来る。それなのに、結局触れられるものがなにもない。おかしい。なにをどう間違えても俺が乗り込んだのは『イデアルシーカー』を模した金属の箱で、その中にはたくさんの人がいたはずなのだ。これがアトラクションとして機能している限りはその3次元の制約が消えるはずがないのだ。でも、いくら手探りしても爪に先に掠る感触すらない。


 「す、すごいなー。この世界の技術はついにものの感触すらだませるようになったんだなー。これからはARの時代かなー。ARがなんなのかいまいち分かってないけどー、すごーい」


 ・・・マジでお願いだから誰でも良いから俺の手に触っていただけないでしょうか。もうちびりそうなんです。いやでもやっぱ触んないで。安心したら多分ちびる。大やけどした人に水あげちゃいけないのと一緒だから。人いるって分かったら安心して逝っちゃいそうだから。

 あ、いやいや、だからってどっか行かないで。そう、そこにいるんだ、大人しくそこにいろ、良いな?


 「フ、フラーン。フランちゃーん。シルヴィアさんでも可とするからぁ・・・誰かぁ・・・」


 普通に考えてここにいるはずのない人の名前を呼んでしまったが、つまりそれくらい俺はパニックなのだ。分かるだろ。

 だんだん視界が白くなってきて、精神世界の終わりが近付いてきた。でも、もはやそれをそうと認識して安心するほど俺には余裕がない。どっちかというと、こういう真っ白な世界は俺が死んでから最初に目を覚ましたあの部屋を思い出す。

 ちょうど、そこら辺に椅子があって、手帳を持った女神様がおわすのだ。そうそう、まさにこんな感じに―――。


 「―――って、オイ」


 ごしごし目を擦ってみたが、なんか、椅子が見える。


 「今のナシ。見えない見えない、そんなものはなかった」


 骨にヒビが入る勢いで頭を叩いたが、やっぱり椅子が見える。


 「神は言っているぅぅぅッ!ここで死ぬ定めではないとぉ!?」


 これは本格的にダメなやぁつだ。経験者は語るとかではないが、今俺は間違いなく半分死んでいる。多分ショックを受けすぎた。言ってみるなら幽体離脱している感じだろう。

 女神様の椅子を魔法で爆破して俺は自分に『リザレクション』を連発した。そんなに蘇生しまくったらなにがどうなるのかも分からないが、正直そんな冷静なことを考えながら自分を生き返らせられるほど死に慣れた人なんていないだろう。


 「リザレクションリザレクションリザレクション以下略とにかく生き返れ俺ぇぇぇ!―――はっ!!」


 と、結構頑張ったら割とあっさり生の実感が湧いてきた。テレビの電源を点けたみたいにパッと目の前に『イデアルシーカー』の中の景色が帰ってきた。


 「か、帰ってきた・・・さ、さすが俺!!」


 隣にいた客が俺の肩を揺すって声をかけてくる。


 「あ、あの、大丈夫、なんですよね?」


 「へ?あ、大丈夫ですー・・・あは、あはは・・・」


 大丈夫かと聞かれると条件反射で大丈夫と返すのが日本人だ。実際は死にかけていても多分大丈夫と言ってしまうだろう。いや、死にかけるどころか俺はちょっとあの世に顔を出してきたところだ。


 なんとか立ち上がって窓の外を見たら、荒れた茶色い土くれみたいな星が見えた。どうやらもうブラックホールは抜けたらしい。それどころか劇場版屈指の見せ場のシーンを見逃してしまったらしい。あの星に至るまでがドラマだったというのに、なんともったいないことか。でも、もう一度乗り直して見直そうとは思わない。正直、ネタが分かっていてももう一度魂を吐き出す自信がある。

 

 「結局、体感まではしなくて良いってことだったなぁ・・・」


 見れば乗客の3割くらいは未だに気絶している。ちょっとやりすぎだろ。明日には絶対新聞の一面に取り上げられるだろと思うほどには大問題だわ。いや、新聞なんてこの世界にはもうないけれども。なにをもってこんなデンジャラスなアトラクションにゴーサインを出したのだろう。開発者は自分で1回試し乗りとかしなかったんだろうか。


 宇宙船『イデアルシーカー』は『センス・エンプティ』の舞台となる荒野の惑星へと無事の到着と偽って不時着を敢行する。大気圏に突入し、窓の外は真っ赤に燃えている。少し内部も暑いのは再現だろう。もうさすがにこれくらいでは焦らない。

 着陸して、遂に扉が開かれる。


 そして。


 「はーい、お疲れ様でしたー。理想を追い求める宇宙旅はいかがでしたかー?お楽しみいただけたでしょうかー?」

 

 「・・・クッソ軽いな・・・」


 いかにも頭の悪そうな女性が降りる客の誘導をするために待ち構えていた。なんだか悔しい。お楽しむようなアトラクションじゃなかったことをなんとかして教えてやりたいが、今はちゃんと作品世界の中から出てこられたことに感動する方で忙しかった。

 

 「これがジェットコースターってやつだったんだなぁ・・・」


 俺は、そろそろ暗くなってきた空を見上げ、ポツリと呟いた。なんか違う気もするが、どっちにしても学校で遊園地の話をしていたあいつらはこれの劣化版に乗って笑っていたんだと思うとちょっと格好良く思えて来た。実は・・・スゴい奴らだったんだな。

 多分もうジェットコースターには乗らない。こんなのに乗るくらいならまだシャルルの後ろで敵国のロボットに銃口向けて追いかけられる方がマシだった。 

 

 乗り場と降り場は別にあったようで、遠くには今再出発した『イデアルシーカー』に乗り込んだ歪な時計塔が見えた。まさか目で見える距離の中であれだけの体験をさせられていたとは、今になっても理解しがたい。

 グッタリ疲れた体を引きずって駅のホームみたいな降り場を歩いていると、ベンチに膝を抱えてうずくまっているフランを見つけた。先に乗ったのだから、先にここで待っていてもなにもおかしなことはない。フランも俺を見つけ、飛ぶようにベンチから立ち上がった。

 なんという安心感。そりゃあ胡散臭い世界を救うヒーロー映画のラストシーンで主人公とヒロインが感動に互いの体を抱き締めるわけだ。今にも泣きそうな顔でフランが駆け寄ってきた。

 

 「だ・・・だ・・・旦那ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 「ふらぁぁぁぁぁん」


 ひしと互いに生きていることを確認して、それからフランに蹴飛ばされた。


 「なに気安く抱き付いてんでぃ!?」


 「いだい!お前から来てただろ!!」


 「はぁ・・・。まぁ良いですぁ。旦那も無事に戻ってきたので良しとしましょう」


 「ホント、死ぬところだった」


 「オレっち一瞬口から魂出たような気がしましたぜ、あの精神世界のシーンで」


 「そうそう。てか俺一瞬あの世に行ってたぞ」


 「へいへい、男の不幸自慢ほどかっこ悪いものはねぇでしょうよ。さすがにあの世見たとか言われても」


 「いやマジだって。てかフラン俺の顔見るなり落ち着きすぎだろ」


 「旦那こそ随分へっちゃらなようじゃねぇですかぃ」


 「いいやいやいや、ちびりそうになってたもんね」


 「いやいやぁ、旦那。オレっちなんてマジにちょっと、いや、ほんのちょっとだけだけどパンツに滲んじまったかもしんねぇですぁ」


 「女の子!!」


 マイナーなジャンルながら結局そこはかとないエロスを感じる。そこで張り合おうとするからフランは女子力が足りないのだ。


 「てかそもそも俺もだわ。なにで張り合ってんだよ俺たち。小便でチキンレースしてる男女とかとんでもない変態臭しかしねぇよ。しかもフランに至ってはギリギリ崖から落ちてるし。前輪が脱輪してるし」


 「チキンレースって聞き慣れねぇ言葉っすけど確かにそうかもしんねぇですね。なに花の乙女に汚ぇ話させてんだ旦那。きゃーへんたーい」


 「勝手に言ってろよもう」


 ツッコむのにも疲れた。帰って寝たい。


 「まぁ、でも旦那の顔見て安心したってことなんでしょうね、オレっちも。さっきまで恐すぎて震え止まんなかったけど今はなんともねぇですぁ」


 「俺もフランいたから安心したよ。マジでブラックホールでどっか知らない星まで飛ばされたんじゃないかと心配してたから」


 「今日はなんかゲームん中閉じ込められたり絶叫どころか失神レベルのアトラクション乗っちまったり、大変な1日だったなぁ」


 「ホントだよ。何度死ぬかと思ったことか。遊びにきたはずなのに」


 「そうそう。・・・でもまぁ、なんだかんだ充実してましたぜ、オレっちは。うん、楽しかった!旦那はどうでぃ?」


 「俺?まぁ・・・俺も楽しかった・・・かもしれない。こうして誰かと遊びに行く面白さも最近やっと分かってきた頃だったからなおさらな」


 「よっしゃ!なら全部オッケーでしょう!」


 羨ましいくらい切り替えの早いフランだったが、今回ばかりは俺もつられてそう思ってしまった。なんだかんだ終わりよければ全てよしと思ってしまうものなのだ、人間という生き物は。あんな思いしたくせに、馬鹿なもんだ。なんで楽しいなんて思ってしまうのだろう。

 

 閉園時間が近づいてきた。死に体を引きずって俺とフランは物販コーナーを駆けずり回り、欲しかったグッズを揃えて追い出されるように期間限定のテーマパークを飛び出した。

 帰りは俺は電車(なんかめっちゃ速くて途中空飛んだりするけれど)で、フランはバスだ。駅もバス停も反対方向でちょっと離れている。だから、フランとはここでお別れだ。1日一緒に遊び回っただけあって、帰るとなって今更ながら微妙に名残惜しい。


 帰り際、フランは俺の前に躍り出て、ニッコリ笑った。抱えた荷物は重そうなのに、軽やかな笑顔だ。


 「じゃあな、旦那!また遊ぼうぜ!」


 「そうだな。是非誘ってくれよ。・・・あ、ただしVRゲームと鬼畜ジェットコースター以外でな」

 

 「あはは、分かってますぁ!それじゃ、また近いうちに会いましょうや!」


 「あ、借りてた帽子!」


 思い出して俺はフランを呼び止めたが、遠くで急ブレーキをかけたフランは親指を立ててグッドサインをしてきた。


 「んぁ?あぁ、いいよ、それは旦那にプレゼントしてあげますぁ!どうせ外したら帰りの電車で目立ちまくって大騒ぎになっちまいますぁ」


 「そ、そうか・・・忘れてた。じゃあとりあえず借りとくよ。今度遊ぶときに返すからさ!」

 

 「いいっていいって!ほら、女の子の香り付きだぜ、精々大事にしてくだせぇよ!じゃ!」


 「あ、ちょっ!?」


 そのままフランは駆け去ってしまった。俺は頭に乗っけたままのフランの帽子のつばに触れて、肩をすくめた。まったく、やれやれである。なにが女の子の香り付きだよ。


 「・・・どっからどう見ても男物じゃん」 


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