22話 俺、居候中の生活について考えます
「さ、家に着いたッスよー・・・って、寝てる」
「んあ?」
俺は、シャルルの声で目を覚ました。午後の予定は全部シルヴィアのおかげでパーになったから、俺たちは真っ直ぐシュタルアリア邸にまで帰ってきたのだ。まぁもっとも、俺も誰もシャルルが考えていた予定なんて知らないのだが。
すいーっと綺麗に駐車して、シャルルはみんなを揺り起こしている。俺も隣のアンフィを起こしてやった。
「ん・・・あれ?夜?」
「おはばんは、アンフィさん。よく眠れましたか?」
「おはやいのか今晩なのか分からんなそれ。・・・寝てたのか、私」
「結構ぐっすりめに」
「やっぱなんだかんだ言って疲れてたのかな。久々にシャルルとやりあったわけだし」
「かもですね。で、夢の中では勝てたんです?」
「・・・?」
「寝言でなんか『今の私は誰にも負ける気がしない、覚悟しろ、真っ二つにしてやるぜ』とか言ってましたよ」
「なぁ・・・ッ!?」
みるみる顔を赤くするアンフィ。だが言っておこう。今の俺の言葉は完全無欠の口から出任せ捏造ファイアだ。大体、もし言っていたって俺も寝落ちしていたんだから、知るわけない。これは一瞬でも先に起きた人間の特権だ。
中二病でカマセだった過去を暴露された直後でもあるアンフィだから、そんなことを言われればタイムリーすぎるクリティカルヒットで間違いない。これはホント、良いネタが入った。
・・・なんて思っていましたごめんなさい首を絞めないでください。
「ぐるじ・・・!!」
「ハッ!?気が付いたら首を絞めていた・・・」
「アンフィさんの握力で締められたらマジで死ぬかもしれないですよ!ココアの殺気とはまた別の意味で恐い!!」
「こ、これに懲りたら金輪際余計なことは言わないことね!」
ショートの金髪をたてがみのように逆立ててアンフィは逆ギレしてきた。・・・いや、逆ギレなのか?この場合。・・・まぁ、少なくとも殺されかけた俺の方が被害者レベルは高いはずだ。多分。
そういえば、シャルルは昔のアンフィは長髪だったと言っていた。いつ髪を切ったのだろう。まぁ、それはもう、今度でも良いだろう。
「ほら、ココアとサーシャもいい加減起きるッスよ。特にサーシャはホントに起きないと、ご両親に私が怒られてしまうッスよ」
「・・・むにぁ・・・。にゅ。しゃるる?ここどこ?」
「あ、起きた。サーシャ、ここは私のうちッス。ちょうど到着したところです。サーシャは今日中に実家の方に帰るんでしょう?ウチの使用人に車を出させるッスから、そちらで空港まで送ってもらってください」
「えー。ねむいからもう少し」
「うちは泊めてあげてもなんの問題もないッスけど、ご両親もそろそろサーシャの顔を見ないと寂しいと思うッスよ?せっかく帰ってきてるんスから」
「しかたない。分かった。じゃあ。お願いします」
寝起きにものぐさな気分になるのはよく分かる。目を擦って舌足らずにしゃべるサーシャを見て、俺はニマニマしていた。萌えというのはこういうのだ。単純に癒やされる。
シャルルに起こされる繋がりでココアの方を見てみれば、あちらもあちらで寝ぼけているらしい。
「ほーら、ココアも」
「んー。あたし、なんか体が動かないです。これは中尉が目覚めのキスをしてくれないと絶対に目を開けられない魔法を原始人がかけてきたに違いありません」
「ココアのくせに俺を都合良く利用してんじゃねえ」
「うっさい死ね」
「そう思うなら起きられない理由を俺に頼るんじゃない」
「うっさい死ね」
「寝起きだから悪態にキレがないな」
「うっさい死ね」
というか「うっさい死ね」を本気トーンで言われて冷静に分析出来ている俺の精神構造も不安が残るのだが。
まぁ、どっちにしたって俺がそんな訳の分からん魔法を使うわけもない。でも、この発想は面白いかもしれない。所謂白雪姫化が出来るというわけだ。いわゆるのか、分からないが。とにかく、気が向いたときに練習してみても良いだろう。白雪姫のストーリーをなんとなく覚えている俺であれば難なく修得出来るはずだ。
「コーコーアー。起きないと車も車庫にしまえないんスよ」
「んー」
「しょうがない子ッスねぇ」
「え、ホントにキスするの?」
ガシガシと髪を掻いて色気のない悩み方をするシャルルに、俺は尋ねた。
「なんスか、ユウキ。もしかして今から既にその豊かな想像力で私とココアの唇が重なる瞬間を想像して興奮してるんスか?やらしーッスねぇ」
「べっ、べっつにぃ?」
「はい、ウソいただきましたッス」
「ちくしょう!百合っていいよね!!おにゃのこ同士のいちゃいちゃバンザイ!!」
膝を折り、地べたを激しく殴りつけながら百合賛歌を高らかに唱える人間が過去現在そして未来の人類史上全ての中において俺を除いて存在し得るだろうか。いや、いるかもしれないが、多分それは期待を裏切られた後の男が深い絶望と共に吠える断末魔って言うべきヤツだ。
「にぃ。女の子同士が仲良くするの好きなの?」
「そ、そうだぞ、サーシャ。俺は少女たちが仲睦まじく青春を謳歌している風景を傍らから見守っているだけで幸せを感じることが出来るんだ」
「ものは言いようってのはこのことだね」
アンフィがなんか言っているが、実際こういうことだろう。大体合っている。思えば、百合ジャンルはそういう感情に少しだけ下心を混ぜ込んだ程度の健全な精神なのだ。そう思えば男同士が絡み合っているところを想像してハァハァしている貴腐人たちもちょっと具合が悪いだけで、きっと健全なのだ。いや、別に百合ジャンルの公平性を守るためにそう言っているわけではないんだからねっ。
ということで俺はそういう感じの、保護者と変態を足して2で割ったような眼差しでもってシャルルとココアの行く末を期待して見届けることにした。
しかし、どうなるのかと思えばシャルルはキュッと拳を握り、ちょうど小指を畳んだときに感情線が潰れて出来る肉の丘をもう一方の手の指でつっつき始めた。柔らかさでも確かめているのだろうか。
「おい、まさか」
「しー」
「・・・」
ココアが悟ることもなく、俺は絶望で膝を折った。結局最後は人類史上いくらでも例のあるガッカリして百合を叫ぶ死屍累々のひとつになるのか。男の夢と書いて儚いと読むのだ。え?どうやったらそうなるんだって?俺がそう言ったらそうなんだよ。なんなら魔法でにんべんを男に変えてやったって良いんだぞ。ここでの入力は恐らく不可能だがな。
ということで、シャルルはそのぷにっとした手の肉をココアの唇に押し当てた。少し手の握り方を緩めたりキツくしたりして、動きを再現しているようだ。器用なものである。しかしすぐにシャルルは手をココアの口から離した。
「んっ・・・うぅー」
なに赤くなってんだろうね、この子は。お前がチュッチュしていたのはただの手の肉だぞ。
恥じらうように目を開けたココアをシャルルは車から引きずり下ろして、車を車庫にしまって戻ってきた。
「さて、ちょっとサーシャは待っててくださいッス。今車呼ぶんで」
「りょうかい」
ポルックでシャルルは屋敷と連絡を取っている。こんだけ広くなると内線電話の価値もあるんだな、と実感する。俺みたいな庶民ともなれば家の中で家の中にかける電話なんて、携帯電話探しのときにするくらいだったっけ。そもそも俺ぐらいにもなれば部屋の中の決められた場所に置いておくから、スマホが行方不明になるなんてことはあり得なかったけれど。未だに無くすヤツの気持ちが分からない。整理整頓をしておけという話だバーカバーカ。
いずれにせよ、この世界に限って言えばポルックスは普通外さないらしいのでそういう心配はないのだろう。俺は寝るときに邪魔だから外しているのだが、たまに不思議がられたものだ。
しばらくして、シャルルが呼んだ車が俺たちのところにやってきた。
「じゃあ、シャルル。ありがとう。またね」
「はーい、お気をつけてッス。良い休暇を。また遊ぶときにでも誘うので」
「うん。ココアとアンフィと。あと。にぃも。またねー」
「はい、また」
「ゆっくりしなよー」
「毎日電話するから」
「なんかユウキだけ重いんだけど」
「だって、思ったら俺サーシャと1日以上顔を合わせないような生活を知らないんですもん」
マイスウィートリトルシスターサーシャたんと会えない日々を想像すると今からもう心に穴が空くような気分だ。いろいろと面倒臭い性格をした連中がウジャウジャと集まっている中でサーシャだけは俺の心のオアシスなのだからして、離れると思うと悲しくてしょうがないのだ。食い意地が張っているところだって可愛げがあると見なせるし、その点で考えても物騒な機械工作に勤しむハイスペックエンジニアパイロットや殺意の波動を放ち続ける腹グロリ、そして脳筋中二カマセと比べたらアクがなくて良い。
「そうだ、俺サーシャと一緒に帰ってついでにご両親にご挨拶を・・・」
「おい、ユウキ。私の家じゃ不満ッスか?」
「じょ、冗談だってシャル!頼むから拳の骨を鳴らすのをやめてくれ、せっかくの女の子が台無しだぞ!」
「え。冗談なの?にぃならサーシャも歓迎なのに」
ご両親が歓迎してくれるかは分からんがな。
あと本気でサーシャを威圧するなよシャルルさん。
「やはり最終的に一番厄介なライバルになるのはサーシャだと踏んでいましたよ。あのどっかの金髪キンのお姫様なんざ基本的に近くにいられないことを思えば端から敵ではなかったんス。そう、つまり私の最大の障壁は・・・」
「シャルが大人げなさ過ぎてつらい」
罪な男・佐久間悠稀は人の心の浅ましさに涙した。いや、泣いてなんていないけれど。めんどくせーって思うのが関の山だ。大体、シャルルがこの調子だから俺もこんなに適当なのだ。真剣さも一周回ればアホに見えてしまう。
ていうか、エルミィのことを酷い呼び方するもんだ。
「それじゃあ、頼んだッスよ。安全運転でお願いします」
「かしこまりましたお嬢様―――」
運転手の人はそう言って、サーシャを乗せた車を発進させた。
それからシャルルはアンフィ、ココアと向かい合った。
「さて、お2人はどうします?」
「ん?ココアは家族と暮らしてないのか?」
「えぇ、あたしは1人暮らしをしてますから」
「ははぁ・・・意外にしっかりしてたんだな」
「今更ですか。普段からこんなにしっかりしてるじゃないですか。例えば見下すべき存在をしっかり見下したりするあたりとか、非常に真面目な性格だと思うんですけどね、自分で言うのもアレですが」
「じゃあ自重しろよ」
「は?今の話聞いてなかったんですかね、ここで自重したらそれを怠慢と呼ぶんですよ。これだから原始人の言語理解能力は。あなたは大人しくあたしに見下されていれば良いんですよ。いえ、どちらかと言えば見下しても見えないほどの位置まで消えてくれた方があたしの精神の安寧のためにも助かるんですけどね」
「・・・」
泣きたい。安易に死ねと言われるよりこういう回りくどい悪口をつらつら言われる方がなんか空しいのは、分かっていただけるだろうか。
「はいはい、ケンカはそこまでッス。いちいち仲介する私の苦労も考えていただきたいッスね」
「も、申し訳ありませんっ!」
ココアはペコペコ謝っている。最初からそれくらい素直にしておけよ。
「私としてはアンフィにはもう少しウチにいて欲しいッスね」
「まぁお世話してもらえるなら私もそっちのが楽だけど、どうして?」
「ほら、アンフィの《ライオス》は撃墜されちゃったじゃないッスか。それで、次にアンフィの乗機となるであろう《エリオッサ》の改造計画を立てたいんスよ。だから本人の希望も受けつつ、と思って」
「なるほどね。それなら、お邪魔させてもらおうかしら」
パラティヌスの話になるとシャルルもアンフィも途端にウキウキし始める。
「それなら、あたしも今晩は泊めていただいてもよろしいでしょうか?あまりご迷惑をおかけしたくはないので明日には帰りますが、今日はもう遅くなってしまうので」
「そうだな、ココアを夜道に1人で歩かせたら危険だもんな」
「え、なんですか急に。気持ち悪いんですけど―――」
「ん?んんー?誰がココアの心配してるって言ったっけぇ?あっるぇー?もしかしてココアちゃんは自意識過剰な年頃乙女で原始人にも心配されちゃいたい今日この頃だったのかしらぁ?俺が心配してるのはココアの背後から忍び寄る誘拐犯が殺されないかどうかなんだよなぁ」
「まずは自分の心配をしたらどうですか?」
「ごめんなさい殺さないでお願いしますフルバーストごめんなさい」
謝意をフルバーストしたので、なんとか許してもらえた。反省はしていないが。
「ユウキも懲りないッスねぇ・・・。で、今日だけッスか。もちろん良いですよ、部屋を用意させておきますから、まずはお風呂なり夕食なりでゆっくりしていてください」
「そ、そんな!あたしなんかのためにわざわざ部屋なんて大丈夫です!なんなら中尉と一緒のお部屋でも!」
願望がダダ漏れだな。顔に一緒に寝たいって書いてあるぞ。
「い、いや、いいッスよそういうのは・・・。ちゃんと来客用の寝室はたくさんある・・・はずなので」
「なんで今心配そうな声になったんだ?」
「いや、あるにはあると思うんスけど、今の私に見つけられるかどうか」
言われて思い出したが、そういえば今のシャルルの家はシャルルパパの勝手な改築によってカラクリ屋敷になっていたのだったか。シャルルのことだから既に通った道についてはバッチリだとは思うが、確かに新しルートを自分で見つけろと言われたらキツいかもしれない。
「まぁ困ったらメイドにでも聞けば良いでしょう。客人を床で寝かせるような真似をしたら恥ッスからね。嫌でも普通にベッドに寝ていただきますよ」
「あれ?中尉の部屋にお邪魔した場合はあたしの寝床は床だったんですか!?」
シャルルはふいっとそっぽを向いた。俺にはああいうくせに、こいつも大概だな。普段はそれなりにあしらっているのに今は白々しいのは不思議だ。シャルルの基準はどこにあるのだろう。
いつも通りグダグダになってきたので、アンフィがレールを戻してくれた。
「さ、無駄話は良いから、さっさと中に入ろう」
「それもそうッスね」
●
「オカエリナサイマセ、オ嬢様、オ客様、アトユウキ」
「俺は普段通り呼び捨てなんだな」
「♪(´ε` )」
屋敷に入って最初に俺たちを出迎えたのは、メイド服姿のドラム缶型ロボット、アスキーだった。相変わらずメイド服との相性が悪すぎて草も生えないお世話ロボットではあるが、仕事はキッチリこなしているらしい。そんなに働けるんなら、『アトラス』にいる間も俺の世話をもっと積極的にしてくれれば良かったのに。
「既ニオ話ハオオセツカッテオリマス。オ客様方ノオ部屋ハ今手配シテオリマスノデ今シバラクオ待チクダサイ。マズハオ荷物ガアレバオ預カリシマス。―――ユウキガ」
「なんだ、気が利くじゃないこの子」
「そうですね」
「やれば出来るじゃんかアスキー・・・ん?待て、なんかおかしくないか?」
「なに首傾げてるのさユウキ。ほら、荷物」
「・・・」
俺がジト目を向ければ、アスキーはまたさっきの口笛の顔文字を表示していた。お前のマスターは俺なんだぞこんちくしょうめが。令呪を使って命令してやろうか。と考えるが、俺の手の甲には魔術の力が宿った紋様なんてない。
ココアは俺に荷物を触らせたくないとの理由で荷物をアスキーに預けていたが、俺はアンフィの荷物を担いでアスキーと一緒に階段を登るハメになっていた。
シャルルたちは風呂に入るとのことで、俺を置いてキャッキャウフフとどこかへ行ってしまった。屋敷の中でどこかへ、というのもおかしな気はするが、改築の有無に関わらず建物のどこになにがあるのか明るくない俺としてはシャルルたちが俺の視界からいなくなるだけで「どこか」へと行ってしまうことになる。
ホバー移動を駆使して器用に階段を登るアスキーの隣を俺は歩く。
「なんでそんなしっかり働けるのに俺と一緒にいたときはあんなに自堕落だったんだよ」
「ナントナク?」
「なめてんのか。俺はアスキーのマスター、ご主人様だぞ」
「((((;゜Д゜))))」
「それは俺がすべき表情だわ!」
「冗談ダッテバ。本気ニシナイデヨネ」
機械の腕でぺしぺしと俺の背中を叩いてくるアスキーは、なにを冗談だと言うつもりなのだろう。お世話ロボットがご主人様の背中を叩く時代なのだろうか。いや、そうなんだろうけれども。
それにもう別に気にしていない。俺もアスキーのことは友達みたいなものと思っている。友情は種族の垣根を越え、そして生命と非生命の垣根さえ越えるのだ。
と、聞こえのいいキャッチフレーズを脳内再生しながら俺はアンフィの部屋だという寝室に入り、荷物を適当に用意されていた場所に置いてやった。
仕事を終えて廊下でアスキーと合流する。俺はそこでふと思った疑問をぶつけてやった。
「てか、俺ってお客さんじゃね?」
「ソレガドウカシタノ?」
「いや、どうもこうも客に荷物運びなんて仕事押し付けて良いのか?」
「居候ガオコガマシイゾ」
「言いやがった!!そうだけどさ!確かに俺は住む家もない身元不明の不審人物筆頭かもしれない上にシャルのご厚意に甘えてお部屋をお借りして住まわせていただく約束を交わした女の子のスネをかじって生きるしかないどうしょもない人かもしれないが!」
「( ΄ ^◞౪◟^ ` )」
言っていて一番悲しいのが俺なのは自嘲癖があるからではないと思う。そう考えれば恩返し程度に少しは働いた方が良いのだろうか。例えば、今みたいに客人のもてなしとかで。
でもどっちにしたって俺はマナーとかよく分からないので厳しいものがある。もっと雑務ならこなせるのかもしれないが、それにしたってなにをどこから始めれば良いものやらである。
ひと仕事終え、あとはメイドロイドがメイキングを済ませてくれるらしい。俺とアスキーの出番はこれで終わりだ。
これからどうしたものかと思っていると、アスキーが俺の腰あたりを指でつついた。
「ユウキユウキ」
「ん?どした?」
「アスキーハ屋敷ノ中ニツイテハ勉強シタカラ、ドコニダッテ行ケルヨ」
「おお、偉いな。そりゃ頼もしい」
「( ✧≖´◞౪◟≖`)」
「・・・その顔さえなければな」
いちいちアスキーの顔文字のバリエーションはスタンダードと言えないものばかりなのがいやらしい。たまにイラッとするし、はたまたあるときは急に笑いを取りにくるので腹筋が辛いときもある。
しかし、勉強したからなんだと言うのだろうか。まぁ、トイレに行きたいと思っていたからちょうど良いのだが。
「じゃあアスキー、トイレ行きたいんだけど案内してよ」
「フッフッフ。ユウキ、トイレニ行クノハ容易イケド、モットイイトコロニ行ッテミタクハナイカイ?」
「いいところ?」
「サァ、行ッテミヨウ!キットソコニハ楽園ガ待ッテル!」
「あ、ちょっ!?だから俺はまずトイレに行きたいんだってば!?」
「(*´▽`*)」
なにやら興奮気味(ロボットが興奮していると分かるのは俺がおかしいのか、それともこの世界のAIの感情表現能力がおかしいのか)のアスキーに手を引かれて、俺は複雑な館の中をトイレにも行かせてもらえず駆け回るのであった。