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21話 私、昔話をしてあげるッス(えっ、そこ俺の仕事なんですけど!?

サブタイでユウキ君が押し退けられているように、今回は多分にシャルル視点の部分があります。たまにはこういうのも良いよね。


 「あの頃のアンフィは尖ってたッスねぇ―――」


 「やめてよ、あれは黒歴史だから」


 「なんで自分だけダメって言うんスか。あんまり勿体ぶってると大人げないッスよ?仮にもこの中では最年長なんスからもっと大きな心を持ってくださいよ」


 「仮にもってなんだ、仮にもって。普通に一番大人だよ。てか、ユウキも話したくないことがあったらいいって言ってたじゃん・・・」


 「良いじゃないッスか、もう過ぎたことなんですし」


 まぁつまり、俺が言いたいのはこの世界にも「黒歴史」というスラングが存在したんだなってことだった。あれって確か日本の某ロボットアニメの作中のキーワードが一般化したものだったと思うのだが、俺の勘違いだっただろうか。

 ついでに言えば確かに俺は言いにくいことがあるなら別に言わなくても良いとは言ったが、恥ずかしい記憶を語らないでも良いなどとは言っていない。元コミュ障の俺が言うのもおこがましいが、恥ずかしい話なんて一番話を盛り上げるタネになるじゃないか。

 俺は助けを求めるように見つめてくるアンフィから目を逸らした。


 「あ、コイツ!」


 「すみませんね、アンフィさん。シリアスな意味で知られたくない過去ならともかく、ちょっと黒歴史なくらいで口をつぐまれちゃあ困りますよ。せっかく仲良くなってきたんですから、もっと腹割って話しましょうや」


 「と、いうことッス。ユウキもゴーサインを出しているので、アンフィも諦めちゃってくださいッス」


 「あーもう耳塞いどくから・・・!」


 アンフィがこんなに恥ずかしがるなんて、どんな過去だったのだろう。尖っていたとは言うが、どんなレベルでツンツンしていたのだろう。気になる。

 大人のお姉さんアンフィ=ベーコンの知られざる過去が今、つまびらかに語られる・・・!



          ●



 そう、あれはちょうど入隊式の日でした。

 

 私はここトレアノにある士官学校を主席で卒業して空軍に入ったのですが、当然ながら士官学校は国内にいくつもあるわけでして、その年はそんな主席卒業者が数人、空軍に志願していたんです。

 それも大体が男性だったんですが、1人、私の他に女性がいると分かったんですよ。まぁ、私は男女分け隔てなく接するタイプの人間なので特別違った態度を取るつもりはなかったんですが、とはいえですよね。同じ女性で主席の座を獲得した者同士せっかくなので仲良く出来ればな、と思っていたんです。


 あぁ、そうそう。私ってほら、シャーロットではなくシャルルなので、男性名じゃないですか。ファミリーネームから察していた人もいましたが、最初はほとんどの人が私の顔を見るまで男だと思っていたみたいで、代表としてスピーチをしたときなんかはみなさんの驚いた顔を一望していたものです。

 ・・・と、まぁこれはほとんど関係ない話ですが、かといって完全に関係ないわけでもないんですね。


 というのも、もう分かっているとは思いますが、私の他にもう1人いた女性というのがアンフィなんですが、そのとき壇上に上がった私を見て、アンフィは初めて同期に女性がいたことを知ったんです。初めは所属が別だったので、もしかしたらあの日私がスピーチをしなければ私たちは出会えなかったかもしれません。思えば運命的な出会いです。


 でも?そもそも私の能力と家名があれば、あの場で他の誰かに代表の座を奪われる心配なんてほぼほぼゼロだったんですけれどね。


 かくして半ば一方的な出会いを果たしたその日です。

 式を終えて1人黄昏れている私のところにアンフィがやって来たんです。


 「あんた、女の子だったんだね。名簿見ても分からなかったよ」


 「えぇ、よく先に名前だけ教えると、会ったときに驚いてもらえるッスよ」


 そのとき私が振り返った先に立っていたのは、長い金髪を風に靡かせて佇む、刃物のような鋭い目の女性でした。

 なんていうか、本当に尖っていたんです。あの頃のアンフィは、いろいろな意味で突出していました。


 「それで、あなたは?」


 「別に・・・名乗る必要もないよ。名簿を見ればすぐに分かる」


 「なんスかそれ。一方的に知られているのには慣れっこッスけど、ちょっと冷たいッスよあなた」


 「元々仲良しごっこに興味はないよ」


 いやいや、職場の人間関係っていうのは大事なんだぞ、と言いたかったですね。

 しかしアンフィの話しぶりからして、私もその時点でこの金髪のねーちゃんがアンフィ=ベーコンだとは予想していました。これはまた気難しい人に出会ったものですよ。


 「まぁ分かったッスよ、アンフィさん。私はシャルル=シュタルアリアです。今後ともよろしくお願いしますッスよ」

 

 「えぇ、よろしく?」


 「・・・なんか挑発的な言い方ッスね。私なにか怒らせるようなことでも言ったでしょうか?」


 そのときの私はまだアンフィのことを面倒くさい人だな、くらいにしか思っていなかったので、そんな風に心配になっていたんですがね?後になって思えば本当に尖っていたなって思うんですが、とりあえずアンフィは鼻で笑って私に背を向けたんですよ。

 

 「飛び級を繰り返した天才児だかトレアノの主席だか大統領補佐官の娘だか知らないけど、そうやって余裕ぶっていられんのも今のうちだけだよ」


 「いや、これは余裕とかじゃなく素なんスけど・・・」


 「今年の新兵で誰が一番優秀か、すぐに分からせてあげるよ」


 「・・・はいはい、分かったッスよ。そういうことなら私も手は抜きませんからね」


 当時のアンフィは、ずっと続いてきた自分のエリート街道に強い誇りを持っていたんでしょうね。もちろん、これからもその道を誰よりも前に立って歩み続けるものだと。

 しかし、私に出会ってしまったのが運の尽きですよ。

 アンフィの実力は確かに同期の中でも飛び抜けていて、男性陣でさえアンフィの活躍には舌を巻いていました。でもケンカを売る相手を間違えましたよ。


 アンフィが活躍する傍らで私も活躍していましてね、アンフィは最初から同じ女である私のことを目の敵にしていたらしいことが途中で発覚して、なおさらヒートアップするんですよ。

 男女共同参画社会とは言ったって、男女それぞれに得意な分野があるじゃないですか。それにも関わらず男性が優勢な軍事、それも直接戦闘に関わるパラティヌスパイロットという職業において見つけた自分と同じ女性。負けん気が働いていたんですよ。

 

 で、なにをどう競っていたかと言えば互いの漠然とした活躍度です。やれ何機墜としただのどんな作戦に貢献しただのと誇示し合っていたものです。


 「知ってる?敵が私につけた二つ名」


 「『斬り裂きピエロ』でしょう?曲芸飛行からの一撃離脱一刀両断。見事なものッス」


 「そう。そしてこの頃、あんたの活躍は芳しくないみたいじゃない。もういい加減に私の方が上だって認めたら良いんじゃないの?」

 

 アンフィがこう言う通り、当時はなかなか張り合っていたんですよ。でもですね、この時期に私の活躍が少なかったのは出撃回数自体が少なかったからなんです。それはなぜかと言うと、私は自分の《ライオス》に改造を施すために基本フレームから手を加えていたので、そもそも出撃できる状態ではなかったんですよ。

 しかも私もあの時点で敵からは『フェアリィ』とか『白銀の妖精』なんてコードを与えられていたので、どっこいどっこいです。


 「いえいえ、負けてませんよ私だって。待っていてくださいッスよ。今に面白いものを見せてあげますから」


 「フン。ま、精々強がってることだね」


 その後もアンフィは武勲を上げ続けましたが、遂に私の《ライオスカスタム》が完成するんですね。となれば、もう私の活躍に国中が歓喜しましたよ。単独で敵軍基地の制圧に成功したり、超遠距離からの狙撃をこなしたり、乱戦でも無傷で生還したりしましたから。

 それはそれはもう、私の《ライオスカスタム》は鬼のような強さを見せつけたのですよ。メインウェポンは出力の最大値を大幅に向上させたビームガンと一般のビームソード。それだけなら、でもまだ普通です。私が売りにしていたのは肩アーマーに接続した重火器と、腰アーマーに増設したマウントラッチを最大限に活用した携行兵器の大量装備でした。これにより弾幕形成能力は従来機の3倍以上になり、センサー系統の一新に伴う精密射撃性能の向上、重量増加による機動力の低下についてもスラスターの増設と出力強化によって解決・・・ん?あ、これは今は関係ない話でしたね。


 ともかく、かくかくしかじかで私の名前だけが次第に広まっていくのでアンフィは焦りを覚えたんでしょう。スコア勝負なんていう間接的な勝負ではなにも心配事や不安が解決しないので、私と直接対決をしようと持ちかけてきたんです。


 「こんなんで負けてられないのよ・・・私と勝負しろ!ここで勝って、私の方がより優れたパイロットだってことを証明してみせる!」


 「良いですよ、面白そうッスし。ついでなのでアンフィの機体も私がカスタマイズしてあげましょうか?そっちの方がフェアでしょう?」


 「ふざけるな、今のままで十分よ。それに、敵に自分の機体を任すなんて出来ない」


 「敵!?私がッスか!?さすがに言い過ぎッスよ、それは。ライバルとかそんな感じでしょう、そこは普通!」


 「敵よ。ライバルなんて生易しいもんじゃないんだから。私はなんとしてでもあんたよりも自分の方が上だって他の連中に思い知らせてやるんだ。私がトップに君臨し続けることにこそ、私がここにいる意味があるのよ。最優秀じゃないならどんなに活躍したってなんの意味もない―――だから、ここらでハッキリさせようって言ってんのよ」


 「負けられないのは分かるッスし、白黒つけるのだってやぶさかではないッス。ちょっと後半なにを言ってるのかよく分からなかったッスけど、その勝負、受けて立つッスよ」 

 

 この勝負は私としても望むところでした。互いの優劣というよりも私の場合は単純なエンターテインメントとして、アンフィと手合わせしてみたいとは思っていたのです。やはり、ほら。強いヤツとやりあってみたいな、ワクワクするな、的な感じに。

 そうして、近々行われる交流会で私とアンフィは顔を合わせる予定だったので、それに合わせて模擬戦で演習場を貸してもらうことにしました。そのときも、確か海上演習場でしたね。


 そしてその当日、なんやかんやあって―――いや、説明する必要のない話を端折っただけです。そうして私とアンフィは因縁の新人対決を迎えるんです。

 私はもちろん自前のカスタム機に乗って、そしてアンフィもまた接近戦向けのマイナーチェンジを施した《ライオス》に乗って、向かい合うんです。


 そして・・・!


 で、勝ちました。いや、普通に。いやいや、せめて良い勝負した風に言えって言われても困りますよ。え?だって雰囲気とか台無し?もっと盛り上げて欲しいと言われたって普通に勝っちゃったんですから仕方ないじゃないですか。

 

 でも1分は持ちましたよ。自分で言うのもアレですが、その日の私の《ライオス》は通常のマルチウェポンシステムに加えてさらに大量の射撃兵装と爆撃兵装を積んでいたので、私でも回避に苦労しそうな弾幕でしたから、それに1分も耐えたアンフィの技量はそれだけ高かったってことです。

 全機能が停止したアンフィの《ライオス》は海に落ちて、そこで模擬戦は終わりでした。


 「くそ・・・こんなもんだったの?私は・・・!」


 「いえ、接近戦にもつれ込んでいたら私も危なかったかもしれないッス。負けたくないのでちょっとズルい装備使わせてもらいました」


 「・・・いや、それだって作戦だよ。・・・シャルル、あんたがナンバーワンだ・・・」



          ●



 「―――ということがあったんスよ」


 「昔のアンフィさんはどこぞの戦闘民族の誇り高き王子でもやっていたのかな?」


 「いえいえ。アンフィはよく頑張ったッスよ。うん」


 「アンフィさん完全にカマセじゃん!ただのシャルルの引き立て役になってるじゃん!しかも重度の中二病患者だったよ!!」


  薄々感じていたが、最後の台詞で思いっきりあの王子だったので、俺は思わずツッコんでいた。案の定この世界ではこの手のネタは誰にも分からないので、ちょっと残念というか寂しい。

 ちなみに言うと、シャルルもシャルルで、なにが強いヤツとやり合いてぇ、ワクワクすっぞ、だ。え?そんな言い方はしてない?俺の耳にはそういう風に自動変換されましたが、なにか?まったく、どこまで某世界的バトルマンガの人気2人組を踏襲する気なんだ、シャルルとアンフィは。


「言うなぁぁ!!言うなホントに言わないで次それ言ったら車から突き落とすからっ!!」


 耳を塞いでいたはずなのにアンフィは赤面して頭を抱えている。あぁ、これはもう黒歴史も黒歴史だ。無理矢理話させてから言うのも悪い気がするのだが、これは聞かないであげた方が良かったかもしれない。

 思えばこの伏線は前から張ってあった。例えばアンフィが曲を書いていると知ったとき。歌詞を見ればどことなくそういうセンスを感じたものだ。他にも激情して敵の大群に突っ込んで活躍しそうなオーラ出しておきながら撃墜、そしてあの謎のノリである。

 憧れの金髪美人な大人のお姉さんの実態は、脳筋に留まらない、本当は強いのにいざ本番になるとカマセ役を引き受けてしまう可哀想な中二病患者だったわけだ。


 「おいたわしや・・・」


 「本気で可哀想な目をするな!」


 「あの・・・人と人はそれぞれですから・・・いろんな人もいますよね」


 ココアもアンフィの昔話は初めてだったらしく、なんのフォローにもならないフォローを入れていた。アンフィは余計にダメージを受けている。


 「コ、ココアにまでそんなことを言われた・・・あの、あのココアに・・・!」


 「え、あたしの扱い酷くないです!?」


 いや、酷くはないだろう。「いろいろな人」の代表格として君臨しても問題なさそうなココアに人はそれぞれだと言われれば、説得力がありすぎて悲しくなるに決まっている。

 しかし、悲しくても人は先に進まなければいけない。そうしないと成長出来ないのだ。人は苦しみを折超えて強くなる生き物である。したがって。


 「でも、アレですな。聞いちゃったものは仕方ないし、ちょくちょくアンフィさんのイジりネタとして活用しよう―――」


 「本気で言ってるならマジで張り倒すからね!!」


 「待って!確認取る前から殴りかかってる!!」


 「余計なことをする前に消し去ってやる!!人の闇を笑えば闇に食われるってことを思い知れ!!」


 「痛い痛い!!困ったらすぐに手が出るのは脳筋の悪いクセですよ!!ぎゃぁぁ!?」


 普段は大人しいから今まで知らなかったが、アンフィの体術はそれはそれは強力でした。脳筋なのはロボットに乗っているときだけではなかったのだ。 


 車内が思いも寄らぬオモシロ話で一気に騒々しくなってきたところで、シャルルが口を挟んだ。


 「はいはい、結局盛り上がってるじゃないッスか。でももう少し静かにしてくださいッス。サーシャが起きちゃうッスよ」


「「あ、ごめんなさい・・・」」


 あまりの正論に俺もアンフィもつい謝ってしまったが、考えてみればシャルルだって俺と共犯者なのではないか?俺が勧めたとはいえ一切の遠慮もなくアンフィの黒歴史を語り、その上語り草がどことなくからかうようだったくらいだ。


 「ユウキとココアには一応断っておきますが、この話には続きがあるんスよ。さすがの私でもアンフィを貶めっぱなしで話を終わるほど良い性格はしてないッス」


 

          ●


 

 模擬戦が終わった直後でした。


 どうやらその日の情報が外に漏れていたらしいんです。いえ、漏れることに大きな問題は基本的にないのですが、それは大きな催しのときだけの話です。ほとんど私闘にも等しい私たちの模擬戦にはそれほど厳重な警備があったわけではないので、模擬戦の終わり目を狙って敵が攻め込んできたんです。

 

 なぜそんなことをするのかって?決まっています。模擬戦ではパラティヌスの機体も武装も実際の戦闘で使用するものを使いますが、知っての通り武器のモードは模擬戦用に変更した上で使用しています。これ、モードの切り替えに時間がかかるんですよ。模擬戦中に実際のビームを発射して対戦相手の機体を破壊出来ないようにするための処置ですね。

 ではなんなのかと言えば、つまり模擬戦モードの私たちは機体の価値はそのまま、ほとんど戦闘力を持っていない状態なんです。敵からすればこの隙を突けることほど美味しいものはありません。


 敵の数は3機ほどでした。恐らく、警備は弱いと言ってもセキュリティーからしてそれが限界だったということでしょう。でも、その時点での私たちからしたら彼らはマズい相手でした。


 「なんてタイミングで仕掛けてくるんスかねぇ!」


 「あれは・・・どこの所属だろう?」


 「見たことのない機種ですが、恐らくは帝国軍のものッスね。装備や機体のフォルムに名残があります」


 「なるほど・・・確かにね。―――なら、近付いてしまえばこっちのものだね!!」


 「え、ちょっとアンフィ!?さすがに武器を持たずに戦うのは分が悪いッスよ!」


 「じゃああんたはそこで見てな!私は敵に背中を見せて助けが来るまで逃げ惑うなんてイヤだから!!」


 なんか、参っちゃいましたね。あの一言には負けた気がしました。プライドばかりだと思っていたし、実際当時のアンフィはその通りの性格をしていましたが、当時からアンフィにはアンフィなりの矜恃があったんです。私はどちらかというと安全策を採りたかったのですが、もう仕方がないでしょう。

 有効な武器なんてなにも持たないで敵に飛び掛かるアンフィを見て、私も負けられないと思いました。だって、こんなところでやられて内地送りなんて御免被りたかったですし。


 「あーもう・・・!分かったッスよ!」


 「なんだ、シャルルも来るの?そんな重装備なのに、動けないんじゃないの?」


 「こんなものデッドウェイトになるくらいなら外してしまえば良いんスよ!」


 敵の突進しながら、私は肩や背中にくっつけた大量の武器を質量兵器として投げつけました。そうすれば、さっき説明したように私の《ライオスカスタム》の推力は大幅に増強されているので、機動性は一転して当時の最高レベルに達するんです。


 「なんだ!そっちの方が強いんじゃないの?」

 

 「動けるのは好きですが―――私はアンフィと違って理性的に戦う派ッスから!!」


 「言ってくれんじゃない!!」


 パラティヌスの手足を使った格闘戦というのは、訓練でも一通りこなしてはきましたがなかなか実際に使う機会は少ないので、難しいものです。私もアンフィも後の超エリートパイロットであるとはいえ、素手で戦うのには慣れていませんでした。

 そもそも帝国の機体は重砲撃に主眼を置いているので、接近することすら敵わなかったんです。恐らくパイロットも選りすぐりの3人だったんでしょう。私もアンフィも機体の機動性自体は水準以上だったので、敵が生易しい人間なら隙を突いて接近出来たはずなんですが、うまくいきませんでした。


 「埒が明かない!」


 「私の作戦としてはなんとかして背中に張り付いて、ほら、腰の後ろにマウントしているビームソードを奪って撃墜してやりたいところなんスけど・・・」


 「それが出来るなら苦労してないっつの!あんた、理性的に戦うのがモットーなんでしょ!なんか良い作戦ないのかよ!」


 「敵は3機、対してこちらは2機。まともな方法では無理ッスね」


 「じゃあ!」


 「でも、手はなくもないッスよ!アンフィ、接近戦に持ち込めたら何機相手に出来ます?」


 「はぁ?そりゃあ・・・帝国のパラティヌスなら3機まとめて相手出来ると思うけど―――作戦思いついたってことで良いんだよね?」


 「えぇ。それならオッケーッス。一旦引きますよ!」


 「分かった・・・って、はぁ!?なんで引くんだよ、話聞いてたの!?」


 「逃げるわけじゃないッスから、早く!あと出来れば私の後ろに隠れてください!!」


 脳筋と根性と情熱だけでは、勝てませんからねぇ。負けたくないから勝てる世の中じゃありませんて。

 その日はオプションの1つとしてビームガトリングを乗っけたシールドを装備していたので、私はそれで敵からの攻撃を防ぐ壁役を引き受けることにしたんです。

 でも、それだけでは敵には近付けない。だってほら、考えてみてくださいよ。数ミリ掠めただけで撃墜されかねない火力のビーム砲を正面から受け続けるなんて不可能ですから。いえ、技量云々の話ではなく。そこ、いくら私でも出来ることと出来ないことくらいありますからね!


 今でこそQちゃんという規格外の性能を持っている機体を使用しているのでアレですが、このときはアンフィと連携しないと私でもキツかったんです。

 私は急降下で後退して、アンフィを背に隠しつつシールドで追撃を逸らしていくんです。で、海に落ちたマルチウェポンシステムの残骸をいくつか拾い上げることにしました。構造的に海に浮かぶようになっているので、拾うのは簡単です。

 そしてなにを拾うのかといえば、実弾兵器に決まっています。ビームはなんの役にも立ちませんが、ミサイルの中にはインクが入っているのでこれを使うことにしたんです。


 「そんなもん拾ってどうするのさ!?」


 「まぁ見ててくださいッス。私の腕が信じられないッスか?」


 「っ・・・じゃあ私はどうすれば良いの?」


 「だから、私の後ろについていてください!」


 「なんで!それじゃあどうしようもないじゃん!」


 「どこまで脳筋なんスか。あんまり死に急がないでくださいッス。ちゃんとアンフィには出番があるので。では、突っ込みますよ!!」


 「言ったね!頼むよ!?」


 言っておきますが、別に私はアンフィを送り届けるための人柱になったわけではありません。被弾率ゼロは現在進行形で更新し続けている私が世界の誇れる記録ですからね。なので、盾は構えながら、一列編隊で私はアンフィを誘導したんです。『斬り裂きピエロ』なんて呼ばれるくらいですから、機体の精密な操縦は得意なはずと考えた上で取った作戦です。

 敵2機に対して一直線になるルートを取ったので、横から攻撃してくる敵は1機のみです。私がシールドを使ったのはそちらの攻撃に対してでした。


 そして、ここからが重要。ミサイルにはインクが入っていると言いました。これはつまり、カメラにぶつけてやれば視覚を奪えるということになるんですよ。ただ、サブセンサー系統は機体のあちこちに設置されているので、頭にぶつけるだけでは足りません。

 しかし、逃げながらどうやって攻撃に転じるのか。

 私はこれに、敵の砲撃を利用しました。火線が太く眩しいので、目眩ましには最適だったんです。


 正面から迫ってくるビームを躱した直後が、最大のチャンスでした。


 「今ッス!!」


 当てられるなら、小型のミサイルで十分。ビームが途切れるタイミング、敵の反応速度と機体の追従性、全てを計算した上で3発、横から攻撃してくる敵に向けて発射するだけでした。


 「全弾ヒット!」


 「・・・!あんた、最初からアレが狙いだったの?」


 「もちろんッス。実質的なダメージは与えられなくても動きが封じられるのなら問題なし!次、目の前の敵にバズーカをぶち込むッスよ!」


 「わ、分かった」


 他人を当てにした作戦っていうのも悪くないんだって教えたかったのかもしれませんね。だって、私が手柄を譲る前提で作戦を進めていたんですから。

 フツーならさっさと私が回り込んでボコボコにしてやりたいところでしたが、2人で戦えるのならそれに越したことはありませんし、今回は何度も言うようにキツかったんです。そんなとき、アンフィと一緒にやれるだけで私の負担は大きく減ったんです。

 まぁ、私の射撃センスを考えればバズーカを外すわけがないでしょう。そしてちゃんとアンフィが後ろに張り付いてきてくれていました。

 あとはアンフィを送り出すだけでした。2段構えの砲撃をシールドでいなしつつ、私はアンフィを敵2機の間に滑り込ませることに成功しました。


 「さぁ、やっちゃってくださいッス!!」


 「分かってる!!」


 よく考えたら、細かい説明もしていなかったのによくアンフィは私についてきてくれましたよね。しかも最後はよく察してくれましたし。


 それからはもう一瞬でした。剣を奪ってしまえば、もはやアンフィに帝国軍の重鈍な機体が勝てるはずがないですからね。



          ●


 

 「―――で、あっという間にアンフィが3機とも斬り刻んで海の藻屑に変えてくれた、って感じッス」


 「普通に熱い話だったな」


 「そうですね。ホントにベーコン少尉が名誉挽回しちゃいましたよ」


 「なんで2人して残念そうなのさ!!」


 「はぁ?なんですか原始人、あたしの真似をしないでくださいよ!あなたが人のことを残念に思おうだなんて100年早いんですよ!!まずは自分がどれだけ残念な存在なのか分かった上でそういう態度を取ることですね!!」


 ココアお前、頭にブーメランが刺さっているぞ。 

 

 いろいろ期待していたが、シャルルの話を聞いた後ではアンフィはやっぱりすごいんだという話になってしまっていた。いや、多分その結論でなんにも問題はないのだろうけれど、中二病だったこととかを知っている俺の身としては少しだけ物足りなかった。

 とはいえ、残念なだけではない。その瞬間から今のシャルルとアンフィに繋がっているのだと思うと、王道的展開ながらも胸に込み上げてくるなにかがある。


 「で、それからでしたかね。あの日を境にアンフィは今のままで良いのか、どこを目指せば良いのか。いろいろ悩んでたみたいッス。初めて味方と連携をして、絶対的不利なはずの戦いを制してしまったんスから、今までの一匹狼のスタンスがよく分からなくなったらしいッス」


 「おお、まさに良い展開」


 「えぇ。そして、アンフィは悩み、悩み、そして悩み続けながらも、戦い続けるんスよ」


 そうそう・・・ん?


 今まで孤高を気取っていた主人公のライバルが、成り行きで強敵に主人公と共に立ち向かうことになった。そして鮮やかに勝利を収め、今までの自分を見つめ直し、しかし簡単に過去の自分を捨てて新しい自分に生まれ変わることなんて出来ないから苦悩する。

 ありがちでいて、何度呼んでも俺の男の子ハートを燃やし続けるストーリーだ。それなのだが・・・なんか、今日に限ってはなんか嫌な予感がする。


 だって、アンフィが悩んでいるんだろ?で、戦ってるんだろ?


 「なぁシャル、その流れは―――」


 「ご明察ッス。そりゃアンフィですもん。余所見運転で呆気なく撃墜されました」


 「はい、見事なオチ」


 「しかも味方も全滅」


 「そのやられ方、まさに芸術級」


 「やめてぇ!!」


 なるほど。下げて上げて、もう一回下げていくスタイルですか。そろそろ車の座席に頭を埋めて喚いているアンフィが可哀想なくらいだ。誰かアンフィに気の利いたフォローをしてあげてくれ。

 

 「アンフィさんって本当に尖ってたんですね。・・・いろんな意味で」


 「死にたい・・・」


 「そんなこと言わないでくださいッスよ。あのとき全滅してたから今私たちは一緒のチームにいられてるんスから」


 そう言うシャルルの横顔に覗く口元は、ちょっとのからかう様子もなく、嬉しそうに緩んでいた。

 


シャ「オッス、私シャルル!おめぇ強そうだなぁ!オラワクワクすっぞ!」


ア「私は誇り高きパラティヌスパイロットのアンフィ様なんだぞーーー!!」 


コ「バケモノ・・・?違う。あたしは悪魔だぁ・・・」


サ「チョコレートになっちゃえー」


ユ「ひ、避難する準備だぁ!」 


・・・・・・気にしないでください。

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