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18話 俺、同情します

今回は作者の趣味が強い回。いや、いつもだろって言わないで。もちろんいつもですけど。いや、今日は「ロ」違いです、ロリではなくてロボットです。


 「これが我らトレアノ開発局の最新鋭機、《エリオッサ》であります!!」


 「これが―――」


 「《エリオッサ》―――ッスか」


 ディープパープルとダークホワイトを基調としたカラーリングで、見た感じの機体サイズは《ライオス》と同じくらいだ。

 デインに案内されてエレベーターに乗り込み、機体の胸にあるコクピットの高さと同じ高さにあるブリッジまで上がる。


 《エリオッサ》の顔がよく見える高さまで上ってきた俺たちは、改めて新機体とやらを隅々まで観察する。

 2機ある機体は、それぞれの装備が異なっていた。これは機体特性として事前に説明されていた、付け替え式の装備だろう。


 シャルルとアンフィがブリッジを練り歩いて、《エリオッサ》の全体を舐めるように見ている。

 

 さて、俺もこの中二病感溢れるデザインのロボットをいろんな角度から見てみるのだが・・・さっぱり分からない。いや、確かに翼が生えていたりダークな色合いだったりして見た目にも強そうだな、とは思うのだけれども。


 説明にあった付け替え式武装は、その翼についているヤツのことだろう。

 翼と言っても、その役割は機体本体を守るためのシールドとのことなので、実際の鳥に生えているような翼ではなく、アームに支えられた巨大な板の形をしている。具体的にその大きさを説明すると、縦は20メートル近い機体全高の腰らへんまで、横は本体の横幅ほどはある。そのシールドの裏には大型のエンジンが積まれていて、エンジンを挟むようになにかコンテナみたいなものがついている。

 で、オプションはどこにあるのかというと、シールド部分は2枚の板で構成されていて、その広めの隙間に武器がセットされているのだ。片方は見るからに強力そうなビーム砲が、もう片方にはよく分からないが、磁気カードの読み取り機みたいなスリットの入っている箱がついている。


 シャルルとアンフィは自分の興味で夢中なので、俺は隣にいるサーシャに解説をお願いすることにした。


 「サーシャ、具体的に《エリオッサ》はどこがすごいと思う?」

 

 「ふむ。見た目で分かるとしたら。やっぱりあのウイング。実際はメインが攻撃用で。防御にも使えますよくらいの攻防比。《ライオス》よりも戦術の幅が広いし機動性も高いはず」


 「なるほど・・・ちなみにあのオプション装備ってどんなの?」


 「使ってみないとサーシャも分からない。でも。多分右の機体のはサーシャの《ライオス》に載せてるビームキャノンと似てる」


 そのビームキャノンがどの装備なのか俺にはサッパリ分からない。幾度となくシャルルに戦場を引きずり回された俺は武器の見た目を覚え始めているが、名前までは分からないのである。


 「む。にぃ。分からないって顔してる」


 「ごめんな、実際どれがビームキャノンなのか分からない」


 「サーシャの機体の左肩についてるおっきなビーム砲のこと」


 「あー・・・いっつも1発でどかーんってなるやつか」


 「そうそう」


 サーシャの役割は後方支援だが、ちょくちょくデカいビームを飛ばして敵をまとめて吹き飛ばしていることがある。つまり、あれだろう。

 ということは、この新型機にはウイングの片方にそれが2基搭載されているので、合計4基もチート武器を仕込んでいることになるのか。クソゲーだな。

 これからこんなヤツを相手に戦闘を強いられる敵が可哀想に感じられてきた。話ではこれを量産するとのことだからなおさらである。俺がしみじみしていると、アンフィと一緒に左側の近接装備バージョンを見て回っていたココアが戻ってきた。


 「あたしはこっちの方が好みですかね。サーシャはどちらが良いですか?」


 「サーシャはやっぱり遠距離支援が本業だから。砲撃戦型」


 「まぁそれもそうですか」


 ひと通り見てきたシャルルも戻ってきて、最後にコクピットの中を覗き込んだ。機嫌を伺うようにデインがシャルルに感想を求めている。


 「ささ、見た感じで結構ですので、なにか感想があったら」


 「えぇ、全体的に無駄の少ない良い機体に仕上がってましたね。ウイングの扱いにさえ慣れてしまえばあとは操作性も《ライオス》からの乗り換えにしては無難ッスし、エース戦用機としては申し分なさそうッス」


 「でしょう!いやぁ、シュタルアリア中尉にそう言ってもらえればこっちも自信がつくってものですな」


 「ウイングのオプションはエッジとキャノンの同時使用も出来るんスよね?もしかしたらそっちの方が良いかもしれないッス」


 「ま、まぁ、そうですな。これはパイロットの自由が利くところということで。ただ今日のテストでは一方のみの装備で運用していただけません・・・?」


 「そう言うなら、そうしますけど。こっちも最初に使わせていただいている身ッスからね」


 シャルルの指摘にデインが声を詰まらせていた。もしかしたらそういう運用は考えていなかったのかもしれない。さすがシャルル、いつだって俺たちの一歩先を歩んでいる。いや、俺の場合一歩どころではないのだが。


 コクピットのシートに実際に座って、シャルルはガチャガチャと操縦系を触っている。


 「こっちは《ライオス》と共通ッスね。ちなみに反応レベルはどのくらいで設定してますか?」


 「これは6から10の間で変更可能にしてありますな」


 「・・・まぁ、それくらいが妥当ッスかね」


 「あまりシュタルアリア中尉の基準で指摘をしないでくだされ・・・。それ以上にしたら誰にも使えない暴れ馬になってしまいますから」


 なんでそうなるのかよく分からないので、俺はココアに質問する。


 「なぁなぁ、反応レベルってなに?」


 「原始人はそんなことも知らないのにこんなところに来たんですか」


 「・・・・・・。教えてください。話についていけないと寂しいんです」


 「なんであたしがあなたの寂しさを解消してあげなきゃいけないんですか、気持ち悪い」


 「今度お礼にココアの寂しさを解消してあげるから」


 「さらに気持ち悪い!!」


 「待て待って!分かった、分かったからその懐に突っ込んだ手を出そうな!」


 「なにが分かったんでしょうかねぇ?」


 「俺が気持ち悪かったことです!」


 「ほう、原始人の思考力も少しは向上したようですね」


 ―――ちきしょー!!なけなしの名誉も命には代えられない!

 今日のナイフはいつもよりも強力らしいから、そんなもので刺されたくない俺は全身全霊でココアを宥めた。


 「で、実際のところ反応レベルってなに?」


 「結局あたしに聞くんですか・・・。まぁ良いですよ、反応レベルってのは操縦機器の操作が実際の機体の挙動にどれぐらい反映されるか決める設定値のことです。大きくすればするほど小さな操作でも大きな動きに繋げられるんです。操縦の高速化と効率化を目指すなら標準規格の最高レベルである10がベストですが、普通のパイロットははそんなに細かい操縦なんて出来ないのでレベル4から7が妥当です」


 「ちなみにココアの場合は?」


 「あたしの《ディアボロス》は基本的に10で運用してます。武装が多いので」


 「まぁココアは普通じゃないもんな」


 「・・・それ、どういうところがですか」


 そういうところがだよ。謝るからその物騒な右手を落ち着かせてくれ。


 「ちなみにですが、シュタルアリア中尉の機体のOSと操縦インターフェースは中尉が独自の変更を加えていて、反応レベルも規格外のものに設定されています。ご本人曰くレベル12程度だそうです」


 11はいずこへ。結局俺が操縦しているわけではないからよく分からないが、すごいんですね、分かりました。確かに乱戦になるとシャルルの操縦はドラムでも叩いているんですかと聞きたくなるような激しさになっていたが、つまり細かい操作をとんでもないペースで繰り返していたということなのだろう。

 こんな見た目的にはひよっこにしか見えない女の子たちがそういう操縦をマスターしているのなら、昨日出会ったベテラン風のパイロットたちはどうなのだろう。グランツ大尉とかが「俺はレベル7を使っているんだ」と言い出したらなんかガッカリしそうだ。シャルルと比べるのはアレとしても、ココアには負けないで欲しい。


 シャルル同様にアンフィも操縦席の感覚を確かめて戻ってくる。シャルルはコクピットから出てきて、アンフィと感覚を確かめ合っている。どちらも特に目立った不満はないようだ。

 そうと決まれば、さっそくテスト開始である。


 「では2人とも、よろしくお願いしますぞ。それぞれの機体に乗り込んでおいてください。こちらは機体を外に搬出しますのでな」


 「了解ッス。いやぁー、あははは、チョー楽しみッス!」


 「そうだね。じゃあ、乗るか」


 シャルルとアンフィが《エリオッサ》に乗り込むと、俺とココア、サーシャはブリッジから追い出された。発進の邪魔になるらしい。

 下に降りるとさっきまで俺たちがいたブリッジが動いて、ファクトリーの壁が大きく開き、レールに従って2機の《エリオッサ》が屋外に出された。 

  

 それを確認してからデインが中央棟に戻るように言ってきた。


 「ささ、3人は自分と一緒にあちらの管制塔からテストの様子を見守るとしましょう」


 あぁ、あそこって管制塔だったのか。


 俺たちが管制塔の最上階に到着しても、まだシャルルとアンフィは移動していなかった。どうやらこっちを待っていたらしい。実際の管制室とは別に単なる展望台のような部屋がワンフロア上にあって、デインと俺たちはそちらにやって来たところだ。

 窓には青い海と空が綺麗な外の景色だけでなく拡大映像のウィンドウも表示されている他、なんかよく分からない計測装置の画面みたいなのもたくさんある。


 「それでは、機体を起動してください」


 デインの指示を受けて、シャルルとアンフィは息を揃えて返事をした。


 『了解ッス!』

 『了解』

 

 直後、画面に表示されたグラフが大きくうねり始めた。どうやら機体のなにかしらの情報をグラフ化しているらしい。なにかはサッパリ分からないが。


 『『システムオールグリーン。ジェネレータ出力問題なし、AMD稼働状況安全域内で安定・・・』』


 「よし!では、起動ですな!」


 『了解!《エリオッサ》1号機、起動するッス!』

 『了解。2号機、起動します・・・!』


 遂にこのときがきた。《エリオッサ》の目が光って、ウイングが広がる。

 これはヤバイ。俺としたことが、ロボット相手にちょっと熱くなってしまった。それぐらい、なんかすごかった。ロボットアニメが好きな人は多分こういうシーンが好きだったのかもしれない。


 窓の外では、背中と翼から爆発的に火を噴いて《エリオッサ》が空に飛翔した。今見ても、鉄の塊でしかないロボットがあんなに優雅に舞えるものなのかとビックリする。魔法のような技術力である。


 デインからの指示でシャルルとアンフィはそれぞれのスタート位置に移動した。初めは2キロほど離れた地点から始めるらしい。

 めっちゃ遠い気がするが、実際の戦闘ではセンサーの効果範囲がとんでもなく広いので、もっと離れた距離から両軍のパラティヌスが出撃するケースも少なくないらしい。それに思えばシャルルと初めて空中散歩に出かけたときも《キュリオシティ》の飛行速度には驚いた覚えがあるので、2キロは実験なら妥当なのかもしれない。

 窓からは一応その様子が生で見える。ただそれではちっこくてよく分からないから、拡大画面がもうけられているのだと思われる。


 なお、今回のテストは2パターンの装備で模擬戦を行い、実戦において十分な性能を発揮するかの最終チェックに当たるものだそうだ。


 「そういや、武器とかって普通に当てて大丈夫なのか・・・?」


 「はい?」


 俺が素朴な疑問を口にすると、デインがなにか信じられないことを聞いたような顔をして俺の方を向いた。マズい、なにか口を滑らせたかもしれない。とにかくここはなんとかして誤魔化さないとだ。頑張れ俺、なにか良い言い訳を!


 「い、いや!2人ともすごい操縦技術だからそもそも弾が当たるのかなぁって!?気になったんですよねー!」


 「あーはいはい。まぁ、そこはなるようになってくだされば。当たらないなら当たらないで回避性能の高さが実証出来るわけですしな」


 「な、なるほどー・・・」


 後ろからすごく冷ややかな視線を感じる。やめろココア、そんな目をするな。今のは俺もさすがに焦ったんだ。マジでやめてくれ。

 サーシャが俺の服の裾を引っ張る。


 「にぃ。どうかしたの?」


 「なぁサーシャ。模擬戦でもビームとかって当てて大丈夫なの?」


 「それなら心配ない。ビームは全部疑似レーザーだから。当たったらセンサーで処理する。ミサイルもペイント弾」


 「なるほど」


 無知な俺にも優しいサーシャと一緒にぼそぼそと小声で現状を確認して、俺は安心して2人の模擬戦に戻る。


          ●


 制限時間は20分に設定され、戦闘が開始された。時間終了かどちらかの戦闘不能で終了になる。


 いきなりシャルルの1号機が手のライフルでアンフィのスタート地点を狙撃した。ズルい。

 

 しかし、着弾より先に2号機は飛んで、そのまま1号機の方へ突撃し始めた。


 「おー。はやい」


 「そうですね。確かに《ライオス》とは比較にならない機動性です」


 サーシャとココアが感心している。俺の目にも明らかに《エリオッサ》の動きは速く見えた。相変わらずシャルルの狙撃は気味が悪いレベルで正確無比な照準合わせなのだが、あくまでライフル自体の性能は標準通りなので、アンフィは機体の動きの良さを生かして回避を続けられている。

 ―――いやでも、もしかしたらアンフィはシャルルの射撃を予測しているのかもしれない。標準通りの弾速とはいえ、やっぱり速いものは速い。それをいちいち見てから躱すのは至難の業のはずだ。ここは長年一緒に戦ってきただけあって、アンフィはシャルルの行動パターンを熟知している可能性は高い。

 ・・・しかし脳筋のアンフィなら予測なしにそれも可能なのか?出来れば頭の良い戦い方をしていて欲しいと思っているのは俺だけではないかもしれない。


 最初は様子見だったのかして、シャルルはウイングのキャノン砲も用いてアンフィの動きを制限するように砲撃を始めた。火線の規模がかなり大きいが、アンフィはそれさえ軽やかにくぐり抜けた。まるでサーカスみたいだ。

 ところどころでシールドに掠らせながら受け流し気味に回避をするという行動も取りつつ、アンフィは確実にシャルルに接近していく。


 『すごいね、これ!スイスイ動く!』


 『機動力すごいッスね。減速後の再加速性能も格段に上昇しているように感じられるッスよ』


 「これも件の渦状噴射システムを使用したおかげですな。多少強烈なGはかかるかと思いますが、対策は施していて大きく軽減もしてありますので」


 『そりゃ素晴らしいッス。遠距離砲撃性能もクリアしたので、私も白兵戦に移行するッスよ』


 「はいはい、よろしくお願いします」


 メチャクチャに飛び回る2号機を見てデイン博士もご満悦の様子。実際あれだけ動ける時点で今までのパラティヌスからしたら脅威に他ならないのではないだろうか。少なくとも俺が見てきた中ではUAFのパラティヌスが(一部の頭のオカ・・・愉快な仲間たちの魔改造機を除けば)一番動く機体だったが、あれはそれに勝るとも劣らない動きを見せている。

 シャルルに聞いた話では機動性が売りというUAFには、連合の《エリオッサ》の実戦投入は頭の痛い問題に違いない。


 「しっかし、あの2人の戦闘データって参考になるのかな」


 「それなら心配要らないですぞ。理論上ここまでの運用にも耐えられたとなれば、むしろ《エリオッサ》の価値は跳ね上がる!准尉はご自身でパラティヌスを操縦したことがないとのことですから分かりにくいかもしれませんが、シュタルアリア中尉もベーコン少尉も連合国空軍では五指に入るパイロットですから、その2人の操縦に追従出来て十分な性能を発揮できるようなら、ほとんどのエースパイロットたちが満足出来る仕上がりということになるのです!」


 「は、はぁ・・・」


 デインもテンションアゲアゲだ。腕を広げて高笑いする様はまるで悪のマッドサイエンティストさながらである。

 その理論に納得は出来なくもないのだが、俺は前世の経験からしても、なんか理論値というのは詐欺紛いの概念だと思ってしまう。こんな数値を叩き出したんですよ、と言われても実際にそんな数値を自分で出せるわけではなく、期待させるだけさせておいて最後にはガッカリさせられたことが何度あるか。

 今の模擬戦もそうだ。一線級の凄腕パイロットたちが《エリオッサ》に乗ったからと言って、あんなに動けるはずがない。生身の人間がTASの真似をしようと思うのと一緒だ。


 接近戦の宣言をしたシャルルは、砲撃は止めることなく離陸して、自らアンフィのところへ突撃を開始した。

 シャルルもまたアンフィに負けず劣らず変態的な飛行を行うが、シャルルの場合は攻撃を読ませないための攪乱と思って良いのだろう。クルクル回ったり急上昇したりしながら、シャルルはさっきまでと同じ精度で射撃を繰り返している。

 さすがのアンフィもシャルルの動きにはついていけないのか、牽制のために首の両脇に搭載されたバルカン砲を撃ちながら射撃で応戦している・・・のだが。


 「てかアンフィさん射撃ヘタクソだな!」


 「い、いや原始人、それは言っちゃダメですよ。別に少尉だってパラティヌスでの射撃技術は平均レベルには達してますから・・・。それに・・・ほら、少尉はアレですから・・・得意なことはみんな違うので」

 

 普段なら絶対にアンフィのことを悪く言わないココアまでそんなことを言っている。初めてアンフィが銃を使っているのを見たが、なるほど、本当に脳筋だったわけだ。斬り込み隊長以外は務まらないのかもしれない。それすらテレポートのあるシャルルが取り上げてしまっているが、気にしてはいけない。


 牽制が意味を為さないので、アンフィはウイングの裏に搭載されているミサイルを一斉に発射した。というかあのコンテナ、中身はミサイルだったのか。

 キャノン砲にミサイル、さらにはブースターもあって防御力高し。いよいよ全部乗せ感満載の翼である。本体なくても、あれだけ飛ばして戦わせたって十分なんじゃね?


 『これでちょっとは黙らせられりゃあ!!』


 『結構な弾幕張れるんスね、これ!』


 シャルル機の腰の後ろにあったアーマーがスライドして、腰の横側へ。アーマーには小型のビーム銃が左右1丁ずつ装備されていて、シャルルはそれを使ってミサイルを迎撃する。

 ミサイルにまでセンサーが搭載されているらしく、ピストルから出たレーザーを受けたミサイルは勝手に爆発して海にインクをどばどばと垂らす。やめてくれ、環境汚染だ・・・と言いたいのだが。いや、どうせ環境に優しい天然素材とかいうのがオチなんだろう?分かっていますとも。


 『なんで全部撃ち落としちゃうかなあ・・・!』


 『こんなもので私にダメージを与えられるとは思ってないでしょう?』


 『そりゃそうね!でも・・・近付く隙は作れた!』


 《エリオッサ》の速度をもってすれば今の一瞬で近接武器が届く距離まで接近可能らしい。アンフィ機にはピストルの代わりに一般より高出力なビーム剣が搭載されているので、リーチはシャルルよりも長い。アンフィはそれの二刀流でシャルルに斬りかかった。

 爆煙を隠れ蓑にして直前まで動きを見せないようにしたままアンフィは2本の剣を同時に振り下ろしたが、そこはシャルル、甘くない。

 既に慣れた動きでウイングのブースターを180度真上に向け、シャルルは一気に下に落ちた。水面ギリギリで姿勢を持ち直しつつ、普通のビーム剣を抜く。そのまま、すぐに追従してきたアンフィの剣を受け流しつつシャルルは反撃を仕掛けている。

 

 2号機のオプション兵装は、ウイングの縁に沿うように展開されるビームの刃だったらしい。機体をまるごと両断出来そうな大きさの斬撃装備を竹トンボのように回転して振り回す様は圧巻だ。実質的に4本腕で剣を振り回すようなものなので、全く攻撃が読めない。・・・俺には、だが。


 「あのー、デイン博士。近接特化装備が近接戦闘で押されてる気がするんですけど」


 「・・・む、むぉっほん!・・・ま、まぁあれですな、遠距離装備でも十分に格闘性能を発揮出来るとか、うん」


 「苦しい!苦しいすぎるよ博士っ!」


 アンフィの苛烈な格闘攻撃を華麗に捌きながらシャルルは膝装甲の内側に格納されたミサイルで迎撃して、あろうことか2号機は脚部が大破扱いになって機能停止、一気にバランスの崩れたところでシャルルは無慈悲に袈裟斬りをする。

 2号機はなんとか致命傷を回避して距離を取るも。元々1号機は遠距離特化なので意味がない。ビームキャノンで狙い撃ちにされるのがオチだ。


 ・・・これは酷い。


 見てみろ、デインは冷や汗タラタラやぞ。

 もうなんもかんもシャルル1人でなんとかなるのではないだろうか。アンフィが国内でも屈指の実力者だとしたら、アンフィの得意分野でそれを蹴散らすシャルルは何者なんだか。

 

 シャルルの砲撃をシールドで防ぐが、今度はシャルルから接近戦を仕掛け、シールドで殴打し始めた。・・・盾に格闘性能を持たせるべくわざわざ装備したビームエッジの意味。

 結局シャルルは2号機がぐらついたところにキックを入れてシールドを剥がし、至近距離からコクピットをライフルで撃ち抜いてしまった。完全に機能停止した2号機は墜落して海に沈む。


 『ふう。スッキリしたッスねー!』


 『これ機体云々の前にシャルルがシャルルなだけじゃ・・・?』


 模擬戦モードが解除されたので、アンフィは海から飛び出した。水中でもある程度は活動可能に調整されているのかもしれない。その一言があんまりにも的を射すぎていて、誰もなにも言えない。デインがこれからはシャルルにテストパイロットは頼まないようにしようかな、とか呟いている。


 「とりあえず・・・機体を回収しますので戻ってくだされ・・・」


 『了解ッス』

 『はい・・・』


 ファクトリーの中に2機の《エリオッサ》は格納されていく。それからしばらくして、初めの応接室にアンフィとシャルルが戻ってきた。


 出された紅茶を啜って一息ついてから、アンフィが動かしてみた感想を言う。


 「―――いや、実際良い機体だと思いましたよ。はい」


 「それはなによりで・・・」


 とは言うが、アンフィは腑に落ちないところがあるというか、どこか哀愁を漂わせている。そりゃそうだ。

 デインはアンフィと比べるために恐る恐るシャルルを見るが、当のシャルルはご機嫌である。コイツの場合は新型機を誰よりも早く楽しめただけで十分だったのかもしれない。


 「いやー、大満足ッスよ!あの性能を1つの母艦に複数機配備した暁には連合の優位性も格段に上がること間違いなしッスよ!」


 「いやでもシャル、遠距離装備で近接装備をボコボコにしたって知れたら配備を見送られるんじゃないか・・・?」


 「そんなの大丈夫ッスよ。今回は相手が悪かったんスから。んっはははははー」


 「止めどなく溢れる自信だな」


 「当然ッス。ユウキはもっと私を褒めてくれてもいいんスよ?そしたらもっと嬉しくなっちゃうので」

 

 「わー、シャルル様カッコイイステキー」


 「んっふふ♪まぁだからと言ってアンフィを責めないであげてください。アンフィも本当は非常に優秀かつ優良なパイロットですからね」


 その横でアンフィが真っ白に燃え尽きているんですが。


 しかし、シャルルの言う通りらしく、データ的には十分ゴーサインを出せる結果は取れたらしい。部下が持ってきたデータを確認したデインはホッとしたような虚しそうな、どっちつかずの顔をしている。

 

 「ま、まぁ今日はシュタルアリア中尉もベーコン少尉もご協力いただきありがとうございました。自分も今後の開発に関していろいろ勉強になることも多かったですな・・・。あぁ、それから、中尉。これが我が方で開発した渦状噴射システム式スラスターの情報になります」

 

 「いえ、こちらこそありがとうございましたッス。情報の方もありがたく使わせていただくッスよ」


 ポルックを介してデータを受け取ったシャルルはさっそく内容を確認して、「なるほどッスね」などと呟いている。もしかしてぱっと見で理解したのだろうか。これだから。


 白い灰になっているアンフィを崩さないように気を付けながらシャルルと俺で担いで、俺たちは応接室を後にした。ゲッソリとやつれたデインが略奪にあったあとの村民みたいに見えて、悲惨だ。

 ココアとサーシャはまだ《エリオッサ》に乗りたがっていたが、メンテナンス作業を行うのでダメと言われてしょげているし、アンフィもこのザマだ。俺たちの中で唯一元気な銀色の悪魔だけが鼻唄を歌う。


 開発局の建物から出ると、マスコミがやって来ていた。新型機の初お披露目ということで、集まっていたのだろう。危険だから演習場周辺での撮影は行われていなかったらしいが、それでも模擬戦の様子はバッチリカメラに収められていたらしい。

 この場合、なにが話題になるのだろう。機体性能が高いこと?それともシャルルTUEEE?


 ・・・なんて考えていると、なんか見覚えのあるオレンジ髪とメガネのナイスバディレポーターが走ってきて、シャルルをガッシリ捕まえた。


 「うわっ、なんスか突然」


 「はいはーい!みなさんこんにちは、こちら現場のシルヴィアでーす!さっそく今回のテストパイロットを務めたシャルル=シュタルアリア中尉とアンフィ=ベーコン少尉を捕まえました!突撃取材といきまししょう!」


 「なるほど、取材ッスね!是非に!いやー、アレは良かったッスよ!さすがはエース向けといったところで一般機を遙かに凌ぐ機動性を発揮しましてですね、特にシールド保持アームの可動域が立体的に広いので戦術の幅が広がりますしセンサー系統も今まではフラッグシップとして運用されてきたワンオフ機相当の超高性能センサーを採用していたので射撃サポートが充実していてですね、あぁ、あとあと、細かいところの話をするッスけどやはり関節の駆動角度はやっぱりあと15度拡大した方が効率的に・・・まぁそれは良いとしてもッスね、やっぱりあの速度域の中で操縦するにあたって実際は過剰な負荷が機体に掛かっているはずッスけど関節部のパーツは見たところ《ライオス》のものと形状は変わっていないんスよ、それってつまり《エリオッサ》の内部フレームは構造こそ従来品の形式を踏襲しつつも全く別のより頑丈な材質で作られていると見るべきッスね。ということは恐らく装甲を薄くしてはいても被弾時に受ける損傷は多少軽減出来るはずッスから乱戦においても高い継戦能力と生存能力も誇っているものと―――」


 「は、はーい!詳しいお話ありがとうございました!気にはなりますが時間も押しているので次いきましょう!ベーコン少尉も、新型機について感じたことや、これからの活躍の可能性に関して思うことなどを!」


 「・・・・・・うん、あれは活躍すると思うよ。うん」


 「な、なんかテンション低いですね?もっと上げていきましょう!いえーい!」


 「・・・へっ」


 「あぁっ!?」

 

 シャルルからのアンフィでテンションの落差が大きすぎて、シルヴィアが狼狽えている。結局まともな回答が得られないまま時間が来てしまったらしい。


 「で、では現場からお送りしましたー!バイバーイ!あはっ、あはははは、あはは・・・・・・ハァ・・・」


 「すいませんシルヴィアさん。ウチの隊長と副隊長が」


 「あぁサクマ准尉、名前覚えてくれたんですね。今日はみなさんご一緒だったんですか。もう見ていた感じだけでも良いので一般人にも分かってかつ内容のある情報をいただけないですかね・・・?」


 「俺に聞くんですか。・・・まぁ、映像あるなら分かると思いますけど、乗り手によってはあれだけ動けるし、攻防一体って感じだから連携を得意としている連合の戦術には組み込みやすい機体だと思いますよ」


 そう思いますよ。はい。

 街頭インタビューみたいな感想なのに、あの2人の後だとすごくマトモな意見に聞こえただろ。少なくとも俺は今自分が自分で誇らしくなるほどマトモな人間になった気分だ。ちょっとジーンとくるくらい。お父さんお母さん、俺真っ当な人間になったよ。多分。


 シャルルとアンフィは他の放送局や週刊誌の記者陣に引っ張りだこになっていて、俺とココア、サーシャは蚊帳の外だ。シルヴィアはカメラマン(カメラが俺の知ってるデジカメより小さいが)を連れて俺たちと一緒に有象無象から一歩離れたところでそれを眺めている。


 「ウチの放送局が入手した情報では《エリオッサ》は2パターンの装備があるって話でしたけど、というか実際そうだったんですけど、あれはどういうことなんですかね」


 「知りません。シャルに責任を追及してください」


 「おい原始人、なんで中尉が悪いみたいに言ってるんですか!?ブッ殺しますよ!」


 「だからその物騒なものをしまえ!!・・・いや、悪いと言ってるわけじゃないんだけど、あれじゃあ一般大衆からしたら装備分けた意味なくね、となるわけで」


 「じゃあ誰が悪いんですか。原始人ですか?」


 「はいはい俺が悪うござんした・・・ってオイ!」


 「ノリツッコミですか?うわ・・・さっむ」


 この世の悪いことは大体ココアのせいかもしれない。

 俺とココアが取っ組み合いを始めると、シルヴィアが興味深そうにこちらを見てくる。


 「昨日も思いましたが、お2人って仲良いですよね」


 「これのどこが」

 「仲良いんですかね!!」


 「そういうところが?」


 「・・・」

 

 「ほら、シルヴィアさんがそんなこと言うから俺が殺される!!なにかにつけて殺されかける俺の気持ち!!」


 もしも俺とココアが仲が良いのだとしたら、生前の俺は世界中の人間とお友達だよ、と大声で言えただろうな。だって普通、外人だろうが宇宙人だろうが初対面の人間に本気の殺意をぶつけてくる人間なんていないし。・・・いや宇宙人の普通は知らないけれどきっとそうに違いない。そして宇宙人がそうならましてや原始人ならなおさらそうだ。いや、俺は原始人じゃないぞ。

 それに、実際に何度か殺されかけた俺がこうしてココアと一緒にいるのは怪我しても魔法でなんとかなる保険持ちだからであって、ドラマとか感動体験のお話じゃあるまいし、普通外人だろうが宇宙人だろうが自分を平気で殺そうとするヤツと一緒にいたいなんて思わないだろう。・・・いや、宇宙人の普通は知らないけれどきっと同意してくれるに違いない。そして宇宙人がそうならましてや原始人ならなおさらそうだ。だから俺は原始人じゃないってば。

 殺人鬼とお友達なんてマンガの世界かよ。


 なにが可笑しいんだシルヴィア、ニヤニヤしてないで助けてくれ。俺にナイフを振りかぶるココアを全国ネットで晒してくれ。それを必死の止める俺の姿を世界中に届けてくれ。イジメ、ダメ、ゼッタイ。ノーモア殺人。平和、バンザイ。

 なんだか分からないがココアの振りかぶるナイフには刃がないのに、いやぁな感じがする。見えない力が刃の形を為しているような。鼻先に熱を感じてちりちりする。そういえば中性子をなんたらかんたらと言っていた気がするが。 

  

 そろそろバリア張ろうかなぁ、と思っていたとき、不意に服を引っ張られた。


 「な、なんだいサーシャ?」


 くぅ、という音がサーシャのお腹から聞こえる。 


 「にぃ。おなかすいた」


 ―――人が殺されかけているのに随分と暢気ですねサーシャさん。


 しかしサーシャだから許せる。さすがマイスウィートリトルシスター。ココアの例があるから必ずしも可愛いは正義とは言えないが、サーシャは正義だ。でも、お腹空いたって言う前に助けてください。

 

 「おなかすいた。お昼ご飯行こう」


 「・・・」


 「おな―――」


 「聞こえてたって。しかたないな・・・よいしょ」


 「にゃっ!?」


 魔法の力でココアを放り投げて、俺はサーシャの悩みに集中した。とはいえ、俺はアメとかを持ち歩くほど女子力は高くない。どうしたものか、ガムくらいは持っておけば良かったかもしれない。

 するとシルヴィアが代わりにサーシャになんにもない掌を差し出した。なんのつもりかと思って俺とサーシャが見ている前でシルヴィアは手を握って、パッと開く。


 「はーい、こんなところにアメちゃん」 


 「「おおっ!」」


 こやつ、なかなかやりよるな。


 嬉しそうにアメ玉を頬張るサーシャを見ているとこっちも口の中が甘くなってくる。

 さて、手品を披露してニコニコのシルヴィアは俺に新しい話を持ちかけてきた。しかしその視線は俺というよりサーシャの方を向いていて。


 「さて、アメの代わりと言ってはなんですけど、この後、シュタルアリア中尉とベーコン少尉がお話を終わったらで大丈夫ですので私たちと一緒に食事というのはどうでしょう?いろいろ聞きたいお話があるので。あ、もちろんお代はこちらで出しますよ?うふふ」


 「恩売ってきた!?さてはやっぱりアンタやり手だな!」


 「そんなに褒めないでくださいよユウキさん。あなたと私の仲じゃないですかぁ」


 「いつの間にか名前で呼ばれてる!てか昨日会ったばっかりでしょ!?」


 「で、行くんですか、行かないんですか?おなかが空いてるんでしょう?」


 「いや俺はまだ―――ハッ!?」


 コイツ、まさかサーシャが食いしん坊だということを知っているということか!?き、汚い・・・!だからさっきから俺に話を持ちかけているくせにサーシャの方を見ていたのか!サーシャは食べ物で誘われると弱いのだ。そんな話を持ちかけられたら・・・。


 気付いた頃にはもう遅かった。


 「ごはん?ごちそうしてくれる?分かった。行く!どんなところ?」


 「それはもう、美味しいところですよ?」


 隊長のシャルルもいないところでヒラ隊員相手に勝手にアポを取り付け、シルヴィアはステキな笑顔を浮かべていた。

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