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15話 俺、双子の美少女に拉致られました

ちょっと土曜日の投稿サボ・・・んっんー、お休みします。下でも広告してるもう片方の連載作品のストーリー原稿のストックが心許なくなってきたので原稿用紙40枚分くらい書き足したいとかなんとか・・・。


 俺たちがやってきた表彰式が行われるデッカイ建物―――ケリアンオルト連合国建国100周年記念国民文化会館とかいう長ったるい名前らしいのだがそれは今はどうでもいいとして、そこに集まってきているのはどうやら今日戻ってきた『アトラス』からの受賞者だけではないらしい。

 リムジンから降りれば、俺たちの他にも大勢の軍服姿がいた。いよいよ思った通りの巨大イベントに参加するんだなと実感する。

 パパラッチたちの間をくぐるようにして屋内に入ると、式に参加するわけではないサーシャが俺たちと別れ、レイモンドも「俺はすごく偉いから特別席なんだ」とか言って別行動。

 巨大な館内もやっぱり式典に相応しい格好をした方々がたくさんいて、場違い感がすごい。


 と、そこでふと気になったのがシャルルたち『アトラス』の女性陣の服装だ。他の女性受賞者たちは揃って軍服か、一部に至ってはゴージャスなドレスなんかを着ている。知っての通り、セクハラ同然の制服を着用したがらないウチの女性クルーたちはそれぞれ勝手に私服を着ている。


 「なぁ、シャル。お前らってそんな格好でいいの?もっとこう、フォーマルな服装をするべきなんじゃ?」


 「それなら心配いらないッスよ。もうウチの事情は式の運営側も分かってますから貸し出し用にそういうのは用意していただいてるんスよ」

 

 「なぜそれでもあのデザインを改めないのかサッパリ分からない」


 「あの人は元々自分のやりたいようにしかしない人ッスからね。自分の艦の中は自分の好きな世界にしてるんスよ」


 いや、誰も着ていない時点でなんの意味もない気がするんですが。


 「それよりユウキも、いつもの制服だからといって気を抜いちゃだめッスよ?ほら、ネクタイは緩んでるしベルトも締めが甘いッス」


 「うおっ、ちょっ!?」


 報道陣のカメラもあるというのにシャルルは臆面なく俺の身嗜みを整え始めた。なんでこんなときになって嫁力全開なんだよ。

 ほら、なんかカメラマンやレポーターさんたちがザワザワしてる!気持ちは分かったから大勢の目に止まる場所で新妻っぽいことしないでください!恥ずかしい!


 そうこうしていると、さっそく何人かのレポーターが俺たちのところに集まってきた。ただ、よく見るとマイクを持っていない。でもまさかなんの録音装置も持っていないはずがない。きっと異世界風超未来テクノロジーマイクなのだろう。


 「あなたが先日『アトラス』のクルーに加わり、しかも連合国でも1、2を争う超精鋭チームであるシュタルアリア特務隊の一員となったサクマ=ユウキ准尉ですね!?」


 「は、はい、そうですが・・・」


 「おー!!まさかこんなにもすぐにご本人とお話出来るとは思ってもみなかったです!」


 俺に張り付いてやたら興奮しているレポーターさんは、オレンジ色の髪を腰当たりまで伸ばして、毛先10センチくらいのところで束ねていて、髪と同じ色のフレームのメガネをしている。あと、胸がデカい。

 こんなところで変に興奮してしまうのはマズいので、俺はなんとか話す内容を考えながら胸から目を逸らした。・・・が、かと言って目を見て話そうとするのも恐い。

 この人、なんかオカシイかもしれない。まるで餌付けされている最中の動物のように舌舐めずりをしてハァハァ息を荒げるし、目はやたらキラキラしていて仕事をする人のようにも見えないし・・・。


 「俺・・・じゃないや、私はそんなに有名なんですか?」


 「なにを言ってるんですか、突如として現れミサイルによる奇襲から『アトラス』を単独で守り切り、そしてルィンバルカ帝国のエルミアナ王女殿下をテログループの魔の手から救い出し、瞬く間にその名を広めた謎の若きスーパースターなんですから、当然でしょう!」


 「ブッ」


 いやいやいやいや、なにそれ、マジで?マジですか?俺今そんな国中でトレンド急上昇中なレベルで有名人なんですか?いやね、全くもって挙げた功績はその通りなんだけれども、でも普段の生活態度とかその辺を鑑みればどう考えてもプラマイゼロなんですって。

 チラッと周りを見れば、誰も彼もが俺のことを見ている。となると、このレポーターさんが言っていることは確かなのかもしれない。えぇ・・・。


 「そ、そんな大したことはしていないんですけどね、本当に・・・。焦ってメチャクチャに手足をばたつかせていたらたまたま上手くいってきただけ、みたいなものなので・・・」


 「けっ、謙遜っ!聞きましたかみなさん、このキングオブ謙遜!清き謙遜、いただきました!」


 ・・・もしかしてライブ中継?


 「それでですね、時間さえよろしければサクマ准尉にいくつか質問をしたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 「え、あ、はい」


 「どうにも准尉の活躍の裏には非科学的な現象が起こっているという話を耳にすることがあるのですが、そのようなことが本当にあるんでしょうか?」


 「へ?あ、えっと・・・」


 この場合、どうしたら良いのだろう。実は魔法使いなんですなんて言ったら国中が大パニックになるか、俺がペテン師扱いになって路地裏でリンチされるか・・・。いや、リンチなんて俺の手にかかればちょちょいのちょいで返り討ちなのだが、どっちにしても碌なことにならない気がする。そもそもシャルルが初めそうだったように、俺を絶好の研究対象として見る人は出てくるはずだ。

 マッドサイエンティストに捕まって実験台の上でぐちゃぐちゃになるまで研究される自分の姿を想像すると吐き気がする。もしかしたらなんだかんだ体中を弄られた末に仮面○イダーにされて悪の組織と戦う宿命を背負わされるかもしれない。どこからどう見ても物語の主人公だが、そんな主人公イヤだ。


 返答に詰まってシャルルやアンフィの方を見たが、2人とも別のレポーターから取材を受けているところだったので諦め・・・ようと思ったそのとき、シャルルの取材がひと段落したらしい。しかも、さすが我らが隊長どの、俺の方の話まで聞いていてくれたのか、スッと俺の耳元に近寄って助言してくれた。


 「(どうせおおっぴらに使ってるんスから多少ネタバレしても問題ないッスよ。変な連中が騒ぎ立てても私がそれはもう強大極まりない権力で押し退けてあげるッスから)」


 「(ありがたいけど穏便に解決してくれ)」


 「・・・?サクマ准尉、どうかなされましたか?」


 「あーいえ、なんでも。えっと、非科学的な現象?でしたよね」


 「はい!本当ならば、少しでよろしいので!」


 「まぁ、確かに私は現代の科学では説明のつかない技術を行使することが出来るんですよね。俗に言うと魔法使いみたいに」


 「ま、魔法使い・・・ですか?」


 呆気にとられたようなレポーターさんの顔。はいはい、分かってましたよ、そんな顔するって。これで一躍有名になったスーパースターもイタい男の子にランクダウンだ。


 「魔法!魔法ですか!確かに未知!まさに不可思議!ぶばっ」


 「うおっ!?」


 「いけない、興奮しすぎて鼻水と涎が!?」


 この女、やはりオカシイ系だった!この世界に来てからといい、なんで俺の前に現れる人間はイロモノ揃いなんだよ!しかもコイツ、ハンカチもティッシュも取り出さずに腕で涎を拭った!汚え!つか鼻水もどうにかしろよ!


 「ずびびっ・・・。サッ、サクマ准尉はどのようにしてその技術を手に入れ、使用しているのでしょうか!」


 「何事もなかったかのように続けるのかよ!?」


 「おや、なにかあったでしょうか、うふふふふー」


 「ダメだ・・・勝てる気がしない。えっとですね、入手した経緯についてはオススメ出来るものではないのでお教えできないんですが・・・」


 「なぜオススメ出来ないんでしょうか?それほどまでに危険なんですか?」


 「それはもう、本当に危険ですよ」


 ―――だって死ぬし。


 「ですが、使い方はなんとなくなら言えますね。要は想像力さえあれば、体内のエネルギーを使ってあらゆる現象を引き起こせるんですよ。スポーツみたいな感覚論なんですがね」


 「ははぁ・・・これは実に興味深いお話ですね」


 「そうですか。まぁ、みなさんの話題の1つとしてお楽しみいただければそれくらいが幸いです、はい」


 そもそもこの今の世界の連中が持っている程度の想像力では魔力があっても碌な魔法が使える気はしない。そのうち想像力も機械で補い始めそうなところは恐いが。

 さて、俺はもう十分質問に答えたはずだ。このゲテモノレポーターさんも早く次の取材に行ってくれないだろうか。しかしレポーターさんはまだ興味の尽きない顔をしている。


 「その黒い髪と黒い目は元からそうなのでしょうか?それと、猫背やなで肩もわざとではなく?」


 「目も髪も元々黒いんですよ。・・・それと姿勢に関していちいちツッコミを入れないでください」


 言われてやっと、俺はずっと猫背のままインタビューに答えていたことに気が付いた。スッと姿勢を正し、肩をモリッと持ち上げて、全部なかったことにした。

 レポーターさんはよく分からないという顔をしているが、俺の国では人様と話すときには姿勢を正して話しなさいと教えられてきたのだ。・・・意識したことなんて今まで一度もなかったが。

 

 いい加減コイツどっか行かねぇかな、と俺は思い始めたのだが、レポーターさんはまだまだなにか聞きたげだ。


 「それで、どうなんでしょうか?」


 「・・・なにがです?」


 「決まってますよ、『アトラス』での生活についてです。しかも、シュタルアリア特務隊と言えば構成メンバー全員が女性だったんですよ?しかも美女美少女揃い!やはりそこに加わった唯一の男性として―――」


 「ええ、とにかくみなさん個性的で、振り回されて大変なときもありましたね。何回か殺されかけ―――おっといけない」


 「一体なにが!?」


 「いえいえなんでもありませんよ。男女とかそういうのはなく、普通にとても仲良くやらせていただいてますよ」


 いけない、勢いでとんでもないことを暴露してしまうところだった。

 男女関係なく、と言ったところでシャルルの背中から無言の重圧がかかってきたが、今は知らんぷりをした・・・が、しかし、レポーターさんがそれを許さない。


 「そうは言いますが、先ほどはシュタルアリア中尉とも親密な様子で」


 「気のせいです」


 「いえ、でもさっきネクタイを締め直したりとか、みなさんの前で堂々と―――」


 「いいえ、気のせいです」


 「そうです気のせいです中尉とそこの原始人が親密な仲であるわけがないじゃないですか」


 「シュガースイート伍長まで!?」


 取材を終えたらしいココアが参戦してきた。というか公の場でも堂々と俺を原始人呼ばわりするんじゃねえ。レポーターさんもギョッとした表情で俺のことを見てるじゃないか。


 「げ、原始人とはどういう・・・?まさか、そういうご趣味で?」


 「誤解ですよ!というかどういうご趣味ですか!この国の民放はやりたい放題か!ちょっと機械音痴なのをからかわれているだけですよ!」


 人様のご趣味を疑うインタビューなんて過去一切を振り返ってもみたことも聞いたこともない。ココアが「ちょっとどころの話じゃ・・・」とか言っているから俺は力尽くで黙らせた。

 ・・・てか、だから公の場でなにやってんだ俺。あの涎・鼻水垂れ流しのレポーターさんでさえ困った顔をしているではないか。


 「えと、本当に仲が良いようでなによりです・・・」


 「仲良くむぐっ、んー!!」


 「えぇー、もうそれは、ホントにねぇー、あははははは」


 「んぐっー!」


 「い、以上、サクマ=ユウキ准尉でした!では次の取材へ参ります!少しの間、バイバーイ!あは、あはははは、あははは・・・ハァ」


 俺とココアが見ていられないくらいおバカな姿を晒すのでさすがにカメラを降ろしたらしい。レポーターさんはカメラに向けてしばらく手を振ってから大きく溜息を吐いた。

 しかし、レポーターさんはカメラが切れた後になって、改まって挨拶してきた。


 「では私は次の仕事があるのでこれで失礼しますね」


 「ホントごめんなさい本ッ当に申し訳ないですこんなんで本当にごめんなさい」


 「いえ、お気になさらず。むしろトンデモ超人で人を寄せ付けない圧倒的カリスマパワーを出している人だったらどうしようかと緊張してたので、このような親しみやすい方で安心しました。きっと今より人気出ますよ」


 「・・・」


 素直に馬鹿みたいな人と言ったらどうなんだ。チクショウ。カリスマ性ゼロで悪かったな。こちとら元ヒッキーなんだよ。そんなものあるわけないだろ。誰も寄せ付けないほどの根暗オーラならいくらでも放つ自信はあるがな。

 

 「そんな不機嫌そうな顔しないでくださいよ。素直に思ったことを言ってるのに。この後『アトラス』はしばらくメンテナンスもあって出航出来ないんですよね?ということは准尉たちもしばらくは休暇だと思うので、その間に是非もう一度お話をさせていただきたいです」


 「面白い話なんてないですよ?」


 「それを面白くするのが私の仕事ですので。では、今後ともよろしくお願いしますねー!」

  

 そう言ってレポーターさんは名刺のようなものを俺に押し付けた。これに書いてある連絡先にかけろ、と?ウインクしながら去って行くお姉さんには最後まで勝てる気がしなかった。アレはアホの皮を被った仕事人だ。

 受け取ってしまった以上は仕方がない。俺は名刺を見てみた。


 「・・・って、これ手書きかよ!やっぱアホだけどすごいな!」


 シルヴィア・エヴァーランド―――その名、覚えておこう。

 

 名刺を上着のポケットにしまって、俺はみんなの様子を窺った。

 さっきから交代交代でひっきりなしにインタビューが続いていて、一向に前に進める気配がない。特に、俺とシャルルだ。シルヴィアが去った後、俺とココアのあの醜態を見てなお押し寄せてくる取材陣、恐るべし。

 十を超えるインタビューの中で、俺は最初の経験も踏まえ、無難な答えを機械的に返していくことで緊張を緩和するという最終必殺奥義を編み出していた。


 アンフィとココアはどうやら取材が終わったらしく暇そうにしている。


 「おーい、シャルル、私らそろそろ行かないと着替える時間なくなるよ」


 「おっと、それもそうッスね・・・。ではみなさん、そろそろ時間が押してきましたのでごきげんよう」


 なんか上品な言葉遣いで残りの取材を断って、シャルルは戦線を離脱。

 俺もそれに乗っかってその場を離脱することに成功した。


          ●


 「さすが中尉、大人気でしたね!連合国軍きってのエースパイロットの名は伊達じゃないってことです!」


 関係者以外立ち入り禁止のところまで来れば、静かなものだった。もちろん同じ受賞者に人たちはいるけれど、さっきと比べれば全然違う。


 「ホントだよ。シャルなんて軍人なのにアイドルみたいな人気だったじゃないか」


 「アイドルなんて照れるッスよぉ。いやぁ、いつもなら面倒くさいとこだったッスけど、今回はユウキと私の関係を宣伝する良い機会になっ―――」


 「オイ。マジで言ってんのか?」


 「か、かるーく、かるーくだけッスよ?」


 「信じるからな?結構仲良しなんですよ、くらいで済ませているものだと解釈するからな?」


 「オーケーオーケー・・・そんなにすごまないで欲しいッスよ・・・」


 シャルルの大胆な性格からしたらちょっと信用ならない。明日になってなんか変なウワサが流れたりしないことを祈ろう。

 

 それにしても、さっきからシャルルやアンフィに声をかけてくる人が多い。みんなやたら仲良さげなのだが、こうして見ていると2人が大物だったのだと実感する。

 と、俺がもの思いに耽っていると、誰かとぶつかってしまった。


 「あぁっ、すみません余所見してました!」


 「んん?」


 低くて野太い声がして、俺はすぐにヤバイ人とぶつかってしまったと確信した。

 見てみれば、2メートルはあろう長身に浅黒い肌、スマートではあるが明らかに鍛え方が違う筋肉質なナイスバディ、ワルそうな顎髭と三白眼に血の色をした刈り上げヘア・・・。


 「そのナリ・・・ほう?これが―――」


 「あわ、あわわわわわ、あわあわあわああわわあわ」


 ドスの利いた声を聞いて今度こそ死んだかなー、と思ったが、そんなこともなかった。というか、よく考えたらこっちにはシャルルがいるのだ。ココアを暴走させない限りはそう滅多なことは起こるまい。


 「おや、これはこれはグランツ大尉じゃないッスか」


 「シャルル中尉、ひさしぶりだな。またデカい戦果を持って帰ってきたんだってな。聞いたぞ」


 「フフン、それを言うとしたらまず一番デカい戦果はそこにいるユウキを拾ったことッスね」


 「違いないな。入隊してすぐに准尉にまで繰り上げなんて異例の事態だ。上もボウズの能力が気になって仕方ないと見た」


 案の定シャルルとは仲が良かったらしく、俺はホッとした。ドスの利いた声もフレンドリーなしゃべり方である程度中和されている。具体的には、普通に恐いくらいになった。


 「ほら、ユウキ。こちらは連合空軍主力部隊のエース、グランツ=ワース大尉ッス。ご挨拶を」


 「あ、えっと、初めまして。サクマ=ユウキと申します」


 「おう。有名人だからどんな性格してんのかと思ったが、なんかフツーだな」


 「ど、どうも・・・」


 「・・・よしよし」


 「ユウキ、そんなに緊張しなくたっていいんスよ?ムショ上がりみたいな顔してますが良い人なので安心してくださいッス」


 「誰がムショ上がりだ」


 今のグランツの顔を見てどう安心したら良いのだろう。いやいや落ち着け俺、人は見た目で判断してはいけない。可愛い顔の女の子が全然可愛くないなんてことが当たり前に起きる世界なのだから。

 グランツは俺たちと一緒に歩き始めたのだが、グランツに挨拶する人はシャルルと同じくらい多い。シャルルの言う通り、良い人なのだろう。見た目は恐いけれど。


 「ところでアンフィ少尉、また撃墜されたんだってな」


 「いや・・・まぁ。お恥ずかしい限りで・・・」

 

 「はっは!気にするな。むしろちょうど良い時期だ。多分この後少尉とシャルル中尉には召集がかかるぞ」


 さすがのアンフィもグランツにはかしこまっている。ココアについてはグランツが苦手なのかシャルルの陰に隠れているが、グランツもそれを咎めるようなことはしていない。

 階級は大尉だが偉ぶった様子もなく、とても人当たりが良い人のようだ。目は常に凶暴だが。


 しばらく話をしてから、シャルルたち女子組は衣装を借りに行くからと言ってどこかへ行ってしまった。

 当然ながら、俺とグランツの2人きりになる。もういい加減にグランツが良い人なのは分かったが、だからといっていきなり2人はキツい。

 無言、沈黙、圧力。なにこれ、すごい気まずい。なにを話せば良いのだろう。


 「え、えっと・・・グランツ大尉」

 

 「なんだ?気軽にグランツさんでも良いぞ」


 「あ、いやそれはもう少ししてからでも。あんまり馴れ馴れしくするのも失礼かと・・・」


 「良いから良いから。男同士に遠慮なんていらないだろ」


 そういうものなのだろうか?まぁでも、グランツがそうして欲しいと言うのなら従うのが妥当だろう。この寛容さ、あのクソ艦長にも見習って欲しいものだ。


 「じゃあ・・・グランツさん」


 「・・・よし」


 「グランツさんってシャルたちと仲良いんですね。やっぱりエース同士よく会うこともあるとかですか?」


 「まぁそんな感じだ」


 「へぇ・・・」


 ―――会話、続かねぇ!


 「えーと、あのー、でー・・・」


 「ユウキ准尉」


 「はい?」


 「若いとは聞いていたが、思っていた以上に若いな」


 「あ、はい。まだ17歳です」


 「・・・よし。しかし准尉はひょろっこいな。女と変わらないんじゃないか?」


 「ウッ!そ、そんなことはないですって・・・多分。筋力だってギリギリ女子よりは高い・・・はず!」


 「・・・それもまたよし!」


 さっきからこの人、「よし」と言う度にガッツポーズをするが、なんなのだろう。俺はグランツを喜ばせるようなことは言っていないのだが。

 シャルルらと違って俺やグランツは着替える必要がないので、受賞者控え室に入った。てっきり楽屋みたいに1人1人別なのかと思ったが、パーティー会場みたいな大きな部屋が用意されていた。

 会場に現れたグランツの顔を見るなり大勢が礼儀正しく挨拶をした。さすが大尉といったところか。

 それから―――。


 「みんな、こちらがサクマ=ユウキ准尉だ!よろしくしてやってくれ!」


 「へっ!?あ、えっと、よろしくお願いします!」


 ―――俺のペース!!


 なんだかんだで大勢に対して一斉に挨拶を済ませてしまった俺はグランツと一緒に挨拶回りをする羽目に。いや、いずれ通る道だろうとは思っていたから文句は言わないが、こんなにたくさんの人の顔を一気に覚えるなんて絶対に出来ない。

 というか直近3人の顔を思い出すのが限界、名前はさらに1人減って2人分覚えておくのが限界だ。そういや俺を引きずり回してるこのオッサンの名前なんだっけ。


 端正なやつばっかで俺に喧嘩を売っているとしか思えない他人の顔と長ったるくていちいち覚えていられない名前で俺の脳がカオスを創製し始めたとき、聞き慣れた爽やかボイスが俺の鼓膜を叩いた。


 「なんだユウキ、もうグランツに引っかかったのか」


 「レイモンド・・・少佐じゃないですか」


 「オイ、お前今俺のこと呼び捨てにしようとしただろ」


 「ないです。なんならシャル呼んできますか?」


 「今なら勝てる気がするが・・・まぁいい、勘弁してやる。グランツも、ひさしぶりだな」


 「お久しぶりですレイモンド少佐。お会いできて嬉しいです」


 「よせよ気持ち悪い」


 「・・・よし!」


 だからなんでそこでガッツポーズをするんだ。

 俺が怪訝な顔をしていると、レイモンドが俺と肩を組んできた。やめろよ気持ち悪い。


 「お前グランツになんかされたか?」


 「いや・・・別に。今まで会った上官の中では一番良い人だと思いましたけど」


 「そうかそうか・・・ん?なんか引っかかるような気が・・・?」


 「いえ、なんも引っかからないと思いますよ。レイモンド少佐に限ってそんなことはないですよ」

 

 「ふむ・・・まぁそうだな、俺のこの優れて頭脳を持ってして分からないなんてことはないか」


 どこからそんな言葉が出てくるんだ。そんなだから俺に尊敬されないんだろうが。

 俺とレイモンドのやり取りを見ながらグランツはニコニコしている。笑っていても顔が恐いが。


 「でもなユウキ、コイツには気を付けろよ?」


 「なんでです?」


 「コイツ、ホモだから」


 「・・・・・・なんて?」


 「グランツはホモ」


 ウソだと言ってよグランツ!頬を染めて微笑まないでさぁ!はっきりわかんだね!


 「いや、グランツも昔は普通だったんだがな?数年前の再編成で自分のチームのメンバーが全員女になった結果―――気が付いたらホモになっていたんだ」


 「なにがあった!?」


 「男仲間が恋しくなってきたんだとさ。それがこじれて・・・こうなった」


 「まぁ、そんなところだ。よろしくな、ユウキ准尉」

 

 グランツが差し出してきた手を俺は握り返せなかった。ホモなのを責めるつもりではないが、なんか汚される気がしちゃったのだから仕方ない。でも俺が難色を示すとグランツはまたガッツポーズをした。

 もうこの人、男なら誰でもなんでも良い状態だ。相手が男なら優しくされたらキュンとして、冷たくされてもご褒美になってしまう末期患者だ。

 レイモンドはそっと俺の肩に手を置いて、ボソッとこう言った。


 「ユウキもあいつらに囲まれてるからってこうはなるなよ」


 「ならねぇよ!」


 「あ、タメ口。減給するぞ」


 「なりませんよ!」


 あぁ、それにしても本当にショックだ。やっと純粋な気持ちで頼れそうな男仲間に出会えたと思ったのにホモだったなんて。いや、人の趣味にどうこう言うつもりはないが、1人くらいフツーの人はいないのだろうか。

 式が始まる前だというのにゲッソリとやつれた気がする。もう疲れた。さっさと休めるところに行ってぐっすり寝たい。これからまた大勢の人の前に出てなんかするんだと考えると卒倒しそうだ。誰か俺に癒やしを・・・。

 

 と思っていると、また周りの人たちが部屋のドアに向かって挨拶し始めた。

 大物がやってきたと思ってそちらを見てみれば、入ってきたのは見事にドレスアップしたシャルルたちだった。

 

 3人とも見違えるようだった。いや、普段でも十分美女または美少女をしている3人だったが、今はなんというか、とても上品になったと思う。

 特にシャルルが擦れ違う人に丁寧に挨拶をする姿はもしかして本当に別人が来たのではないかと思ってしまうほどだ。


 とりあえず落ち着くところに落ち着くかのように3人は俺とレイモンドのところにやって来たのだが、俺としてはいつもと違う3人を見ていてなんとなく落ち着かない。


 シャルルは白銀の眩しいワンピースドレスを纏い少し大人っぽく、いつも頭の左側で結っている二重リングはそのまま、後ろ髪も結い上げて良家のお嬢様っぽくなった。ハイテクカラコンも外したらしく、今は両目とも澄んだ蒼である。


 アンフィは元から大人っぽいスタイルだったが、それに青のロングドレスが合わさって、ともすれば浮き世離れした女性感が出ている。金髪と深い青を合わせるとどことなく深みがある。


 ココアはなんかフリルつきで膝丈スカートの赤いワンピースドレスだ。髪は下ろしているようでいつもよりおとなしめではあるがどっちにしろだ。シャルルと1歳差でこんなに雰囲気が違うと・・・なんか笑えてくる。


 「今原始人笑いましたよね、あたしのこと見て笑いましたよね」


 「いやなんか1人だけ子供っぽいなって思ってな。まぁ、見た目、だけ、なら可愛いんじゃない?良いじゃん良いじゃん、目の保養だ」


 「知ってます。というか原始人の分際であたしのこと可愛いとか言わないでください。そしてその汚い目で見ないでください。総じて原始人の蛮行によりあたしの価値が下がります」


 「ぶっ飛ばすぞ」


 ・・・これだから。


 「ユウキユウキ、どうッスか?」


 シャルルに袖を引っ張られてそっちを見れば、気取ったようにクルリと回る。上手に回るのでドレスの裾が綺麗に広がる。練習でもしたのだろうか。1回転してピッタリ止まり、スカートの端を摘まんで一礼すると、俺より先に周りが「おお」とざわつく。なんか悔しい。


 「なんていうか、すげえ似合ってるな。本当に借り物なのか疑うよ」


 「む、もっとストレートに『シャル、今日の君はいつにも増して綺麗だよ』とか褒めて欲しかったッスね。まぁ良いとしましょう」


 「絶対言わねえ自信がある」


 シャルルは俺の声真似をしたつもりなのだろうが、俺はそんなにイケボではない。というかシャルルの声のレパートリーって広いな。


 「まぁ・・・綺麗っちゃ綺麗だよな。いつもより大人っぽい。良家のお嬢様みたいだ」


 「やった。ありがとうございますッス。でもお嬢様はやめて欲しいッス」


 しばらくして、表彰式が始まった。 


          ●


 壇上の席に座って観衆たちを眺める。まるで人がゴミのようだ。・・・ウソです。そんな風なことを考えていないと緊張で吐きそうです。

 トレアノでの歓迎会のトラウマが蘇る。次にあんな恥ずかしい思いをしたら、引き籠もり生活に逆戻りするかもしれない。

 大体、なんでもって俺は最前列に座らされているのだ。4、50人くらいは受賞者がいて、俺より階級の高い人だってたくさんいるだろうに。隣がシャルルとココアなことだけが救いか。ちなみにアンフィは俺たちとは別口なので、少し離れたところに座っている。


 開式の辞みたいなのがあって、なんたらかんたらとしゃべっている。どうやら、今しゃべっているダンディな殿方が大国ケリアンオルト連合国の実質的トップである大統領らしい。名前はカーネル=タロット・・・なんか、なんていうか、某合衆国のせっかち大統領の名前をひねって作り替えたみたいというか、いや、気のせいだとは思うけれど。もしかしてヅラだったりするのだろうか。

 じっと話を聞いているべきだと思って背筋をピンと張っていると、シャルルが少し体を寄せてきて話しかけてきた。もちろん声を潜めてだが。


 「(えらく緊張してますね)」


 「(だってこんなの初めてだし)」


 「(ユウキ、勲章もいただけるんでしょう?もっと堂々してないと)」


 そう、俺とココアはエルミィの一件の功績を讃えられて双葉(そうよう)勲章なるものをもらえるらしい。調べた分では単葉、双葉、參葉、単華、双華、參華、鳳華という7段階の勲章があるらしく、俺たちがもらえるのはその2段階目のものだ。

 ちなみになぜシャルルはこれをもらえないのかというと、とっくに持っているからだそうだ。トラップにかけられた末、100機を超える敵軍を単独でぶっ潰したらもらえたとかなんとか言っていた。ちょっとなにを言っているのか分からないレベルだ。


 俺とシャルルがヒソヒソ会話していると、カーネル大統領が話を終えて席に戻った。進行役が項目を次へと進める。続いては、ついに表彰である。

 いよいよ出番だと思うといっそう緊張してきた。ドキが胸胸だ。シャルルはもっと堂々として良いんだと言ってくれるが、小中高通して一度たりともなにか受賞したりしたことがない俺は表彰式でステージの上に立ったことがないのだ。

 国王陛下とやらが賞状や勲章のエンブレムを乗せたトレイを持つ女性を連れてステージ中央にやって来た。・・・国王陛下ってなんだ。急に思いついたようにファンタジーっぽいもの出してきやがって。


 「(この国にも王様っていたんだな)」


 「(いるッスけど、国家の象徴みたいなもんッス。政治に関してはほぼ無干渉で、こういう国事にのみ携わってるくらいッスよ)」


 「(なんか他人事とは思えないな)」  

 

 イメージの掴みやすい国王様で良かった。いや、だからなにかが変わるってことはないのだが。

 

 一人ひとり受賞者たちが呼ばれていく。

 みんな呼ばれると立ち上がって観衆の方を向き、優美にお辞儀をして、壇上を歩いて横切り、真ん中に来たときと端に着いたときにもそれぞれお辞儀をする。その後に国王様の前へ行き、再び観衆へ一礼して、そして初めて国王様に向き直る。これが式典のルールらしい。

 移動時間が多く、注目を一身に浴びることを思うと、運びの簡単さとは裏腹に俺のメンタルを削ることは間違いない。今度こそ汗の水溜まりで転ばないよう気を付けないといけない。 

 

 「(さて、私は次ッスけど、ユウキもココアもちゃんとやるんスよ)」


 「(ま、まままま任せとけ)」


 「(りょ、了解です)」


 「(お前も緊張してんのかよ)」


 「(うるさいですよ。慣れない衣装で落ち着かないだけです)」


 そんなはずはない。入場の少し前もそのドレス着たまま俺と喧嘩して「フシャーッ」とか言っていたじゃないか。いや、でもそう思うと確かに落ち着きがなかったかもしれない。日常的に。


 シャルルが呼ばれて、前に呼ばれた人たちと同じように―――ともすればもっと上品にお辞儀して回っている。さっきは良家のお嬢様と言ったが、もはやここまでくると妖精さながらの可憐さだ。確かシャルルを初めて見たときもそう思ったっけな、と回想する。

 背中から見えない羽根でも生えているように凜としていて、足取りはまるで少しの緊張もしていないように軽やかに、踊るような仕草でお辞儀をする。白銀のドレスは照明の光を眩く反射して、歩く軌跡に(しろがね)の鱗粉を撒くかのよう。


 シャルルが湛えているとても自然な微笑を見ていると、さっきは照れ臭くて素直に言えなかったが、やはり綺麗なものだと思った。

 

 「(あれがその実根っからのロボオタなんだよなぁ)」


 7枚もの賞状と花束を受け取り、その上ティアラまでつけてもらって、シャルルは再び観客に一礼をして既に表彰された受賞者たちの列に加わった。


 そして、次は俺の番だ。

 呼ばれ、立ち上がり、足下に汗が溜まっていないのを確認―――よし。進行方向障害物―――よし。


 「(観衆は他人、観衆は他人・・・ただのオブジェだ、緊張するな俺)」


 人間を人間とも扱わない精神。口から音が出る機能付きの石像相手に緊張する理由はない。大丈夫、マナーは予習した。最初はレイモンドに教えられてウソ吹き込まれてないよなと疑ったが、そんなことはなかった。あとは冷静にやれれば恥をかくことはない。

 俺はまず一礼して、歩き出し、真ん中でもう一度観客(オブジェ)に一礼、さらにステージ端でも一礼。次は国王の前に行き・・・えっと、そうだ、さらに観客どもに一礼して、向き直る。完璧。俺はやれば出来る男なのだ。


 国王とはいっても、溢れ出すような威厳があるわけでもなかった。向かい合って分かるが、肩書きがなければどこにでもいそうなおじいさんだ。日本に連れて行って家の縁側でお茶を飲ませたら画になりそうな気がする。


 「えー・・・サクマ=ユウキ。貴殿は我が国の主力大型強襲艦である『アトラス』に仕掛けられた奇襲より単独でそれを防衛し、乗員の危機を救った。そしてそれのみならず遊撃作戦において遭遇したテロ行為より隣国ルィンバルカ帝国第四王女、エルミアナ=テトラ=フォン=ルィンバルカを救出するにあたり大きく貢献した。『アトラス』遠征作戦において中途での、そして初期は非軍関係者としての特別乗艦でありながら、貴殿の活躍には目を見張るものがあった。これは双葉勲章を与えるに値する。よってそれをここに讃え、これからのよりいっそうの活躍に期待することとする」


 俺は2つの賞状とエンブレム、そして花束を受け取った。さすがに重みがある。俺ってば、結構すごいことをしてきたんだな。

 俺は再び観衆に一礼して、シャルルの隣まで歩いた。


 その後も順調に式は進み、無事に閉式を迎えた。



          ●


 

 式が終わった後、受賞者や関係者が集う晩餐会があるとのことで、俺たちは記念会館内のパーティー会場に移動していた。

 

 「パーティーかぁ。誕生日パーティーすら知らない俺は大丈夫なんだろうか」


 当然ながらこの晩餐会はお偉いさんやお金持ちも大勢参加する盛大なものになるのだろう。友達とより合って一緒に誕生日を祝ったこともなければ部活とかの仲間で試合の打ち上げみたいなことをしたことも、もちろん、ない、俺で、ある。

 

 「おやおや、ユウキ、また緊張してるッスね。そんなに肩に力入れっぱなしで大丈夫なんスか?」


 「大丈夫なわけ。シャルはすごいよな、慣れてますって感じだ」


 「まぁ実際慣れてますしね。ユウキには私がついててあげるから大丈夫ッスよ」


 「それはありがたいや」


 ドレスとティアラでお姫様と化した今のシャルルがいれば大概のことはなんとかなりそうな気がする。

 ちなみにシャルルがつけてもらったこのティアラはなんの賞だったのか聞いたら、撃墜スコアが一定に達するともらえる、言ってみれば撃墜王の証みたいなものだったらしい。

 なんで撃墜王がティアラなんだよというツッコミはもはや野暮かもしれない。なんにしたってシャルルの銀髪に金細工のティアラは似合っているからそれ以上のことは気にしないでおけば良かった。


 俺とシャルルが挨拶回りを始めてちょっとすると、アンフィとココアがサーシャを連れて合流した。

 サーシャはクリーム色のドレスを着ていた。派手さこそないが、よく似合う。

 

 「おー、来たかサーシャ。ちゃんと着飾ってるんだな」


 「さすがに弁えてる。にぃもよく頑張ってた。えらいえらい」


 「うん、正直すげえ頑張った」


 「でもユウキ、ガッチガチだったじゃん。私後ろから見てたけど、いやー、可愛かったな」


 「仕方ないじゃないですかぁ!!」


 俺がアンフィに言い返していると、サーシャがシャルルの周りをクルリと一周回って、目をキラキラさせた。


 「改めて見ても。シャルルすごく綺麗。まるでお姫様」


 「それはどうもッス。サーシャはどっかの誰かさんと違って素直に褒めてくれるから素直に嬉しいッス」


 「どういたしまして」


 サーシャをなでなでしながら、シャルルが文句を言いたげに俺を見ている。


 「素直じゃなくてすみませんね」


 「ホントッスよ。まぁでも表彰式のときユウキが私のこと見る目はちょっと嬉しかったッスよ」


 「なっ!?気付いてたの!?」


 「あーんな熱烈な視線向けられたらそりゃあ気付かないはずがないッスよ」


 いくら着飾っていてもシャルルはシャルルだ。いつものように肩をすくめてシャルルは笑った。

 

 しばらくして参加者が揃ったので、開宴となった。挨拶をしているのは、またカーネル大統領だ。

 既にテーブルの上には今まで見たこともないようなご馳走が並んでいる。参加者のほとんどが上品にグラスを持ちながら大統領の話に耳を傾けているが、俺を初めとした庶民出身でこういう行事にも慣れていなさそうな連中なんかは早く飯にありつきたくてウズウズしている。


 乾杯の合図と共に、俺は上品かつ迅速に皿に料理を取った。横を見ればココアとサーシャもおんなじようなことをしている。

 

 「おや原始人、卑しいですね、そんなに焦って」


 「自分の姿見てから煽ってこい」


 「にぃ。あれ手が届かない。取って」


 「はいはいっと・・・」


 サーシャが取りたがっていた料理を見て、俺はギョッとした。どことなく見たことのある肉、これは間違いない。


 「こ、これは・・・フサム牛のサイコロステーキ・・・!?」


 見たところ、一口サイズ(お上品基準)の角切り肉だ。恐らく1個あたり10グラム前後。すなわちかかっているソースや塩コショウを抜きにした価格でも20万ゲルト相当。それが大皿の上にごろんごろーん。なんだここは、パラダイスか?


 ひとまず俺はサーシャにサイコロステーキを3個ほど取り分けてやった。つまり60万ゲルト分だ。・・・いかん、あまりにも高級すぎて食べ物が脳内で金に変換される。どちらもオイシイことには違いないだろうが。

 サーシャが肉を頬張るのを俺とココアはじっと見つめていた。サーシャに食べてもらうと、本来以上に美味しそうに食べてくれるので食事がさらに美味しくなるのだ。


 「もぐもぐ・・・」


 「ど、どうだ?」


 「美味しいですか?」


 「おいしい。すごく。ほっぺたが落ちそう。こんなお肉初めて」


 サーシャのほっぺたが本当に落ちそうなほどトローンとしている。これはもう本物だ。

 俺はさっそくフサム牛のサイコロステーキをたくさん・・・は貧乏くさいので、サーシャと同じく3個取った。横を見ればココアも目の色を変えて・・・3個だけ取っていた。


 「2人とも変に遠慮してるとむしろ貧乏くさいッスよ?」


 「「ギクッ」」


 さっきから後ろにいたシャルルが耳元でさりげなく一番刺さることを言ってきた。


 「2人ともサーシャみたいに遠慮なく楽しんじゃってくださいよ。見てみなさいあの子の皿を」


 シャルルが指を差した先ではサーシャが隙間を縫うようにしていろんなところのテーブルに張り付き、ひたすら料理をかき集めては食うを繰り返していた。そのままサーシャはどこかへと行ってしまう。


 「さすがサーシャ・・・食い意地だけは負けないな。だがそこが可愛い」


 食いしん坊系キャラは俺も嫌いじゃない。生前は萌えポイントとして評価していたものだ。

 ただ、あの高級食材を吸い込むように乗っけていく魔の皿だけは、遠慮を捨てても真似出来ない。あれはサーシャの無邪気さがあって初めて実現可能な夢の結晶なのだ。


 「あ、あたしはまぁ、ほどほどにしておきますね・・・」


 「俺はほどほどにするよ。あんまり舌肥やしてもこれからの生活に苦労しそうだし」


 「はぁ!?なんであたしに合わせるようなこと言ってんですか気持ち悪い!こうなったらバクバク食ってやりますよ!」


 「別に合わせてねぇし!?好きにすればぁ?」


 「はいはい、2人ともみっともないからそこまでッスよ」


 シャルルに仲裁されて俺もココアも仕方なく引き下がる。確かにこの場で喧嘩なんてしたら高級食材にがっつくよりかっこ悪い。 

 大人しくほどほどの料理を皿によそってじっくり味わっていると、アンフィが会場正面を指差した。


 「あ、艦長がなんかしゃべってるよ」


 『えー、この度は我が「アトラス」も無事に帰還出来ました。これもひとえに、全ての作戦において常に最大限の実力を発揮してくれたクルーたちのおかげであり、そしてそれは同時に入隊時から既に優秀な能力を発揮するクルーを多数養成してくださる軍学校と、支援を続けてくださったスポンサーの皆様のおかげということでもあります。今日はこの場をお借りして感謝を―――』


 「ホントだ。なんか『アトラス』の艦長みたいなことしゃべってるぞ」

 

 「まぁ仮にも艦長ッスからねぇ」


 「優秀とか支援とか感謝とか、キモいですね。心にもないことを」


 話を終えて壇上から降りたレイモンドに綺麗な女の人が数人集まっていた。あの見た目ばっかりのクソ野郎め、さも爽やかな青年を装って曇りない笑顔を浮かべている。


 遠くを眺めていて、お盆にたくさんのグラスを載せたウェイターさんがやってきたことに気付かなかった。なんかで見たことがある。パーティーではこうやって飲み物を回しているのだ。実物が見られるとか、なんかすげぇ。

 でも乗っけているのはほとんどがお酒と見た。まぁそれもそうだ。参加者のほとんどは成人なのだから。俺は背伸びはしないでジェリーフルーツのジュースをもらった。ジェリーフルーツという果物だが、これも十分高級な食材なのだ。果汁100パーセント、ブルーハワイに似た色合いのジュースを俺は受け取った。


 「あれ?ユウキはジュースにしたんスね」


 「だって未成年だからな・・・っておい、シャル。お前、それお酒じゃないのか!?」


 シャルルが手に持っていたのはなにやら薄紅色が綺麗な飲み物だった。

 俺が指摘すると挑発するかのように、シャルルはグラスに口をつけた。ちょっとだけ飲んでから妙に艶めかしく唇に残った味を舐め取って、ニヤッと笑う。


 「ふっふっふ、これが大人の嗜みってやつッスよ」

 

 「お、おまっ、そ、そそそそそれはさすがに良くないと思うぞ?ほら、若いうちからの飲酒は脳を萎縮させるとかなんとか」


 「まぁこれ、ノンアルコールなんスけどね」


 「くっそ!!」


 あまりの悔しさに俺はジェリーフルーツジュースを一気に飲み干した。そんなのがあるなら先に言ってくれよウェイターさん!俺にはノンアルを見分けるような能力なんてないんだよ!


 さて、なんだかんだ言いながら割とパーティーを満喫し始めていた頃、そんな俺のもとへ2人の可憐なお嬢様方がいらっしゃった。多分双子なのだろう。顔もなにもがそっくりだ。

 桃色の髪をハーフサイドアップにしているのだが、2人で左右が逆になっている。歳は俺と同じくらいと見た。


 「もし。サクマ様でございますか?」

 「少しお話しませんか?」


 これはもしや、いろいろと有名になりつつある俺に興味を抱いてやって来たというパターン・・・!2人とも普通に可愛いし、ここは俺がこの世界にきてシャルルたちと暮らすうちに鍛え上げてきたコミュ力を発揮するとき!


 「ええ、俺でよろしければ」


 「本当ですか!?」

 「ありがとうございます!さっそくこちらへ―――」


 なんだ、もっと上品で堅苦しいところがあるかと思ったが、無邪気なもんじゃないか。それとも世間知らずなのだろうか、俺みたいな男は美少女に誘われたらホイホイついていっていろんなことを妄想しちゃうんだぞ?・・・妄想するだけで手を出すほどの勇気はないから安心してください。ぐへへ。

 と、2人についていこうとした俺の肩がガシッと掴まれた。


 「ちょっと待ってくださいな」


 「シャル・・・ルさん?」


 なにかと思って振り返ればシャルルだったのだが、なにやら敵意剥き出しである。ただならぬ様子なので俺は思わずさん付けしてしまった。


 「い、いや、やめてくれよ恥ずかしい。ちょっとお話するだけだからさ・・・」


 「ユウキはホイホイついていって気が付いたら籠絡されてたりとかしかねないッス」


 「俺ってば尻軽!」


 シャルルは俺の袖を摘まんだままジト目で双子ちゃんを睨み付けている。


 「あら、これはシャルルさんではありませんの」

 「長い船旅だったようでしたが、ご機嫌いかがでしたか?」


 「ええ、とても充実した日々が送れましたわ。サナとモナもお変わりなく。それで?」


 「サナたちはサクマ様とお話をしたく思っているだけですわ」

 「ほんのちょっと、お時間をお借りするだけよ」


 「それは残念です、今からユウキは私と―――」


 とシャルルが奇妙なお嬢様口調で頑張っていると、タキシードを着た優男がシャルルの肩を叩いた。


 「シャルルさん、やっと会えましたね。今日こそは―――」


 「あ、あらニックさん・・・でも申し訳ないです、実は先約が・・・って、ああっ!?」


 「それではシャルルさん!」

 「サクマ様はしばらくお借りしますねー!」


 「ら、乱暴はやめてー!ちょ、ひきずんなって!おーい!」


 シャルルの注意が逸れた瞬間、双子―――サナとモナはそれぞれで俺の両手を掴んで猛ダッシュし始めた。一瞬でも可憐な外見にほだされた俺が馬鹿だったな。なんてヤツらだ。ホントこんなやつらばっか。なんだっていうんだ。

 2人がかりとはいえ箱入り娘とは思えないパワーで引きずられ、あっという間にシャルルが話しかけてた男性と俺をどうするかとあたふたしている姿は見えなくなってしまった。


          ●


 「ここまでくれば大丈夫ね」

 「そうね、ここまでくれば大丈夫だわ」


 「あのー、俺はこの後どうなるんでしょうか。出来ればお手柔らかにお願いしたいんですけど・・・」


 あぁ・・・そろそろ中身もまともな同年代の美少女に会いたい。俺を引きずっている最中の双子ちゃんの笑顔といったら・・・。

 見てみろ、2人が掴んでいた痕が手首にくっきり残っている。俺ってばモテモテで困りますね。くそったれ。会場のバルコニーに連れ出されたあげく引きずる勢いのまま転がされかけた。

 お手柔らかと言ったのに双子は俺を見てニンマリしたり顔。なにやら興味津々、興奮した表情で顔をズイッと近付けてきた。なんですか、そんなに、マジなんなんですか、超近い。可愛いのは顔だけだって分かったから、もう良いですって。


 「サクマ様・・・いえ、ユウキ様。率直に言いますわ!」

 「真剣にお聞きくださいな!」


 「はいはい?」



 「このサナと」

 「このモナのどちらかと」

 「「婚約を立ててくださいませ!」」



 「ブッ!!こっ、婚約!?」


 ・・・俺の貞操が危ない!!

 

新キャラ出過ぎィ!

ドナルド→マクドナルド→ケンタッキー?→カーネル!

トランプ→カード(世界的)→タロット?→タロット・・・→タロット。

以上、大統領の名前を適当に考える作者の脳内図でした。

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