11話 俺、こんな性格でしたっけ
「で、私の曲を昼にでも流そうっての?」
「そうそう。聴いてもらう機会は自分で作らないとですって」
「ユウキってこんなに前向きなキャラだったっけ?」
「それ」
さっそくココアとサーシャを引き連れてアンフィの部屋に突撃を仕掛けた俺は、単刀直入に曲の使用許可を頼んでいた。
いやホント、俺こんなことをするような性格じゃなかったはずなんだが。―――ハッ!?まさかこれがアイデンティティの喪失ってやつなのか?俺が俺でなくなっていく!?やだこわーい!・・・割と本気で。
「なんで原始人が顔青くしてんですか言い出しっぺのくせに気持ち悪いですね」
「うるせー!お前に分かるか!?今の自分が実は今までの自分と全然違う人になってたらって思ったら恐いだろ!」
「はぁ?どうせ原始人はずっと原始人なんだから変わらないでしょう?」
そこは変えてくれ。
「というかなんでユウキだけじゃなくてココアとサーシャまで来てんの?」
「にぃから話は全て聞いた。なにやらもったいないことをしようとしているようだな」
サーシャがどんなキャラをイメージしているのかも分からない口調でそう言うが、言っていることは大体合っている。ココアも相槌を打っていた。
「ははぁ・・・うまいこと口車に乗せられて。ココアまでなんて珍しいこともあるもんね」
「ホントですよ!原始人の提案に乗るなんて屈辱の極みです!・・・とはいえ曲を聴かされてしまった以上は妨害するのが少尉のためにはならないかと思ったので」
「私のため、ねぇ。それなら私が考えるように全部やらせてくれれば問題ないのに」
立ち話もなんだから、とアンフィは椅子を人数分引っ張り出してきて、俺たちに貸してくれた。
「ちょっと待ってて。今なんか飲み物出すから・・・ってあちゃー、ジュース切らしてたか」
部屋に冷蔵庫とは、羨ましい。俺もある程度お金が貯まり直したら冷蔵庫を買おう。俺の快適な引き籠もり生活に必要な最後のエッセンスが、なにを隠そう冷蔵庫なのだ。
トイレやシャワーは1日の中の最低限の運動のために部屋の外に出る機会としても良いが、俺がその気になればトイレくらいならバリアを加工して部屋の中に作ることだって出来る。後はトイレットペーパーを持ち込んで、トイレにしたバリアごと窓から捨ててしまえば良い。なんたって外は海なのだから、誰にも迷惑がかからないし、掃除の手間もかからない。
「粉のコーヒーしかないけど今はお湯がないしなぁ」
「お湯なら俺作りますけど」
「ん?あぁ、あの不思議パワー?なるほど、じゃあお願い」
俺はヤカン代わりの容器だけ借りてそこに魔法で水を注いでから、今度は炎の魔法で温めた。超高火力なのでわずか数秒で水が沸騰する。というかこの急速な熱変化に耐えられるこの世界のヤカンの耐久性もすごい。前にシャルルが熱伝導性が良い一方で比熱が小さいとかなんとか言っていた気がするが、俺にはよく分からん。
「思ったより便利なんだね、それ」
「でしょう?これがファンタジーパワー!さぁみんなもファンタジーしましょう!」
俺が鼻を高くしても、アンフィは「ふーん」としか言わないでコーヒーの素をお湯に溶かした。もっと感心して欲しかったのですが。
ミルクと砂糖はお好みらしい。俺は別にブラックでもいけるのでそのままカップを受け取った。サーシャとココアが必死に砂糖を入れているのを視界の端に入れつつ、俺は本題に戻ることにした。
「アンフィさん、さっき書店で楽譜売ろうとしてたらしいじゃないですか。俺もさっき行ったから話聞いたんですけど、書店の店員さんとそこの2人も含めて、みんなアンフィさんの歌良いって言ってましたよ」
「結局買ってもらえなかったけどね。良い悪いは別にもう関係ないんだって。私がもうやめようと思ったんだからさ」
「でもフラン―――店員さんは本当はアンフィさんの信念を試すためにキッツい言い方してたらしいですよ?実は買い取りたかったとか言ってて、今はゴミ捨て場を漁ってるんですけど」
「マジか。むしろ引くな・・・」
確かにゴミ捨て場を漁る書店員というのは、美少年だったとしても絵にならない。いやに悲愴感が漂ってくるというか、同情したくなるというか。
それはそれとして、それが分かればアンフィの考えは変わるのだろうか。俺はアンフィの次の言葉を待つことにした。
「好きだって言ってもらえるのは嬉しいけど、やめるって言ったらやめるんだよ。聴いてもらえないのはみんな興味がないからだって言われたけど、その通りでしょ」
「だからなんとかして聴いてもらおうって話で・・・」
「あのね、ユウキ。言ってる意味分かる?無理に聴いてもらったって、興味持ってもらえないのがオチなんだよ」
「そんなことないじゃないですか。ココアとサーシャに聞いてみてくださ―――ぎゃあああああ!?」
「気安く指差さないでください原始人」
俺はアンフィの言い方にちょっとムッとした。さすがに日本語の意味くらい分かる。満足いくまで甘くしたコーヒーを啜っている2人を指差して俺は抗議したのだが、ココアに指を殴られて突き指した。あまりの痛さにコーヒーを溢しそうになったが、そこはさすが俺、耐えてみせた。
「ちくしょう、『キュアー』・・・」
「もしかして原始人っていくらいたぶっても死なない完全無欠のサンドバッグになれるんじゃないですか?もしそうなってくれるならこれからはもうちょっと敬意を払って原始人からあたし専用のサンドバッグに昇格させてあげますけど」
「それのどこが昇格してるんだよ!」
「にぃ大丈夫?」
「すごく痛かったんだよぅ、サーシャぁぁ!」
「よしよし。良い子良い子」
・・・なにしてんだ俺。これの方がよっぽど大丈夫じゃない気がする。アンフィとココアの視線が冷たい。いや、俺の視線耐性はSランクだから大丈夫だ。
それにしてもココアがいると本当に話が進まない。コメントだけ預かって連れてこなければ良かった。
「ユウキはまあ魔法で治るから良いとして、ココアとサーシャは本当に私の曲良いと思ったの?」
「もちろん」
「これからが楽しみに感じましたよ」
「私が作ったんだって言われたからそう言ってるんじゃなく?」
「いえ、言われる前に曲を聴いてそう思ったので」
「あー・・・・・・そう」
ちょっとアンフィの様子が変わった気がする。これは良い傾向なのではないだろうか。
「アンフィさん。思うんですけどね?」
「なに?」
「興味がないからネットに上げても誰も見てくれないし聴いてくれないってのは確かだと思うんですけど」
「・・・オイどっちなんだユウキは」
「まぁまぁ。・・・でも、その興味って結局は手書きに生演奏の音楽への興味であって・・・えっと、なんて言うんですかね、食わず嫌いみたいな?そんな感じなんだと思いますよ。だからもしかしたら逆はあるかもしれない。興味ないから聴かないけど、聴いたら興味が沸くみたいな」
「つまりそもそも検索してもヒットしないから誰も見ていないっていうこと?」
「その言い方があったか!さすがアンフィさんだ!」
「いや自分で気付きなよ・・・」
語学に堪能なアンフィの指摘通り、そういうことだ。俺の世界でさえ有名なものに良いものが埋もれるほどの情報量だったのだから、この世界はもっと酷いに違いない。
「でも、なるほどねぇ。そういう考え方は今までしなかったな」
「でしょ?だから明日、使わせてくださいって」
「分かったよ。それじゃあ、明日だけ許可する」
「よっしゃ!」
「ただし」
「?」
「やめるってのは取り消さないからね。それだけはもう、決めてるから」
アンフィも意外に頑固な人だ。とはいえ、ひとまず最低限の成果は得られたのでよしとしよう。
「分かりましたよ。じゃあ、明日の昼の放送楽しみにしててくださいね」
「あれ。にぃ。それで良いの?」
「いいのいいの。ささ、次にいこう。ココアも」
「ちょっと待ってくださいよ原始人、ホントに撤回させなくて良いんですか?これじゃ意味ないと思うんですけど」
「無理強いは良くないだろ。じゃあアンフィさん、お邪魔しました」
「はーい。まぁ頑張ってね」
ココアとサーシャの使ったマグカップを回収しながらアンフィは気のない返事をした。
撤回させなくて良いのか、というのは愚問だ。俺は無理強いはしない。俺は自分がされて嫌なことはしない人だ。まぁ、基本的には、だが。たまにする気がする。ほら、イラッとしたときとかは仕方ないよね。
まぁ、それは今はいいとして、無理強いはしないスタンスは変わらない。
とはいえ、誰もこのままで良いとは言っていない。部屋を出るとき、俺は一度立ち止まってこう言ってやった。
「その意地、いつまで持ちますかね?いやぁ、明日が楽しみだ、へっへっへ・・・!」
「はいはい。帰れ帰れ」
●
さて、次は放送室に話を持ちかけに行こうかと思っていたときだった。艦内に非常事態のベルが鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
「なに慌ててるんですか。どうやら敵襲のようですね。『アトラス』に正面から喧嘩を売ってくるなんてどんな神経してんでしょうか」
「ココア。早く迎撃に行こう」
「了解です」
「え、ちょっと待って、じゃあ俺は!?」
「ベッドの中で丸くなって震えていれば良いんじゃないですか?」
「すぐに終わるからにぃはのんびり待ってて」
あとはよろしくパターンでなかっただけ良いのだろうか?さすがに1人だけで意見を押し通す自信はなかったからホッとしたような、しないような。
なんにしてもココアの言い方が酷い。サーシャとココアを並べてしゃべらせると必要以上にサーシャの天使感がアップするというか、ココアの悪魔感がアップするというか。
走り去ってしまった2人の背中に俺が哀愁を感じていると、後ろから勢いよく走ってくる人がいたことに気付いた。
「おー、ユウキじゃないッスか!ちょうど良いところに!さぁ、実戦ッスよ!ワクワクしますね、さっそく行くッスよ!!」
「なんで俺まで!?」
「そんなの私が連れて行きたいからに決まってるッスよ!雨天強風高波、素晴らしい戦場が私たちを待ってるッス!!」
「んな勝手なぁぁぁぁ!!」
戦場に出ないで済みそうでホッとしていた俺だったのだが、まるで狙っていたかのようにシャルルが俺をパラティヌスの格納庫まで引きずり倒しやがった。
格納庫からは既に複数の機体がカタパルトに運び込まれていて、物々しい光景が広がっていた。これだけ見るとすごくシリアスな出撃シーンだ。パイロットたちがそれ相応にシリアスな気分で出撃していくのかは知らないが。
なんて思いながら見ていると、1機だけ出撃に手間取っているパラティヌスがいた。なにやら背負っていた武器コンテナを取り外して、代わりに標準機と同じ装備を受け取っている。
「シャル、あれってアンフィさんの《ライオス》だよな?なにしてんの?」
「あぁ、アンフィがいつも使っている武装は雨天時は危険すぎて使えないので外してるんスよ。でもそうッスねぇ、となると今日はあんまり前に出ないように言っておかないとッスね」
「ははぁ・・・」
雨天時に危険な武装ってなんなんだ?電撃みたいな?でもいつもはそんな武器なんて使っていなかったような気がする。どちらかというとアンフィの使う専用カスタマイズされた《ライオス》はひたすら両手に持った実体剣で敵を滅多切りにする感じのやつだ。
「さ、ユウキ。早くこっちくるッスよ。私たちも出撃しましょう!」
「なんでそんなにワクワクしてるんだよ・・・」
「パラティヌス同士の戦闘はロマン!異論は認めないッス!」
《キュリオシティ》の後部座席に放り込まれながら、俺はなんだかんだで慣れた手つきでシートベルトを締めた。これまで俺が経験した戦闘のうち半分以上はこの場所から見てきたのだ。それでも全然戦闘の恐さには慣れていないのだが。
例のシスコンオペレーターさんの声が聞こえた。
『次、《キュリオシティ》発進スタンバイ』
「いつでも大丈夫ッスよー」
『了解です。進路クリアー、射出タイミングをシュタルアリア中尉に譲渡します』
「ではユウキ、しっかり掴まっててくださいッス。Bカタパルト、シャルル機、迎撃行動に入るッスよ!」
あと、この発進時のGにも慣れない。思えば毎回ここで一瞬意識がフワってなっている気がする。
ブンブンと首を振ってなんとかこの世に帰ってきたら、とっくに俺たちは戦場のど真ん中にいた。どうやら一気にテレポートしてきたらしく、もっと先に出撃していた仲間たちすら置き去りにして俺とシャルルが一番槍である。
「今日はUAFが相手ッスね!高機動戦闘なら負けないッスよ!」
「ぴぃぃぃぃぃぃ!?」
UAFとはユニオン・エア・フォースのことらしい。どっかの国の空軍だ。ユニオンとか言われたら俺たちも連合国だからユニオンなのではないかと思った記憶がある。
このコクピットはリニア式なのか機体がグルグル回ってもその影響を受けないようになっているのだが、モニターの画像は機体の動きに合わせてグルグル回るので、不慣れな俺からしたらそれだけで酔ってしまう。
素早く動き回る敵パラティヌスをそれ以上に素早く動いてシャルルが撃墜していく。まるでゲーム感覚だが、シャルルの手元の動きは人間をやめてしまっている。俺がアニメで見覚えのある人型ロボットの操縦桿は普通左右1対で2個なのだが、これには2対、4つもついているのだ。
相変わらずの曲芸飛行とテレポート機能で被弾率はゼロで、見た感じの射撃命中率は8割弱はありそうだ。要するに、敵が可哀想だ。
きっと帰港直前で疲れている『アトラス』を叩こうという魂胆だったのだろう。敵の数は今までになく多い。そんな大軍の4分の1近くがシャルル1人を倒すためだけに襲いかかってきているというのに、順調に返り討ちにされている。
そんなこんなしていると、味方の援軍もやって来た。これでやっと戦闘らしい戦闘になる。いつか見たようなビームとミサイルの嵐だ。ビームが海に飛び込むと高熱で水蒸気爆発が起こり、たまにそれに巻き込まれたロボットがぶっ壊れている。どんな威力の爆発なんだ、あれ。
しかし、俺は今回の戦いが今までと違うことに気付いた。
「あ!!味方がやられたぞ!?」
「しゃーないッスよ、あちらさんも精鋭部隊を向けてきてるみたいッスから!」
今まではそんなことなかったのに、今日はついに味方機が撃墜されてしまった。まるで互角の勝負である。
『中尉!申し訳ありません、遅れました!!』
「はいはーい、ココアは向こうに加勢してやってください。サーシャはもう構えてるッスか?」
『準備オッケー。見えてる』
「よし、ではサーシャは私の援護をお願いするッスよ。雨と風が強いッスから補正はしっかりかけるように」
『シャルル、遅れた、ごめん!換装に手間取った!今からココアと一緒に切り込むよ!』
「アンフィは今は通常装備なんスから脳筋スタイルはやめて中衛をやってくださいッス」
『・・・分かった』
シャルルの指示内容は簡単なものだが、それだけで十分ということだろう。
「こんなに囲まれてるのに軽口叩けるなんてシャルって余裕あるよなぁ・・・」
「そうッスか?今結構本気でやってるッスけど」
「ヤバイほど楽しくなっちゃう系の人だった!?」
「なんスかそのリアクションは。ピンチとか最高に燃えるじゃないッスかぁ」
「そんな間延びした声でピンチを語られても!?」
「そりゃまだピンチにはほど遠いッスからね。というか私が今までパラティヌスに乗っててピンチだと思ったことなんて片手で数えられる程度ッスから、むしろそんな状況が恋しいくらいッス」
「なるほど!ただの手加減を知らない子だった!」
「手加減なんてしたらせっかくの操縦する楽しさが半減しちゃうッスよ!それこそ一番ダメなやつッス!」
なんにしても楽しいようで何よりですお嬢さん。
元気いっぱいな隊長はもう放っておいても大丈夫だろうから、俺はシャルル隊の他のみんなの様子を見ておくことにした。と言っても敵味方入り乱れ、しかも雨という状況だ。モニターに映る映像にそういったものを補正する機能はないので(不正確な情報を生成しないために敢えて実装していないらしい)見づらいったらありゃしない。
そんな中でも目立つ赤いヤツがいる。ココアの《ディアボロス》だ。あれもシャルルに負けないくらい元気だから大丈夫だろう。あれだけ活躍していて未だに階級が伍長なのはきっと性格が悪いからだ。あんまり昇級させたら今以上に暴走するに違いない。
と、下から急に敵ロボットが現れた。座席のせいで見えないモニターの死角から飛び込んできたらしい。剣を振り上げて、今まさに斬りかかってくるところだ。
「シャル!右下来てる!」
俺は焦って叫んだのだが、シャルルがなにかする前に敵が爆散した。
「あれ?」
「大丈夫ッスよ。今はサーシャに援護射撃させてるッスから」
「そのサーシャはどこにいるんだ?」
「多分海面スレスレをホバーで移動して死角をカバーしてくれてるはずッス」
「マジで良く出来た子だな」
「そうッスね。サーシャは優秀ッス。私のマルチウェポンシステムをうまく使いこなせてるんスから将来有望な良き部下ッスよ」
そのマルチウェ・・・なんだかを使いこなすのがどんだけ難しいのかは分からないが、とりあえずシャルルがこうまで褒めているのですごいのだ。俺の目に狂いはなかった。
シャルルはしゃべりながら、ついに敵軍の2割を単独で全滅させてしまった。
「それにしても帝国軍のパラティヌスが撃ってきたビームがとんでもなく強力だったから他もそうなのかと思ったけど、他の国はそんなでもないんだな」
「パラティヌスの性能や武装にもお国柄があるんスよ。帝国は重装備で高火力を強引にねじ込むのがメイン、UAFは機動力で敵を翻弄するのがモットー、共和連邦は保守的なので領土内の地形に合わせたチューンを施した機体が多いッス」
「連合は?」
「うちは雑食ッス。あんまり拘りがない代わりにひたすら勝てる機体を追求してますから。見たら分かる通り、主力量産機である《ライオス》は特徴がないのが特長みたいな機体ッスしね」
「見ても分からない俺はどうしたらいいの?」
「んはははは!それはそれッスね!分からないなりにそうなのかって思ってくれれば良いッスよ!」
サーシャの援護も得てシャルルの快進撃は続く。味方もシャルルが言うクセのない《ライオス》の性能とチームワークを駆使して、数で勝る敵に拮抗している。これなら勝利も時間の問題だ。
そう思ったそのとき、他と違って蒼い塗装を施された《ライオス》が1機、敵の中に飛び込んでいった。それに気付いたシャルルが驚声を上げた。
「あ!?」
「ちょ、あれってアンフィさんじゃ!?」
「アンフィ!なにしてるんスか!中衛やれって言ったはずッスよ!?」
『鬱憤溜まってんのよ!ちょっとくらい暴れさせてちょうだい!』
「あーもう!!ユウキ、ちょっとバリアを!!」
「お、おう!?」
俺はシャルルに言われるまま《キュリオシティ》をバリアで覆った。敵のビームは10発くらいまでなら耐えられる。もしかしなくても、シャルルはアンフィのところへ突撃する気なのだろう。
「もっても10発だからな!」
「十分ッスよ!ユウキこそ加速Gに気を付けてください!!」
シャルルは一度機体を宙返りさせて飛んでくる弾を躱し、直後にレバーもペダルも全開にした。背後のモニターが自分自身のブースターから噴き出す閃光で真っ白になり、体に万力で潰されるような力がかかった。
「ぐぅうぅぅぅぅぅぇぇっ!?」
このスピードで飛びながら敵弾を躱していくなんて、本当にどんな神経をしているのだろうか。ところどころでテレポートも混ぜながらシャルルは一瞬でアンフィに追いついた。
だが、ほぼ一般装備のまま単独でいつも通りの近接戦闘を仕掛けるアンフィは敵に押され気味だ。
「アンフィ!一度離脱してくださいッス!!」
『今更!!』
「無茶ッスよ!援護するッスからさっさと!」
そんな条件で7、8機もの敵機に対処出来ているアンフィは十分一般兵離れしているのが分かるが、不利なものは不利なのだ。シャルルは俺のバリアを当てにしてアンフィを取り囲む敵に体当たりしてなんとか蹴散らしていく。
「アンフィさん、今はシャルの言う通りにしてください!やられちゃいますよ!?」
『うっさいなぁ!私なら大丈夫だから・・・!』
言っている間にもアンフィの《ライオス》は損傷を広げていく。最初はビームを掠らせるくらいだったが、装甲を削られ、足を破壊されてしまう。そのくせチョロチョロと動くのでシャルルも誤射を気にしてなかなか敵を撃てずにいる。
「これは悪循環だな・・・シャル、アンフィさんのにバリア張っても大丈夫か?」
「出来ますか?」
「まか・・・せろ!」
動く的に狙いを定めるのは運動神経が良くない俺には大変だったが、シャルルがアンフィとの位置関係を上手に調節してくれるのでなんとか捉えた。
「ごめんなさいアンフィさん!『バリア』!!」
『おいちょ・・・!この・・・っ!』
《キュリオシティ》に張っているのとは違って内側からの力も通さないバリアを張ってやったので、アンフィの機体は移動能力を失ってしまった。
だが、そこで俺はハッと気付いた。これはアカン。
「あ!やりすぎた!」
「ユウキなにしてんスか!?あれじゃ良い的ッスよ!?」
『ふざけ・・・!』
優秀な敵兵たちはこの隙を見逃さない。普通なにが起きたのか困惑するところだろう。というか困ってくれよ。俺がバリアを張り直す暇もないじゃないか。
敵の砲撃が殺到するが、しかしアンフィも反応も早い。もともと高出力のビーム剣の出力をさらに上げてバリアを自分から破壊してしまった。量産機のくせに俺のチート魔法を容易く破壊してくれやがる。
ギリギリで回避を間に合わせたアンフィはそのままさらに突撃を仕掛けてしまう。
「らしくないッスね、今日のアンフィは・・・!」
「どうする、あれは無茶なんだろ!?」
「下がってくれない以上は露払いしてあげるしかないッスね。サーシャ、アンフィの援護、必死にやってください!」
『らじゃ!』
なんとか追いついてきたサーシャの《重装型ライオス》に無茶苦茶な命令を出して、シャルルはアンフィを追いかけた。
だが敵の指揮官もよく戦況を見ている。アンフィに戦力を集中させつつ、その援護に回りにくいよう俺たちへの妨害も強化し始めた。
しかし、その状況をシャルルは鼻で笑った。
「ははん。少し焦ったッスね?戦力を動かしすぎッスよ!!」
『中尉!』
「ココア、サーシャ、一気に蹴散らすッスよ!間違ってアンフィを墜とさないように!他各隊も火力がある機体を前面に出して一気に制圧するッスよ!!」
『待ってました!!』
『命令が多い。けど頑張る!』
『『『了解です!!』』』
なるほど、ココアに向けていた戦力もアンフィを確実に倒すために割いたということか。恐らくこの「人が死なない戦争」というシステムの関係上、多少の無理をしてでもエースパイロットを撃墜するのが指揮官としての名誉になるのだろう。
シャルルの呼びかけに応じてココアとサーシャ、そしてその他『アトラス』所属の味方機が動きを変えた。
「さて、私もやるとするッスよ。BWS02!!」
「今度はなんだ!?」
「ユウキに見せるのはこれが初めてッスね!Qちゃんにはオプションで特殊なバックウェポンが装備出来るようになってるんスよ!そしてこれはその2番機―――」
《キュリオシティ》の背中のウイングの間が広がって、虚空から突如現れたデッカイ砲台がそこにドッキングした。なんかスゲえ。戦艦に積むサイズの砲台を無理矢理ロボットにくっつけたみたいな違和感だ。
「火力だけに特化した《グランドクロス》ッス!!」
ああ、盛り上がっているところ悪いが、俺はSFファンでもなければロボオタでもないのだ。そしてなんだその中二病感満載のネーミングは。巨大ロボにQちゃんという可愛いあだ名をつけるセンスはどこへ行ったんだ。
すごいとは思うが、この魔改造っぷりにはもはやなんも言えない。2番機ということは他にもいろいろあるのだろう。気にならないと言えばウソになるが、やりすぎと言ってもウソにはならない。
「敵右翼を薙ぎ払う!火線上の味方機は巻き添え食わないように注意してくださいッス!」
『『『ひええええ!?シュタルアリア中尉がバックウェポン出してきた!?みんな逃げろ!!』』』
「味方が悲鳴上げてるけどこれ本当に大丈夫なの?実はお前これ使いたかっただけじゃないの?アンフィさんが良い感じにピンチだからそれを言い訳にしてやりたい放題してるだけなんじゃないの?」
「な、なんのことッスかね~♪」
―――オイ。
せっかくアンフィを助けるために集まってきた味方もシャルルの持ち出したチート兵器を見て散り散りになった。
今まで聞いたことのないようなエネルギーのチャージ音がして、砲塔から激しく蒼い光が漏れる。俺もさすがにこれが今まで見てきたビーム砲とは比べものにならない代物だと直感した。
「ファイアぁぁぁぁぁぁ!!ッス!!」
前に《ルベーヌ》で見た潜水艦くらいの大きさなら丸ごと飲み込んで消滅させそうなビームが発射された。しかもずっと出続けている。シャルルはその極太光線で宣言通り敵部隊右翼をキレイサッパリ薙ぎ払ってしまった。
10秒ほど続いた大破壊はそれはそれは大きな被害を出したのだろう。シャルルが薙ぎ払った跡にはもはや敵機の残骸すら残っていなかった。
「ふう、スッキリしたッスね!」
「やっぱりな!」
「そんなビビらないでくださいよ、どうせパイロットは無事なんスから」
「あれで無事なんて俄には信じがたいな!・・・というか味方本当に無事なのか?」
「大丈夫ッスよ!・・・多分」
「あ!今多分って言った!!」
不安が非常に多く残る中、味方からの通信。
『さすが中尉ですね!あたしも負けていられません!』
敵部隊左翼が大爆発したが、多分それは今の通信の主が負けじと頑張った結果だろう。確か《ディアボロス》の腹には隠し武装として強力なビーム砲が複数門並べて格納されているのだ。俺は勝手にそれを「腹黒砲」呼んでいる。
『いよっしゃあ!!見ましたか!聞きましたか!あのザマを!今の断末魔の叫びを!ぎゃははははは!!』
なんでこうシャルル隊というのはマイペースなのだろう。戦場でポヤーっとしているサーシャでもまだまともな方かもしれない。
気が済んだエースパイロット(笑)たちに続いて他のみんなもボカスカ撃ち始めたが、さっきの火力を見た後だとなんだかショボく見える。
「さて、と」
シャルルは《グランドクロス》を、それに積んでいたミサイルを全部ぶっ放してから切り離し、いつも使っていたビーム銃を取りだした。
「今のでだいぶ戦力は削げたんじゃないッスか?」
「そですね」
だが安心していたのも束の間―――というより、気を抜きすぎていた。『アトラス』のオペレーターさんから通信が入った。
『ベーコン少尉の《ライオス》が大破状態!!早く救援に向かってください!!』
「大破・・・!?マズいよシャル!急がないと!!」
「・・・無茶するからッスよ」
「おい、見捨てる気じゃないだろうな!?」
「私だってそんなことはしたくないッスよ!でも・・・今回は敵の作戦と連携がこちらを上回ってきたのと、アンフィの独断行動が響いたんス。オペレーターさん!もう間に合わないので、アンフィ機撃墜直後に今送信する座標へ対艦砲を撃ってください!」
『は、はい!』
「おいシャルル!そんなのねえよ!」
「私は負けられないんスよ。負けたら、もうここにはいられなくなるから!!だから、絶対に負けられないんスよ!!」
「・・・っ!?」
この戦争をゲームだと言っていたシャルルの口からそんな言葉が出てきたことに俺は驚いた。どんな意味なのかは分からないが、シャルルの口調が真剣だったので、俺はなにも言えなかった。
「ごめんなさい、ちょっと気が立ってたッス。そろそろ空域を離脱するッスね」
「いや、俺もごめん・・・。アンフィさんは大丈夫なんだよな」
「それは安心してください。衝撃で軽い怪我はするかもッスけどね。アンフィ、聞こえましたか?」
『・・・・・・ごめん、私のせいだよね』
「気にする必要はないッスよ。機械のように命令通り戦えなんて言った覚えはないッスから。でもどうでした?赴くままに暴れた気分は」
『ビミョー』
「じゃ、その続きはまた今度ッスね」
『悪いね、せっかくシャルルがカスタムしてくれた機体なのに』
「いえいえ、またいくらでも魔改造してあげるッスよ」
『魔はいらないかな。じゃあ、あとはよろしく』
「・・・・・・全機、離脱しろぉ!!」
シャルルの命令で敵機と交戦していた味方は全員離脱。直後に敵の群れの真ん中で小さな爆発があって、それを合図にして遙か後方から凄まじい破壊力のビームが飛来した。
俺はシャルルと一緒にそのビームが固まっていた敵を一網打尽にする様子を上から見ていた。焦ったら負ける。今回はあちらもこちらも、そういう戦いだったらしい。
しばらくして敵の母艦から降参を示す信号弾が打ち上げられたので、これにて戦闘終了。今回被った損害は両者共に甚大だった。海の上にぷかぷかと浮かんでいる大量の金属片とコクピットブロックが戦いの凄絶さを物語っている。
俺はどんな顔をして『アトラス』に帰ったものかと思っていたのだが、シャルルが俺に振り返っていつもみたいに笑った。
「さ、ユウキ。撃墜された人の救助に勤しむとするッスよ」
「やけにあっさりだな・・・」
「むしろユウキこそなんでそんな辛気臭い顔をしてるんスか。別に悲しいことなんてなにもなかったはずッスけど」
「は?いやいやいや、あんなにシリアスな会話してたじゃん」
「あぁ、あれッスか?いや、死なないと分かってても墜とされるときくらい格好良く散りたいじゃないッスか。あぁいうやり取りはこの世界全体で共通の文化みたいなもんスよ。アンフィはああ見えて撃墜されたのは3回目ッスから」
「俺の心の痛みを返せ!!」
●
「にぃ。ぐったりしてる。これは超お疲れ様と言っておく」
「サーシャもお疲れ・・・」
本当に疲れた。主に心が。でもアレだ。今回に限っては知らなかったからマジで言っていたとはいえ、結局のところ誰の目にもアンフィが撃墜されるまでのやりとりにおいて俺はノリが良い人にしか映らない。そこだけはいつも文化の違いに置いてけぼりを食らって恥ずかしい思いをしてきた俺にとっては嬉しい誤算だった。
なんかいろいろやることが残っている気がするのだが、先に休憩したって誰も文句は言うまい。ということで今は広場のテーブルに伏せっている俺氏。
ちなみにアンフィはコクピットが海に落ちたときの衝撃で気を失っていたらしいので医務室で寝ている。俺たちもお見舞いに行ったが、もう帰ってきたところで、シャルルだけが残った。
クレープ屋で遅めのレイニーデイスペシャルを買ってココアが戻ってきた。両手に持っているが、片方はサーシャの分だ。
「お待たせしました」
「うん。待ちかねた。はやくサーシャの分を」
「はいはい」
2人ともいろんなところがキラキラ光るレイニーデイスペシャルを本当に美味しそうに食べるものだから、傷心気味の俺には実に癒やされる光景だ。
なるほど、このキラキラには可愛い女の子をさらに引き立てる効果があったのか。2次元だけでなく3次元にまでそういうエフェクトを導入するとは―――感服だ。いや、実際にそうなのかは知らないけれども。
「なにジロジロ見ているんですか、視姦ですね分かりました通報します」
「それは疑問の体を為していないような気がする」
「原始人については悪い意味で疑う余地がないので」
サーシャのほっぺにキラキラのクリームがついている。微笑ましい。
「サーシャ、ちょっとじっとしてな」
「?」
俺はそのクリームを指で取ってあげた。すげえ。ほっぺたメッチャ柔らかい。どっちがクリームだか分からないぞ。
「クリームついてたぞ」
「なるほど。ありがとう。にぃ」
「どういたしまして」
・・・で、取ったは良いが、どうしよう。これ食べて良いのだろうか?いや、そんなことをしたら今度こそココアに通報されるかもしれない。いや、される。断言しよう。
いやでも考えてみて欲しい。女の子のほっぺたについていたクリームだぞ。男のロマンじゃないか。しかし人生を棒に振ってまで挑むほどのロマンなのか?とはいえ別に犯罪ではないから大丈夫なはずだ。
そうそう、食べ物は粗末にしてはいけませんと幼少の頃より教わってきた日本人であるワタクシ、サクマ=ユウキ准尉は、この指先に乗るだけのキラキラ生クリームをティッシュで拭き取ってゴミ箱にポイするだけでも心が痛むのです。
「にぃ。それ要らないの?」
「・・・へ?」
「じゃあサーシャがもらう。はむっ」
「のぁぁぁぁ!?」
人差し指の先っちょをサーシャの体温が覆った。舌が指の腹を舐めていく感触が、当たり前だが生々しくて、俺は思わず変な悲鳴を上げてしまった。神様ありがとう。最近本気で感謝しています。
「サ、サーシャ!ダメだろこんなばっちいの咥えちゃ!」
「んっ・・・。にぃの指は汚いの?むしろいつも綺麗にしてるような気がする」
「全くもってその通りなんだけど・・・でも、なんていうか、こういうのが気軽にしてはイケナイというか・・・ありがとうございました」
「・・・?どういたしまして」
ふと横を見たらココアが通報する準備をしていたので全力で押さえ込んだ。今のはさすがに無罪だ。
「それにしても肝心のベーコン少尉があれでは、明日あの人の曲を流すのもなんか・・・って感じですね」
「そうか?むしろアリかもしれないぞ。というか、別に関係ないだろ」
「そうかもしれないですけど―――あ、シュタルアリア中尉!おーい、こっちでーす!」
シャルルが医務室から戻ってきた。手を振るココアを見つけてこちらへやってくる。
「これはみなさんお揃いで。それでは失礼するッスよ」
「どうぞどうぞ!」
空いている席がココアの隣だけなので、シャルルはそこに座った。シャルルが隣に来た途端ココアはすごく嬉しそうにしていた。
「さっきアンフィが意識取り戻したッスよ」
「それは良かった。で、どうだった?」
「まぁさすがに愛機を撃墜されたのでちょっとは落ち込んでたッスけど、問題ないッスよ」
「そっか」
「それにしても今日のアンフィはなにをあんなに躍起になっていたんスかね?毎回撃墜されるときは決まってなにか悩んでるときだったんスけど、今回ばっかりは思い当たる節がないというかなんというか。ユウキたちはなんか知ってます?」
「悩んでる・・・?思い当たりまくるんだけど」
俺とサーシャ、ココアは顔を見合わせた。多分2人とも俺と同じことを考えていた。ココアはそれを察して嫌そうな顔をした。そういう地味なのって割と心にくるからやめて欲しい。
「シャルはアンフィさんが作曲してたこと知ってる?」
「ええ、知ってるッスよ。アンフィも言ってたと思うッスけど、私とアンフィは同期で付き合いも長いッスから、ちょくちょく部屋に遊びに行ったりしてて楽器類なんかはいつも見てたッスよ。まぁ、恥ずかしがって私にだけは全然聴かせてくれなかったッスけど」
「それを、アンフィさんやめるって言いだしてて」
「・・・え、マジッスか?なんてもったいない」
「そう。だから、悩んでるっていうのはそこなんじゃないかと思うんだけど」
「なるほど、多分それで間違いないッスね」
それにしても、そんなに悩むくらいなら普通に続けていれば良いのに。俺ならいろいろ諦めたくなってもなんとなく名残惜しくて、惰性に任せてやめずにいるところだ。アンフィは俺ではないから、俺の意見を当たり前のように語っても仕方ないか。
「アンフィが悩んでるならなんとかしてあげたいところッスけど―――どうしたもんッスかねぇ」
「そこでなんだけどさ、俺たちはアンフィさんの曲を明日の昼の艦内放送で流してみんなにも聴いてもらおうと計画してたんだよ。それで人気が出たら続けようって思ってくれるんじゃないかと考えてるんだ」
「ふむ。良いッスね。本人に許可は取ったんスか?」
「取ったよ」
「・・・」
「シャル?」
「ユウキもココアもサーシャもアンフィの曲聴けたってことッスよね」
「え?まぁ」
「良いなぁ良いなぁ!なんでユウキたちは良くて私ばっかりダメなんスか!腑に落ちないッスよぉ!」
「そう言われても」
シャルルはむくれてテーブルにだらりと垂れてしまった。アンフィは同期のよしみというよりも、同期だからこその照れ臭さが先んじたのだろう。
シャルルにねだられて俺はアンフィの曲をシャルルのポルックに送ってやった。
「やったやったー、なんかレアアイテムをゲットした気分ッス!さて、それではさっそく放送室に行きましょうか」
「シャルは休憩しないのか?」
「親友の悩みな上にユウキの提案ッスからね。私も一肌脱いでやろうじゃありませんか」
「おぉ、なんか心強いようなそうでもないような・・・!」
「そうでもないってどういうことッスか。もっとこのシャルルさんを頼ったって良いんスよ」
「そうですよ原始人。中尉を頼らずに誰を頼れるってんですか」
面倒臭いので俺は2人ともスルーした。はいはい、我らが隊長であらせられるシャルル=シュタルアリア中尉は頼もしいお方です。
放送室で明日の話を通したら書店のフランにも報告をしないとな、などと考えながら、俺は席を立った。