1話 俺、これからはファンタジーします
というわけで新作です。一部主人公が不適切な発言をするので、気になるという方はブラウザバックをしてしていただいて構いません。大丈夫という方は、つまらない作品かもしれませんが、お楽しみください。
よく、ライトノベルやアニメはオタク文化で、好きだと公言するのが恥ずかしいことのように扱われるものだ。俺もそれは否定しない。目がやたらと大きくて不自然な髪の色をしていて、あんな声としゃべり方をする女の子と会えば、よくよく考えればかなり不気味かもしれない。
ただ、それでもそんな世界観の全てが根暗で引き籠もったモヤシみたいな人間の行き着く先のようには扱って欲しくない。なぜ普通の小説と銘打って軽い内容の本が出ればそれは文学ともてはやされて大衆に読み回される一方で、ライトノベルと名に付き次第に凝り固まった偏見で手に取ることを憚ってしまうのだろう。
俺はそんな価値観がとてももったいないものだと思っていた。あからさまな萌えだけがあの作品たちの魅力ではないというのに。
俺はもっぱら、あのどこまでも広がる空想の世界が大好きだった。所謂ファンタジーというやつだ。空に浮かんだ壮大な城や、魔法で栄える中世ヨーロッパ風の王国、そこならではの風情ある人々の躍動。とても、俺には魅力的に見えた。
もちろん挿絵であんなことやこんなことになる美少女キャラも気になっていなかったと言えば嘘になるけれど、やはり、俺があれらの本を手に取り愛し続けたのは夢のある広い世界にこそ魅せられていたからだった。窮屈なこの世界から飛び出して、多少大変だったとしてもそんな世界の中でのびのびと努力していけるとしたら、俺はきっと二つ返事で飛びつくはずだ。
ただ、結局そんなのは俺の空想の中の話だけであって、都合の良い非日常なんて来るはずがない。
なぜなら、俺は―――佐久間悠稀という夢見がちなオタク少年はもうそろそろ、死ぬからだ。
幸福や救いというのが平等でないからこそ現実は現実たり得る。富も名声も権力も、なにもかもが持つべき者たちのところへと淀むように貯まっていくのは可視的な根拠だ。
半年と少しほど前からなんだか喉が嗄れてものも食べにくいな、などと感じていたのだが、初めはただの風邪で喉が腫れているからだ、などと思っていた。それがどうしたものか、なかなか治らないものだから病院に行くと甲状腺ガンだと言われた。まだ高校2年生だというのに、なんとまあ早い発症だったろうか。
ただ、甲状腺ガンというのはそれ自体の致死率はそれほどでもなく、転移もしにくいということで、早期なら死亡率なんてほとんどないものだ。早期と言うには少し遅いタイミングで病院に足を運んだのは否定しないが、まだまだ治療は間に合うはずだった。
それなのに、酷い話だ。こう言ってしまうと不謹慎極まりないが、俺のそれは不自然なほど進行が早かったり、サクサクと他の場所に転移してしまったのだ。医者さえこれはもうどうしようもなく不幸だったと言わざるを得ない、などと目を伏せて言っていたように覚えている。
そうして今の話題に戻るのだが、まあまあに闘病生活を続ける俺に残っていた唯一の楽しみというのが、ライトノベルだった。晴れた日に看護婦さんが窓の外の景色が綺麗だよ、などと言ってカーテンを開くのだが、俺からすればいくら綺麗な外の世界だって頭の中に広がる夢想のそれには到底敵わなかった。渋い顔をされたって気にせず、俺はひたすらチープな文章のディープな世界に耽り続けてやった。
数冊読み終わるごとに親に頼んで、家の本棚から続きを持ってきてもらう。新刊の発売をネットで調べると、即座に買ってくれとせがんだり。
俺が元気だった頃はマンガだか小説だかも分からないような本を日がな一日読み続ける俺を可哀想な人でも見るようだった親も、俺が入院してからはそんな素振りなく、心の支えになるのならと言って進んで頼まれてくれたのは、今更ながらとても感謝している。もちろん、なんだか恥ずかしいから面と向かって素直にお礼を言ったことはなかったけれど、それとない感謝は伝えてきたから後悔はしていない。
ベッドの上で文字列に吸い込まれ、俺は自分の姿をその世界の中に重ねた。そこにいられるなら別に主人公でなくても良かったし、目立つライバルキャラでなくても良かった。モブキャラだって、その世界に当然の生を受けて、受けられる恩恵の全てを受けて生きている。魔法が使えたり、背に生えた翼で空が飛べたり、冒険者ギルドの仲間たちとワイワイ酒を飲んで笑い明かしてみたり。背景の一部に同化して、俺は一緒に魔法を詠唱して空を飛んで、未成年のくせに酒を飲んだ。もちろん、そのつもり、ではあるが。
ただ、そんな新しい病気との日常がこんなにも色とりどりだなんて誰も思っていなかっただろう。俺はちょっとだけ自慢したかった。同じ病に苦しんでいる人だけでない。俺を診察した医者にも、俺をささえてくれた親にも、たまに見舞いに来てくれたオタク友達にも、「俺はなんだかんだこんなにも幸せで居続けているんだぜ」と自慢してやりたかった。
強がりと言われてしまうと俺の負けだけれど、それのなにが悪い。現に俺はライトノベルを読んでいれば自分が一瞬で末期ガン患者になったような不幸少年だということも忘れて幸せなひとときを過ごせたのだから、最上の延命治療だった。
しかし、そういった不幸ながらに幸せな日々も終わろうとしていた。ガンは全身に転移を繰り返し、もうどうしようもなくなってから数週間。さすがに俺の命には限界が訪れていた。ちょうど、俺の手持ちの本は全部読み終わり、大好きだった小説の最終刊が出て、一息に読み終えたその日の夜だった。
自分ではよく分からないが、容態が急変したらしい。
今は集中治療室で眩しい天井を見ている―――気がする。
でも、正直に言ってしまうと、もう良いんだと伝えたかった。父さんと母さんも俺の治療費に金を回しているから粗食ばっかりになって顔色も冴えないし、なんというか、俺みたいな半分ニートの息子なんていない方が楽だろ、なんて風にも思った。そんなことを言えば絶対に怒られるのは分かっているが、俺だって親にこれ以上の迷惑をかけ続けるのは心に堪えるものがあった。ずっと延命措置ばかり執って金を浪費するよりさっさと葬式やって終わりにして欲しいのだ。
ちょうど思い残すことのなくなった夜、なんとか駆けつけた家族に看取られ、安らかに逝く。それでいいではないか。それ以上の幸せなんて望まない。いや、それこそ生き延びるよりもだいぶ良い未来になるはずだ。
意外と苦しみはなくて、なるほど終わりが近いのだな、などと考える余裕もある。今は喋れないのが悲しいけれど、それくらいなんてことない。
もうこのままぽっくりと逝ってしまおう。お別れは言えないけれど、分かってくれる。今までこんな俺をここまで育ててきてくれた両親なら、きっと俺の気持ちだって分かってくれる。乗り越えてくれる。
そう思うと、ふわりと体が浮いたような気がした。もう戻らない、幽体離脱。悔しげな医師たちの姿、口元を手で覆う母と、俯いて静かに目を瞑った父。俺はそのうちの誰にも聞こえない声で、「ごめんな」と言った。
あぁ、でも・・・もしも生まれ変わりがあるのなら、今度はあの本の中にあったような美しい世界に生まれてみたい。俺が何年もずっと想像したような、そしてそれを超えるような、素晴らしい「異世界」というファンタジーに生まれてみたい。
●
「ん・・・」
「目が覚めましたか?」
「・・・ここは?」
確か、俺はガンで死んだはずだった―――のだが、妙に元気な体で、俺は知らないところに立っていた。なにか眩しいと思ったら、その場所はどこまでも白かったからだと気付く。本当に真っ白で、今立っているのだという感触が足の裏になければ床がそこにあることにも気付けないほど、そして壁や天井といった概念があるかも分からないほど、ひたすらに白い部屋だった。
声がした。女性の、澄んだ声だ。
そちらを見れば、緩やかなウェーブのかかったブロンドの髪を持つ、魅惑的な女性がいた。これも安っぽい表現になってきたが、それでも言うと、女神様・・・みたいに見えた。
木製の椅子に腰掛ける女神は俺の一言目になにか感じたのか手に持った小さな本にペンを走らせ、それから俺の目を見て微笑んだ。なんて優美なのだろう。
「女神様だ・・・」
「はい、そうですね。あなたたちは私のことをそう呼びます。私はペルセポネ、あなたを次なる命へと導く者です」
「と、言いますと・・・」
「ええ。悲しいことではありますが、佐久間悠稀さん。あなたは無慈悲なる病にその体を蝕まれ、長い戦いの末に不幸にも亡くなりました」
分かっていた。分かっていたけれど、今更ながら少しだけ悲しい。もう会えない人たちの顔を思い浮かべると涙が滲むような気がして、仕方なく目の前のペルセポネと名乗る女神の姿に集中することにした。
それにしても、次なる命である。それはある意味思ってもみない、まさに天恵だ。俺には転生する権利が与えられた、と、そう思っても構わないのだろう。
俺はその事実で悲しみを塗り潰し、喜びの顔で女神に問い直す。
「つまり、俺は生まれ変われる・・・んですか?」
「はい。・・・あなたは、あまり悲しまないのですね」
「いえ、その・・・悲しくはあるんですけど、思い残すようなことはあんまりなくて。好きだった物語の世界もちょうどさっき完結して、家族にだってちゃんと看取ってもらえたから」
「健気な・・・」
本気で目を潤ませる女神は、しかしすぐに本題を思い出してくれた。
「さて、悠稀さん。あなたには生まれ変わる世界を選ぶ権利があります。もちろん、元いた人間の世界に生まれ直すことも可能です」
生まれ変われる。世界を選び、望んだ世界へと生まれ落ちる権利がある。
俺は女神のその言葉に内心ガッツポーズをした。
父さん、母さん、俺、勝ったよ。
言ったはずだ。俺はあんな窮屈な世界になんか生まれ直してなんかやるもんか。ラノベもアニメもなくたって良い。これからは―――。
「じゃあさっそく、俺を剣と魔法のファンタジー世界へ飛ばしてください!!」
「えっ」
いや、流れはおかしくなんてないだろう。初めからつらつら語っていた通り、俺は基本的に学生もどきのニート野郎だったわけで、ガンになるまでは、いやはや、完全に社会不適合者扱いだったんだからな。よく考えたら、もう会えない人たちのほとんどと碌な親交もないし、涙を滲ませる理由とか、なくね?
それはまあ、病気になれば俺だって「可哀想な人」の中に入れるからみんなも優しくなるのだが、今でも俺の心の友は文庫本の中に登場する人たちと、俺に共感してくれた片手の指で足りるほどの同志だけなのだ。誰があんなオタク文化推奨のくせにオタクに対して風当たりの強い世界になんて帰るもんか。馬鹿じゃないの?
そう、だからこそ、俺は今度こそ異世界で魔法ぶっ放して空を飛んで失敗したときはヤケ酒飲んではっちゃけてやるのだ。
父さん母さんさようなら!俺はこれからも楽しく第二の人生を歩んでいくでござる。
「これだから今どきの日本人っていうのは・・・」
「ん?なにか言いました?」
「いえ、本当に逞しい方でいらっしゃると思い―――」
なにか聞こえた気もしたが、女神様は曇りない笑顔でそうおっしゃるので、そういうことにしておいた。
「あなたがそうまで思うのであれば話は早いのですが、しかし剣と魔法の世界と言われましても実はたくさんの世界が存在していまして」
そう言って女神はカタログのようなものを取り出してきた。そんなものがこのタイミングで出てきたことも気にならないほどそれっぽいデザインやレイアウトでまとめられたその資料は、それはそれとしてやっぱりただの商品カタログだった。
それを手に取って開いて、俺は目を丸くした。
「マジっすか。え、マジですか。よりどりみどり?ひゃっほい!これだけあれば俺好みの世界も見つかりますよね、絶対!やった!」
「死んだのにテンション高いんですね、あなた」
「そりゃあそうでしょうよ!神様なら分かるでしょう、俺は生まれてこの方ずっとずっと、ずーっと、異世界に飛んでいかないかと期待してたんですから!ビバ転生ぃやっふぅ!ナイス甲状腺ガン!!」
風邪で正当に病欠できる中学生みたいに死んだことを喜ぶ俺に女神様の軽蔑の視線が刺さったが、そんな視線、俺には効かない。10年以上もの間それに晒され続ければ紫外線に強い黒い肌を獲得したアフリカ系同じく俺は人の視線を耐え抜くだけの防御力を手に入れたのだ。
・・・いや、ごめんなさい。嘘です。それなら生前の世界を「窮屈」なんて言ったりしません。突き刺さる生ぬるい視線と部屋でなんもしないで寝て過ごす俺を見る親の悲しそうな目はメチャクチャ肩身が狭かったです。ただある程度気にしなくて済むくらいには図太くなっただけです。
ともかく、俺は女神のジト目には反応してやらない。むしろ美人のそれならどんとこいだ。俺は3次元もいけるクチだから。
ズラリと並んだ「剣と魔法の世界」のリストを流し見て、それぞれの情景を思い浮かべる。どれもすばらしく、終いにはほとほと想像を諦めるような情報量だ。泣くほど嬉しい。
「ただ、そんな中にあってこれは一際素晴らしいですね」
「どうしたのです、急に地の文みたいな話し方をして?」
「このルイーナって世界、とても住みやすそうだな、と」
「あぁ、そうですね。この世界は魔王が討伐され、世界が平和を取り戻した直後ですから」
「なるほど・・・あ、ちなみになんですが」
「はい?」
大事なことを忘れていた。これがなくては異世界ライフは始められない。なんとなくあくどいことを尋ねるようで、俺はそっと女神に耳打ちをした。
「・・・チートスキルって、もらえるんですよね?」
「・・・まぁ、多少他のサービスを削ればムリではありませんが」
さすが女神、言われる前から分かっていたような返答だった。他のサービスというのは気になるが、この際そんなのは二の次三の次、チートあってこその楽しい異世界ライフだ。せっかく素晴らしい世界に転生するなら、なにか出来ることは欲しい。
さっきと言っていることが違う?知らないね。
そりゃ確かにモブと同じで良いなんて言ってはみたが、それは現実が現実だったからそれで満足出来ていただけだ。主人公じゃなくて良いというのは変わらないが、いざ本当に異世界転生だか転移だかが出来るのなら俄然欲が出てきた。
元の世界ではゲームが上手だったり勉強がそこそこ得意だったことを除けば他は特に抜きん出た才能なんてなかった俺は、意外と活躍への欲求が燻っていたらしい。
中世ヨーロッパ風の世界で、俺は名を馳せてみせよう。そのための第一歩、まずはチートだ。
「意志は・・・固いようですね」
「はい、もうガッチガチに。それで、チートってどんなのがあるんですか?」
「私があなたに授けられる能力は、この3種類、ですかね」
そう言って女神は溜息でも吐きたそうに項垂れて、それからさっき世界を選んだのとは別の薄いカタログを取り出した。女神はそれを俺に手渡す。
それに記されている限りでは、意外と素人でも考えつきそうな内容ばかり。上の方に注記としてこのチートが適正の高い世界が列挙されている。俺が選んだ世界もその中にはキチンと含まれているので安心した。
さっそく俺はその3つの能力とやらの詳細に目を通す。
「えっと・・・?」
1.無限大の魔力(実際には途轍もなく膨大なだけで制限あり)とありとあらゆる魔法への適正。
2.全てを見通す目。
3.神の加護を受けてなんでも3つまで願いを叶える力(ただし一部叶えることの出来ない願いあり)。
3つ目は・・・まぁ、言うまでもなくそういうことだろう。ゲームバランスというものがある。せっかくチートと称したのだから融通を利かせて欲しいのはあるのだが。とはいえ俺もそこまで俺最強をしたいわけではない。一番の重要事項は楽しく幸せに暮らせるかということであり、その上で俺が実は凄い、程度の事実があれば満足なのだから。
そう、俺はあくまで謙虚な男だ。チートを振りかざして勇者をいじめたり魔王を泣かせたりには興味がない。
ただ、ファンタジーの世界を他の誰よりもファンタジーありきに最高にファンタジーしたい。それだけだ。
・・・あ、でもやっぱり一応聞いておこう。
「女神様、あの、いいですか?」
「どうされました?言っておきますが、これは『チート』ではなく他より限りなく秀でた普通の『能力』です。3番を選んだからと言って永遠に神の加護を得られるようなことはありませんからね。あと、1番と2番の能力を3番で願うことも出来ません。ご了承を」
「ですよねー。・・・いやでも、そこをなんとか」
「ムリです」
「ちぇっ」
しまった、つい女神様に馴れ馴れしい態度を取ってしまった。俺ってば、案外欲深いんだな。
とはいえ納得した。少なくとも女神が用意してくれた能力は、チートはチートでもあくまで1つのステータス値を上限突破させるような無難なもの以上は望めないらしい。
「ちなみにこの、全てを見通す目、というのは具体的にはどんな能力なんでしょうか?」
「文字通り、なにもかもを見通します。人の心は澄んだ水の中の魚のように、物事の真理は現象を目にした瞬間に数式として、書物を読めば著者の深層心理が、なにもかも―――」
「1番でお願いします」
「え、でも説明がまだ―――」
「いや1番1択です」
ムリムリ。人の心覗き見られる?そんな恐いこと絶対にしたくない。絶対あいつら、笑顔の裏側で俺のこと好き勝手言ってるもん。
お見舞いに来てくれたクラスの女子とか、絶対アレだ。『あぁ、かわいそうなクラスメイトの冴えない男の子の見舞いに来て涙を流す私・・・素敵』とか考えてただろう。いっそアレか、『コイツさっさと死なないかな。死んだらクラスメイトが1人欠けてしまって悲しいけど、でもめげずにあの子の分まで精一杯に生きる私・・・カッコイイ』とかか?
「・・・自分で考えてて自分が悲しくなってきた」
「・・・・・・。えぇと、ではひとまず確認しますが、そも、あなたはこの能力を本当に望むのですね?」
「はい」
「この因果は転生後すぐに均衡を保つため巡ってきます。それでも?」
「それでも。俺はこの無限大の魔力が欲しいです」
「分かりました。それでは、あなたの良き来世を願っています・・・」
「あ!待ってください!」
「こ、今度はどんな無茶な要求をしてくる気!?」
「俺の記憶とか、そのまんまに出来ません?」
知識チート。魔法が主流の世界に行く日本人なら必ず誰しもが願うもうひとつのチート能力。それは、科学力だ。女神様にもらわなくても初めからある程度のものは備わっている、科学の知識。それさえもがファンタジーの世界では圧倒的なアドバンテージとして活躍するのだ。それ持たずしてなにが異世界転生だろうか。
しかし、さすがの女神もここまで来ると正直な表情をし始めた。分かる。言いたいことは分かるとも。面倒臭いんだろう?でも人間なんてそういう生き物だ。女神様ならきっと分かってくれる。だって女神様だもの。ゆうき。
「今まで私はそういう願いを持った方を転生させてこなかったので、万が一のことがあるかもしれませんよ?」
「大丈夫、ペルセポネ様なら出来ます」
「その自信はどこから沸いてくるのでしょうか?」
「あなたからです!」
「・・・。いいんですか?本当に?なにが起きるか分からないのに?」
「それもまた一興。俺は今の自分の記憶をもって転生する異世界を豊かにしたいんです!」
「いや、ただ単に俺ATAMAEE!!したいだけなんじゃ・・・?」
女神の口からやけに俗っぽい言葉が飛び出したが、もう良い。俺はとにかく、そう、俺が自ら頭良いアピールをしなくても自然と天才扱いされるようなシチュエーションが欲しい。
いつまでも渋る女神を説得し続けると、体感時間でおおよそ30分くらいか。女神が不承不承といった感じに折れてくれた。
どこか苛立ちの影を見せ始めた彼女には気まずさで目が合わせられず、俺はなんとか要求を通した末に転生の魔法を唱え始めた女神の声だけに耳を傾けながら目を閉じていた。
「さあ来い、俺のファンタスティックな来世!剣と魔法の世界で俺は最高に幸せなヤツになる!待っててね俺のニューお父さんとお母さん!俺、今度こそ自慢の息子になってみせるからね!」
そうして、俺はまたふわりと体が浮く感覚に襲われた。
魂が次なる世界へと旅立っていくのだろう。真っ白だった世界にさよならを告げ、俺は飛び立つ。
女神様には無茶言ってたくさんのお願いを聞いてもらった。とても感謝しております。
さあ、ワケの分からない病魔に襲われてころりと死んだ分は幸せな人生を送ってやろうじゃないか。
そして最後、女神様が天に昇っていく俺を見上げてテヘペロをした。
「あ、ミスっちゃった」
プッツリと、俺の意識は白の世界を離れた。
●
ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ――――――――
しゅごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――
俺が転生したその世界で初めて聞いた音は自分の産声でもなんでもなく、戦闘機が空を駆け抜ける音だった。
「・・・?・・・?あっるぇー??」
遠くで光の柱が上がって、直後に轟音が届いた。
目の前で爆発の山脈が生まれて、俺は為す術もなく吹き飛ばされた。痛い。超痛い。地面めちゃめちゃ転がってるんですが。というかお父さんもお母さんもどこにいらっしゃるのでしょうか、なんだが。おーい、生まれたばかりの赤ちゃんが爆風に地面転がされてるんですけども。
「・・・とか言ってる場合じゃないなぁ!?」
ビギュゥゥゥン!!なんていうロマンティックな音がして、頭上をライトブルーの閃光が駆け抜けた。間違いない。あれはビームだ。100メートルは上を通過したはずのビームから空気を伝わってきた熱が俺を暖めた。俺は慌ててそこから離れようとするが、正直赤ん坊がハイハイして離れられる距離ではどうしようもない気がする。
「どこだよここ!?22世紀ですか!?駄メガネの世話を押し付けられた青タヌキがいよいよ本気でクーデターでも起こしちゃいましたか!?」
冗談ではない。ホントに死ぬ。まるで冬の雪山のようにミサイルが吹き荒れてあちこちに花火が上がるし、謎の光線が大地を斬り裂いて先ほども見たような爆発の山脈を生み出しているのだ。あんなもの、どう考えたって現代の技術力ではない。
そもそもだ。そもそもの話をしよう。
俺は、剣と魔法の異世界に転生したいです、と女神様にお願いしたはずなのだ。莫大な魔力を持って生まれ、現代日本の高校生が持っている程度とはいえ確かな科学の知識も携え、俺はファンタジーの世界に新たな命として舞い降りたはずなのだ。
それがなんだ、これは。
空を縦横無尽に駆け巡る物々しい戦闘機。無尽蔵に吹き荒れるミサイルの雨。お天道様の代わりにビームが地上を照らし、地上を音速で移動する戦車みたいなものを薙ぎ払っていく。
ここで敢えて問おう。
―――ファンタジーってなに?
「あんの、クソ女神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
騙された!あのアマ、ちょっと俺がいろいろ要求したからってこの仕打ちはないだろう。確かに少し頭に来たかもしれない。でも、これは酷い。俺はまだ赤ん坊で、よちよち歩きも出来ないのに、降り立った先は未来兵器が乱舞する戦場のど真ん中。死ねと、そうおっしゃるのですか、えぇ?
「い、いや、落ち着け俺・・・カーム、ダウン・・・」
しかし感じろ。意外なことに俺は自分の体の中に不思議な力が渦巻いているのを感じた。つまり、チート能力は健在なのだ。
明らかにここはサイエンスでフィクションな世界をしているが、残念なことにこの爆音も灼熱もノンフィクションだ。でも俺はきっと魔法が使える。世界観とか、今はそんなことを言っていられない。まずはここを生き延びねばせっかくの転生が無駄になる。
それにまだ、ここが魔法の存在しない非ファンタジーの世界と決まったわけではないのだ。選んだ世界の半分がこうだったのかもしれない。例えば、魔法と科学が戦争をしている、という設定とか。仮にそうだとしたら。
「俄然やる気出てきた!よし、まずは・・・・・・」
まずは、バリアでも張ろうか、と思って俺は両手を前に突き出した。が、はて?俺はすぐに首を傾げた。
そういえば、そうだ。俺はとんでもなく重要なことを知らなかった。
「・・・魔力ってどう使うの?」
・・・・・・ヤバイ。これはマジでダメなヤツだ!どれくらいダメかっていうと入試で最後の問題を解こうとしたときに初めて、今まで埋めてきた全ての回答欄が1つずつずれていたとき並みに絶望的な感じだ。
なんでそんなことになるまで気付かなかったんだ、と思うかもしれない。いや、全くもって反論の余地がありません。その通りです。
とは言うが、ここでまたそもそもの話をし出すと、本来なら俺はファンタジー世界で魔法をいうものを親や師匠から学び、そしてその圧倒的魔力でゆくゆくは無双するはずだったのだ。だから初めは使い方なんて知らなくたって良いはずだった。
おかしいのはやはり俺ではない。悪いのは全部あの女神だ。クソ女神だ。駄女神だ。
ついカッとなったもので俺があの見た目ばかり神々しくて中身カッスカスのクソアマを脳内でケチョンケチョンにしていると、どこからともなくジェット噴射の音がやってくる。俺はようやくそれに気が付いてそっちを見るのだが、いや、もう間に合うはずがなかった。どうやらミサイルには生体反応でも感知して追尾するプログラムとかがあったのだろう。
爆薬たっぷりの鉄塊がわんさか俺に降り注いできた。
「ふざ、ふざっけんなよぉぉぉぉぉぉぉ!?」
俺は魔法が使えることも忘れてデタラメに手足をばたつかせてミサイルを追い払おうとした。とっても子供っぽかったはずだ。でもつまり、それではなにも出来ない。まさか赤ん坊がじたばたと暴れただけで軌道が変わるミサイルなんてあるはずない。
俺がもう、為す術もなく未来兵器の火力で木っ端微塵になる運命を受け入れるしかないのかと思ったそのとき、一発の巨大なビームがミサイルの群れを消し飛ばした。
『大丈夫ッスか?そこの少年』
その小生意気な少女の声を出したのは、轟々と閃光を噴いて宙に浮いた巨大ロボットだった。
ということで、これからもよろしくお願いします!多分そこそこ更新していきます!・・・あと、私が今メイン連載している『LINKED HORISZON ~異世界とか外国より身近なんですが~』もよろしくお願いします(ボソッ