第1話~森の中だよ おっさん~
「はっ、ここは・・・」
気が付くと廻りは木・木・木・・・ 完全な森の中だった。
上を向くと空はかろうじて見えていて、青空だったのに少しホッとしてしまう。
下を向くと自分の服装が変わっているのに気がついた。
確か会社を辞めた直後で、安物のスーツに私物のつまった鞄をもっていたはずなのに、今はさらに安物っぽいRPGで言うところの所謂「布の服」という表現がピッタリな地味な格好に何も入っていない「ずだ袋」一つ持っているだけだった。
「本当に異世界だって言うのかよ・・・」
あの時、あの空間では爺さんの言っていることを何故か全て受け入れていたが、本来俺はそこまで人の言うことを直ぐに信じるほど真っ正直な人間じゃないが・・・
実はドッキリか何かの企画で、此処に連れてこられたのも何かのトリックで、服装も睡眠薬が何かで眠らされている間に着替えさせられたとか、今も何処かでカメラとかがジーっと見ているとか・・・
いや、メタボな一般のおっさんを騙すのに、こんな大がかりな仕掛けしないだろうし、よしんば出来ても恐らく視聴率のとれなさそうな企画を実行するテレビ局なんて無いだろうし・・・
「やっぱり異世界かぁ」
受け入れたくはないけど、どうやら本当に異世界なんだろうな。
向こうの茂みにいる小さい動物もウサギみたいだけど耳の先も手になっていて6本足で移動しているし・・・
ってこのままじゃ今日はここで野宿する事になってしまうな。
「確かあの爺さん、何か能力をくれるって言ってたけど、どんなのかな?」
死なない為の能力ってことは、何か攻撃的な能力かなと、先ほどのウサギもどきに向かって手をかざしてムーンと念じてみた。
すると、ポンっと手の平から林檎が一つ現れ、地面に落ちていく。
「はぁっ?!」
地面に落ちている林檎は、真っ赤で旨そうだ、けど・・・
「『死なない為の能力』ってこう言うことかよ!」