はじまりは突然
午前8時50分
遅刻遅刻と言わんばかりに
道を急ぐ一人の男子学生がいた
彼はこの時気づいていなかった
これから起こる衝撃的な出来事に…
ドスン
彼は曲がり角から突然現れた、なにかにぶつかった
目の前には他校の女子高生らしき女の子が倒れていた
かじりあとのついた食パンとともに…
「あの……大丈夫ですか?」
よく わからない展開に少し戸惑いながらも
彼は女の子にそう問いかけた
しかし、その女の子は
一瞬彼の顔を見たかと思うと
「チッ!」と舌打ちをし
また元の曲がり角に
食パンとともに姿をくらました
「いったいなんだったんだ?
それにしてもあの女の子結構可愛かったなウフフ」
数秒後
彼は自分が遅刻しそうだ、ということを思いだし
また道を急ぐのであった
「畜生!一向にイケメンが現れない!
あっ、紹介が遅れましてすみません
私の名前は新来晴香
自分では、はるかって呼んでるよ!
私がこの物語の主人公
冒頭に出てきたさっきの遅刻学生さんは
今後出てくる予定はないので悪しからず
私は何をしているかだって?
みりゃわかるだろ
イケメンとの出会いを
狙ってるにきまっとる
食パンくわえた女の子がぶつかってきたら
男はみんなイチコロだって
漫画にも描いてあったし
狙うは金持ちのイケメン!玉の輿!
そのために今日はここに朝の4時から張り込んでいるのに…
そのために壁越しでも
相手が見えるサーモグラフィーメガネを買ったのに…
そのためにこの活動を1年前から毎日つづけているのに…
全くイケメンがやってこなーい!
畜生!
これが俗に言う少子高齢化というやつか!
時代を恨むぜ!
あーあベビーブームの時に生まれてくりゃよかったわー」
彼女は常人の30倍程の独り言を呟き
またいつものポジションへ行った
「誰かいる!」
彼女のいつものポジションである
「エリア1」とマッキーで書かれている
電柱の後ろに大きな影が見える
彼女は「レイプされるかも」
という恐怖を
「もしかしたらそのレイプ魔は、金持ちのイケメンかも」
という希望で打ち消し
電柱の裏に回った
彼女の頭の中のイケメンという文字は消え去った……
そこにはイケメンとは言いがたい顔面をした
2メートルはあるであろう大男が仁王立ちをしていた
「君が新来晴香か?」
大男はそういうと
彼女の返事を待たずに
彼女を担ぎ上げファミレスへと駆け込んだ
「煙草吸わないんすね」
「まぁな、前は結構吸っていたんだがな
女子高生の下着の香りを覚えて以来
煙草を吸うのがバカらしくなってな」
「そうなんですかアハハ…
(今なんかヤバいこと言ってたような…気のせいか?)」
「それよりあなたは何者なんですか?
いたいけな女子高生を誘拐して!
朝食セットにドリンクバーをつけてくれたからまだいいけど
ドリンクバーつけてくれなかったら
あなたとっくに通報されてますよ!」
「すまなかった晴香っち」
「色々ツッコミたいけどとりあえず……
なんで私のフルネームを知っているんですか?
もしかして私のストーカーですか?」
「申し遅れて申し訳ない
私は、とある高校のスカウトをしている
安野城 佑平だ
私は、あなたのここ1ヶ月の生活を観察していました。
今回私はあなたの生活を観察してみて
あなたは我が校に相応しい生徒であると
判断できましたので是非とも
特待生として我が校に来てもらえませんか?」
「断らせていただきます、私にはやるべき事が沢山あるので」
「食パンくわえて曲がり角で
人とぶつかることがあなたのやるべきことですか?」
「なぜそれを!?」
「さっき言いましたよ、あなたの生活を1ヶ月間覗いたと…
あなた朝4時から夜の9時までずっと食パンくわえて電柱の裏にいますよね?学校も1年前から不登校らしいですし…」
「みられていましたか…
でもなんで私をスカウトしようと思ったんですか?
新手の詐欺?ウチからはそんなに金は取れませんよ?」
「それは
あなたが我が校の模範生としてピッタリだからですよ」
「!?」
それから、戸惑う私のことを3時間ほど安野城は誉めちぎった
「ではまた後日、一応あなた方の両親、学校から許可はいただいていますので」
「あの…聞いていなかったんですけど
なんて言う高校なんですか?」
「萌えんちょ学園……」
安野城はそう呟くと颯爽と店を出ていった
新来晴香と会計の紙を店に残して……
新来は
「この学校に入ったら何かが変わるかもしれない」
という思いを提げながら
二人で注文した分の会計6180円を支払った………