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傭兵

 俺は冒険者から報酬を貰い、旅を共にする傭兵である。元冒険者のお袋、元傭兵の親父との間に産まれた自分は幼い頃から両親の冒険譚を寝物語としてよく聞かされ、自分が傭兵、または冒険者になることは容易に想像出来た。

 初めての仕事は住んでいた村に来ていた商人からの依頼だったのは覚えている。

 傭兵とは実に素晴らしい、旅をしながらお金を貰い自由気ままに流れていく。まるで自分が雲になったように時に身を任せ、風に身を任せ、依頼者を守り、時と雲と共に流れていく。

 そんな傭兵人生がたまらなく好きだ。

 そして、今日もまたタバコを燻らす俺の元へと一人の若い冒険者が風に任せて旅をしないか、と持ち掛けてくる。


「……そこの傭兵さん……雇われて……」


 声をかけてきたのはまだ、二十歳にもなっていない女の子で、いかにも魔法使い、というような恰好で鉄の短い先の尖った杖を腰のベルトに携えていた。驚いた。魔法使いが傭兵を雇うなんて事は聞いたことがない。どんな見習いの魔法使いでも自分一人で攻撃も防御もやってのけてしまうのに、この目の前の魔法使いは俺に依頼をしてきた。


「構わないが、アンタ魔法使いだろう。俺なんか役に立たないと思うぜ」


 そう苦笑交じりに言うと少女は金貨が詰まった袋を押し付けてきた。それを手に取り中身を見て目が点になってしまった。


「おいおい……! 幾ら詰め込んでやがんだよ」


 見たところ、百はくだらない。金貨五十枚でも遊んで暮らせる枚数だと言うのにそれが百枚。普通の人間なら他人を殺してでも奪いたくなるような金額だぞ。それを俺みたいな傭兵にポンっと、どうなってやがんだ。裏があるとしか思えない。

 袋を閉じそれを相手に返すと少女は明らかに困ったような顔をした。


「……依頼、受けてくれないの……?」


「いや、あまりにも額が大きすぎるからな。依頼の内容による」


「依頼は……故郷に帰りたい。けど……あまりにも遠いから普通の額では足りない」


 なるほど。尤もらしい答えだ。だが遠いと言って、こんなに渡すほど遠い所なのだろうか。それを問い返事を聞くと、固まってしまった。


「……ジパンギェ王国……」


「はっ……」


 ジパンギェ王国と言うのは冒険者が人生に一度行けたら奇跡、とまで言われるほどの島国の名前だ。あらゆる陸を超え、あらゆる山を越え、あらゆる海を越えても辿り着けない。その旅はどんな旅よりも険しいとされ、いくら高名な冒険家だったとしても向かおうとすら思わせない未踏の地だ。

 それであの枚数か。


「やっぱり信じてくれない……か」


 俺は相手の話など耳に入ってこなかった。確か、お袋はその国を目指していた。しかし流行り病にかかり旅を続ける事が出来なかったそうだ。なら、俺がお袋の夢を代わりに追いかけてもいいのではないか? 自分も興味はあった。だが、じゃあ行こう、そんな気楽に決めれることではない。それが今はどうだ。こうして話を持ち掛けられ心が躍っている自分がいる。

 なら、答えはYESだ。

 考え終わり、少女の方を向くと既に後ろを向いてどこかに行こうとしていたのだ。それを肩を掴んで引き止め自分の答えを伝えた。


「その旅路、付き合ってやろうじゃねぇか」


「え……でも」


「でもじゃねぇ。帰りたいんだろ故郷に、踏みしめたいんだろう自分が生まれた地を」


「……ありがとう……ございます」


 とりあえず、今日の所は仕事の話は終わりにして、俺の奢りで飯を食べに行く事となった。向かったのはこの町に来てからよく顔を出していたとある店、肉料理が美味く、酒も美味い。それに安い、店員はか可愛い。

 いや、最後の違うな。

 店に入り俺の顔を見た看板娘である店員が奥の人目がつかない席を用意してくれたのだ。


「さて、とりあえずだ。少し仕事の話になるが、前金として金貨十枚、資金として三十枚、残りはアンタが無事故郷に着いたら貰う。それでいいな」


「はい構いませんよ」


 少し彼女の顔に明るさが出たような気がする。まぁ、今まで誰にも話を聞いてもらえなかったんだ。暗くもなるだろうな。

 握手をして、入った時に頼んだビール二つを店員が運んできた。


「そういや、名前聞いてなかった。俺はダンテ・ロベルトだ。仕事上はダンテで通っているが長い付き合いになるんだ。ダンでいいぞ。それと堅苦しい感じはなしで頼む。そういうのは慣れてないんだ」


「わかったわ。私はキクリ。よろしくね」


 互いの名を知り合った所で、ビールのジョッキを持ち笑った。

 これから長く険しい旅が始まる。これはその始まりの、新しい旅に捧げる始まりの乾杯だ。


「じゃぁ私たちの旅に」


「乾杯!」



 その日の夜中、俺は一人夜道を歩いていた。ただ、何をするでもなく何を考えるでもなく、特にすることもなくタバコの煙を体の中に取り入れながら歩いていた。すると、前の方から自警団であるこの町で出来た友人が暇そうに歩いてきたのだ。相手は俺に気付くと手を振りながら駆け寄ってきた。


「ようダン、こんな時間になーにしてんだよ。可愛い魔法使いの嬢ちゃんはどうしたんだよ。喧嘩したか?」


「うるせぇ、仕事しろ仕事」


 今日でこいつとは当分の間、いや一生バカ騒ぎしたりできないのかもしれないな。

 まっ、それも傭兵の生き方、というものかな。

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