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君の背中に俺の名を  作者: 白い黒猫


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3/7

スーツの男

 午前中はチームとは別メニューで上半身強化のトレーニングをする。横で二チームに分かれ試合さながらの動きで練習しつつフォーメーション確認をしているチームメイトを気にしていた。身体を動かしているものの、耳はダンボにして監督の言葉を必死に聞いている俺がいた。午後から病院に行くとロビーの所に鬼熊さんがいた。しかし声をかけれなかった。一人ではなかったから。男性が鬼熊さんに花束を渡し、それをビックリしたような表情で受け取る鬼熊さん。その男性は背広姿で長身の男性でまあイイ男? ドラマに出てくるエリートサラリーマンみたいで、シュッとしている。同じスーツ姿の鬼熊さんと並んでいると、二人はまさに同じ世界の人間という感じだった。俺には気が付かないようで二人は話し込んでいる。俺はそちらに目的地があるからという理由でなんとなく近くへと寄っていく。

「ありがとう、私が穴あけて迷惑かけているのに、こんな事まで」

「いえ、少しでも病室が華やげばと思って。

 鬼熊さんこそ、こういう時だからこそ、遠慮しないで俺達をもっと頼って甘えて下さいよ」

 俺に見せる表情とは異なり、真剣でキリリとした顔の鬼熊さん。

「頼りにしているわよ! そして信頼してない訳ではなくて、仕事やりたいの!

 仕事している事で気がまぎれるから」

 相手の男性が気遣うように表情に、鬼熊さんが少し弱々しい顔を見せたのに、俺は近くを通りがかったときにショックを受ける。相手を信頼しあったその感じと、大人同士の会話が、何故か俺を焦らせる。

「俺は、鬼熊さん下僕なんですから、いくらでも顎で使ってください」

 一見自虐的にも思えるその言葉も、イケメンのエリートサラリーマン風の男がサラリと言うとなんかカッコいい。フフと鬼熊さんが大人っぽく笑う。

「らしくないわよ! 清酒くん。私がいない間に、私の席奪うくらいでいてもらないと!」

「俺が狙っている席、そこじゃないんで」

 仲良さそうに笑いあう二人。何だろう? このクールなドラマのような会話。俺には絶対出来ない。俺は何故か逃げるようにリハビリ室へと向かってしまった。近いと思っていた鬼熊さんも、足踏みしている俺とは違いスーツ(ユニフォーム)着てもうピッチに立っている。俺はというと、それを此処でも眺めているだけ。俺は溜め息をつく。


 リハビリを終え、入り口近くのベンチを見ても今日は鬼熊さんはいなかった。少し寂しさを感じ俺はロビーに行き会計を済ませ病院を出ようとしたら肩を叩かれる。振り向くと鬼熊さんがニッコリ笑っていた。

「お疲れさま、終わったのね? 駅までいくならば送るわよついでだから」

 なんでだろうか? 今日の鬼熊さんは少し元気ないように見えた。

「あ……ありがとうございます」

 鬼熊さんは仕事中に家族の見舞いに寄った状態だったようで、会社の営業車であるらしい車の助手席に乗せてもらう。

「今週から、メニューは別にしても練習に参加できるんですよ!」

 相変わらず、俺の話ばかりで、自分って子供っぽいなと思う。しかも話を少しだけ盛っている。今俺がやっているのは練習とも言えない。サッカーと言える動きなんて全くない。

「そういえばさ、さっきロビーで姉さんと一緒にいたの、彼氏?」

 聞いてみてなんか嫌な気分になる。しかし鬼熊さんは大笑いする。

「え? なんで? 私が清酒くんと? 単なる同僚よ!」

 相手の名前なんてどうでも良いが、そうではなかった事に少しホッとする。

「だって、イケメンだし、仕事出来そうだし、ああいうのって女からみていいんじゃない」

 俺とは真逆だ。背も高いし、勉強できそうで賢こそうだし……なんかジェントルマンっぽい。しかし鬼熊さんは顔をしかめ首を傾げる。

「いい男だとは思うわよ! 仕事も真面目だし、優しくて気遣いも出来るし……。でも息つまりそう、プライベートまで一緒にいるのは」

 信号の所で止まったので、俺の方を見て二コリと笑う。

「スゴイ細かいのよ! あの子は、もう少し大らかでいってもいいのにと思うんだけど」

「フーン、俺となんか真逆」

 俺がそう言うと、面白いものを見たかのように笑う。

「そうなの? でもスゴイ才能を持って、夢にまっすぐで、優しくていいヤツ。そこは同じでは? そしてアンタは最高にチャーミング」

 あのイケメン野郎と顔意外の所は同じと言われるのは喜んで良いのか悪いのか? でもチャーミングさでは勝ったらしい。鬼熊さんの言葉はなんか温かくて、萎みかけていた俺の自信やプライドを復活させてくれる。

「まあな!」

 俺がそう答えると、鬼熊さんはケタケタと笑った。俺の言葉で相手が笑う、それが嬉しくてつい道化を演じてしまう俺。今更クールな二枚目風なんて行動出来ないし、相手が喜んでくれるならくれるで、コレでも良いかと、その笑い顔を見て思った。


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