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君の背中に俺の名を  作者: 白い黒猫


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2/7

出来る女

 鬼熊美雪とはそれからよく顔を合わせることで会話をするようになる。といっても俺がチームメイトの事、憧れの選手の事とかを語っているのを彼女が聞いている事が多かった。しかしリハビリでのストレスは彼女のお蔭でかなり軽減したように思う。彼女はそんな俺の話なんて面白いとは思わないのに、ニコニコ聞いてくれるのでつい俺も調子こいてしゃべり続けてしまっている。今日もリハビリを頑張ったという事で、病院のレストランでジュースを奢ってもらっているところだった。

「ところで、今日なんでそういう恰好なの?」

 今日の鬼熊さんは、髪を纏めパリッとしたスーツを着ている。そして化粧をキッチリとしていていつもの柔らかさがない。そういう恰好をしていると何ていうか、ちょっと取っ付き難く見える。

「ああ、午前中会社に行ったから」

 フフと笑う顔も、口紅を綺麗にひかれた顔ですると、なんていか大人っぽい。いやいや鬼熊さんは年齢分からないけれど明らかに俺より年上で大人なのだが、何ていうか色っぽくも感じる。いわゆるビジネスメイクというヤツで派手さとか女っぽいという訳ではないのだけど。ストイックな格好すると、逆に唇とか、アイメイクとか女性ならではの部分に目が行く。

 年齢はいくつくらいなんだろうか? どうでも良い事を思う。

「会社?」

「こう見えてもキャリアウーマンだからね。それにズット休んでいる訳もいかないから。そろそろ生活の為にも仕事しないと」

 そういえば、毎日のように話をしていたのに、まったく相手の事知らない事に気が付く。

「へえ仕事してるんだ」

 そういうとハァと大げさにため息をついて見せる。そのくだけた表情がいつもの彼女でなんかホッとする。

「こう見えても、バリバリ働いているのよ私。この年でもうマネージャーなんだから!」

 よくチームのスポンサーの人とかに名刺をもらったりするけれど、こういう役職ってスゴイのかスゴくないの分からない。

「この年って?」

 こういう事を聞いてしまうのが俺の悪い所だって自分でも分かっている。でもいつも言ってしまってから気が付く。案の譲、鬼熊さんはムッとした顔をしている。でもらしくない子供っぽい表情にニヤニヤしてしまう。

「二十八歳! 何? その顔! もっと上だと思ってたってことでしょ?」

「そんな事ないよ! ただマネージャーって地位がその年齢にとってどうなのかが分からないだけ!」

 俺の必死の言葉が通じたのか、鬼熊さんはハァとため息をつく。

「それくらいだと、思ってたよ! 二十代後半から四十代前半の間くらいなのかなと」

 俺の言葉にチロっと睨んでくる。

「何? そのテレビのニュースにある犯人の漠然とした特徴みたいなの。二十代後半から四十代前半の百六十センチから百七十センチの身長のロングヘアーの女性って感じ?」

「俺って、そういうのって男性も女性でも人の年齢当てんの苦手なんだよ! 難しくない? だったら俺の年齢ってアンタ分かる?」

 鬼熊さんはウーンといいながら俺を見る。眼鏡の奥からジーッと見つめられてなんか緊張する。

「二十三歳くらい?」

「……当たり」

 俺が少し落ち込んでいると、鬼熊さんはフフと笑う。

「君の話も色々聞いていたから。高校卒業とともにプロになってそこから移籍二回にして……というのを計算してみただけ」

「スゲーな! 探偵みたい! こういう感じってことはアンタやっぱりスゴイ仕事できるんだな!」

 プッ

 鬼熊さんは何故か俺の言葉に吹き出し笑いだす。そんな泣く程笑わなくても。

「なんかヒデくんの言葉って気持ちよくて。まっすぐ言葉が心に伝わってくるというか」

「でも、笑ってるじゃん」

 鬼熊さんは、涙を拭きながら首を横に振る。

「楽しいの。キミと話していると。なんかホッとするというか」

 優しく細められた目が俺の方に向けられる。その優しい表情と、その言葉に俺の胸がジンワリ温かくなるのを感じた。こんな状態の俺でもそうやって人を楽しませる事が出来るというのもなんか嬉しかった。

「本当はさ、ホッとさせるんじゃなくて、人を感動させたいんだけどな~! 俺のプレーで!」

 照れ隠しでそういうと、鬼熊さんニッコリ笑う。

「楽しみにしてるわよ!」

「本当に?」

 俺が言うと、顔を引き締め真面目な顔で鬼熊さんは頷く。

「こうして話をしていて、すっかり君のファンになったから!」

「あ、ありがとう」

 俺は初めて言われるその言葉に、思いっきり顔が熱くなるのを感じた。

「で、でも、そういうの俺のプレーを見てから言ってほしいな」

 フフと鬼熊さんは笑う。

「見たわよ! ネットで。昔のだけど。高校時代の貴方の出ていた試合とか。動画アップされていたの。ああいうプレー好きよ!」

 その言葉に俺は思わず固まってしまう。嬉しすぎて。今も賑やかし要員としてイベント盛り上げの存在という役割が強い俺。『アンタもここじゃなくて、ピッチで活躍しないとね~』と後援会の人に言われるだけで、プレーを誉められた事なんてなかった。

「今度は生で見せるから……」

「ん! 待っているから」

 なんか、俺の顔をまっすぐ見てそう言ってくれる鬼熊さんの顔を見てくると、改めてやる気が満ちてきて熱くなってきた。俺は、テーブルの上のグラスに手を伸ばし、ジュースをズズーと飲んだ。

「おう! 期待してて!」

 強がりではなく俺はそう鬼熊さんに向かって答えていた。


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