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君の背中に俺の名を  作者: 白い黒猫


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夢の場所

挿絵(By みてみん)


 目が覚めるような真っ青な地に、赤と白のアクセントのついたユニフォーム。子供時代から憧れだった。

 青春時代の全てをサッカーに捧げて、その結果プロとして憧れのチームに入団が決まった時は心底喜んだものだ。それこそ文字通り飛び上がって喜び、ミュージカルさながらに踊るような足取りで数日間を過ごしたのを覚えている。入団しプロへの道を進むという事が、ただただ挫折を繰り返すキッツイぬかるんだ道の始まりだったなんて考えもしなかった。

 といってもそれまで俺は、プロへの道を順調に歩いてきたわけではない。小学校まではサッカーが超上手い奴という事でもてはやされ天狗になっている時期もあったが、ユースチーム入団テストの不合格から始まり、根拠のない自信とプライドはどんどん傷ついていく。いわゆるサッカー名門の学校を選択しそういう環境に身を置いていくにつれ、自分よりさらに上手い奴と交わる事で自信も磨り減っていくし、劣等感と嫉妬という感情を覚えていく。FWであった自分にDFへの転身を求められた時など、辞めようかと本気(まじ)で悩んだものだ。しかしそれでもサッカーにしがみつき歯を食いしばり頑張った結果プロになった時全てが報われたと思った。

 だが広報用のメンバー紹介用と、集合写真撮影の時以外は、憧れのユニフォームにスタジアムで袖を通す事も叶わず、スタメンおろかリザーブにも入れてもらえない状況。そして目の前には本当にスゴイ奴がピッチで華麗にプレーをしていくのを、チームのジャージ姿で関係者シート座って眺めているだけ。これが俺の求めたプロの姿なのだろうか?

 『Jリーガーやってるんだ』なんて人に烏滸(おこ)がましくて言う事も出来ない。

 二年必死で頑張ったが、状況はまったく変わらなかった。

『君はもっと外の世界で頑張るべきだ』という体の良い言葉で、別のチームへ移籍という名の払い下げ。さらに一年後にはレンタル移籍という形で別のチームへ移される。期限過ぎても元のチームへ戻る事なく更に別のチームに。

 気が付けば冴えない淡いブルーの旗がはためくこの街に流れてきていた。こうして拾ってくれる先があるのはまだ良いのかもしれない。まあJ1であるもののタイトルをとったこともないこのチームだとしても。

 最近になりぼやけたブルーのユニフォームを着て、なんとかリザーブに入れてもらえるようになった。そしてやっと回ってきた出場チャンスで敵FWと激しく接触による靭帯断裂で全治一か月のアクシデント。


 俺は何度目となるか分からないため息をつき。リハビリ室の椅子に腰かけた。俺が今やりたいのはこんな普通の生活をするための訓練ではなく、チームでの練習。ここで俺が足踏みしている間にどんどんレギュラーが遠のいていきそうで怖かった。

 俺はペットボトルの水を飲みながらリハビリ室をぼんやり眺める。さっきから小学生の子供(ガキ)が『もう嫌だ~』と泣き叫んでいて、うるさくて仕方がない。ますますイライラしてくる。


「すごいじゃない、昨日よりも随分歩けるようになって! もう少しね」


 落ち着いた女性の声が聞こえる。突然話しかけられたせいか、喚いていた子供が黙る。

「え?」

 俺は視線をそっちに向けると、俺の二つ隣のベンチに座った女性が子供に話しかけていて、子供はポカンと女性を見上げていた。女性の年齢は、二十代後半から四十代前半? いまいち年齢が分かりにくい感じの眼鏡をかけたロングヘアーに、ジーパン水色のTシャツに黒いカーディガンというラフな恰好をしていた。

「もう少しだから、頑張って!」

 優しい温かい笑みを投げかけられ、子供は少し照れたように俯く。流石に周囲の目というのに気が付いたのだろう。その後黙ってリハビリ自分から始める。

 その女性は俺の視線に気が付いたのか、コチラを見てフワリと笑う。クサッている俺の内面も見透かされた感じで少し恥ずかしくなり、小さく頭を下げてから視線を逸らす。

「俺はアンタの手を煩わせる事はないので……」

 言い訳のようにそういう言葉を漏らしてしまう。するとその女性はキョトンと俺を見て首を傾げる。

「キミは真面目に取り組んでいるものね。エライエライ!」

 フフフと笑いながら、そんな感じで言われるとムッとしてしまう。

「別にコレくらい、大したことないし。いつももっとキツイ練習してきてるから」

 俺はここで、何強がっているんだろと思う。そんな俺を見て、ニコニコと女性は笑っている。

「俺、サッカー選手なんだ松川FCの。試合だって出てるんだぜ」

 公式試合に出たのは片手で数えるくらいしかないのに、そんな言葉を言ってしまう。思った以上に焦っているみたいだ。こんな所で何も知らない相手に空威張りするなんて。

「そうなんだ。だからか、なんか一人根性が違うなと思ってた。

 でもアスリートならば余計に身体が大事!

 焦らないで。頑張りすぎないで、無理はしちゃダメよ」

 そう優しく穏やかに言われてしまうと、力んでいた身体と心の強張りが溶けていく。強がりとかもお見通しなんだろう。なんかフフフと笑ってしまう。苦笑ではなく、久しぶりの素のリラックスした笑い。

「アンタ流石、プロだよ」

 俺の言葉にその女性は目を丸くする。

「へ? プロ? 何の?」

「リハビリカウンセラーなんだろ?」

 すると女性はプッと笑い出す。

「違うわよ! 単なる見学」

「なんだよ、冷やかしかよ!」

 俺が不満げな声を上げると。その女性は手を合わせて謝るポーズをする。

「いやいや、冷やかしているというより勉強で来ているの」

「何? 療法士目指してんの?」

 女性は困ったように笑い顔を横にふる。

「いや、家族がそのうち此処のお世話になるから。

 それに社会復帰するために一生懸命頑張っている彼らを見ていると、元気もらえるから……。ってやはり冷やかしね」

 苦笑してその女性は笑う。俺は慌てて顔を横にふる。

「そんな事ないよ! もしアンタの家族がここで頑張るときは、俺も此処の先輩として助けてやるよ!」

 社交辞令ととったのだろう。その女性は曖昧に笑う。

「俺、あと一か月はここのお世話になるから! アドバイスくらいはできるよ!」

 あまり期待なんかしていないのだろう、ウンウンという感じで軽い感じで頷かれてしまう。

「ごめん貴方なんて言うの? サッカー詳しくなくて。でもこれから応援したいから」

 いや、サッカー詳しい人でも、俺の名前なんて知らないだろう。

清瀬(きよせ)秀正(ひでまさ)! 松川FCのDFで23番……。試合出る事少ないけど……」

 ちゃんと名乗るとなると、本当の事を言わざるを得ない。俺はそう言って今さらのように恥ずかしくて頷いてしまう。

「だったら余計に応援しがいがあるわね。

 私は鬼熊(きぐま)美雪(みゆき)よろしく」

 女性が差し出した手を俺はしっかり握って答える。その手は思ったよりも柔らかく温かかった。

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