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神殺しの世界で踊れ  作者: 山吹十波
#08 RAINBOW
97/101

#08-05 But this rough magic I here abjure.



次々と吐き出される術式が、光の束となって収束し始めている。


「何でもいい!とにかく潰せ!」

「は、はい!」


フェリシア、レベッカ、更紗、フィリスの魔導書持ちの面々が一斉に魔導書を開き、強力な攻撃をぶつけていく。

しかし、思うように攻撃は通らず、一向に発動している儀式を止められる様子がない。


「クソッ」

「別に世界を滅ぼそうというわけではないのですから、落ち着ていそこで見ていなさい」

「落ち着いていられるか!」

「詠!代表は――アレクシス・A・クロウリーは、何をしようとしているのですか!?虹の魔導書で何ができるというんですか!?」

「フェリシア、それはな――――神殺し、だよ」

「流石は詠君だ。そう、まさしく、そうだ。その前に一つ質問に答えよう――神は存在するのか?答えは是だ。今も我々が箱庭の中でもがくのを見てせせら笑っていることだろう。私は別にこの世界が嫌いというわけではないが、何の恩恵ももたらさずただ眺めているだけの自称・神なんぞに良いようにさせるのは癪に障る。いいかい?この世界は所詮0番目の世界を発展させるためのシミュレーションのためだけに存在する箱庭だ。不要になれば世界事デリートされる運命さ。だけど、そんなことはさせないよ。私のすべてを使ってこの9つの世界のシステムを壊そうじゃないか」

「本当に神なんて者が居るとして、本気か?」

「もちろんじゃないか。さあ、もうすぐ儀式が完成するよ。でも、まだゲストが足りないね」

「……呼んでいるぞ、神の使徒よ」

「お待たせしました!」


瞬間、詠とレベッカの間をすり抜けて強力な熱線が走り抜けた。

一瞬、ほんの一瞬小さな穴が開き、そこに本来結界であるはずの光の板がねじ込まれ、その小さな穴がこじ開けられる。


「これは、予想外だ」

「くらえ」


紅の魔導書を抱えた詠がごく小さな光る何かを穴から投げ入れる。


「なるほど、反物質か!」


物質との対消滅により、大きく床が抉れる。しかし、影響は儀式陣の外には出ず、また、床が消滅しただけで、描かれた陣も含めそのほかはすべて無事だった。


「惜しかったね。この儀式陣の中には、もはや、物質であるものなんてないよ。私も含めてね」

「神を殺すなど、私が絶対にさせません!」

「フィリス!レベッカ!ミシュリーヌを抑えろ」

「え!?」「なんで!?」

「時間切れだ。離れるぞ!――フェリシア!」

「エントランスまで空間跳躍します」

「さらば、詠君。今回は私の勝ちだ」


アレクシスが光の中でそういいながら笑ったのを見たのを最後に、目の前に景色が切り替わる。


「!!――外に出るぞ!」


真っ先に外へと出て上を見上げる詠。それに続いた更紗とルリカも上を見上げる。


「あれは……龍?」


屋上から放たれた竜のような光の塊は、まっすぐ天を目指し――空に達し――空を貫いた。


それを見ていた全員が呆然とする。

空に確かに亀裂が走り、ガラスのようにバラバラと砕けた。

そして、その向こう側の闇へと光の塊が進んでいき、しばらくして爆ぜるような強い光が発せられた。


「どう、なったんだ?」

「あれで本当にカミサマを殺せたの?」

「さあ、確認する方法はないんだが……ミシュリーヌ?」

「……神は死にました」

「は?本当に言ってるのか?」

「恐らく、この世界にある神話の神々はまだいるでしょう。ですが、我々の星杖教会の信仰していた――アレクシス・A・クロウリーの言うところの平行世界の管理者は消滅したようです」

「証拠はあるのか?」

「見ていてください」


ミシュリーヌが呪文を諳んじはじめ、何か術式を構成し始めるが、すぐに術式がほどけ失敗に終わる。


「先ほどから何度か試したのですが、ずっとこの調子です。私たちが端末を通さずに使う術式は信仰を対価に他の世界に存在する術式を使うものでしたが、仲介者がいなくなったからでしょうか、発動しません。勿論、この術式が本当にそういうプロセスを踏んでいたのかどうかについてはもはや確かめることもできませんが」

「……最悪の事態を考慮する必要があるか?」


空を見上げると、その空から暗い色の何かがゆっくりと降り注ぐように見える。


「……何だあれは」

「あれは世界の終わりだよ、終焉因子というやつだ」

「!?――代表!?……って透けてるし」

「ひっ、どうなってるんですか!?先輩!」


こちらの様子を見に来た偲が驚いて後ずさる。


「それで、終焉因子とやらがあるとどうなる!?」

「まあ、世界を滅ぼしかねない何かが起こる。2年ぐらいかな?――あの空の大穴が空いている限り因子は降り注ぐし、世界のどこかしらで文明を破滅させる規模の何かが起きる。まさか、神が死んだくらいで子の箱庭の設定がここまで壊れるとは思ってなかったけど」

「おいおい、これを引き起こしておいて、自分はあっさり成仏とかするんじゃないだろうな?」

「流石にそれはしないよ。別にこの世界を滅ぼしたいわけじゃないって言ってるだろう?まあ、多少の試練はあってもいいと思うけど、あの大穴は私が塞ぐよ」

「どうやって?」

「先ほどまで使っていた結界術――拒絶壁の応用だ。ただし、100%は塞がない。常に降り注ぐ終焉因子の10%ほどは世界に落とす。そうしないと穴がふさがるまで術式がもたない」

「わかった。なら早く行け」

「最後まで冷たいな君は。まあ、私は魔導師として最後の望みを果たした。君はどうする?」

「オレはオレのしたいようにだけやるよ」

「それが一番君らしいな“黒銀”」


アレクシスの体が溶け消えたと思うと、空の大穴を覆うように光の壁が形成され始めた。

大きさは見当がつかないが、常人のできる所業ではない。


「……詠」

「フェリシア――後始末をしないとならない。指揮を任せていいか?」

「はい!」

「ネル、すぐに関連する全組織のトップと会談できる状態にしてくれ!この事態についての説明をする!ハーマン、聞こえているな!そっちからも連絡頼む!」

『了解しました。マリウスさん、テアさんはすぐにこちらにお願いします』

『ああ、すぐに何とかする』


「……やりたいことだけやってこの世を去るとは」

「ねえ、詠。詠はどうしたいの?」

「カルマ、安心しろ。オレはああはならないから――しかし、後味が悪いな。何一つ解決できないまま終始アレクシスの掌の上か」


詠は空の大穴を眺めながらため息をついた。


『詠さん、会議の目途が立ちました。とりあえず、テレビ会議ですが』

「充分だ。ありがとう。予定時間は?」

『2時間後です』

「ハーマン。それまでに報告文章の作成を頼めるか?」

『お前がやった方が速いだろう』

「いや、オレが書くとあとから英訳する手間があるから……」

『仕方ないな。キース、手伝ってくれ』

『……詠。こちらテア。大丈夫?』

「少し疲れたが。問題はない。残党は?」

『ほとんど狩り尽くしたけれど、精神操作系の術式の形跡があるから罪に問えるかはグレー。レナートに任せて私はそっちに向かう』

「闘争心を上げる術式ぐらいは使ってると思ってたが」

『結構強いやつ』

「フィリス、レナートさんに合流してくれ。幻術、まではいかないけど精神操作系ならお前の領分だろう」

「了解」

「更紗、放心してるミシュリーヌを連れて中に入ってくれ。レベッカもレナートさんの方に合流していいぞ」

「任せて。ミシュリーヌ行きましょう」「ほんとに?ありがと」

「さて、後は……ん?」


自分の足元にいつの間にか現れた“紅の魔導書”――ラプスが涙を流していた。


「……カルマ、これは」

魔導書(わたしたち)だって自分の生みの親を失えば泣くのよ」

「そうか……」


ラプスの紅の髪をなでると、ラプスが詠の背に顔をうずめる。


「はぁ……厄介なことしてくれた上に、厄介すぎるもの残していったな……」

「詠、大丈夫ですか?」

「ああ、そういうお前こそ」

「私は大丈夫――でもないかもしれませんが、今は何かしてないと落ち着きません。あんなことになっているんですから」

「そうだな……会議まで少し休もう、フェリシア」

「え?あの、いいんですか?」


フェリシアの手を引いて建物の中へ、


「トラム、復元だ」

「あい」


詠の周囲から輪が広がる様に、瓦礫の山が元の形へと修繕されていく。


「そういえば、地下にいるであろう奴らは?」

「確認してませんでしたね。休憩がてら確認しに行きましょう」

「だな。トラム。起こして悪かった。寝てていいぞ」

「うん」


トラムの頭をなでると満足そうな表情を浮かべて消えていった。

なお、ラプスはいつの間にか詠の背におぶさっており、こちらも寝息を立てている。


「子供出来たらこんな感じなのかな……」

「ふふ、この後片付けが終わったらいくらでも産んであげますよ」

「すごい発言だな。だが、まあ」


フェリシアの頭に手を置く。


「その為ってわけじゃないけど、もう一頑張りしようか。世界な為に、とかいうらしくない理由で」


次回>#Fin BLACK&SILVER

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