#07-07 I think him so , because I think him so.
「え!?ちょっと、貴方何言って……」
「黙っていて申し訳ありません、縁さん。でも、この状況に遭遇した以上は、僕は売れるだけの恩を日本に売っておかなければいけない理由がありましてっ――惑いの風!」
翡翠の本のページが勢いよく捲られ、紫色の陰の周りに薄緑色の耀く靄が現れた。
「協力するといった手前申し訳ないのですが、僕は攻撃魔法を一切使えません」
「わかっています。聖女リエルの癒しの導き、ですね?」
「ええ、我々が所有する魔導書の中でも弱い方の奴です」
「待ってください、薔薇十字団の所持している魔導書は一冊では!?」
「今回の件に協力する報酬として、“黒銀”―-つまり、詠君から“破壊の法典”を譲り受けています。なので、今回は真っ当に協力しますのでご安心を」
薄緑の中の靄でもがいていた小さな影は方向をかえ元来た道を走り始める。
「街に出られても困るけど、あっちはあっちでまずいんだよなっ!」
「照日、追いなさい!」
「縁さん、僕の鞄に射出式の封印鉄線が10本入ってますので取ってください」
「え!?わ、わかった!」
縁が地面に投げ捨てられていた水野の鞄を開けて封印鉄線を取り出し、水野に向かって投げる。
それを受け取った水野は、そのまま、綾子へと渡した。
「詠君のように器用な真似はできませんので、僕は魔法に集中します」
「わかっています、魔導書を操りながら他のこともこなす彼がおかしいのです」
照日と影千代を追って綾子が走り始める、そして、水野は、
「縁さん、どうしますか?ついてきますか?」
「やめておく。私はこのまま正規のルートで綴のところに行く。ちゃんと合流しないと置いて帰るからね」
「はい、絶対に戻ります。それよりも、その合宿所の方にアレが向かう可能性が高いので十分に気を付けてください」
「わかってる」
縁が山道を登地始めるのを確認してから水野も照日達の後を追う。
細かく戦闘しながら移動しているせいか、それほど遠くには行っていない。
「フェクシオ、強化を」
『ウィンドブレス』
林の木を蹴りつけ、高く跳び上がる。
そしてそのまま次の木を蹴り、次の木へ。
数回飛び移ると、魔法の弾ける光が見え始める。
「こんな時に攻撃が使えれば便利なんだけど」
水野の持つ端末にはアレに有効な攻撃術式は登録されていない。
「麻痺」
『パラライズアロー』
黄色い矢が紫の少女へと降り注ぐ。命中はしたが、効果は薄いようだ。
だが、若干鈍重になったその身へと、影千代の打撃が入り、大きく吹き飛ばされる。
「ちっ、効いてる気がしないわね」
「というか、アイツ、ちょっとキレてないか?すげぇ、いやーな予感がするぞ」
「そうですね、あの魔方陣はダメです」
吹き飛ばされた少女を中心に極大の魔法陣が展開され、中から醜悪な獣が召喚される。
「うげ、強そうなのが出てきた」
「幻獣っ!?」
「照日、どうする?」
「前やったときは詠が一人で抑えてたからなぁ……とりあえず、水野っていったか?お前とオレであのライオンモドキを抑える」
「わかりました」
「お前らは本体を―――おいおい、マジかよ」
獣はまっすぐと山を登り始め、魔導書は山を下り始めた。
「急ぐぞ!水野!あのねーちゃんがヤバい」
「はい!」
走りながら掛けれるだけの強化魔法を照日に掛けながら、水野はどう戦うべきか考える。
相手は“混沌の悪獣”。幻獣であり、闇属性というだけでも水野の攻撃は聞きにくいというのに、アレがもっている“混沌”という特性まで加われば、毒はほとんど効かない。
「おらぁっ!」
照日がキマイラに向かって鉄製の杭のようなものを全力で投擲する。
見事命中し、その体に深く刺さるが、効いている様子はなく、こちらを振り返ることもしない。
「なんだ、こいつ。完全にこっち無視する気か!?」
「嫌な勘ですけど、本能的に弱い獲物がたくさんいるほうに向かっているのではないかと」
「おう、最悪の考えだな。急ぐぞ!」
でかい体で結構な速度を保ちながら斜面を駆け上がるキマイラ。
油断すると距離を離されてしまう。
「おい!九条!幻獣がそっちに向かってる!急げ!」
『そんなのが攻撃して来たら流石にもたないぞ!』
「というかもうすぐ着く――ほら見えて、ヤッベェ」
合宿所を包む結界に体当たりを食らわせたキマイラは悲鳴を上げるものの、それだけで結界が一枚割れる。
「水野、結界術使えるか!?」
「似たようなものなら多少は」
「じゃあ頼む!」
「わかりました――防護壁」
『エアプロテクション』
結界を覆うようにできた見えない膜は、次の体当たりの衝撃を吸収した。
「これなら時間稼ぎはできるな」
「次の攻撃で破られそうですけどね」
「マジかよ」
「水野!」
「――ああ、縁さんなんてタイミングが悪い」
「なにあれ……」
「幻獣です。本当に危ないので離れててください」
「わかったけど……何とかできるものなの?」
「無理です」
「言い切るな馬鹿」
『ちょっと、こっちもやばいんだけど!?』
「うるせー九条!死んでもいいからガキどもは守りきれよ!」
『頑張るよ!?死ぬのは嫌だけどね!』
キマイラの突進によって水野の防護壁と結界が数枚割れた。
「おい、アイツさっきは本気出してなかったみたいだぞ!?」
「水野!水野!何とかしなさい!」
「そんな無茶な!――防護壁!」
次は一撃で破られた。
「おい!九条!無理そうだぞ!」
『あきらめないでよ!ていうか倒してよ!』
「無理だろ!殴ってみたけど効いてる様子ないぞ!?」
『魔法を使え――――!』
「なるほど!」
強化以外に使っていなかった端末を取り出す。
「あー、これどうすりゃいいんだっけ?」
「……使い方わからないとか言いませんよね?――防護壁」
「まあ、基本的に殴って倒してたからなぁ」
『相変わらず蛮族なんだから……』
「うるせーぞ、影千代。というかそっちは?」
『ダメね、追いつけない』
「そっちを封印してくれればそれも消えるのによ」
『そんなこと言われても――あら?』
無線から何か声とは別の音が聞こえたと思うと、それはすぐにこちらにも表れた。
「ヘリか!?」
「ヘリですね」
『え!?救援かな!?――無線が入ってる?え?全館放送で流していいの?すごい自信だね』
着陸を待たず、ヘリから5つの人影が飛び降りる。
『――こちら、“黒銀連合”。状況をお願いします』
『冷泉よ、偲ちゃん。幻獣がそこにいるわね?魔導書はこっちで追ってる』
『わかりました。幻獣は私と――ネルさん、いいですか?』
『OK. So, Grimoire it will be delegated to the "white".』
『『『Roger』』』
着陸したと同時に魔導書の方向へと散っていく3つの影。
そして、結界の前のキマイラに一撃を決め着地する長身の女と、照日も見たことがある女。
「お久しぶりです、月影さん。四辻偲です」
「おー、あの時の嬢ちゃんか」
「そうです。今は、詠先輩のとこにいます」
「そりゃ、すごい出世だな」
「Shinobu!」
「ごめんなさい、すぐに!――“I”“H”“T”!」
《Integration completion : “Freeze Volt》
偲の攻撃によりひるんだところに、ネルの一撃が叩き込まれ苦しんだ声を上げるキマイラ。
「ネルさん、どれぐらい手応えありました?」
「few―-ほとんどありません」
「詠先輩が幻獣バラした術式は覚えてますけど、あれ使うと山ごと消し飛びますよね」
「Yes―-オススメはしません」
「というかネルさん、日本語しゃべれるんですね」
「少しだけなら」
『私も話せますよ』
『ナツメ、あんた日本とアメリカのハーフなんだから当たり前でしょ?』
“黒銀連合”が合流し、戦力が増強されたせいか、緊張感が少し解けた。




