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神殺しの世界で踊れ  作者: 山吹十波
#07 CRIMSON
89/101

#07-05 Fragment of the world.

具現化させた“紅の魔導書”を閉じると、詠は鼻に違和感を感じた。

連続行使、というほどは使っていないと思ったが、これは思ったよりも負担が大きい代物だったようだ。


「あー、更紗、ティッシュ持ってない?」

「ごめん、今戦闘中っ!?」

「……悪い」


襲い来る水の鞭をすべて凍らせ、砕いていく更紗。その隙に、死角に回り込んだフィリスが、視覚阻害の術式を打ち込む隙を狙っている。


「まあ、鼻血は出たが、とりあえず魔導鎧殻(ガラクタ)は片付いたな」


反対側では、一瞬で生成された岩の壁をフェリシアが過重を与え叩き潰し、その隙にレベッカの撃ち込んだ炎が派手な爆発を起こしている。


「詠、詠」

「どうした、カルマ」

「目」

「め?」


自分の目元を拭うとぬるりとした感触が伝わってきた。


「え?もしかして、目から血出てる?」

「でてる」

「こいつは、びっくりだ……」

「私とトラムを使いながら三冊目に手を出したのよ?そりゃ、こうなるわよ、この浮気者」

「だけど、カルマにしてもトラムにしても使うとしばらく街自体が再起不能になるような禁術しか載ってないからなぁ」

「え?福岡でやったんじゃなかった?」

「あれは、全部燃やしたからセーフだろ」


目元の血を袖口でぬぐい取ると、“黄の魔導書”をもったフェリシアがこちらにやってくる。どうやら終わったらしい。


「詠!?また無茶をしましたね!?」

「おー、無事か?レベッカも」

「いや、私たちのことよりも自分の心配をした方がいいんじゃ……」

「そうです。どうして、三冊目に手を出したんですか?ただでさえ、負担の重い2冊を持っているというのに」

「え?負担重いの?」

「それはそうでしょう。自然の法則に大きく逆らうものほど、魔導書の負担は大きくなります」

「まあ、レベッカの“橙”は火だからそんなにきつくないだろうけど、オレの持ってる“時”と“創”、それと“法”は特に重いだろう。フェリシアの“空”もな」

「そうだったんだ、似たようなものかと思ってた」


そんな話をしていると、何とか仕事を終えた更紗たちも戻ってくる。


「詠、終わったわ。ほめて。あと、はい、ティッシュ」

「ありがとう。そして、お疲れ様」

「もう、魔導書相手は勘弁してほしいよ……私の幻術ほぼ効かないんだから……」

「魔法生命体は魔力波長をたどって攻撃してきますからね」

「そこまで誤魔化すとなるとかなり術式のスタンバイに時間食われるし……」

「さて……こちら“黒銀”。東京制圧完了」

『はやいですね!?こっちはもうすぐ着きます!――あ、“凍風”です!』

『“西風”……こっちも、もう終わる』





強固な結界術式で固められた部屋のはずだったが、その扉はもう間もなく粉砕されるであろうという音がしていた。


「だだだだだだ、大臣!どうするんです!?」

「情けないわね、男なら腹を括りなさいな」

「えええええ!?」


数人の役人たちが悲鳴を上げるなか、部屋の主・烏丸蘭は落ち着いていた。

それと、その隣に立つ秘書の女性と男性も取り乱すような様子はなかった。


「さて、この程度の結界だと5分もあれば破られるのね」

「そのようですね――ああ、東京支部の方鎮圧完了したようです」

「そう、救援が間に合ったのね」

「救援!?ならば、こっちにも!」

「それは無理じゃないかしら」


蘭がドアを指さすと同時に、その重そうな木のドアが粉砕され、鈍い金属の巨体が現れる。


「何か御用?あなたたちの作戦は終了したようだから、もう陽動はいらないんじゃない?」

「…………」


巨体は何も話す様子はない。

そして、秘書の女性が何かに気付く。


「そういえば、貴方のお仲間。もう何人かいたようですけど、どうしました?」

「もう全員生きてはいないわ」


秘書の質問に答えたのは、女性の声だった。

カツカツと音を立てながら、1人の女と小柄な少女が魔導鎧殻の背後に現れ、そして、小柄な少女が何かを唱えて、腕を振った瞬間、魔導鎧殻が両断された。


「こちら“火焔”。作戦終了。大臣とその秘書は無事よ。あと、どうでもよさそうなおじさんたちも」

「……すぐにそちらに合流する」


耳につけたインカムとマイクでどこかと通信しているのだろう。


「……助かったの、か?」

「おおお、どこのだれかは知らないが、ありがたい!」


盛り上がるダメなお役人たちを見て、秘書がため息をつくと、女二人に問いかける。


「日本人ではありませんね、所属は?」

「……所属はドイツ――」

「WUGの魔導師がなぜ?」

「――Blut Hexe」

「!?――魔女、ですか」

「魔女だと!?」

「実在したのか!?」

「煩いわよ、貴方たち。もう、面倒だから先に出ていきなさい」


蘭が外野を無理やり追い出すと、その場に残ったのは蘭と男女の秘書が2人。

秘書はどちらも、魔導師としての経験のある一流の術師だが、この2人ほどの腕があるかと言われれば否。冷や汗が止まらない二人だったが、特に取り乱す様子もなく、蘭がは話を再開する。


「それで、ドイツの魔女がどうしてこんな島国に?」

「……かわいい弟子のため」「娘の恋のため、かしら?」

「は?」「「は?」」


三人そろって呆然とした。


「要領を得ないのですが……」

「……依頼主は“黒銀”」

「そうよ、それを最初に言えばよかったんじゃない」

「……私にそんなことを期待されても」


マイペースな二人にやや混乱しつつも、秘書の二人は目を見合わせた。


「そう、概ねあの電話の通りに事は進んだようだけど……しかし、京都の襲撃から、東京の襲撃時間まで、ここまで正確に予言するとは」

「……すぐに撤収するから後片付けは任せる、と」

「わかったわ。あと、全部終わったら覚悟してなさい、とだけ伝えといてくれるかしら?」

「……了解」

「あ、あの、大臣?どういう状況なのです?」

「新発田、こちら、“魔女の血”代表の“西風”の魔女、テア。リッケルトさんよ」

「は、はあ、初めまして」


男のほうが頭を下げる。


「隣の方は聞いてないけれど」

「あれ?紹介してもらえなかったのかしら……」

「……レナートは私のおまけ」

「いいわよ、自分でするから。“火焔”の魔女、レナート・ハインミュラー。どうぞ、お見知りおきを」

「……そういえば、娘がどうとか」

「そうなのよね。私の娘、ヨミにベタ惚れでもうどうしようもないから、もらってあげてくれないかしら」

「……あの子、もう結婚してるはずよ?」

「それは知ってる。でも、あの子を狙ってる女の子は1人や2人じゃないわ」

「……どこか重婚ができる処に国籍移すように言っておくわ」

「あら、ダメ元だったのに」

「仕方ないでしょう」

「……そろそろ、京都に向かう」

「ええ、そうね。それでは、また」


そういうと二人の姿が掻き消える。


「……なぜ、あんな大物の魔導師――というか、魔女が?」

「息子の手柄よ」

「息子、といいますと?」

「息子は息子。日本で、18歳になってすぐ魔導師になっておいて、私に隠しきれてると思っている愚かな息子よ」

「え?じゃあ、あのルーキー5人の中に息子さんが?」

「あの中にはいないわ。だって、あの子。16歳になってすぐにアメリカで1級資格取得しているんですもの」

「……さすが、大臣の息子さんですね」

「そのつながりで、先月の会談が?」

「ええ、シャンクリー局長ともその娘さんとも仲がいいらしいわあの子。まあ、向こうで勝手に飛び級しまくって大学卒業資格取ってたのは流石に知らなかったけど……」

「……さすが、大臣の息子さんですね」


女性秘書が手持ちの端末で検索を掛ける。


「ああ、この方ですね――詠・榛葉=シャンクリーさん」

「ええ」

「所持資格が……米国、日本、独逸、英国、とんでもないですね」

「そんなすごい魔導師がいればすぐに有名になりそうですが」

「所属が日本じゃなくてIMAなの。それと、“道楽”と仲がいいせいか隠蔽工作は完璧なのよね」

「……確かに、係わった事件は殆どロックがかかってますね、IMAにパスを要求しないと見れません」

「そして、そのパスを管理しているのが、お嫁さんのフェリシアさん」

「……国単位で要請を出しても無理そうですね」

「まあ、実際、機密問題に多くかかわってるのは本当だろうけれど」

「……大臣、息子さんを魔導連で雇うというの無理なんですか?」

「無理よ。そんなお金、うちのケチな国が出してくれると思う?」

「それほどですか?」

「美原、うちの息子の通名は?」

「“黒銀”、です」

「あの子を動かすと、何億か単位で費用が掛かるわよ?それに、詠は連合持ってるし……連合というよりもハーレムなのかしら?」

「……確かに、連合のメンバーはご子息以外全員女性ですね」

「全員通名持ち、しかも、魔導書所持者が何人もいる。そんな連合、この国のショボい予算でどうにかなるのかしら?新発田」

「……無理ですね」

「……今回のことで詠さんはアメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツ、オーストリアを回って日本に来ています。とんでもないですね」

「無駄に行動力があるのよね、誰に似たのかしら」

「「大臣でしょう」」




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