#07-01 Despair and Die!
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電話を切った後からかなり落ち着いた表情を見せるようになった綴を、同じく避難していた友人3人がにやにやと見ていた。
「え、何!?」
「いや、大好きなお兄ちゃんの声聞いて安心した?」
「したけど……いや、別に大好きでもないよ!?」
「それでお兄さんはなんと?」
「もうすぐ中国だからって」
「それ結構遠いよね……」
「昨日メールしたときはドイツって言ってたよ?」
「ボクも兄さんいるけど、そんな頻繁にメールしたりしないなぁ」
「というか亜海も緋鞠もこんな時に綴いじって遊ばないの」
「うわーん、結愛。2人がいじめる」
「綴、だいぶ余裕戻ったね……」
バキン、とかなり大きな音を立てて、何かが砕ける。
これで最初から数えて6回目である。
「もうすぐ1時間だけど6枚か。やっぱり、魔導鎧殻が問題だねぇ」
「片付けてきましょうか?」
「いくら、綾子君でも一人ではきついだろう。どれだけいると思ってるんだい?敵」
「さすがに厳しいですかね」
「だろうね。悪いけど、榛葉綴君を呼んできてくれるかい?お兄さんに電話してたみたいだから」
「はい」
その場から消えたと思うと、一瞬で綴を連れて戻ってくる綾子。
「やあ、綴君。さっきお兄さんと電話してたようだけど、なんていってた?」
「えっと、支部長さんがいるから大丈夫だって……あ、あともうすぐ中国だからじき日本に着くって」
「やれやれ、過大評価してくれるね。しかし、中国か……まだ結構時間かかりそうだし、“黒銀”君には期待できないか……」
「そういえば、ここに電話かけろって電話番号教えてもらったんですけど」
「えっと、これは……なんだか見たことあるなぁこの番号」
「そうなんですか?」
「綾子君、これ誰だっけ?」
「確か、月影さんだったような」
「ああ、照日か……そもそも日本にいるのだろうか」
「え?」
「アイツは放浪の民だからねぇ。まあ、詠君のことだから先に呼び寄せてるんだろうけど」
「そうなんです――ぅわっ!?」
7度目の破壊音。
「思ったよりペースが速いね……」
「このままだとあと1時間も持たないんじゃないですか?」
「まあ、向こうの目的は僕の足止めだからそんなに急いで攻め込んでは来ないんじゃないかな?とは思うけど。まあ、あと何枚か増やしておこう」
九条が端末を取り出し、術式を展開し始めたところで続いて2度の破壊音が響く。
「これは……」
「突然速度が上がったね。真剣にまずいかもしれない」
「ど、どうするんです?」
「とりあえず、電話かけて見てくれるかな?」
「は、はい!」
急いで電話を掛ける。
通じると同時に、電話の向こうから激しい爆音が響く。
『おっと、悪いな。で、どちらさんで?』
「あ、あの、榛葉綴といいます。詠の妹です。兄から何かあればここに掛けろと」
『おー、聞いてる聞いてる。で、今鞍馬山登ってんだけど敵が多くてなぁ。九条の結界はどれぐらい持つ?』
「ちょっと聞いてみます――あの、結界どれぐらいもつかって」
「今のペースなら1時間半ってとこかな」
「1時間半だそうです」
『あー、思ったよりきついな。とりあえず掃除しながら行くわ。じゃあな、妹ちゃん』
「は、はい。ありがとうございます?」
電話が切れる。
「月影さんはなんと?」
「掃除しながら?来ると」
「まあ、敵の背後はあの人に任せておけばいいでしょう」
「でも、彼、魔導鎧殻潰せるかな?」
「まどう、がいかく?」
「たぶん無理でしょう。綴さん、ありがとうございました。何か連絡があれば報告お願いしてもいいですか?」
「わかりました」
結愛たちの元へと戻ると、今話していたことすべての内容を聞かれる。
内容をかいつまんで話して全員の顔が曇るのだが、聞いたほうが悪いと判断した。
「そういえば、結愛。魔導がいかく?ってなに?」
「え!?それって……魔法が効きにくいように特殊な装甲を重ねたパワードスーツだったような……そんなもの投入してるの!?」
「なんだか怖いですね」
「ほんとに魔法が効かないの?」
「端末で打つような低出力なものだと弾ききれるはず」
「それまずいですよね……」
「戦闘に参加できるような魔導師はここにはいないよね?」
「そうですね……1級合格者の実務経験者でここにいるような人間はまずいないですし」
「そもそも1級受かってここにいるってことは基本的に技術試験だろうしね」
「いえ、たしか全科目90点以上なのにここに参加している変わり者がいたはずです」
「え?いくら参加してもいいとはいえ、ほんとに参加する奴がいるんだね……」
「呼びました?」
二人の前にひょこっと現れたのは今話題にしていた人物。碓氷丞である。
「新人の碓氷です。よろしくお願いします。あと、サインください」
「サインはあとでね。でも、まあ、実戦経験ないんだよね?」
「ないですね。だからここにいるんですけど」
「なるほど、1級にいきなり合格する合格者は早々いませんが、合格して自主的に訓練に参加するものもいません。いいことです」
「でも、まあ、僕の場合は詠の紹介で影千代さんに師事してますから。戦闘経験はそれなりですけどね。実際は何か起こることを見越して詠にここに送り込まれたといっても過言ではないです。まあ、半分以上趣味ですけど」
そういうと丞は、銀色の小さめのアタッシュケースを2つ二人の前に出す。
「お二人の分です。魔導鎧殻を削るための武器です」
「これは、“黒銀”君から?」
「ええ、一昨日届きました。『お前のことだから必要ないのに訓練合宿参加してるんだろ?これを念のためにもっていってくれ。何もなかったら後で回収するからそのまま持っておけ。ああ、お前と真白には合格祝いで一機ずつやるから』って手紙が入ってました。おかげででかい鞄担いで山登る羽目になりましたけど、これがもらえるならば安いものです。入れているキーは最低限らしいですけど、それでも使えるでしょう」
二人がケースを開くと、銀のカラスの部隊章が刻まれた端末が入っていた。
「新規製作されたモラン社の特殊魔導端末Silver&Black――略して“Si-Lack”です」
「これはまた高そうなものを……」
「今は“黒銀連合”にしか卸してないらしいですよ。まあ、特許権のほぼすべてを詠が持っているらしいんで」
「さすがですね……それで、あと2つもってるようですが、あなたのご友人の分ですか?」
「いえ、2級の彼らにこれを渡すほど詠は甘くありません。でも、妹さんにはベタ甘ですからね」
「……なるほど」
「マニュアルも入ってるはずなのでもしもの時に備えてお願いします」
「わかった。ありがとう、碓氷君」
「いえいえ、後でサインもらいに行きますからね!伊志嶺さんも!」
「私もですか!?」
そういうと丞は2人の前から離れる。後ろで見ていた全と灯里が駆け寄ってきて説明を求めるが、それを待たせて綴たちのほうへ向かう。
「ええと、改めまして、お兄さんの友達の碓氷といいます。これ、妹さんと結愛さんに」
「え、っと。ありがとうございます」
「わ、私もですか!?」
「『この二つも主要なキーしか入れてない。だが、君たちの端末にはオレは関与しない。オレ以外が開発を行わなければ発展も見込めないだろうから、君の好きなようにやってみるといい。何かいいのができたら教えてくれ』っていう伝言を預かってるよ。妹さんも彼女の開発を手伝ってやれって」
「は、はぁ」
「えええ、そんなすごいこと私に、私なんかに!?」
「まあ、ここから出られたらになるけどね」
背後で破砕音が響く。
「また、割れた……」




