#06-10 Love like a shadow flies when substance love pursues.
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ベルリン支部襲撃から一晩が経過した。
かなり根を詰めて、考え事をしていた詠は現地時間21時になる前にはフェリシアにベッドルームに引きずり込まれ強制的に就寝という流れになった。
なお、部屋には内側から鍵がかけられ魔法的な結界も張られていた。
0時を回るころまで結界を解くのに試行錯誤していた更紗とレベッカはネルに叱られて自分たちのベッドに戻った。
そして、朝。
午前9時になる前にフェリシアの掛けた結界の耐久時間が過ぎたようで、鍵さえ開けれれば詠とフェリシアの部屋にはいれるようになった。
すでに起床していたフィリスと偲が興味本位で開錠し、中をのぞいて真っ赤になってでてくるまでがワンセットだ。
「偲さん、フィリスさん。おはようございます。どうかされましたか?」
「おはようございます、ネルさん。いえ、私たちには刺激が強すぎただけです」
偲の隣のフィリスが激しく頭を縦に振る。
「……そこまで言われると少し興味がありますね」
「えー!?ネルさん、先輩たちに覗くなって説教してたじゃないですか」
「いや、あれは覗こうとしてたんじゃなくて、乱入しようとしてたので止めたんですよ?流石に3人も相手にすれば体力的に今日の作戦に支障が出るかもしれませんし」
「……ああ、そういう理由だったんだ」
「……常識的観点から言ってるんだと思ってた」
その時突然背後のドアが開き、主寝室の前で騒ぐ3人が同時に飛び上がる。
「悪い、少し寝過ごしたか?」
「い、いえ……フェリシアさんは?」
「シャワー浴びてる。偲後輩、更紗起こして来い。30分で出るぞ」
そういうと少しふらふらした足つきで詠はもう一つのシャワールームへ入っていく。
「ああ、そっちはまだルリカさんが……」
『え!?何!?』
『おわっ!?悪い寝ぼけてた!』
『――まあ、詠ならいいか。時間ないんでしょ?一緒に入ろ?』
『阿保か。それならフェリシアのとこにいくわ』
『ちぇー』
「……大丈夫そうですね」
ルリカの後にシャワーを浴びた詠が、身支度を済ませ、部屋を出るころには、更紗とレベッカも無事偲によって着替えさせられ半分寝ている状態で連れ出されていた。
詠はマリウス翁に電話を掛ける。
「おはよう。早速なんだが」
『すぐに離陸できる用意はしてある』
「助かる」
◆
ホテルから大急ぎで移動し、薔薇十字の紋章が描かれたあからさまなジェット機に乗り込む。
「……で、お二人は残らなくていいのか?」
「……大丈夫」
「もうベルリン支部には狙われる要素ないから」
そこにいるのが当然という顔で座っているレナートとテアに少々あきれながら、飛行機はウィーンに向けて離陸する。
「マリウス翁、東京はどんな感じだ?」
「一応対策として、通名もちの魔導師は東京に招集しておるみたいだが」
「まあ、いくつか問題があるな……戦力的に不安だ」
「だな」
「青と紫と黄の魔導書、こいつらを暴走させて放たれると東京は壊滅するな……」
「そもそも、魔導鎧殻をどうにかできるような術師もおらんだろうし」
「西条あたりなら倒せる様な気もするが……御来屋はダメだな」
「そういえば東京には“赤の魔導書”もあったのだったな」
「“所持者”の実力がかなり不足してるからたぶん瞬殺される」
「厳しい評価じゃの」
「魔導書としても、火力なら“橙の魔導書”に劣るからな」
「華々しくデビューした割には大した活躍もしておらんしな」
「詠、朝食です」
「え?いつ買ったんだ?」
「マリウスさんに昨日のうちに頼んでおきました」
「どうせ朝食も食わずに出てくるだろうからできれば用意してくれと頼まれておってな」
「さすが、フェリシア」
「なかなかいい嫁を持ったな、お主」
「だろう?」
パンにハムとチーズを挟んだ程度のものだが、これはこれで美味いものがある。
「むぐむぐ、さて、今の“緑の所持者”が誰か知らないけど、着いたらすぐ会えるのか?」
「それがな、演奏会のリハーサルがあるから昼からにしてくれと言われてな」
「悠長な。これだから芸術家系は嫌いなんだ」
「13時に約束している。まあ着いたら観光しつつ昼食だな」
「……じゃあ、別にこのパンいらないんじゃ」
「それは食っておけ」
「更紗先輩、なんか少しだけ観光できるらしいですよ?」
「んー……ウィーンって何があるの?レベッカ」
「歴史地区とか国立歌劇場とか宮殿とかかな……あとは、大聖堂?」
「……ヨーロッパってそんなのばっかりよね」
「更紗先輩、それを言ったら元も子もないですよ」
「ねえ、ルリカ。オーストリアって何がおいしいの?」
「詳しくは知らないけど、たぶんパンとかパイとかそっち系の料理が多いような気がする」
「……ルリカさん、雑すぎませんか?」
「そろそろお米が食べたい」
「そういわれても……ああ、でも明日には東京ですから、お米食べれますよ」
「日本人は米ですよね」
「……ナツメ、あなた純血の日本人じゃないでしょうに。それに育ちもアメリカだし」
「細かいことは気にしちゃだめですよ」
「私が定期的に辛いもの食べたくなるのは中国系の血のせい?」
「違うと思う」「違うと思います」
「そういえば、フィリスは何を?」
「え?ああ、レベッカ。居たんだ」
「いや、最初から隣にいるけど……なにこれ?」
「機会があれば行ってみたと思ってたんだけど……」
「そこまでの時間はない気がするなー」
「ええ!?僕のザッハトルテは?!」
「空港のお土産屋とかで買えば?」
「あるかな?」
「あるといいね」
「で、ネルはさっきから何してるの?」
「いえ、今回の報告書を書いているだけなんですけど」
「そんなのフェリシアに任せとけば」
「フェリシアさんは、フェリシアさんで出すでしょうけど私も一応」
「ああ、一応事務員だもんね?」
「まあ、詠さんのおかげで戦えるようにはなりましたが……ああ、リンユーも書きますか?報告書」
「イ・ヤ」
「ドイツから出るなんて久々じゃない?」
「……うん」
「そういえば、しばらく開けることになるかもだけど、大丈夫なの?代表」
「……大丈夫」
「あなた、詠としゃべる時は結構長くしゃべるくせに、他だとこの扱いはどうかと思うわよ?」
「……レナートより詠のほうがかわいい」
「私もあなたの弟子でしょうが……平等に扱ってくれない?」
「……善処する」
増えたメンバーも含めて、“黒銀”一行はオーストリア、ウィーンへと入る。




