#06-03 Oh , beware , my lord , of jealousy!
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異常な寒気の中、氷をザクザクと踏みながら、ロンドン郊外にある霊園へと足を運んだ一行は、すぐに巨大な影を確認する。
「……でかいな」
「なんでこれに気付かないんだろうね?」
「まあ、マナの濃度が濃すぎて霧みたいなの掛かってるし、遠くからは全く見えないんだろう」
「これだけマナが濃ければ、視覚系の術式も弾きそうですね」
「……さて、じゃあ、一発撃ちこんだから封印組は急いで奥へ」
「了解」
代表して返事をした更紗に頷くと詠は真っ直ぐ影の方へと進む。
中世に作られた歴史ある彫刻ともいえる墓石が並ぶ中を進む。
「しかし、こんなところで魔法撃ったらえらいことになりそうだが……」
「すでに私が巻き込んでいくつか破壊してますけどね」
「賠償は全部代表にツケとこう」
「それがいいと思われます」
シューッ、と空気が通るような音がし始める。
「来るぞ」
《Made the System : Moira active》
Si-Lackの起動メッセージが響く。
「まずは、オレが――“BZ”“BS” “BS” “BS” “BS”」
《“Blaze”》
《“Burst”》
《“Burst”》
《“Burst”》
《“Burst”》
《Integration completion :“Exa.Burst”》
「砕け散れ!」
巨大な3つ首の影へが極大の爆発に巻き込まれる。
爆風は、その巨体を吹き飛ばし、史跡を巻き込んでダウンさせる。
「……さっき賠償がどうとか言ってませんでしたっけ?」
「大丈夫」
「絶対後で怒られますよコレ」
「いやでも――ほら、来るぞ!」
霧の向こうから吹き出す輝くブレスから逃れるも、逃げ道を防ぐように反対側からも同じものが迫ってくる。
「龍なら火を吐けよ!」
「いや、火を吐かれても困りますけど」
「というか、フェリシア冷静すぎ!?うわぁ!?」
正面方向から飛来した火炎の弾を、フィリスが寸前で避ける。
「し、死ぬ」
「火吐いてんじゃねぇよ!」
「さっき火を吐けと言っておいて、それは理不尽では?」
「うるせぇ、ナツメ!走れ―――うおぁ!?」
前方を走っていたナツメの身体が火炎に包まれ吹き飛ばされる。
「ナツメ!」
フィリスが助けに向かおうとするが詠はそれを制止する。
「今は自分のこと考えてろよ、アレは即死だ」
「そうですね」
「いや、というか、非情すぎない!?」
「そろそろ攻撃に移るから。フィリス、幻術で攪乱しろ。ナツメ!いつまで死んでるんだ!?」
「――人使い荒くないですか?」
瓦礫の中から全身焼けただれたナツメが起き上がるが、その火傷は眼に見えてわかるような速度で修復されていっているように見える。
「……どういう事?」
「フェリシア、説明してなかったっけ?」
「してませんね」
「まあ、いいか。フィリス、早く幻術で何とかしろ!」
「それなら時間かせいでくれないかな!?というか後で絶対説明してもらうから!――ペルサ!」
灰色の表紙の魔導書がフィリスの手元に出現し、勢いよくページがめくられていく。
「カルマ、1章21節!トラム、1章25節!あと、もう一回Exaバースト!」
『“フレイムラッシュ”』
『“ホーリーテンペスト”』
《Integration completion :“Exa.Burst”》
「ネリム、私たちも。2章――“空間制御と加重”より、術式引用」
『“グラビトン”』
「“EM”“U”“BS”“SR”“SE”」
《Integration completion :“Inferno”》
通常の生命体ならば形すらも残らいない様な威力の魔法が殺到し、黒い液体を吹き出し肉片を散らしながら三頭蛇が崩れ落ちる。
「……これで再生まで時間稼げるか?」
「ナツメ、今の魔法は」
「適当に撃ったらなんかできました」
「というか制御系のキーだけでどうしてあんな大爆発が起きるんだよ……」
「よし!術式構築完了――“幻夢の迷宮”発動!」
持ちあがりはじめていた肉片ごと、巨体が光の檻に包まれる。
「とりあえず、あの中に居れば五感は使い物にならないはずだけど」
「……幻獣に五感という概念があればいいな」
「させておいてそれはひどくない?」
「……あっ」
「ナツメ?そんな不安になるようなこと―――ってわあ!?」
8割再生完了といった状態の三頭蛇は、その巨体を全力でぶつけることによって幻夢の迷宮の結界を割り砕いた。
「物理攻撃で割れるのかよ、あれ」
「仕方ありません、次は私が」
「というか寒いのがそろそろ限界に――あ、そうだ。“F” “F” “F” “F” “F”」
「そんな雑な使い方をする奴があるか!」
《Integration completion :“Seraphic Fire”》
フィリスの放った火で、周囲が一気に明るくなるが、それでも気温が上がったような気はしない。
それどころか炎は一瞬で小さくなっていく。
「ああ、オレも放火しようかな」
「いい考えです、詠様」
「いや、ダメだと思うけど」
「先にやっておいてその言い種はどうだろう」
「いや、あんなに燃えるとは思わなくて」
既にこの辺りにあったであろう草花は凍って砕け散っており、その残骸と思われる物も先ほどの放火ですべて灰になっている。
「2章特記項目1、“荷重により敵の動きを封じる”より術式引用」
『“グラビティジェイル”』
ずん、と三頭蛇の身体が一段下がったような感覚があり、その巨体を鈍く動かしながら空気が通るような音で悲鳴を上げている。
「さすが、フェリシア。愛してる。カルマも重力制御はできるけど、ここまでは難しいか?」
『私はどちらかというと“時”よりだから』
「だよな。さて、どうせ殺しようがないことだし、ここで粘るか……」
「詠のプログラムした加重魔法を使っていたおかげで感覚は掴みやすいです。とりあえず、この調子なら10分ぐらいは持つかと。ナツメはしっかり回復していてください」
「それって、ヤバいときに盾になれってことじゃないですよね?」
「更紗さんたちが手早く片付けてくれればこっちもすぐ消えるんですけどね……」
「……これが終わったらパリでデートですね」
「まあ、構わないけどそんな時間あるかな……」
「フランスには何の用事があるんでしたっけ?」
「虹の魔導書、があったところ確認する感じ。あとついでに“白の魔導書”が無事か確認する」
「白というと――聖母ルシアの守護の書ですね」
「最強の結界術が使える以上あれがやられることはないと思うけど……」
白い息を吐きながら、緩慢にのたうつ三つ首の蛇を眺めていた。




