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#05-08  Time is not given to you to rest.



2時間ほどしっかり新端末のテストをした後、いよいよブチギレたハーマンを全力で鎮圧した詠は、結果、制服の半焼と小さな火傷2つという少なすぎる被害のハーマンを医務室に叩き込み部屋へと戻った。


「つかれた……」

「とりあえず、こちらでの用件は終わりましたがどうしますか?」

「しばらくこっちに居ようかなぁ……帰ったら帰ったでめんどくさいし。あ、新婚旅行にでも行こうか」

「それは私もついて行っていいんですかね?」

「ダメに決まってるだろうナツメ。阿呆かお前は」

「そうよ、ナツメ。ハーマンから離れてる時じゃないと安心してフェリシアを抱くことすらできないんだから。我慢しなさい」

「そういう事なら仕方ありませんね」

「いや、そういう配慮は……あ、やっぱいるかなぁ」

「でも、まあ初夜は済みましたから」

「お前何言ってんの!?」

「さすが、詠ね」

「おい、リンユー。何に対しての関心だ。でも、まあ。ネルもいるし半年ぐらい抜けてても大丈夫な気が」

「そんな君たちにいい旅行プランがるよ」


部屋に入ってきながら大変いい笑顔でそんなことを言うのはクロウリーだ。

嫌な分厚さの紙の束を持っている。


「今回私が詠君にプレゼントするのは、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツ、オーストリアを巡る旅だね」

「………うわーい」

「もちろん、君たち全員で行ってくれていいよ。ホテルも最高級のものを押さえておく」

『……わーい』


この男の悪質さを理解してないフィリス以外が非常に嫌な顔をする。

そして、資料を受け取った詠がその拍子に書いてある日付を見て固まる。


「これ出発日、今日なんだけど」

「ああ、そうだよ。チケットは一緒に渡してあるだろう?安心してくれファーストクラスだ。支払いはいつものカードでしてくれれば私が適当に処理しておく。ついでにチョコレートでも土産に買ってきてくれないか」

「おい、お前ら必要最低限の物だけカバンに詰め込め!離陸時間まであと3時間だぞ!」

「は?」

「ナツメ。私のも持ってきて」

「御意」

「私は今朝帰ったところなんですけど……まあ、準備は不要ですが」

「詠、私は一度マンションに戻ります。あ、荷物は持って来ますね」

「頼む。足りなくなったら向こうで買ってやるから手早くな」

「ああ、えっと……私も一度部屋に戻るね!」


フィリス、フェリシア、ナツメが退場した。

ネルは机の下から旅行鞄を取り出して中身を確認している。


「用意がいいな」

「まあ、ここに居ればよくあることですし」

「だろうな。ルリカ、ネル。ここ数日の魔導書関係のニュース全部洗ってくれ」

「やっぱりそういう事なの?」

「まあ、君たち全員導入しないといけない程度には大事ではあるかな」

「イギリスについてそっちが落ち着いたら“白”とネルはベルギーに向かってもらうことになるかもしれない」

「了解――って、ベルギーって何かあったっけ?」

「“黄の魔導書”がある」

「うわぁ……厄介そう」

「正式には“あった”だけどね」

「代表、それは……」

「1時間ぐらい前かな、襲撃されたみたいだね」

「現場検証か……となると、最優先はオーストリアの“緑”か?」

「それもあるけど、“藍の魔導書”の暴走を何とかしてもらわないと」

「それは、どこだ?」

「ロンドン。更紗君がいるみたいだ。かなり苦戦してるみたいだね」

「こっちも持ち物少し増えそうだ。代表、申請通しておいてくれよ」

「わかったよ」

「ネル。情報集めは任せる。ナツメ、追加で持っていく分の端末のチェックを手伝ってくれ」

「わかりました」

「うん。わかった」


一時間ですべての準備を終え、再集合した“黒銀連合”7名は、空港へと移動を開始するべく、車に乗りこんだ。


「フェリシア、なんか荷物少なくないか?」

「大丈夫です。向こうで買ってくれるんですよね?」

「まあ、そうは言ったけど」

「下着から全部選んでもらいますから」

「それはちょっと、ハードル高いというか……」

「詠様。私も買ってください」

「ナツメ。それ以前にお前の荷物はどこだ。戦闘用の鞄しかないように見えるが」

「ははは」

「おい」

「あ、ずるい!私も何か買って!」

「何かって……チョコレートとかでもいいのか、フィリス」

「うん。むしろそれがいい」

「じゃあ、向こう行ったらお菓子屋も寄ろうな……」

「やったー」

「……遠足じゃないんだから」



「更紗先輩。私かなり限界なんですけど」

「まさか、一日でここまで事態が悪化するとは」


テムズ川の近くの物陰で息を潜める2人。

気温は氷点下。キャロルの話では活動するのは昼間だけという話だったが、暴走が進んだのか“藍の魔導書”は一向に静まる気配がない。

それどころか、


「!――来た!」

「またですかぁ!?」


こちらに向かってくる蛇の異形に更紗が電撃を浴びせる。

蛇自体は一撃で消滅したのだが、ここにいることが相手にばれたのは確実だろう。


「そろそろマナも心許無いですよ」

「一旦ロンドン本部に戻ろう。あそこまで戻れば、キャロルさんが凌いでくれる」

「そうですね。正直、敵よりも睡魔の方がヤバいですし」


人通りの全くない大通りを駆ける。


「“橙”の時も立ち会いましたけど、あの時は詠先輩がいたってことがどれだけ幸運だったか思い知りますね」

「まあ、暴走の進行度が高いのもあると思うけど、あの角を曲がれば本部への近道!?」


ちょうどその角からオレンジの炎が吹き出し、人影がこちらに飛んでくる。


「ぐっ……」

「キャロルさん!?」


更紗が地面に打ち付けられたキャロル・マガーリッジの元へと駆けよる。


「敵の数は!?」

「20はいますね!先輩、キャロルさんは?」

「かなり酷い。貫通銃創がいくつもある」

「私が治療にまわります!」

「任せた」

「キャス……ティ……」

「え?」


意識もほとんどないような状態でキャロルが路地へと向けて手を伸ばす。


「まさか……」

「先輩!?何を!?」


更紗がキャロルの胸元を強引に開き、そこを確認すると舌打ちをした。


「しかも、逃げられたみたい……」

「暴走とこの襲撃に何の関係が?」

「暴走した魔導書は搖動。本命はこっちだったみたい――もしもし、詠?」


取り出した電話で迷わず、詠へと掛ける更紗。


『どうした』

「キャロルさんがやられた。暴走魔導書は搖動、本命は“青”の回収だったみたい」

『くっ……キャスティは!?』

「今ここにはいないのは確か。ペンダントも消えてる」

『もう少し早くそっちに行けていれば……魔導書はまだダメそうか?』

「うん……酷くなってる」

『朝にはそっちに着く。とりあえず、キャロルさんを頼んだ』

「うん」


電話を切った更紗の顔がいくらか明るくなったような気がした。


「偲。詠が着くまで二人で凌ぐよ」

「は、はい!」


次回 #06 INDIGO -Section of London-

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