#04-10 You're immature.
猛スピードで発進する車に乗って詠がその場を去ったその後、更紗はすぐに京都支部へと電話をかけ始めた。レベッカも同様にマリウス翁へと連絡を行う。
「お、お兄ちゃん?どういう……?」
「さー、先輩もお仕事に行ってしまったし、妹さんたちは寮の門限までに帰ってくださいね」
「え?このタイミングでですか?」
「気になります」
「機密上の問題で詳細は聞けないかもしれないけど、帰ってきたら聞いてみてください」
「「「えー……」」」
「偲先輩は黒銀連合だから何か情報を得られるんじゃないですか?」
「そうは言っても、本部がごたついてるみたいだから……あ、更紗先輩。どうでした?」
「綾子さんに聞いたんだけど、大英図書館と星杖教会が同時刻に襲撃されてたみたい。その関係じゃないかって」
「げ、大丈夫なんですかそれ」
「大丈夫じゃない――!?、ちょっとごめん」
メールを確認して驚きの表情を浮かべる更紗。
「思ったより不味いことになってるかも。偲、私すぐにイギリスに行く。キャロルさんから呼び出しを受けたから、仕方なく」
「キャロル?キャロル・マガーリッジですか!?“ニクラス・バーリクヴィストの清濁の書”の所持者の!?」
「そう。私は呼び出されたから行くけど、着いてくる?」
「行きます!―――あ、でもヤバそうですね」
「すぐに申請出しに行くよ。レベッカ、そういうわけだからフェリシアから連絡あったら伝えといて」
「――ごめん、更紗。私もマリウス翁と一緒に一度ドイツに戻らないと。綴ちゃん」
「わ、わたしですか!?」
「何かあればお姉さんの部下の水野って人を訪ねて」
「レベッカ、ドイツでも何か問題が?」
「“キルエラ・ハーゼンバインの闇の魔術書”盗まれちゃったみたい」
「え?ほんとに?」
「えええええ!?そんな軽く言っていいんですか!?」
「薔薇も招集掛かってるみたいだし、うちもお母さんが手伝えってうるさいから一度帰るよ」
「じゃあ、急いで戻りましょう」
3人が駆けだすのを見送る。
高校生組が呆然としている中、真白は家の情報網を使って情報を集めるべく、電話をかけている。丞も聞こえてきたワードから何が起きているか把握している模様。
そして、一番何が起きているのかを理解していないのが全と灯里。
「な、なあ。丞。どういうことだ?」
「うーん。口止め料はもらってますから」
「そんなこと言わないでさー」
「二人は少しは自分で調べるということを――ああ、もうこれはそれ以前問題かな?君ら、魔導師になりたがってた割にはその手の知識に疎すぎるよね?」
「「うっ……」」
「正直言って、もう詠君は隠そうとしてる様子もないし、普通判ってもいいはずだよ―――その手の知識があればね」
「うっ、でも、オレたち丞みたいに魔導師の世界について興味持って掘り下げて調べたりしてるわけじゃないし……」
「そうそう!」
「気づこうと思えば小学生でも気づくよ……そんなに大した知識じゃないから。とりあえず、僕らも帰るよ。続きは帰ってからしよう」
丞が荷物をもって先に行くのを慌てて追いかける2人。
「レベッカはどうするんだ!?というか、真白は?」
「あ、私はく、じゃなくて家の迎えが来るのでそれで帰ります!じゃあ!」
真白が別の方向へ去っていくのを見送る。
丞は先に行っているため何とか追いつき、そのまま話を切り出す余裕もない状態で丞の部屋の最寄り駅で下車。
丞の部屋へとはいる。
「で、何か聞きたいことがあるんだっけ?」
「あるよ!何もかも!」
「一体どうなってるの?」
「はぁ……仕方ないな」
丞がタブレット端末を持ち出し、起動する。
「どこから説明したらいいか……君ら“黒銀”って二つ名の魔導師知ってるよね?これ知らなかったら窓から叩き落とすけど」
「ここ3階!さすがにそれは知ってる」
「正体不明の謎の魔導師でしょう?」
「で、その“黒銀”を中心としたIMA所属のチームが“黒銀連合”っていうんだけど」
画面にタッチすると、中央に“黒銀”と表示され、その周りに8人分の二つ名がポップする。
「まず、この連合はメンバーがずっと二人だけだったんだよ。でも、この夏に一気に7人も増えた。まあ、一部はそうなるだろうと思ってたけど」
「その二人っていうのは?」
「“黒銀”榛葉詠――改め、詠・榛葉=シャンクリーと、その妻にあたるのか、“黒蝶”フェリシア・V・シャンクリーの2人だね」
「「え?」」
「で、残りのメンバーは、“紅蓮”レベッカ・ハインミュラー、“銀姫”山月更紗、“凍風”四辻偲、“灰姫”フィリス・ワーズワース、“白蟻”、“白鴉”、“白蛇”。全員二か国以上の1級ライセンスを持ってる二つ名持ちのエリートばかり。まあ、魔導師なら憧れるよね」
「え、っと。詠が“黒銀”だってのは本当なわけ?」
「うん。今日来てた制服も“黒銀連合”のものだったし、そもそもあの連合、詠以外に男いないしね」
「……それ、いつから知ってた?」
「疑い始めたのは5月かな?北海道で事件があって、“黒銀”が活躍したって言ってたし。まあ、確信持ったのはフェリシアさんに会ってからだけど」
「何で教えてくれなかったんだよ!」
「何で教える必要があったの?」
「は!?」
「詠君だって仕事のために身分を明かしてない可能性がある。それに下手に知られない方が動きやすいことも事実。そもそも、僕が自分で気づいたことだし、気付けたってことは調べるなりなんなりすればもしかしたらわかったかもしれないけど――どうやらそういう事も一切してなかったみたいだし」
「じゃあ真白はどうして知ってたの?」
「真白さんも自分で調べたんでしょう。独自の情報網持ってるでしょうし」
「独自の情報網?」
そういうと、丞はタブレットでニュースをチェックし始める。
「あー、これ結構不味い事件かも……」
「何が起きてるの?」
「そんなにヤバいのか?」
「たぶん世界中の二つ名持ちが総動員されるぐらいにはヤバいかな」
「それ相当だよね?」
「詠君生きて帰って来るかな?」
「そんなに!?」
次回より
#05 GOLD




