#01-03 A dear person.
「あ、お帰りなさい先輩!」
日本魔導師連盟―通称:魔導連の大阪支部で待機していた偲が更紗の姿を確認して声をかける。
「調整、何とかなりそうですか?」
「うん、昼までには終わらすって」
「すごいですね。やっぱり先輩の“友人”となると。高校からの友人ですか?」
「中学からずっと一緒。でも大学は別になっちゃった」
「えーっと……先輩の専属ってもしかして、第III大学の美作さんですか?あの人のプログラムはすごいって噂ですけど」
偲が目を輝かせて質問する。
「え?違うけど?」
「ええ!?でも、先輩の友人って……」
「残念だけど、西条も相模も美作もあんまり得意じゃないの。彼らはどう思ってるか知らないけど少なくとも私は友人だと思ったことはない」
「それじゃあ、先輩はどこへ行ってきたんですか?」
「常光大学」
「ええ!?私学の微妙な大学じゃないですか……美作さんよりすごい人がいるとは思えないんですけど」
「すごいとかそういう問題じゃなくて、私は彼のプログラムが一番やりやすいの。美作のプログラムは堅すぎて使いにくいし、強力な魔法は撃てるけど処理に時間かかるせいでとても実戦で使えるような代物ではないわ」
「……そうなんですか」
「それに、次詠の事を悪く行ったら怒るからね」
いつもよりも強気の更紗に驚きながら、偲は反省する。
その後、支部長からの指示で府警へ向かう。
受付で国家魔導師の登録証を提示し、案内された部屋に入る。
「……遅いですね」
「今ちょっと忙しいみたいだから」
そんなことを言っていると、扉が開いて女性の警察官と男性の警察官が部屋へと入ってきた。
「ごめんなさいね、遅くなって」
「お久しぶりです、縁さん」
更紗が女性の警察官・榛葉縁に挨拶する。
「そういえば魔導師になったんだったわね。また美人になった?」
「外見の方はあまり変わってないと思いますが」
「まだ、詠が専属で端末の整備してるんでしょ?もう会いに行った?」
「はい、調整をお願いしに。その間、これを借りています」
ポケットから詠の端末を出して見せる。
「え!?Streakじゃないですか!」
偲が端末を見て驚く。
「確かに詠のね。まったくウチの弟も更紗ちゃんぐらい頭の出来が良ければよかったんだけど」
「あの、警部。お知り合いなのですか……?」
横に控えていた部下?の男が縁に声をかける。
「うん。弟の友達かな?義妹候補だけど」
「えと、それは……。私は魔導師の山月更紗です」
「同じく四辻偲です!」
「僕は水野といいます。こちらの榛葉警部の直接の部下にあたります」
やっと話が進んだことで水野は安堵する。
「それで、本題に入るけど。放火犯の特徴とかは?」
縁の質問に更紗が答える。
「全身黒い服でしたし、顔なんかは見えませんでした。ただ、端末がですね」
「何かおかしなことが?」
「魔術結社 黒杖の連中が所持している端末“Rohr”に酷似していました」
「また面倒なところが来たわね……」
縁が嫌そうな顔をしてため息をつく。
そのあと更紗が身体的特徴や相手の使って来た魔法の特徴などを一通り話す。
「……とりあえず、こちらでもう一度話し合ってみるわ。その後で魔導連には動いてもらうと思う」
「わかりました。それでは私たちは一度大阪支部に戻ります」
「お疲れ様。この事件片付いたらまた家に遊びに来てね。あ、それと詠にしばらく帰れそうにないって伝えといてくれるかしら」
「わかりました」
縁に浅く礼をして、更紗は席を立つ。
警察署を出たところで黙り込んでいた偲が口を開いた。
「警部さんと知り合いなんですね」
「縁さんとは結構長い付き合いだからね」
「じゃあさっきでてきた“詠”って人が先輩の調整師なんですか?」
「調整師ってわけでもないけど。半分趣味でやってるみたいなものだから」
「……それ大丈夫なんですか?」
怪訝な顔の偲と並んで大阪支部への道を歩く。
そのとき、更紗の携帯電話から電子音が流れた。
「詠……もしもし?」
『おう、こっちはできたぞ。17時に千代さんの店で待ってる』
「わかった。千代さんに会うのも久しぶりね」
『会いたがってたぞ。帰ってきたときぐらいは出してやれ。じゃあ、切るぞ』
「うん。ありがと」
電話を切り、少し嬉しそうな顔をしている更紗。
「……件の人ですか?」
「うん。調整終ったって」
「はや……ホントに大丈夫なんですか?」
「うん……たぶん」
いつもより少しだけ表情豊かな更紗は偲の質問攻めにあいながら目的地へと向かう。