#04-02 When being disclosed, it's a moment compared with hidden time.
2時間ほどで筆記試験は終わる。
開始時間は9時半で今は11時。実技試験は昼からなので本格的になぜこんなに早く来たのかわからないが、久々に更紗とゆっくり話をする時間が得られたのでよいとする。
早めの昼食をとろうと思い、1度外に出ると伝えに行くと、学食を利用することを勧められた。
「さて、じゃあ行くか?」
「あの、詠。お弁当作ってきてたんだけど」
「応接室は極力飲食を控えてくれって言われたが」
「食堂でいいんじゃない?」
「それもそうか」
食堂のおばちゃんに許可をえたあと隅のテーブルで更紗の作ってきた重箱を広げる。
「これはまた……頑張ったな」
「偲も食べるかなと思って」
「なるほど、偲はもう少しかかるな。試験時間何分だっけ?」
「100分」
「じゃあそろそろ終わるか……何人ぐらい居るんだろうな」
「全部で32人で、2級が28人だったかな……うち18人が高校生だったと思う」
「女子高とは思えぬ受験人数だな……」
「半分も受からないとは思うけどね……」
「そうだな……」
食堂の入り口に人影が見え始める。
「終わったみたいだな」
「うん……あ、そういえば、1人実技を技術試験で受ける子がいたような」
「技術試験で通っても戦闘訓練はさせられるからあんまりオススメしないけどな」
「美作とかそうだっけ?」
「ああ、静紀はそうだったはず……あ、来たぞ」
やって来た偲は後輩たちに集られてあたふたしている。
いつも更紗にやっていることだが、自分は慣れていないらしい。
逃げるようにこちらに駆けてきた。
「せ、先輩ー」
「ちゃんと相手してやんなよ」
「するのはいいんですけど、されるのは苦手なんですよ」
「まあ、とりあえずお昼にしましょう」
「更紗の手作りだぞ」
「やった!」
ご機嫌で更紗の隣に座った偲は、箸を受け取っている。
「それで、筆記はどうだった?」
「むぐ、たぶん大丈夫だと思いますよ。ぶっちゃけ、アメリカの試験に比べたら遥かに簡単ですし」
「だろうな」
「あっちの試験はかなり最新の技術までカバーしてないと厳しいからね」
「問題は次の試験官ですねー……」
「文句があるなら聞くけど」
「というか、詠先輩が評価するとなると異常に厳しくなりそうで嫌です」
「残念だけどその件に関しては九条さんに訴えてくれ」
卵焼きを食べながら詠が答える。
『あら』
「どうした?」
『後ろ後ろ』
「うしろ?」
振り向くとそこには見知った顔が。
「……お、綴。どうした?」
「どうした?じゃないでしょ!?なんでここにいるの!?」
詠の肩をつかんで揺さぶる綴。
「おち、おちつけ、うぷ」
「あ、ごめん」
突然、見知らぬ男(魔導師)につかみかかった綴に驚いて、他の生徒たちもこちらに視線を向けている。
「まあ、色々事情があって。あとで説明する」
「いや、今説明してくれないかなぁ……」
「今言ったら面白くないだろ」
「もう既に面白くないよ!」
「それで、筆記は?」
「お陰様で余裕でした!」
「そりゃ良かった。ま、実技も頑張んな」
くしゃりと頭を撫でてやると、納得していない顔をしつつも友人たちの座るテーブルに戻っていった。
「あれが先輩の妹さんですか?」
「そうそう。出来ればこんな格好してるところ見られたくなかったんだけど」
「いや、かっこいいじゃないですか」
「誉めても評価は上げないからな」
詠と偲がじゃれている一方で、綴は友人たちの質問攻めに合っていた。
「綴さん、あの方は!?」
「え?あ、あれ、私のお兄ちゃん……のはず」
「お兄さん、魔導師なんですか?」
「どうなのかな……」
「でも、あれ魔導師の制服だよ。しかも、米国製の最新モデル。隊章は見たこと無いけど、何ヵ国かの1級魔導師章がついてたし」
「さすが、結愛さん。お詳しい……」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「技術師志望だから。私の試験も綴のお兄さんが採点するのかな……こりゃ、落ちたかな」
「結愛でもやっぱり1級は難しい?」
「そうじゃなくて、お兄さんが作ったっていう綴のプログラム見せてもらったけど、市販されてる奴と比較したら2周ぐらい時代か先行してたし、あんなの作る人からすれば私の論文なんてどうなるやら……」
「だ、大丈夫ですよ結愛さん。そういう狭い視野では採点しないと思いますよ」
「というか、私はまだお兄ちゃんがここにいる謎が解けないからモヤモヤなんだけど」
視線を向けると兄は山月や四辻たちと席を立とうとしているところだった。
「でも、あれが日頃から綴さんが好き好き言ってるお兄さんですか……なんとなくわかるような気もすしますが」
「うにゃ!?だ、だれが好きなんて!」
「あたしは綴の部屋に写真おいてあったから知ってたけど」
「いつの間に見たの!?」
「榛葉さん、お兄さん紹介してー」
「あ、私も」
「だ、ダメだよ。お兄ちゃんもう結婚しちゃってるし……」
「うっそ。はやいね……」
綴が友人たちに囲まれてキャーキャー言っている間に、詠はグラウンドに移動し、試験会場の確認をしていた。
「さて、採点項目は"精度"、"威力"、"簡易戦闘"だよな?」
「あとは、有効な魔法を選択しているか、とかもあるけど」
「その辺はオレが採点する項目じゃないだろ。とりあえず、的の設置は終ってるみたいだし、精度からか」
「うん。じゃあ、そろそろ始めよっか」
更紗がこちらをうかがっている受験生たちに集合をかける。
「それでは、午後のプログラムを始めます」
「今回の実技試験の評価を担当することになりました、IMA"黒銀連合"所属、ヨミ・榛葉=シャンクリーと言います」
「同じく所属"黒銀連合"、今は京都支部に仮登録しています。山月更紗です」
「とりあえず、的当てからやってもらいます。技術試験の方はここに居ませんね?居たら、すぐに指定の教室に向かってください。それでは、実技試験を始めます」
茫然としている受験生たちを置き去りにして試験は始まった。




