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#03-14 It'll be entrusted to your decision how to do now.


「さて、悪いが魔導書は一度あずからせてもらう」

「わかった。だけど気を付けて、この子結構不安定だから」

「――カルマ、一時的に封印を頼む」

「任せて」


ゲンマの首にあるペンダントから、銀のリングを抜き取ると、隣に立つカルマに手渡す詠。

カルマが何やら呪文を唱えると鈍く光っていたその指輪の活性が落ち着いていく。


「さて、どうしようか……」

「更紗に連絡して迎えをよこしてもらったらいい――詠!」

「カルマ、シャドウバレット、ばら撒け!」


カルマと詠を中心に魔力が吹き上がり、360度全方向に黒い弾丸が放出される。

瓦礫の影に隠れる黒杖のメンバーたちを牽制するための魔法だ。


「詠君、これはさすがに君でも分が悪いのでは?」

「いやいや、侮ってもらっては困るなゲンマ君」


詠の持つ端末が魔導プログラムの起動成功を告げる。


「“零度の嵐(ゼロ・ストーム)”発動」

《Magic : Starting》


詠を中心にして吹き荒れる暴風。

鋭い刃ほどの切断力を持ちながら、広い範囲を大きく抉り、そして、削り取った傍から凍てつかせてゆく。

悲鳴が徐々に聞こえなくなり、20秒ほどして魔法が解けるころには、瓦礫諸共奇妙な形の氷像となっていた。


「――フェリシア、悪い。今からすぐに日本にIMAの魔導師を派遣してくれ」

『了解しました。すぐに手配を行います』

「相手は司法取引を望んでいる。組織からの暗殺も予想されるためそれなりに腕のいい奴を頼む」

『ナツメさんが偶然いたのでお願いしました』

「“白鴉”か。なら一人でも十分だな」

『明日には到着するようにしてます。可能ならば大阪まで彼――いえ、彼女に付き添っていただきたいのですが。その方が安全でしょうし』

「了解。朝早めに出てすぐにこっちに戻れば綴にもばれないだろう」

『それではよろしくお願いします。一つ報告しなければならないことがあるので、後程改めて連絡します』

「わかった」


電話を切ると、足元に座ったままのゲンマを見る。


「さて、どうするか」

「このまま担いで行ってくれてもいいよ」

「いや、そんなことしたら無駄に目立つだろ。というか、自分で歩け」

「あのね、あれだけ大規模な魔法使ったんだよ?」

「え?こっちはもっと使ってるけど?」

「……僕には絶対魔導書二冊は使えないね」


とりあえず、ゲンマを立たせると、アスファルトが無事なエリアまで移動する。

すでに更紗に連絡は入れているので迎えが来てもおかしくない頃だが、


「ああ、来たみたいだな。それで、どうする?“黒杖”のゲンマは死亡という扱いにしておこうか?」

「できればそっちでお願いしたいかな」

「詠!無事?」


車の助手席の窓を開けて更紗が顔を出す。


「無事だよ……ああ、加那萌さんも来たんだ」

「来ちゃダメなの?」

「とりあえず、福岡支部に連れて行って、明日朝一でオレが大阪まで送る」

「それまでは勾留だね?」

「ああ、うん。まあ、あとの事は2人に任せた。できればコイツがとってるホテルから荷物を回収させて、普通の服に着替えさせてやって」

「そういうのは詠ちゃんがやればいいんじゃないの?」

「いや、さすがに女の子の着替え見るわけにはいかないし」


ゲンマを車に乗せ、自分も乗り込みながら言う。


「え!?女の子なの!?」

「オレからしてみれば、そこまで男のフリが上手いとは思わないけど」

「君は僕――私の本名知ってるからでしょう?」


ゲンマ――フィリスが声をもとの声に、今までより少し高い声に戻す。


「いつから知ってたの!?」

「最初にあった時からだけど……」

「全然気づかなかった……」

「まあ、そういう事だから頼むわ。この後に関してはIMAで判断するから、そこまで厳重にしなくてもいいよ。どうせ逃げる意思はないだろうし」

「えっと、まあ、事情があるのはわかったけど、詠はこれからどうするの?」

「え?昼飯を食べに家に帰るけど」

「え?私たちに処理丸投げ!?」

「お任せします、加那萌先輩」


ちょうどいいタイミングで車が赤信号で停車する。

詠は車を飛び下りると、路地の奥に逃げ込んだ。


『後で怒られるわよ?』

「綴の機嫌取る方が大変なんだから許してくれ」

『私に言われても。で、着替えは?』

「あー……駅のロッカーに取りに行かないとな」

『あとすごい勢いで電話来てるわよ』

「それは無視する」


人目につかない道を優先して、駅まで戻り、トイレに駆け込み手早く着替えを済まして祖父の家へと走る。

まだ昼までは少し時間があるので何とか間に合うだろう。


『詠、電話』

「更紗か加那萌さんからならしばらくは出ないぞ」

『とりあえず見て見なさいよ』


画面に表示されているのは綴の名前と新しく撮られた写真。


「おお、綴だ」

『無視しなくてよかったわね』

「どうした!?今走ってるんだけど!」

『もうすぐお昼だよって……何で走ってるの?』

「え?いや、間に合わないかなって」

『早く帰って来てよ、お腹すいてるんだから』

「あー、ごめんごめん――あ、キャッチが入ったすまん切るぞ」

『え、うん』

『フェリシアです。今大丈夫ですか?』

「走りながらで良いなら聞くけど!」

『大した要件ではないんですが、“黒銀連合(B・Sリーグ)”に山月更紗、レベッカ・ハインミュラーの両名が加入しました』

「いや、それ大した要件だから!いつの間にそんなことに……あ、こないだの電話か!」

『やりましたね。こちらでも連合(リーグ)の知名度は鰻登りですよ』

「嬉しくない!というか、更紗の所属IMAに移るから京都支部がヤバい」

『まあ、それはそちらで何とかしてもらうしかないでしょう。詳細はまた資料をメールで送っておきます』

「あー……もう、わかった。ついでにフィリス・ワーズワースもうちのリーグに登録して、保護観察をオレかフェリシアにしておいてくれ」

『了解です。フィリスさんもそれなりの戦闘力を見込めるでしょうし、二つ名持ち4人、魔導書4冊というとんでもない“連合”ができましたね』

「灰の魔導書――アル・スハイル・アル・ワズンの“霞の書”。一緒に送るからこれの解析も頼むぞ」

『そうですね。そういえば、オランダに保管されているカイゼル・レイヤードの“微風の調べ”に適合者が出たようです』

「“緑の魔導書”は気紛れだからどうせすぐ変わるぞ。この十年ほどで何回替わってるんだか」

『そのうち代表が会いに行けと言いだすと思いますよ』

「そういえばヨーロッパの度が計画されてたな……」

『そちらについても詳細決まればまた連絡します。それではまた』

「ああ、ありがとう」


電話が切れる。

そして、詠も家にたどり着いた。


「セーフ?」

「お帰り、お兄ちゃん……なんか焦げ臭いけど何してたの?」

「え?野次馬とかそんなんだよ、うん」

「まったく……」


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