#03-08 Pandemonium of love.
「あら、お客さんかしら?」
「お兄ちゃん、山月さんじゃ?」
「かもしれん」
祖母がぱたぱたと廊下を行き、聞きなれた声が2つ。
「まさか」
「お邪魔します」
「詠ちゃん、久しぶりね」
「更紗と……加那萌さんも来たんだ」
「何よ、来ちゃダメだった?」
「まあいいけど、じいちゃん応接間借りるな」
「あ、ああ……」
「また新しい女の人が増えた……」
綴が呟く。
それを意図的に無視して、二人を連れて部屋を移動する詠。
「というかなんでわざわざ加那萌さんまで来たの?」
「ちょっと用があってね。それより、詠ちゃん結婚したんだって?絶対に更紗ちゃんと結婚するものだと思ってたからびっくりしたよ。結婚式には呼んでね?」
「そりゃ、呼ぶけどさ」
「というか加那萌さん彼氏は?」
「何?更紗ちゃん。それは私への挑戦?」
更紗と加那萌のにらみ合いが始まったので、誤魔化す為に詠が本題を切り出す。
本題といっても、既に知られている以上の事よりはそれほど説明する事もない。
「まあ、事情はわかったけど……」
「あーあ、私も詠ちゃん狙ってたんだけど」
「それで、わざわざ加那萌さんまで来た理由は?」
「あー……それなんだけど……」
「――"黒杖"か。やっぱりBluenessとか出てきたのか?」
「……なんでわかったの?」
「カルマがそれらしい気配を察知したみたいでな。というか協力しないよ?」
「なんで?更紗ちゃんは助けるんだから、おねーさんも助けてくれていいじゃない?」
「更紗がいるから大丈夫だろ。この件に関しては別件でやりたいことがあるし……」
詠の電話が鳴る。
「……ほら、向こうから連絡来たし」
表示されている名前はフィリス・ワーズワース。
「どうした、フィリス」
『……その名前で呼ばないで。今夜直接会えるか?話したいことがある』
「わかった。22時ぐらいでいいか?」
『ああ。駅前のチョコレートショップにいる』
「……なんでそこ?」
『好きなんだよ!悪い!?』
「わかったわかった。じゃあ、後で」
電話を切る。
正面に座る更紗が半眼でこっちをみている。
「デートの約束?」
「まあ、そんなとこ」
「フェリシアに密告するよ?」
「自分で報告するよ。さて、せっかくだし端末更新するよ」
「あ、ついでにうちのもやって」
「加那萌さんの奴柏原さんが専属で調整してなかったっけ?」
「紲ちゃん最近忙しいから」
「支部長が忙しいのはどこも一緒か」
「ん?九条さんのこと?」
「――京都支部を除く」
受け取った端末を確認する。
魔法の使用履歴も一応確認し、使用頻度から今後のプログラムの組み方の参考にすることもある。
もっとも、更紗に関してはそんなことをするまでもなく、"使う魔法"しか詠が入れていない。
「……Silverを-1に更新してもいいんだけど、容量が跳ね上がるからどうしようか」
「調整するとしたらどれぐらいかかるの?」
「3日?」
「詠ちゃん、やっぱり常識外ね」
「とりあえず保留で、来月迄にどうするか決めとくから」
「了解。加那萌さんの方は……正直、調整も難しい。大人しく柏原さんにやってもらって」
「えー……なんで?」
「"点極"会津加那萌の使う気功術か仙術かしらないけど、東亜系の魔法は得意じゃないんだ」
「そんなこと言って、神道派生の術は組み上げてるくせに」
「全然別物だから。というか加那萌さん端末とかなくても強いじゃん」
「……あのね、影千代や照日みたいな化物と一緒にしないでくれる?」
「私からすればそんなにかわりないんだけど」
「オレも同じ認識」
加那萌が額に青筋を浮かべる。
「二人とも、久しぶりに体術の稽古つけてあげようか?」
「「遠慮する」」
「遠慮しなくてもいいのにー」
笑顔で迫る加那萌から如何にして逃れるか考えていたところで、ドアがノックされた。
「お兄ちゃん、おばーちゃんがお茶菓子買ってきてくれたから」
「ああ、さんきゅ。ナイスタイミング」
「え?」
すぐにドアを開け、綴を迎える。
「あ、改めて詳解するけど、これ妹ね」
「えっと、妹の綴です」
「詠の彼女Aの山月更紗です」
「まてまて、何を口走ってる!」
「彼女Bの会津加那萌です」
「あんたは歳を考えろ!――痛っ!?」
つい、勢いでツッコミを入れた弊害として、詠がぶん殴られる。
「……お兄ちゃん、結局誰が彼女なの?」
「今のところフェリシアだけだよ!」
「公式にはね」
「更紗、一回黙ろう。綴が混乱している」
なんとか更紗を宥め、綴を落ち着かせる。
「もう疲れた。旅に出たい」
『久々にイギリスとかどう?』
「イギリスはダメだ。落ち着ける気がしない。オーストリアに行きたい」
詠が現実逃避をしていると、再び電話がなる。
『無事到着しました』
「早くないか?」
『空港に行ったら新型高速旅客機が止まってましてね。ちょっと今から父に説教してきます』
「ほどほどにしてやってくれ。もしかしたら、まだそっちに母さんがいるかもしれん」
『もう数日滞在すると聞いてます。何か伝言は?』
「……いいや。それより、後で仕事の話あるから疲れてるとこ悪いけど時間開けといてくれるか?日本時間午後9時ぐらいで」
『了解しました』
「じゃあ、後で……ぬあ!?」
『どうしました?』
詠の手から電話が奪い取られる。
「フェリシア、久しぶりね」
『更紗さん、ですか?どうしてそこに?』
「色々あってね。それより、抜け駆けの件について色々聞きたいことがあるんだけど」
『……なんの話かわかりかねます』
「それと、レベッカと私のあの申請通しておいてくれる?」
『……詠が許可するとは思えませんが』
「通してくれたら、その件はチャラにしてもいいよ」
『仕方ありませんね……。それでは、詠に』
更紗の手から電話が返される。
『それでは後程』
「ああ、ハーマンによろしく」
電話をポケットに入れると、更紗を見る。
「すごい嫌な予感がする」
「気のせいよ」
「お兄ちゃん、一体何者なの?え、お兄ちゃん?」
「そうだよ、お前のお兄ちゃんだよ。だから一回落ち着け、妹よ」
「詠ちゃんも大変ね」
「完全に他人事ですね……」




